テクノロジーと人類のポジティブな未来像を示し続け、「ビジョナリー」とも称されるケヴィン・ケリー氏は『WIRED』の創刊編集長でもあります。『生きるための最高の知恵 ビジョナリーが未来に伝えたい500の言葉』(池村千秋訳/服部桂解説)を刊行したケリー氏に、同氏と親交の深い松島倫明・『WIRED』日本版編集長が、テクノロジーと共存しながら豊かな人生を送るうえで必要なことを3回にわたり聞きます。第1回は楽観的であることの意義、編集と創造の違いについて。

文化の中心がシフトしている

松島倫明氏(以下、松島) あなたはフューチャリストであり、『WIRED』というテックカルチャーメディアを創刊して、それ以外にも『 テクニウム テクノロジーはどこへ向かうのか? 』(服部桂訳/みすず書房)や『 <インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則 』(服部桂訳/NHK出版)など、テクノロジーがいかに社会を変え未来を創造するのかといった文明論をたくさん書いてきました。日本の多くの読者も、人生の格言を集めた本書にはいい意味で大きなギャップを感じていると思うのですが、なぜ今回はこうした本を?

ケヴィン・ケリー氏(以下、ケリー) それはもっともな質問ですね。テクノロジーに関する本を書いてきたのは事実ですが、他にも写真集『Vanishing Asia』といったものも手掛けてきました。ですから、本書がまったく新しい形式へのチャレンジ、というわけではありません。本書は最初から1冊にまとめようと意図していたわけではなく、もともとはオンラインでアドバイスを求められて、それが自分のブログを通して拡散され、Twitter(現X)で広がっていったんです。考えてみれば、本書に掲載した短いアドバイスはどれもオンラインに最適なかたちだったんです。

 それを何年にもわたって続けていて、いよいよ自分でもすべてを把握するのが難しくなってきました。オンラインの利点は、とても速くてシンプルで簡単だということですが、同時にとてもはかないものです。本のアイデアは、そのオンラインのエネルギーを捉え、それを1冊にして、誰かに全部まとめて渡せるようにすることでした。これはオンラインではできません。だからいわば、本書はオンラインで自分がしてきたことをそのまま捉えたものだと言えます。ツイートという言葉を使わずにツイートをまとめた本をつくったというわけです。

ケヴィン・ケリー氏。テクノロジーと人類のポジティブな未来像を示し続け、「ビジョナリー」と称される(写真:Christopher Michel)
ケヴィン・ケリー氏。テクノロジーと人類のポジティブな未来像を示し続け、「ビジョナリー」と称される(写真:Christopher Michel)
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松島 『<インターネット>の次に来るもの』を出版して来日した2016年には、これが自分の最後の本になると言っていたのを覚えています。もう書かないと。でもどうやら、まだ物理的な本も有効だと考えているようですね。

ケリー そうですね、より正確に言えば、もう本を書きたくなかったんです。かつては、何かかたちにするならまず書籍というメディアを考えていましたが、実際のところ、本を書くのは、さまざまなことから派生するその一部でしかありません。ですから、何かの結果として本が生まれるというプロセスを取りたいと思っていました。今回の本もツイートから生まれました。そして今、次の25年についてのプロジェクトにも取り組んでいて、これもインタビューから始まり、それが本になる予定です。

 私が懸念しているのは、文化の中心がスマートフォンやPCなどのスクリーンや動きのあるもの、音声などにシフトしているということです。本はまだ存在していますが、それは全体の一部に過ぎません。ページに固定されるのではなく、もっと動的なものになるということです。ですから、本から始めるのではなく、最初にスクリーンで発表したものを本にするという流れにしたかったのです。

松島 本書に収められた言葉はどれも本当に人々を勇気づけ、楽観的にさせて、前に進もうと背中を押してくれるものばかりです。あなた自身、「闘う楽観主義」を掲げていることでもよく知られていますよね。そこで質問ですが、あなたが闘う楽観主義者だからこそ、こうした言葉が選ばれているのか、あるいは人生のなかでこうした言葉を見つけてきたからこそ、あなたは闘う楽観主義者になれたのか、どちらでしょうか?

ケリー いい質問ですね。答えは両方だと思います。楽観主義は一種の気質のようなもので、私は楽観的な人間ですが、それ以上に楽観的であろうと決めたんです。ですから、本書に収められた格言や知恵のいくつかは自分が楽観的になるのに役立ちましたが、同時に、過去よりも意図的に楽観的であろうと選択もしてきました。これこそが、私たち人間が持つ力の1つだと思います。

 楽観的であることを学べば、人生はより良くなります。人生をもっと楽しめるようになるし、自身の楽観性を高めることができれば、もっと成功するでしょう。悲観的な成功者というのは存在しません。成功をどんなかたちで定義するにせよ、楽観主義というのは、その成功の定義へとあなたを導いてくれるものです。

ただつくりたいという気持ちに任せる

松島 ここからは、本書に収められている知恵や言葉のなかから、印象的なものを取り上げ、さらにそのコンテクストを深堀りしていきたいと思います。

フィードバックを求めればあなたは批判者を獲得する。
アドバイスを求めればあなたはパートナーを獲得する。

――『生きるための最高の知恵』より


ケリー この考え方は、主に言葉の選び方についてのものです。英語では「フィードバック」という言葉は、批判的であったり、不満があったりすることを示唆することが多いんです。でも、改善点や改善方法を尋ねれば、相手はあなたのパートナーになります。喜んで助けてくれて、あなたの側に立ってくれるんです。フィードバックを求めると、まるで同じチームにいないかのような印象を与えますが、改善方法を尋ねることで、同じチームにいることを示せます。これは英語の「フィードバック」という言葉の使い方に少し関係しています。

松島 そこは重要ですね。我々日本人も「フィードバック」という言葉をカタカナでそのまま使いますが、割とプレーンな意味で、批判といったニュアンスは特に含まれていないように思います。

創造のプロセスと改善のプロセスははっきり分けたほうがいい。
執筆と編集、彫刻と仕上げ、制作と分析は同時並行では実行できない。
内なる「編集者」が内なる「創作者」にブレーキをかけてしまうからだ。
発明するときは選別せずスケッチするときは点検せず、
最初の草稿を書くときは推敲(すいこう)しないこと。
評価をくだそうとする結果、創作の精神を縛らないことが重要だ。

――『生きるための最高の知恵』より


松島 僕たちは2人とも編集者ですが、僕は原稿を執筆しているときでもすぐに編集的観点で考えてしまって、2つのプロセスを分けることが難しいと感じることがあります。その意味で、これはとても有効なアドバイスです。

『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏
『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏
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ケリー 音楽でも彫刻でも、何かを生み出すことと、それを改良することを分けて考えようということです。例えば執筆のように、何かを書き始めて、それがあまり良くないことに気づくと、得てして人はその場で書くのを止めて改善しようとします。これが進行を妨げるんです。最初の草稿、あるいは最初につくるものには、判断を加えないことが重要です。編集者もいりません。改善しようともしない。ただつくりたいという気持ちに任せるのです。

 映画会社のピクサーが言っていたのですが、映画製作にかける数年間におけるメインの仕事は、ひどい出来の映画をまともなものにすることでした。最初はどれもひどいものなんです。『トイ・ストーリー』の最初の出来はとてもひどいものだったといいます。ピクサーの仕事は、それをひどくないものにすることです。

 あなたが書く最初の原稿もきっとひどいものでしょう。それでいいんです。最初に何かをつくり始めるのは本当に大変なことで、自分の脳の編集機能や他の編集者に邪魔されたくありません。そうした判断から守られ、自分の心の編集者から守られる必要があるんです。本当にひどくていいので、ただ最初のバージョンをつくることに集中します。

 これは人生においても同じことが言えます。最初の仕事や最初の衝動が何であれ、それが完璧で素晴らしいものであるとは限りません。それでも、プロトタイピングを繰り返し、時間をかけて改良していくんです。創造性を生み出す行為を、批評家や「これはやる価値があるのか」という判断から切り離さなければなりません。落書きしたり、スケッチしたり、アイデアを出したりするモードに入るためです。最初の段階では、良しあしを判断しようとはせずに、生み出すことに専念します。

 創造のプロセスが終わって出来上がったものを見ると、そのほとんどはひどいものですが、1つぐらい面白そうなものがあるでしょう。それを改良してみるんです。そして、改良の過程でまた戻って、さらに創造を繰り返します。本当に優れた作家は本能的にその切り替えが上手ですが、初心者や普通の人々は、意識的にこのプロセスを分ける必要があります。創作する際には、最初の段階で不完全なものをたくさんつくることが仕事です。それでいいんです。あなたの最初の仕事は、ひどい初期バージョンをつくることなのですから。

 彫刻家であれ、発明家であれ、映画の小道具をつくる人であれ、そうした人々からのアドバイスは、「最初につくったものは捨てるべきだ」というものです。例えば椅子をつくるとき、つくり終われば捨てると分かっていても、わざわざ椅子をまず最後までつくってみる。そうすることで、その後にもっといい椅子をつくれるんです。

 基本的に、すべてはつくり直しです。最初につくったものは捨てる。でも最初の1つをつくらない限り、完成にたどり着くことはできません。これこそが創造の代償であり、何か新しいものをつくることのコストです。一生懸命つくったものでも、捨て去らなければならない。それを受け入れるのです。

構成/宮崎志乃(日経BOOKSユニット) サムネイル画像(著者写真)/Christopher Michel

■このインタビューの別パートを『WIRED』日本版に掲載しています。 「稀代のビジョナリーが未来に伝えたい言葉~ケヴィン・ケリー『生きるための最高の知恵』インタビュー」
テクノロジーと人間の本質を見つめ続けた賢者がおくる、珠玉の人生のアドバイス

テクノロジーと人間の関係について、ポジティブな未来を示し続けてきた希代の思想家、ケヴィン・ケリー。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズらの活躍をいち早く言い当て、「ビジョナリー(予見者)」とも称される彼が、子どもたちに伝えたいと願った「幸せな人生をかなえるための知恵」とは?

ケヴィン・ケリー著/池村千秋訳/服部桂解説/日経BP/1870円(税込み)