世界の企業や工場を対象に業務改善の指導を続ける豊田エンジニアリング代表取締役の堀切俊雄氏が、書籍『トヨタ流原価マネジメント』(日経BP)を著した。確実に利益を生み出すためにトヨタ自動車が実践している優れた原価マネジメントを基に、多くの企業が実践できるように体系化したものだ。本書の抜粋を掲載する。第4回は、組織体制作りについて。

 企業の主な業務の1つは、新商品の開発から生産・販売です。もう1つは新規プロジェクトです。例えば、海外に新会社を設立し、生産・販売の拠点を設けるといったものです。どちらにせよ、莫大な金銭投資と人員の投入を行わなければならず、企業は大きな経営判断・決定を迫られます。失敗すると企業の利益が激減したり、経営が危うくなったりします。

 当然、これら2つは、企業の将来の利益を確保したり増大させたりするための業務です。それ故に、利益が出るようにプロジェクトを企画して推進する必要があります。その業務のプロセスは多数あり、多くの部署が関与します(図1)。

図1 業務のプロセス
図1 業務のプロセス
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 原価低減を行ったり、付加価値を向上させたりして、利益が出るようにしなければなりません。各業務と原価に関する業務(原価マネジメント)は図2の通りです。

図2 各業務と原価に関する業務
図2 各業務と原価に関する業務
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 各業務と原価の業務は対になっています。各業務で原価を検討することも業務の中に含まれているのです。これらの原価企画から始まる業務での原価低減額はトヨタ自動車の決算報告書で開示されていますので、ぜひ確認してみてください。

 工場の原価低減額は、年によって変動はありますが、年間500億円程度になります(図3)。大半は工場の組長や班長を中心としたTPS(トヨタ生産方式)による原価低減活動の成果です。

図3 原価マネジメントによる工場での成果
図3 原価マネジメントによる工場での成果
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 図4は、スタッフ・エンジニアを含めた原価低減額です。これは年間5500億円程度になります。

図4 原価マネジメントの成果
図4 原価マネジメントの成果
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 このように、原価マネジメントはトヨタ自動車の利益の重要な部分を占めます。また、先ほど説明したように、業務のプロセスは多数あり、多くの部署が関与します。通常、企業の組織は営業、開発設計、生産技術、品質保証、人事、経理など、機能別組織になっています。機能別組織のトップが副社長という会社も多いと思います。部署間の壁があったり、摩擦が生じたり、検討の抜け落ちがあったりします。全体をうまくマネジメントする必要があります。

縦糸と横糸から成る運営体

 トヨタ自動車では、縦の組織(機能別組織)とQCDを達成させる横からの会議体(または委員会)で原価をマネジメントしています。縦糸と横糸から成る布のような運営体です。筆者はこれをWoven Management(ウーブン・マネジメント)と呼んでいます(図5)。

図5 トヨタ自動車の原価マネジメントの方法「Woven Management」
図5 トヨタ自動車の原価マネジメントの方法「Woven Management」
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 図5のように、各組織に横串を刺すこうした会議体・委員会制度・チーフエンジニア(CE)制度を設け、縦糸組織の運営の弊害を取り除いているのです。こうした会議体の委員には各機能のトップ・副社長・専務などが就任します。つまり、経営者は機能別のトップであり、横串である会議体の委員にも就任しているため、縦組織の欠点である組織間の摩擦を軽減でき、また組織間の協力体制も構築することができるのです。なお、会議体の事務局は経理部が担当します。

 それでは、トヨタ自動車の経理部の業務を見てみましょう。経理部は二手に分かれて、原価マネジメントと財務会計を担当します(図6)。

図6 経理部の活動範囲
図6 経理部の活動範囲
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 経理部は会議体を駆使しながら各組織の原価に関する業務を横からマネジメントすると同時に、各組織に対して原価の教育や原価の意識付け、原価の集計システムなどのサポートをしています。特に、開発設計部門には原価の支援を行うための組織(EQ推進部)を設けています。加えて、各工場には原価支援グループの組織を設け、工場の原価低減や予算管理などをサポートしています。経理部は図7のように二手に分かれて活動しています。

図7 経理部は原価会議の事務局
図7 経理部は原価会議の事務局
(作成:筆者)
画像のクリックで拡大表示

 経理部は原価会議の事務局として委員(経営者)と各部門を結ぶ役目を果たすとともに、各部署に対して原価の目標値を定めたり、目標値の達成の支援をしたりします。

 業務とは付加価値を生むことです。原価の会議体(委員会)をつくり、縦の機能別の組織を横断的にマネジメントする方法で原価の管理を行っています。この最高決定機関が原価会議となります。

 トヨタ自動車が製造業として強い企業基盤を築いて世界的に成功している理由は、原価の目標を定めて、それを実現する仕組みをつくっていることにあります。さらに、次の3つの仕組みを取り入れて、全員が参画する形でQ(品質・性能)、C(コスト・利益)、D(納期・リードタイム)を改善する文化・習慣を構築しています。

(1)トヨタ生産方式(TPS):Toyota Production System

 TPSは、品質および生産性を高める仕組みです。ただし、TPSは今や世界の常識となっており、米国・韓国・中国・その他新興国のメーカーも積極的に取り組んでいて、生産工場の品質レベルが進んできています。

 この分野の最高決定機関は生産会議(歩合会議)となります。

(2)トヨタ流開発システム(TDS):Toyota Development System

 TDSは、売れて儲(もう)かる商品を開発する仕組みです。トヨタ自動車が自動車業界の中で継続して優位性を保っているのは、「顧客のニーズを的確に捉え、満足してもらえる魅力ある商品」を企画し、タイムリーに開発する優れた製品開発力を持っているためです。

 この分野の最高決定機関は製品企画会議となります。

(3)トヨタ流原価マネジメントシステム(TCMS):Toyota Cost Management System

 TCMSは、利益を出すための全社体制、すなわち全員が原価を考えて各業務を遂行する仕組みです。業務とは付加価値を生むことです。原価の会議体(委員会)をつくり、縦の各機能別の組織を横断的にマネジメントする方法で原価の管理を行っています。

 この分野の最高決定機関は原価会議となります。

組織ごとの利害を越えて「原価マネジメント」に取り組むことが大切(写真:78art/stock.adobe.com)
組織ごとの利害を越えて「原価マネジメント」に取り組むことが大切(写真:78art/stock.adobe.com)

(書籍『利益を最大にする実践的手法 トヨタ流原価マネジメント』を基に再構成)

堀切俊雄(ほりきり・としお)氏 豊田エンジニアリング代表取締役
堀切俊雄(ほりきり・としお)氏 豊田エンジニアリング代表取締役
1966年にトヨタ自動車入社以後、約36年にわたって生産技術部、海外生産企画部、海外技術部、GPC、中国部などに在籍。海外では、台湾の国瑞汽車(トヨタの海外工場)の技術部兼製造部部長を務める。定年時は中国主査。同社退職後、トヨタ生産方式などのコンサルティングを手掛ける豊田エンジニアリングを設立し、代表取締役として活躍。2008年に豊田マネージメント研究所を設立。日本はもとより、海外でも積極的に指導を行っている。著書に『新しいトヨタ生産方式「トータルTPS」』(日経BP)、『トヨタの原価』(かんき出版)などがある。(写真:上野 英和)

日経クロステック 2025年9月3日付の記事を転載]

本書は、トヨタ流「原価マネジメント」の指南書です。原価マネジメントとは、トヨタ自動車が高い収益を生み出すために活用しているQCDのうちのC、すなわちコスト(原価)を低減するためのマネジメントのこと。200点を超える豊富な図表を用意し、かつ成功事例を盛り込んで、分かりやすく解説しました。

堀切俊雄著/日経BP/1万1000円(税込み)

【関連記事】