自立状態に達するためには「私的成功」から始める必要があり、そのためには3つの原則が避けて通れない。世界的ベストセラー『 完訳 7つの習慣 人格主義の回復 』(スティーブン・R・コヴィー著/フランクリン・コヴィー・ジャパン訳/キングベアー出版)で、著者はこう主張します。本書をベイン・アンド・カンパニー日本法人会長、パートナーの奥野慎太郎さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

「私的成功」のための3原則

 『7つの習慣』の著者、米国のリーダーシップの研究者であるスティーブン・R・コヴィー博士は、他人や環境への依存状態から脱し、自立状態に達するためには、自らの人格や生き方の向上・改善における成功、すなわち「私的成功」から始めなければならないと主張しています。そのために避けて通れないのが「自己責任の原則」「自己リーダーシップの原則」「自己管理の原則」です。7つの習慣のうちの最初の3つは、これら3つの原則を踏まえたものです。

 自己責任の原則を踏まえた第1の習慣は「主体性を発揮すること」です。私的成長のためには、他人からの評価や社会通念といったものから自立し、自らが主体性・率先力を発揮する必要があります。それは結果に対する責任を他人や環境ではなく自己に求めることにもなり、そのため自らがコントロール可能なことへの集中を促すことにもつながります。

 自己リーダーシップの原則を踏まえた第2の習慣は「目的を持って始めること」です。経営学者のピーター・ドラッカーは「マネジメントは物事を正しく行うことであり、リーダーシップは正しいことをすること」と定義しました。コヴィーのいうリーダーシップとは、この「正しいこと」に主体性の概念を加え、「望む結果・目標を自ら定義する」ことを意味します。

 人はまず自らの人生にリーダーシップを発揮し、目的を与えなければなりません。それは自分が何を生活の中心に置くかという「ミッション・ステートメント」を定めることにもなります。

私的成長のためには自らが主体性・率先力を発揮する必要がある(写真:shutterstock)
私的成長のためには自らが主体性・率先力を発揮する必要がある(写真:shutterstock)
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 自己管理の原則を踏まえた第3の習慣は「重要事項を優先すること」です。リーダーシップを発揮し、目的とそのための「重要事項」を定めたら、次はその達成のためのマネジメント、すなわち日々の生活で実際に重要事項を優先的に実行し、自制することが必要です。この習慣さえ守っていれば、重要でないことに「ノー」と言えるようになり、逆にスケジュールを柔軟にすることもできます。

自らが主体的に判断する

 コヴィーの7つの習慣のうち、1つ目は自己責任の原則を踏まえた習慣であり、それは「主体性を発揮すること」と説明しました。「プロフェッショナル」なビジネスパーソンと、悪い意味での「サラリーマン的」なビジネスパーソンの違いもここにあります。

 後者は、会社の中での固有の処世術や政治力学を重んじ、経営幹部や上司、あるいはOBなどから評価される(もしくは少なくとも批判されない)ことを重視します。ビジネスパーソンとしての「成長」も、そうした知恵を身につけていくことが優先されます。

 もちろん、企業という組織の一員である以上、また顧客から対価を得て、株主という第三者から経営を委ねられている以上、他人の評価をまったく省みないということは適切ではないでしょう。しかし、組織の中での他人からの評価や一般通念とされているものばかりを重視すると、常にそれらに対するリアクションとしてしか行動できなくなります。また、自らの努力にもかかわらず評価が芳しくない場合や、所属部署や上司が変わった場合など、努力の結果に対して自らの責任として納得がいかないこともあるでしょう。

 これに対して、「プロフェッショナル」なビジネスパーソンは、他人や環境にかかわらず、自らの意思で考え、判断し、その判断に対して責任を持ちます。「皆がそう言うからきっと正しいのだろう」と考えるのではなく、自らが主体的に判断するということです。この習慣を貫くには、相応の自己研鑽(けんさん)と倫理観、責任感が求められますが、自己の人格や内面の成長を目的とする以上、それは必要なことです。したがって、むしろそうした努力を自らに強いるような習慣を身につけることが、成功への近道なのです。

「ミッション・ステートメント」を定める

 2つ目の自己リーダーシップの原則を踏まえた習慣は「目的を持って始めること」です。それは結果的に自分が何を生活の中心に置くかという「ミッション・ステートメント」を定めることにもなるということも、説明しました。

 企業による自己リーダーシップ発揮の1つのかたちが、経営理念や社是などです。文字通り「ミッション・ステートメント」を掲げている企業もあります。私が働くベイン・アンド・カンパニーでも、「お客様を支援し、お客様とともに業界の新しいスタンダードを築くような高い経済的価値を創出すること」というミッションを掲げており、これが「正しいこと」の基準となっています。コヴィーはこうしたものを個人にも設けることを推奨しています。

 「ミッション・ステートメント」は、ゆるぎない方向性を与えてくれる「憲法」ともいえます。個人の場合もこれを中心に据えることで、お金、仕事、遊び、家族、友人など、自らを取り巻く要素がバランスを持って見え、一貫した方向性を持ってそれらに接することができます。それは自らの成長の方向性を定め、心身を安定させるだけでなく、結果的に周囲からの信頼にもつながるでしょう。

 1つ目の習慣とは異なり、この「ミッション・ステートメント」の設定には、日常の生活を離れた時間の投資が必要です。自分の今の生活における役割と達成したいことを総括し、参考になるアイデアや引用文などを集めて、一度書いてみてはいかがでしょうか。

「緊急でないが本質的には重要」を優先

 3つ目の自己管理の原則を踏まえた習慣は「重要事項を優先すること」でした。企業経営でもよく「選択と集中」の重要性が指摘されますが、2つ目の習慣が「選択」だとすると、3つ目の習慣は「集中」です。

 企業経営と同様に個人においても、「選択」したことをするよりも、それ以外のことをいかにしないかが難しく、成否を分けるポイントになります。具体的には、緊急性と重要性で物事を分類したとき、「緊急かつ重要」なことは自然と優先されるでしょうが、「緊急でないが本質的には重要」なこと(例えば人間関係づくり、自己啓発、健康維持など)を、「さして重要ではないが緊急」なこと(突然の来客、電話、接待や付き合いの誘いなど)に優先し、その原則に沿った時間管理をすることが鍵となります。

 個人の「ミッション・ステートメント」を作成したら、実際に自分の1週間、あるいは1カ月を振り返り、「ミッション・ステートメント」の観点から本当に重要なことにどれだけ時間を使えていたか振り返ってみましょう。もしその時間が少ないと感じられるなら、「緊急だが重要ではない」ことへの「ノー」を増やすべきなのかもしれません。

『7つの習慣』の名言
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