2010年代のビジネス界に大きな影響を与えた『リーン・スタートアップ』の新装版(エリック・リース著、井口耕二訳、福島良典解説、日経BP)が発売され、改めて注目を集めています。日本における完全栄養食のパイオニアであるベースフードCEOの橋本舜さんも、その考え方に影響を受けたと言います。連載2回目は、最近言われる「リーン・スタートアップは死んだ」という噂について、橋本さんの意見を聞いてみました。
リーン・スタートアップは死にません
僕は、リーン・スタートアップが時代遅れとはまったく思いません。おそらく、最新生成AIのClaude Fable 5も同じ意見でしょう。
世の中的に「リーン・スタートアップは時代遅れ」などと一部でそう言う人たちもいるのかもしれませんが、リーン・スタートアップは「小さく試して、顧客の声に学びながら大きく育てていく」という経営手法です。その本質は、小さくつくって出すことではありません。
『リーン・スタートアップ 新装版』の解説でLayerX代表取締役CEOの福島良典さんも書かれている通り、「不確実な状況にて、クリティカルな仮説を、小さなバッチサイズで検証すること。それによって学びを得る速度を最大化すること」。つまり、本質は学びを速くすることにあります。この点を誤解している方々が、今はビッグテックが巨額の資本を投じて生成AIの開発を競う時代だから、リーン・スタートアップは通用しなくなった、と感じているのではないですかね。
しかし、生成AIの開発のように、莫大な資金が必要な事業であっても、検証すべき仮説を細かく分けて、スピーディーに確認していくはずです。もともと大規模な新規事業開発でも有効だったでしょう。だから僕は、リーン・スタートアップは今も、そしてこれからも有効な手法の一つだと考えています。
誤解の根本に潜むマーケットインの視点
もう一つ、リーン・スタートアップが誤解されやすい点があると思っています。それは、市場や顧客が求めるものをつくる手法、すなわちマーケットインだという誤解です。しかし実際には、リーン・スタートアップは創業者のアイデアや技術をもとに商品を生みだす手法、すなわちプロダクトアウトとも親和性が高い方法論です。この点を勘違いしている人は、リーン・スタートアップではゼロからイチの新しい価値を生みだせない、だから時代遅れだと思ってしまうのかもしれません。
マーケットインとプロダクトアウトは経済における役割が違うので、どっちが良い・悪いという話ではありません。プロダクトアウトは、これまでにない新しい市場や価値を生みだすため、ホームランが生まれる可能性があります。唯一無二の存在になり得ますが、その確率は高くありません。一方のマーケットインは既存のニーズに即しているため、ヒットが多く出ます。その半面で似た商品が多くなるので、差異化が難しくなります。
ベースフードはプロダクトアウト×リーン・スタートアップの会社だと思っています。ベースフードは、完全栄養食の主食で、忙しい現代人の食を変えたい、というわれわれのアイデアから始まりました。そして、小さくつくって市場に出し、顧客と対話しながら改良を重ねて今も育てている最中です。
ブランドキャラクターもリーンにつくる
前職のDeNAでは複数の新規事業の立ち上げに携わり、その後ベースフードを創業した僕は根っからの“新規事業屋”で、“リーン・スタートアップ脳”だと第1回でも話しました。
例えばですが当社は、2026年6月13日(土)にMUFGスタジアム(国立競技場)で開催された「JリーグオールスターDAZNカップ」にシルバーパートナーとして参画しました。大手企業が並ぶスポンサーの一角に、ベースフードも名を連ねることができ、個人的には感慨深いイベントでもありました。
当日は特設ブースを設けて、自社製品をセットにした無料プレゼントの配布と、同大会とベースフードの限定コラボグッズが当たる抽選も実施しました。コラボグッズはスウェットとTシャツ、ステッカーの3種類があって、デザインしたのはブランドマネージャーです。これが来場者の方々に大変好評だったのです。
僕も非常に気に入っていて、大会後もTシャツを愛用していますし、商品キャラクターのステッカーは自分のパソコンに貼っています。これは、ブランディングに役立てるためだけにやっているのではありません。僕のパソコンを見て、自分のパソコンにステッカーを貼る社員が現れるのではないか、キャラクターを通じて自社商品に愛着を持つ社員が増えるのではないか、という思いがあっての行動なんですよね。
パンを題材としたキャラクターはとても人気のあるものが多いですし、反応次第では、当社でも本格的なキャラクター展開もあり得ると思っています。
これはあくまでも僕の頭の中の話ですが、「クリティカルな仮説を、小さなバッチサイズで検証する」というリーン・スタートアップの本質そのものです。もし、リーンでないやり方をするとしたら、ブランドキャラクターをつくるぞ、ということで最初から多額の予算を投じ、大規模キャンペーンを実施するかもしれませんが、そうではなく、まずはスポット的に小さく試す、と。
もし仮説が外れたら、やめればいい。反応が良ければ、次に進めばいい。この積み重ねが学びを速くし、その結果として、思ってもみない新しい価値が生まれるのだと思います。
(構成=茅島奈緒深、写真=尾関裕治)
エリック・リース著/井口耕二訳/福島良典解説/日経BP/2640円(税込み)



