日清食品を率いる若き経営者・安藤徳隆氏の実像に迫る書籍『日清食品をぶっつぶせ』からの連載第2回。自身の原点となったカップライス事業の再構築で、ユニークであることの重要性を痛感した。父であるCEOが眉をひそめるほどのCMで新ブランドを強固なものにした。※本文中の太字は安藤社長の言葉
徳隆氏によるカップカレーライスのリブランディングは、「スナックカレー」のポジションを目指した味の変更にとどまらなかった。
普通のカレーは白米の上にルーがかかっていて、ごはんとルーが分かれていますよね。でも、この商品は設計上、つくるときに混ぜなくてはならない。ごはんとルーが混ざり合った状態が出来上がりなんです。
あらためて考えたときに「これ、『カレーライス』じゃないよな」と気付いた。カレーライスとは違う新しい食べ物であると消費者に伝えなきゃいけない。
「日清カップカレーライス」から「日清カレーメシ」へのブランド変更を決断したのはそのためだ。
「カレーメシ」というブランドにしたのは、カテゴリーとしての新しさが感じられると思ったからです。響きも、文字数も。それでいて、日清食品らしい「ジャンクさ」と「バカっぽさ」もある。
米をモチーフにしたデザインは佐藤可士和さんにつくってもらいました。カレーメシのブランドコンセプトは「理解不能な新しさ」。それを伝えるブランドコミュニケーションを可士和さんと考えていったんです。
徳隆氏は以前から、佐藤可士和氏に定期的に仕事の相談をしてきた。二人三脚でカレーメシのブランドコミュニケーションを考える中、米に手と足が付いた不可思議なキャラクター「カレーメシくん」もセットで商品のパッケージデザインを考えていった。

「むちゃくちゃなことをするキャラクター」として初めから設計しました。このキャラクターがテレビCMの中だけじゃなくて、現実世界でもイベントとか色々なところで暴れ倒すという想定だったんです。
カレーメシブランドに変更した最初の商品を発売したのは14年。カレーメシくんが大暴れして、「かんたん、うまい、カレーメシ!」と訴えるCMが大きな話題になった。
このCMって「米が入っています。水を入れて電子レンジでチンしたらおいしいカレーが食べられます」としか言ってないんです。カレーメシの食べ方を説明しているだけ。
でも、それを我々らしい表現でやって、その表現の異質さというか、新しさをフックにして、この世界観を若い人たちに気に入ってもらいたいと思ってつくった。それが結構できるんだという自信になりました。
「モビリティーが低いね」
カレーメシの発売から少したった頃、徳隆氏は佐藤可士和氏と長野県小諸市の山中にいた。「大自然の中でクリエーティブな議論をしてみよう」となったのだ。
カレーメシも持って行った徳隆氏。いざ山の中で食べようとしたとき、「そうだ、これは電子レンジ調理だった」と思い出した。最初のカレーメシはカップに水を入れた後、電子レンジで加熱する必要があった。
電子レンジがなくて、結局食べられなかった。それで可士和さんと「カレーメシはちょっとモビリティーが低いね」と話していたんです。
カレーメシというブランドをもう一段大きくするためにも、カップヌードルと同じ条件、湯かけ調理にしなければならない。自分の中でそういう結論に至った。
その前から、日清食品の開発部隊は湯かけで米を食べられるようにしようとチャレンジしていた。ところが、「湯戻りが悪く、米の食感が良くない」などの理由で商品化を見送っていた。
本格的なカレーを再現しようとしているわけじゃないし、ターゲットにしていたのは若い消費者です。「米がリゾットみたいな少し硬めの食感でも気にせず食べちゃうのではないか。それなら米の食感よりも利便性が大事だろう」と考えました。電子レンジでチンして調理するのではなく、カップヌードルと同じ湯かけに1日でも早く変えた方がいい。そう提案しました。
その提案にCEO(父の安藤宏基氏)は大反対しましたよ。でも「いや、これは僕に任されたブランドですよね」と。「売れなかったり、クレームが来たりしたら、僕が責任を取りますから」。そう約束して、はっきりした許可をもらわないまま、半ば強引に進めました。
我々の開発部隊の実力を僕は知っています。「割り切って湯かけの方向に走り出してしまえば、米の質はどんどん進化していくはずだ」という確信がありました。
カレーメシという選択肢を消費者に持ってもらうためのマーケティングにも徳隆氏は力を入れた。電子レンジ調理が不要な湯かけに切り替えた2016 年ごろまでは、消費者に対して「カレー好きの人たちのためのカレーメシ」といった訴求をしていた。「これでは、いつまでもカレーの市場の枠から出られない」。そんな限界を感じていた。
カップヌードルが爆発!?
そこで生み出したのが「メンよりメシ。」というマーケティングだった。
カップヌードルのパッケージがバーンと爆発して、「メンよりメシ。」という甲高い声のナレーションとともにカレーメシのパッケージが出てくるテレビCMを大々的に展開したのだ。カップヌードルを何度も爆発させるバージョンのCMまでつくった。

「カップヌードルよりカレーメシの方がうまい」とか「カップヌードルはスープを捨てなきゃいけないけど、カレーメシはスープが残らないから便利だ」と訴えて、カップヌードルが好きな消費者に、カレーメシの存在に気付いてもらおうとしました。
日本のインスタントラーメン市場で一番売れているブランドがカップヌードルですから、カップヌードルを食べている人たちが一番多いわけですよね。その人たちの「今日はカップヌードルのレギュラーにしようかな、カレーヌードルにしようかな……」という中に、「あ、カレーメシにしよう」という選択肢を入れたいと思ったんです。
この「メンよりメシ。」のマーケティングが、カレーメシブランド定着への大きな一歩となった。ブランドの年間売り上げ(市場売価ベース)は右肩上がりで拡大し、22年度に100億円を超え、日清食品の主力ブランドの1つとなった。
別のブランドには遠慮しない
カップヌードルを爆発させるようなCMを流して、カップヌードルの担当者は文句を言わないのだろうか。
うちはCEOが自ら「カップヌードルをぶっつぶせ」と言っている会社です。ブランドファイティング(ブランド間の競争)が推奨されているんです。
とはいえ当時、CMをCEOに見せたら少し怒っていました(笑)。「さすがにやり過ぎじゃないか」と。
ただ、人に気付いてもらうためには、やっぱり少し過激なことをやらなきゃいけない。カップヌードルと比較して「こっちの方がいいですよ」とやるんじゃなくて、もっと分かりやすく、カップヌードルのパッケージがバーンと爆発するところから始める。その方がみんなもびっくりするだろうし、気付いてもらえるでしょうから。
日清食品は、商品ブランドごとに「ブランドマネージャー」と呼ばれる責任者を配置する制度で有名だ。それぞれのブランドの成長をブランドマネージャーに託し、社内でブランド同士を競わせ、商品力を高める。
驚くべきは、ブランド間の競争の徹底ぶりだ。カレーメシのマーケティングのためにカップヌードルを爆発させるような表現をCMに使う場合であっても、「特にカップヌードルのブランドマネージャーから許可を得る必要はない」(徳隆氏)という。
カレーメシブランドの商品を買おうとした消費者にとってはカップヌードルもどん兵衛もU.F.O.も選択肢になる。だからこそ、自社の商品もライバルとして捉え、その中で抜きんでようと努力しなければならない。徳隆氏率いる日清食品の根底には、そんな「弱肉強食」とも言える緊張感が漂う。
その後、お湯をかけて食べるカップライス商品群は拡大の一途をたどっている。カレーメシブランドの商品が「ハヤシメシ」や「キーマカレーメシ」に広がったほか、辛口の「炎(ほむら)メシ」や台湾料理風の「台湾メシ」など、多数の派生商品が生まれている。
カレーメシを中心とするカップライス商品の年間売上高は、300億円に手が届くところまで来た。
カレーメシはまだまだ伸びる余地があります。300億円に迫るブランドになった今も、少し露出を増やすだけですぐに売り上げ拡大に結び付く。「理解不能な新しさ」という世界観で若い人に訴求してきて、アーリーアダプターに定着した。これからマジョリティーに移っていくところ。500億円という数字もそう遠くないうちに見えてくるはずです。
15年に日清食品社長に就任した徳隆氏にとって、カレーメシは自ら立ち上げ、育ててきたブランドの成功体験となった。そこで培った経験が、徳隆氏のマーケティングやイノベーションに取り組む姿勢をさらにとがったものにしている。
[日経ビジネス電子版 2025年8月22日付の記事を転載]
安藤徳隆、竹居智久著/日経BP/1870円(税込み)


