出世や成功に不可欠な「権力」掌握術。あやふやな常識や理想論がまかり通りがちな分野で、社会科学の研究や世界中のリーダーを分析してたどり着いた「権力の7つの法則」をまとめたのが、『スタンフォード大学の人気教授が明かす 教養としての権力』(ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日経ビジネス人文庫)です。今回は、「リーダーはどう振る舞うべきか」について、本書から抜粋・再構成してお届けします。
リーダーの自信は部下に「伝染」する
感情や行動は「伝染」することが研究で示されている(*1)。
医学の分野でも、病人を見た人や、同級生が病気だと知った生徒が、集団心因性疾患を起こした例が報告されている(*2)。こうした伝染は「生物学的および社会的プロセスが関与していると考えられ」、どこにでも見られる現象で、伝染していることに気づかない場合がほとんどである(*3)。
感情はただ伝染するだけではなく、大きな影響をおよぼす。最近のレビューでは、組織内で「情動伝染が態度や認識、行動、成績に与える影響(*4)」が確かめられた。
人は自分が関わっているものに誇りを感じたいし、自分や同僚が成功すると信じたい。したがって、リーダーのとくに重要な仕事は、自信ありげに振る舞うことである。自信にあふれた人を見ると、この人について行こう、助けよう、あるいは採用したい、昇進させたいと思わされる。そしてリーダーが自信たっぷりな態度でいれば、部下たちにも自信が伝染する。
重要なのは性格ではなく「行動」
だからこそ、権力の法則1「自分の殻を抜け出せ」に則って、自信があり有能だという印象を与えない言葉遣いやボディランゲージ(これから説明する)を捨て去ることが肝心だ。客観的根拠や確信がなくても、自信満々に振る舞おう。
カリフォルニア大学バークレー校教授のキャメロン・アンダーソンらは、「自信過剰な人は有能だという印象を与えるため、出世する確率が高い」という仮説を検証した(*5)。
まず地理の知識テストを使った実験で、自信過剰な人はテストのパートナーによって「有能で地位が高い」と評価されただけでなく、「自信過剰は、パートナーによる能力評価とも、実際の能力とも相関性が高いことが判明した」。
2つめの実験では、自信過剰な態度が与える、「信頼できる」「地位が高い」という印象が、7週間後もまだ持続していたことが示され、この印象がたんなる一過性のものではないことが明らかになった。
さらに別の実験は、人が具体的にどんな言動をもとに他人に対して「この人は有能だ」という印象を形成するのかを特定した。たとえば、会話の独占、自信に満ちた断定的な口調、重要な情報の提供、体を広げて大きく見せるようなポーズ、落ち着いてリラックスした態度、進んで質問に答える、といった言動が、「有能だ」と観察者に思わせる効果があった。
興味深いことに、この実験やその他の実験で、被験者の性格特性を示す指標を分析対象に含めても、結果はまったく変わらなかった。
このことは、「権力を得るためのカギは(学習を通じて身につけられる)行動だ」という、本書全体のテーマを裏づけている。つまり、性格がまったく無関係というわけではないが、それよりも行動の方が重要な場合が多いのだ。
たとえば自信と権力に関する研究で、体を広げるような「ハイパワー」ポーズと呼ばれる姿勢を取る群と、縮こまるような「ローパワー」ポーズを行う群に被験者をランダムに振り分け、その後架空の求職面接で2分間のスピーチをしてもらったところ、ハイパワーポーズをしながら話した人は「雇いたい」人材と評価され、面接で高評価を得る傾向にあった(*6)。
部下は自信のあるリーダーについていきたがる
「自信や怒りを表そう」という勧めは、「弱さを見せて相手の心を開こう」という、よく聞くリーダーへのアドバイスとは相容れない。
どちらのアドバイスに従うべきかは、あなたが権力と成功を求めるのか、部下との距離を縮めたいのかで決めればよい。どちらも実行可能だが、私がさまざまな研究を読んだ限りでは、権力があり成功する人という印象を与えて権力を手に入れた方が、一般によい結果を生むようだ。
こうした相容れない考えがなぜ説かれるのだろう? それを説明するカギは、自己開示に関する研究にある。
研究の著者たちが述べるように、「自己開示は、職場でますます重要[かつ一般的]な現象になりつつある(*7)」。この研究では3種類の実験を通して、弱さを見せることにどんな影響があるかを検証した。その結果、仕事上のやりとりの中で「上司が部下に弱さを見せると、上司の影響力が低下し……対立が増え……好感度が下がり……この上司の下で働き続けたいという部下の意欲が低下した(*8)」。ただしこうした悪影響は、弱さを見せた人が観察者と同等の地位にある場合には見られなかった。
私の結論はこうだ。職場では、とくにあなたが上司として部下に指導力を示し、安心感を与えることを求められているような状況では、「自信に満ちた有能な人物」という印象を与えることがとても重要である。
弱さや不安を見せるのは、相手が友人である場合や、あなたがリーダーでない場合は問題ない。だが職場で高い地位にあるなら、たとえ不安を感じていても胸の内にとどめておこう。
人は勝ち馬に乗りたがるものだから、強いという心象を打ち砕くようなことをすると、おそらくよい結果を生まない。
1. Elaine Hatfield, John T. Cacioppo, and Richard L. Rapson, Emotional Contagion, Cambridge, UK: Cambridge University Press, 1994.
2. Timothy F. Jones, Allen S. Craig, Debbie Hoy, Elaine W. Gunter, David L. Ashley, Dana B. Barr, John W. Brock, and William Schaffner (2000), “Mass Psychogenic Illness Attributed to Toxic Exposure at a High School,” New England Journal of Medicine, 342 (2), 96–100.
3. Shirley Wang (2006), “Contagious Behavior,” Observer, February 1. https://www.psychologicalscience.org/observer/contagious-behavior.
4. Sigal G. Barsade, Constantinos G. V. Coutifaris, and Julianna Pillemer (2018), “Emotional Contagion in Organizational Life,” Research in Organizational Behavior, 38, 137–151; 引用は p. 137より。
5. Cameron Anderson, Sebastien Brion, Don A. Moore, and Jessica A. Kennedy (2012), “A Status-Enhancement Account of Overconfidence,” Journal of Personality and Social Psychology, 103 (4), 718–735.
6. Amy J. C. Cuddy, Caroline A. Wilmuth, Andy J. Yap, and Dana R. Carney (2015), “Preparatory Power Posing Affects Nonverbal Presence and Job Interview Performance,” Journal of Applied Psychology, 100 (4), 1286–1295.
7. Kerry Roberts Gibson, Dana Harari, and Jennifer Carson Marr (2018), “When Sharing Hurts: How and Why Self-Disclosing Weakness Undermines the Task-Oriented Relationships of Higher Status Disclosers,” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 144, 25–43; 引用は p. 25より。
8. Ibid., p. 38.
ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版/1100円(税込み)

