トヨタ自動車に21年勤務後、トヨタ自動車の仕入れ先である部品メーカー・旭鉄工の社長に就任した木村哲也氏が、AI活用を前提とした経営を実践してきた経緯をまとめた書籍『 AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル 』(日経BP)。書籍から冒頭部を抜粋し、旭鉄工が実践している「AIファースト経営」事例を紹介する。その第2回。

社内の暗黙知を形式知化して共有

 旭鉄工は、IoT(モノのインターネット)を用いた徹底的なカイゼン活動で大きな成果を上げた会社として知られている。その基盤となるのが自社開発したIoTシステム「iXacs(アイザックス)」だが、もう一つ重要なツールがある。2014年頃から蓄積されてきた「横展アイテムリスト」だ。

 これはExcelベースのノウハウ集で、「どのラインでどのようなカイゼンを行い、どんな効果が得られたか」が詳細に記述されている。iXacsで見える化された問題に対し、このリストを参照することで、新人であっても迅速に対策を立案できるようになった。カイゼンのスピードが速くなっただけでなく、ノウハウを学ぶこともできるため若手の人材育成にもつながっている。

 しかし、データの蓄積が進むにつれてリストが膨大になり、そのなかから最適な事例を探し出すのが難しくなってきた。量の多さだけでなく、質の面でも難しさがあった。具体的な事例を自分の現場に適用するには、「何が問題の本質なのか」を読み解く必要があるが、この能力は個人差が大きい。例えば、ある設備で「スイッチの位置を変えた」という事例を見ても、「この事例と我々とでは設備の種類が違う」という理由でカイゼン対象のラインに適用できないと思ってしまうケースが発生していた。

 この課題を解決する鍵が生成AIであるのではないかと気づいたのが、2023年5月のこと。リストの内容をプロンプト(指示文)としてAIに与えることで、カイゼン事例について自然言語で問い、答えを得られるようになったのだ。

 従来の手法(キーワード検索やフォルダ分け)では、後から探しやすくしようとすればするほど、入力項目を細かく分類せねばならなかった。しかし、分類を増やせば増やすほど、現場が事例を登録する際の手間や心理的負担は大きくなる。結果として、「入力されない」「続かない」という問題が起きやすかった。

 また、事例が増えるほど、人間がそのなかから自工程に応用可能な事例を探し出す負荷も増大する。特にカイゼンでは、「設備は違うが本質は同じ」というケースが多い。しかし人間は、言葉や設備名が一致しないと、別問題だと思ってしまいやすい。こうした現実的な制約によって、従来の「横展アイテムリスト」は、蓄積できる量にも活用範囲にも限界があった。

 しかしAIは違う。

 事例数が増えても、探すことを嫌がったりしない。さらに、言葉が完全一致していなくても、上位概念や問題の本質から類似性を捉え、「この課題なら、別部署のこの事例が応用できる」といった形で、適用可能な解決策を柔軟に提示できる。

 つまり、現場は細かい分類を意識せず、気軽にアウトプットすればよい。蓄積されたノウハウを、AIが全社横断でつなぎ、必要な人へ届ける。この仕組みによって、「ノウハウをためるほど使いやすくなる」という、従来とは逆の状態が実現できるようになったのだ。

 当時は処理可能なトークン数(情報の量)に制限があったが、AIの急速な進化によって今はその制約もない。AIの性能以上に、私たちが長年積み上げてきた「ノウハウそのもの」が重要だ。このノウハウ自体はLLM(大規模言語モデル)がどんなに進化しても陳腐化することはない。一朝一夕に積み上げられるものでもないし、ネット上で見つけられるものでもない。自社で地道に積み上げるしかないのだ。こうしたノウハウをどれだけ蓄積しているか、そのノウハウをAIを使ってどれだけ活用できるかが、企業の競争力に大きく影響してくる。

 現在、このAI横展アイテムリストは「AI Stack Items☆」として社内で活用されている。

 欲しいアイテムを自然言語で聞くと、旭鉄工の豊富なカイゼン事例の中から該当するものを選んで提示してくれる。ごく簡単な事例のスクリーンショットを示す。記載されているアイテム番号について質問すれば、カイゼン事例の詳細も出してくれる。スクリーンショットでは簡単な質問を与えているが、もちろん詳しく聞けばもっと詳しく教えてくれる。

AI Stack Items☆の回答
AI Stack Items☆の回答
(出所:書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』)
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(写真:Duncan Andison/stock.adobe.com)
(写真:Duncan Andison/stock.adobe.com)

(書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』を基に再構成)

日経クロステック 2026年7月22日付の記事を転載・改題]

自動車部品メーカー・旭鉄工のAI活用ノウハウを社長自らが解き明かす。「ChatGPTを入れたが、使いこなせる社員があまりいない」「AIの回答が一般的すぎて、実務で役に立たない」「そもそも何から始めたらいいのか、わからない」。そんな悩みを抱える経営者やリーダー、現場社員必読の1冊です。

木村哲也(著)/日経BP/1980円(税込み)