ユニークな商品やCMでいつも話題を呼ぶ日清食品を率いる若き経営者・安藤徳隆氏。その安藤氏の新著『日清食品をぶっつぶせ 自ら創造し、自ら破壊せよ』(日経BP)が話題を呼んでいる。マーケティングや新規事業、自らの原動力、3代目としての覚悟とは……。その一端を、本書から一部を抜粋してご紹介する。※本文中の太字は安藤社長の言葉
東京企画/CM総合研究所(東京・千代田)の「2024年3月度 銘柄別CM好感度トップ10」で2カ月連続の総合1位になったのは、日清食品「チキンラーメン」だった。この時期にテレビで流れていたのは、お笑いコンビのオリエンタルラジオを中心とするダンス&ボーカルグループ、RADIO FISHのヒット曲の替え歌を使ったCMだ。
♪たまごを ポケットに 今 ささげろ It,s a パーフェクトチキラー
チキンラーメンのキャラクター「ひよこあにき」がハイテンポの楽曲に合わせて歌って踊り、チキンラーメンに生卵が落とされる様子が繰り返される。男性や女性、子供がチキンラーメンを豪快にすする様子も流れ、見ていると実際にチキンラーメンをつくって食べたい気持ちになってくる。
チキンラーメンのCMは年間を通じて好評だった。24年度の銘柄別CM好感度年間ランキングで1位を獲得し、「ブランド・オブ・ザ・イヤー2024」に輝いた。18年間連続で携帯電話会社がトップを占めてきた状況を打ち破る快挙だった。
さらにこの年間ランキングでは「カップヌードル」が3位にランクイン。日清食品のCMは好感度調査上位の常連となっていることを裏付ける結果となった。食品・飲料の分野では21年6月から24年4月までの間、日清食品のブランドが35カ月連続で1位を獲得している。
なぜ日清食品はそれほどまでにCMに力を入れるのか。日清食品社長の安藤徳隆氏はこう解説する。
日本の消費者は、売り場の前に立ったときに「マインドシェア」(心の中での占有率)が一番高いものを買う傾向が強いんです。それで消費者のマインドシェアをどう上げるかにこだわってきたのが日清食品のブランドコミュニケーションです。いつも「日清、日清、日清」とやっていれば、売り場に立ったときに日清食品の商品を手にとってくれる率が高くなる。だからCMをインパクト重視にしているんです。
もともと日清食品には「名作」とされるCMが多い。原始人の集団が巨大なマンモスを追いかけるシーンの後、「hungry?」というキャッチコピーとカップヌードルのパッケージが映し出されるCMが最初に流れたのは1992年。このCMは消費者にも大きなインパクトを与え、93年にカンヌ国際広告映画祭でグランプリを受賞した。
そんなCMの名手だった日清食品が、徳隆氏の社長就任以降、その腕に磨きをかけているように見える。
徳隆氏が参加する毎週開催の会議「宣伝定例」では、それぞれのCMについて展開や場面ごとの構図や配色、アニメーションなどの動き、打ち出す言葉、音のバランスなど、細部に至るまで目を配りながら決定している。使用する楽曲や映像の選択とアレンジなど、細かな内容も広告代理店に任せきりにせずに自社で決める。「ここまで自分たちでやっている会社はないでしょう」と徳隆氏は笑う。
日清食品の商品について、僕らより詳しい人たちはいません。広告代理店は広告制作の現場は見えているけれども、商品の売り場や営業担当者の商談現場までは見えませんよね。
僕らは商品のコンセプトをとても大事にしています。そのCM、その商品で、営業担当者がどう考えるのか、取引先にどのように提案できるのか、どのような売り場がつくれるのか。そこまで全部つながっています。そのコンセプトが全国のどこのスーパーにも伝わるような表現を生み出すのは、広告代理店に丸投げしていてはできないでしょう。だから自分たちで企画をつくるんです。
異なる文脈を掛け合わせる
商品のコンセプトを、インパクト重視で伝える。そのための手法として活用してきたのが、「コンテキスト(文脈)の掛け合わせ」と「クセになる面白さ」だという。コンテキストの掛け合わせという意味での「1つの完成形」として徳隆氏が挙げるのが2017年に公開したCMシリーズ「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」だ。
「魔女の宅急便」「アルプスの少女ハイジ」「サザエさん」などの名作を、日清食品のオリジナルストーリーで展開する──。そういう発想は、まあ、なくはないですよね。「もし彼らが高校生だったら」というパラレルワールド。
そこに僕らがもう1個掛け合わせたのが、「違うイラストレーターに描いてもらう」ことでした。僕が中学生の頃に大好きだった「ツルモク独身寮」の作者である窪之内英策さんにお願いしたんです。窪之内さんのタッチは今の若い人たちの目を引くみずみずしさがあると思って。
さらに掛け合わせたのが今の音楽です。人気ロックバンドのBUMP OF CHICKENに書き下ろしてもらいました(注:曲名は「記念撮影」)。
現代アートって、コンテキストの掛け合わせでできている部分も多いじゃないですか。それで「CMというものを、既存のコンテキストの掛け合わせで新しいものにできないか」「それをカップヌードルのブランドの世界観に落とし込めないか」という挑戦をしたのがあのCMでした。
「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」のCMシリーズは大きな話題を呼んだ。CM好感度調査の食品部門で相次いで1位になり、CMのターゲットとした若者のカップヌードル喫食率が上昇。17年度のカップヌードルブランドの国内年間売上高は過去最高を記録した。
さらに19年に日清食品は続編シリーズを公開する。テーマは「もし『ONE PIECE』のキャラクターたちが高校生活を送っていたら?」だ。
窪之内英策さんのキャラクターデザイン、BUMP OF CHICKENの楽曲「記念撮影」、そして声優の林原めぐみさんによるナレーション。人気を博した前シリーズを踏襲しながら、尾田栄一郎氏の人気マンガ「ONE PIECE」の主要キャラクターたちが現代の高校で青春を謳歌する様子を描き出した。部活、将来の夢、仲間……。若者にとって身近なテーマで、若者が思い入れを持つキャラクターたちが生き生きと動き回る。
アニメーションの中に、原作をモチーフにした“ネタ”を大量に仕込んだのもこのCMシリーズの特徴だ。
CMを見てネタに気付いた人がSNS(交流サイト)などで考察を投稿し、それを見た人たちが動画サイトでCMを再度見返す。そしてまた次のネタに気付く。消費者が何度も何度もCM動画を見たくなるようなサイクルを生み出した。
19年度にカップヌードルブランドの国内年間売上高は3年連続で過去最高を記録。ついに1000億円超となった。CMだけが売り上げ拡大を後押ししたわけではないが、大きな原動力になったのは間違いない。
原点はブラジルに
実は「HUNGRY DAYS」のCMシリーズの前に、コンテキストの掛け合わせで成功したCMがあったんです。
徳隆氏はこう明かす。14年に公開された「SAMURAI IN BRAZIL」だ。
ブラジルの街中でサッカーを楽しんでいた子供たちの前に突如として現れた、日本風の甲冑に身を包む人物。子供たちがけげんな表情をしていると、両足で見事にボールを操り、アクロバティックなリフティングの技を披露する。甲冑の人物は、夜にサッカー好きの若者たちが集まる場所にも現れ、そのリフティングの技で若者たちを興奮させる。顔を覆っていた面を外すと、その正体が日本人のリフティング世界チャンピオン、徳田耕太郎さんであることが明かされる──という動画だ。
ハイテンポなリフティングに合わせて全編で使われているのは津軽三味線アーティスト、吉田兄弟の楽曲。最後に「SAMURAI,FUJIYAMA, CUP NOODLE」の文字とカップヌードルのパッケージが表示される。
徳田さんとたまたまお会いする機会があって、ものすごいリフティングのデモンストレーションを見たのがきっかけでした。ブラジルは潜在的な市場として大きくて、ちょうどブラジルに絡めたコンテンツをつくりたいと思っていた時期だったんです。外国人は日本の甲冑とか鎧が好きなので、「甲冑を着けた日本の若者が、ブラジル人よりリフティングがうまい」というのは面白いんじゃないかと。
徳田さんに「甲冑を着けてできますか」「ブラジルで撮影させてもらえませんか」とお願いして、急いで撮ったのがこの動画です。「カップヌードルは日本のブランドなんだ」とブラジルで浸透させるために、まずはバズる動画を、と思っていました。SNSが広がり始めた頃でしたから。
この動画はブラジルでも日本でも大きな話題になり、その再生回数は4500万に上った。そして日清食品は、ブラジルでのカップヌードルのブランディングにこのコンセプトを展開していった。
サッカーが受けたので、甲冑を着た人物にスポーツをやらせてみたらめちゃめちゃうまい、というのをサーフィンやスケートボード、スキーなどに広げたんです。サッカーのときは青だった甲冑の色を、カップヌードルの赤に変えて。
そうしたらブラジルでこのCMが話題になって、カップヌードルの立ち上げがうまくいった。甲冑や三味線などの「日本の伝統的な文化」とブラジルで人気のある「スポーツ」。異なるコンテキストの掛け合わせで動画がバズるという原点でした。
ちなみにブラジルでは、その後も日本のCMと同様のつくり方を続け、「日本と同じように消費者から『また日清がふざけたCMやってる(笑)』と言われるようになっている」(徳隆氏)。ブランドの認知度が高まった結果、日清食品グループがブラジルの即席麺市場の約7割という圧倒的なシェアを獲得するまでに至っている。
それ以来、「日清食品のCMが話題だ」とテレビなどにも取り上げられるようになって、「アオハルかよ。」のCMでバズりがピークを迎えたんです。
だから、そこでやめることにしました。それまでのCMづくりの手法をリセットしたんです。
成功した手法をすっぱり終わらせる。そんな徳隆氏の結論に社員たちは大いに慌てたはずだ。だが、徳隆氏は「同じことをやっていても進歩がない。飽きられてしまう」と口癖のように繰り返す。消費者にとって新鮮な驚きを与え、もっと商品そのもののマインドシェアを上げるにはどうしたらいいか。
徳隆氏率いる日清食品が次に見いだしたのが「クセになる面白さ」を追求する手法だった。流行したネット動画や楽曲などを元ネタにしながら、日清食品の商品との掛け合わせで、ついつい「口ずさみたくなる」「ネットに書き込みたくなる」ような面白さをつくり上げていく。
(構成:竹居智久=日経BP 経営メディアユニット長補佐)
[日経クロストレンド 2025年9月16日付の記事を転載]
安藤徳隆、竹居智久著/日経BP/1870円(税込み)



