出世や成功に不可欠な「権力」掌握術。あやふやな常識や理想論がまかり通りがちな分野で、社会科学の研究や世界中のリーダーを分析してたどり着いた「権力の7つの法則」をまとめたのが、『スタンフォード大学の人気教授が明かす 教養としての権力』(ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日経ビジネス人文庫)です。今回は、「人が権力の法則を受け入れる過程」について、本書から抜粋・再構成してお届けします。

権力の法則を否定する人々

 私の講義や著書の内容を裏づける社会科学のエビデンスがこれほどたくさんあり、実生活やニュースでもその実例を見聞きすることが多いというのに、権力について学ぶ人は必ずと言っていいほど、次の4つの段階を経験する。

 第1の段階が「否定」である。

 権力の法則の多くは、彼らがそれまで権力について読み聞きしてきたことや、家庭で教わったこと、ビジネススクールなどで学んだことといくらか、ときにはかなり異なる。だから最初の反応として、「その考えは間違っている」と決めつける。権力や政治的行動に日常的に接している人でさえ(または接しているからなおさら)、否定の段階を経験する。

 否定は、「7つの権力の法則に従わずに成功した人物を探す」というかたちで現れることが多い。

 だが法則に当てはまらない人が1人や2人いたところで、何も証明したことにはならない。癌(がん)が自然に治ったという人はいるが、だからといって治療を受けないことが万人にとって最適な選択肢とは言えない。

 おまけに、反例として挙げられるような人々は往々にして、自分の経験を魅力的な物語に仕立て、それを広く、繰り返し伝えるのがうまい。だから細かく調べてみると化けの皮がはがれることが多い。

 もう1つの否定のかたちとして、ソーシャルメディアや新世代の台頭がすべてを変えたから、「権力の法則は現代に当てはまらない」と主張することもある。アジアなどの異文化には当てはまらないとか、中小企業やハイテク分野、共同経営の場合は事情が違う、などと私に訴えてくる。

 このように否定はいろいろなかたちを取る。だが権力があらゆる組織について回ることを否定していると、よからぬ結果を招くことがある。

権力の重要性から目を背け続けると…

 数年前、カリフォルニア州バーリンゲームの自宅近くのスーパーで買い物をしていると、うしろから「フェファー先生」と呼びかける声がした。私の教え子だった。

 彼は挨拶して、「権力の講座はとても役立ちましたよ。先生の教えるようなことは絶対にやりたくないと確信できましたからね」と皮肉を言ってきた。だから彼は同級生と組んで、権力や駆け引きとは無縁の、小さな投資会社を立ち上げたという。

 「それはよかったな」と私は答えた。権力を獲得する方法を知った人が、その道をたどりたくないと考えるのも理解できる。

 数年後、偶然にも同じスーパーで同じ教え子を見かけた。私は「君の小さな投資会社はうまくいっているのかい?」と声をかけた。

 すると彼は引きつった笑みを浮かべて、「もうその会社では働いていないんです。仲間に追い出されてしまって」と打ち明けた。彼自身が共同創業した小さな会社でさえ、権力の現実からは逃れられなかったというわけだ。

 彼は手痛い代償を払って、否定の段階を卒業した。

権力の仕組みを受け入れる

 否定の次に来るのが「怒り」の段階で、その矛先は私に向けられる場合が多い。

 これは別に不思議なことではない。「使者への八つ当たり」現象は多くの論文にも取り上げられているし、内部告発者は正しい告発をしたのに解雇や左遷などの報復を受けることも多い(*1)。

 人は聞きたくないことには耳をふさぐものだ。不愉快な事実を告げられて感謝する人などいない。だから彼らは私のことをこんなふうに考える。「なんだってこのご仁はリーダーシップの従来研究とかけ離れた、おかしな考えを吹き込もうとするのか?」と。

権力の重要性から目を背けても、現実から逃れることはできない(写真:Sung Hwan Kim/stock.adobe.com)
権力の重要性から目を背けても、現実から逃れることはできない(写真:Sung Hwan Kim/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 怒りはいつしか過ぎ去り、そして「失望」がやってくる。

 権力の法則の正しさに気づき、私が社会科学研究を誤解しているわけでも、組織行動に疎いわけでもないことを知って絶望する。私の教えることが気に食わないし、権力を得るために取るべき行動に抵抗を覚える。

 そんな世界ではいったい誰を信じたらいいのか? 隙を見せないようにつねに警戒していなくてはいけないのか? そんなときによく聞かれるのが、例の「気がめいる」という言葉だ。

 うまくいけば、まあうまくいかないこともあるが、次に「受容」の段階が来る。

 人生や組織や世界を変えるために取るべき手段を理解し、権力の法則を受け入れて積極的に実践するか、あるいは「もう降りた」と宣言して、その結果に苦しむかの二択しかないことを認める。

 うれしいことに、教え子の多くが権力の仕組みを受け入れ、それを活用してすばらしい成果や業績を上げている。

【原注】
1. Jodi L. Short (1999), “Killing the Messenger: The Use of Nondisclosure Agreements to Silence Whistleblowers,” University of Pittsburgh Law Review, 60, 1207–1234.
組織行動学の権威がスタンフォード大学で教える、権力を手中にし、活用するための「7つの法則」を明かします。権力掌握術は、実社会では恐ろしいほど重要です。権力者の事例をもとに切れ味鋭く説く、世界最高峰の大学で教える真の教養。

ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版/1100円(税込み)