こだわりのスーパー「福島屋」創業社長の福島徹さんが参考にしている本。2回目は『ネンドノオンド』(佐藤オオキ著)と『安藤忠雄の建築0 増補改訂版』(安藤忠雄著)。お客さまに商品の価値をどう伝え、どう見せるかを常に考えているスーパーにとって、一流デザイナーの視点は大いに参考になるという。

優れたデザインはどう生み出されるのか

 僕は経営者ですが、経営書の類いは読みません。経営については、「やるべきことをちゃんとやろうぜ」「毎日笑顔であいさつしようぜ」ぐらいで十分かなと。

 その代わり、よく読むのがデザイン関係の本。今や世界的なデザイナーとして活躍されている佐藤オオキさんの『 ネンドノオンド 』(日経BP)もその一冊。数々の世界的権威のデザイナーのもとを訪ねて話を聞き、後で本人が記憶だけを頼りに書き起こしたという、ちょっと変わったスタイルの対話集です。

『ネンドノオンド』(佐藤オオキ著/日経BP)
『ネンドノオンド』(佐藤オオキ著/日経BP)
画像のクリックで拡大表示

 デザイナー同士ということもあり、また旧知の間柄の方も少なくないようで、会話の中身はいずれもざっくばらん。だからこそ、デザインへのこだわりや仕事に取り組む姿勢など、本音ベースのやりとりが抜群に面白いんです。

 僕が注目したのは、彼らの「視点」です。家具も建築物も、彼らがデザインするものは大量生産されません。その分、常に新しいものを生み出そうと、一つ一つの作品に思いを込めている。そのデザインをどこから発想したのか。どういうプロセスで完成に至ったのか。どういう空間に置かれ、どういう使われ方を想定したのか。クライアントの要求とどう折り合いをつけるのか。いずれも一流と呼ばれるデザイナーだけに、それぞれ独自の哲学を持っているわけです。

 逆に言えば、どういう発想をすれば一流と呼ばれるようになるのかが分かる。ユニークな視点を持つこと自体は誰にでもできるかもしれません。肝心なのは、それをベースにして徹底的に考え抜くこと。それがないといい作品にはならないんですね。

欠かせない「編集力」

 もちろん、僕は家具をデザインするわけではありません。しかし、店内の配置や商品棚の並べ方については、デザインの感覚が必要だと思っています。

 福島屋のお店は数千の商品をそろえていますが、オリジナル品については大量生産の商品はほとんどありません。例えば問屋さんのデータベースのようなものをもとにして、売れ筋の商品ばかりを並べることは簡単にできます。しかしそれでは、近隣のスーパーと同じ店になってしまう。福島屋のような小さなスーパーは、それでは生きていけないんです。

 そこで、各店の売り場担当が仕入れ担当も兼任し、それぞれ全国の生産地や卸売市場に出向いて商品を仕入れています。商品を選ぶ基準は、品質の良さはもちろん、旬か、そして福島屋らしいか。

 だから彼らは商品の知識は豊富だし、お客さまに何をアピールすべきかも分かっているわけです。

「棚や商品をどう見てもらえるかが重要です」と話す福島さん
「棚や商品をどう見てもらえるかが重要です」と話す福島さん
画像のクリックで拡大表示

 でも、それではまだ足りない。福島屋が仕入れる商品は、他の小売店も仕入れています。生産者と提携してオリジナル商品も作っていますが、せいぜい全体の20%程度。だとすれば、他店との差別化が欠かせません。それが見せ方、伝え方です。棚にどう並べて、どんなラベルやPOPをつければ商品の魅力が伝わるのか。

 例えば大豆にしても、産地やメーカーによって多くの商品があります。それをただ機械的に並べるだけでは、親切とは言えません。お客さまが商品を選ぶ際には、値段だけではなく、何か条件があるはず。そこで、それぞれの大豆にどういう特徴があり、どういう栽培をされたのか、どういう食べ方をすれば一番おいしいのか、なぜ値段に違いがあるのか等々まで提示すれば、探しやすくなるでしょう。

さまざまな種類の豆が並ぶ福島屋の陳列棚(写真提供/福島屋)
さまざまな種類の豆が並ぶ福島屋の陳列棚(写真提供/福島屋)
画像のクリックで拡大表示

 それから並べる順番も大事。青果コーナーなら、目玉となる野菜を両角に起き、それと関連する野菜を中央に置く。それをベースにして、何らかの関連や色合いなどを考えながら他の野菜を並べていくわけです。あるいは置く角度を少し変えるだけでも、印象はずいぶん違ってきます。僕はこれを「編集力」と呼んでいます。

 ただもちろん、正解がある話ではありません。どうすればより魅力的に見えるか、日々試行錯誤の連続です。それらを考えるとき、デザイナーの視点がものすごく参考になるのです。

 一流のデザイナーは、クライアントから特注を受けることで仕事が成り立ちます。福島屋も、クライアントであるお客さまの特注に応えられるようなスーバーでありたいと思っています。

一流建築家の発想のプロセスを知る

 それからもう一冊、同じくデザイン関係で面白いのが『 安藤忠雄の建築0 増補改訂版 』(安藤忠雄著/TOTO出版)。やはり世界的に有名な建築家である安藤忠雄さんが、過去50年間で手掛けてきた数々の建築物について、最初のラフなスケッチ段階にさかのぼって発想のプロセスをたどろうという内容です。

 そのスケッチの時点で、すでに力強さと完成度の高さをうかがわせるあたりが、「さすが安藤さん」と思います。

『安藤忠雄の建築0 増補改訂版』(安藤忠雄著/TOTO出版)
『安藤忠雄の建築0 増補改訂版』(安藤忠雄著/TOTO出版)
画像のクリックで拡大表示

 建築には、環境や立地、気候、それにクライアントの要望などさまざまな制約条件があります。それを踏まえた上で、さらに安藤さんの経験や知識に裏打ちされた感性が加味されて、その場にふさわしい建物がイメージされていく。その萌芽(ほうが)の瞬間を見ているような楽しさがあります。

 また、それが詳細な設計図に置き換わり、最終的に建築物として完成した写真を見ると、アイデアが具現化されるプロセスがよく分かります。あくまでも感性が先だから、いろいろな条件があっても斬新で特徴的な建築物を生み出せるのでしょう。

 僕は以前より安藤さんの作品のファンだったので、羽村本店あたりのリノベーションをお願いし、いつか実現する日が来ればいいなと思っています。

 というのも、これまで大小30店近くを開いてきましたが、そのたびに悩ましいのが建物のデザインをどうするか。先に述べた通り品ぞろえや商品の並べ方、店内レイアウトで独自路線を貫いている以上、外観や内装も凝(こ)りたいわけです。しかも立地や環境に応じて、それぞれの店ごとの個性も際立たせたい。周辺のスーパーやコンビニと同じようなたたずまいでは、お客さまも面白くないでしょう。

『安藤忠雄の建築0 増補改訂版』に収録された名作「光の教会」のラフスケッチ
『安藤忠雄の建築0 増補改訂版』に収録された名作「光の教会」のラフスケッチ
画像のクリックで拡大表示

 ところが、デザイナーさんにいろいろなデザインを依頼すると、アクの強い方が多いので、こちらの意向よりデザイナーの個性が目立ってしまうことがあるのです。やはり機能とデザイン、技術と情緒のバランスを取りながら、人に喜びや満足をもたらす。そんな仕事が理想ですね。

 だからせめて、安藤さんのスケッチを眺めながら、建築設計のエッセンスのようなものを学べたらいいなということが一つ。それから種々の条件に合わせ、なお最適な結論を探し出す安藤さんの「視点」も刺激になりますね。

取材・文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集部) 写真/小野さやか

nendo佐藤オオキ×世界のトップクリエーター17人のぜいたくな雑談集

デザインの権化として君臨する「フィリップ・スタルク」さんや建築家の「隈研吾」さん、現代のダ・ヴィンチと称賛されるイギリスの気鋭建築家「トーマス・ヘザウィック」さんなど、オオキさんがすべて自腹で突撃取材を敢行。デザイナー同士だから出てくる本音を余すことなく収めました。

佐藤オオキ著/日経BP/1980円(税込み)