テクノロジーと人類のポジティブな未来像を示し続け、「ビジョナリー」とも称されるケヴィン・ケリー氏は『WIRED』の創刊編集長でもあります。『生きるための最高の知恵 ビジョナリーが未来に伝えたい500の言葉』(池村千秋訳/服部桂解説)を刊行したケリー氏に、同氏と親交の深い松島倫明・『WIRED』日本版編集長が、テクノロジーと共存しながら豊かな人生を送るうえで必要なことを3回にわたり聞きます。第2回は本書からの引用をもとに、常識を打破する方法、マインドを変え続けることの意義について掘り下げます。
まず不完全なものをつくる
この世で実体のあるものはすべて「かもしれない」から生まれる。
想像力は宇宙最強の力だ。想像力は鍛えられる。
そのために有効なのは、常識だと思われていることを無視することである。――『生きるための最高の知恵』より
ケヴィン・ケリー氏(以下、ケリー) 人生のほとんどのことに関しては、自分の失敗から学ぶべきですが、さらに望ましいのは他人の失敗から学ぶことです。そうすれば、すべての失敗を自分で経験する必要はありませんから。でも、こと想像力に関しては、他人に注意を払ってはいけない分野です。あなたは、他人がたどり着かなったところにこそ、自由に行くことができるようになりたいはずです。
そして、これはとてもとても難しいことであり、非常に希少なスキルです。私は多くのワークショップで、人々が未来について考えようとするのを見てきましたが、私たちが持っている「現実はこうあるべきだ」という考えを手放し、現状とは違うものを想像するのはとても難しいんです。
1つには、そうすることが便利だからでもあります。私たちにはすべてのことを考える時間なんてありませんよね。だから、他に方法があるのかとか、そもそも可能なのかといったことを考えることがありません。日々の生活とはそういうものです。でも、もしあなたの仕事が物事を異なる方法で考えることであるならば、現状を手放し、異なる何かを想像するのがとても難しいことを経験しているでしょう。
他の人が考えたこともない方法で物事を考えるのは非常に難しい。だからこそ、とても貴重なことなのです。自分自身を訓練して他の人が考えないような方法で考えることができれば、とても強力です。もちろん、奇妙なことを考える人もたくさんいます。でもバランスを取って、あまりにもとっぴな考えにならないようにすることが大切です。他の人が考えることを無視することがあなたの仕事であるならば、ぜひ試してみるべきです。
もう1つ、それに関連して言うと、想像することはただのアイデアですが、それを実現することはとても遠い道のりです。多くの人にとっては、2つの挑戦があります。1つは、他の誰も考えたことのないものを考えることです。それは難しい。でも、それを現実にすることはさらに難しいことです。
それを実現するためには、今すでに存在するものを使わなければならず、周りの人に信じてもらわなければなりません。もしあなた1人だけが信じているなら、それはただの変わり者、奇妙なことを言う人になってしまいます。あるいは、他人から避けられる人間になってしまいます。だからこそ、現実に物事をなすのはとても難しいのです。
完璧な想像を現実にする1つの方法は、不完全なものをつくることです。つまり、まずプロトタイプをつくるんです。それが製品であれ、ムーブメントであれ、政党であれ、何であってもかまいません。物理的なものである必要もありません。最初につくるものはうまくいかないでしょう。
欠陥があり、すべての部分がそろってはいません。それでも、それは初めて現実のものとなったわけです。その不完全さが実際には現実にするための助けになるのです。そこから、より完璧にしようと努力することです。時間をかけてそれを改善していくのです。
だから、まずは誰も考えたことのない方法で想像し、それからそれを現実にしようとすることが重要です。現実にするのはさらに難しい。なぜなら、他の人の助けが必要だからです。アイデアを他の人に伝え、信じてもらわなければなりません。そして、実現するための道筋をつけなければなりません。最初はあなたのアイデアとは似ても似つかない不完全なものから始めて、それを理想に向かって一歩一歩進めていくのです。
最も大事なことを今やっているか
いちばん大事なのは、いちばん大事なことを、いちばん大事にすることだ。
――『生きるための最高の知恵』より
ケリー これはシリコンバレーでいわれている言葉です。つまり優先順位を決めてから集中しようということですね。最も大事なことを今しているならば、他のあらゆることは考えなくていい。だから、「今、自分は最も大事なことをやっているか?」と自分に問うわけです。
松島倫明氏(以下、松島) 例えばパートナーや家族が最も大切だとしても、得てしてそれを忘れて、あるいは無視して仕事に気持ちが行ってしまったりします。最も大事なことを大事なこととして持ち続けるのは難しい場合もありますよね。
ケリー そうですね、覚えておくのは難しいことですが、時々思い出すことさえできれば、それでいいのです。私たちは完璧ではありませんが、重要なのは何が本当に大切かをお互いに理解し合っていることです。つまり、「本当に大切なことを大切にする」ためには、何が大切かについての合意が必要です。もし結婚生活において、仕事よりも結婚が最も重要だとお互いに同意しているなら、それは非常に重要な合意です。もし合意ができれば、実行するのが容易になります。
松島 でも本来これはスタートアップ精神についてのアドバイスだったんですね。
ケリー スタートアップのマインドセットについての話です。スタートアップの特徴は、すべてのことを一度にやらなければならないことです。最初はやるべきことがたくさんあります。新しい会社をつくるには、会計やセキュリティーなど、すべてを同時にやらなければなりません。そのため、何が最も重要なのかを覚えておく必要があります。集中するのは非常に難しいことですが、それでも集中しなければならないのです。
マインドを変えて若さを保つ
前回、思考様式を転換させて以降、あなたは老い続けている。
――『生きるための最高の知恵』より
ケリー これは、マインドを変え続ける限り、若さを保つことができるという意味です。多くの人はマインドを変えなくなり、それで年を取ったと感じるのです。若さを保ちたいなら、マインドを変え続けることです。あなたがマインドを変えたその最後の瞬間が、あなたがどれだけ若いかを決めるのです。だからこそ、マインドを変え続けることが大切です。
「最近何についてマインドを変えましたか?」と人に尋ねてみるといいでしょう。もし最近マインドを変えたことがないという人がいれば、それは少し残念に思いますね。
松島 それは例えば、共和党支持に心変わりした、といったようなことですか? それとも朝に飲むものを紅茶からコーヒーに変えたとか?
ケリー どちらでもいいんです。もし誰かが「この5年間で唯一心変わりしたのは、コーヒーから紅茶に変えたことだけだ」と言ったとしても、それは素晴らしいことです。少なくとも何かを変えたということですから、それはとても重要な一歩です。何も変えないよりはずっといい。典型的な高齢者のイメージは、毎日同じことをしている人で、それが高齢者の定義のようなものです。習慣に固執し、日常のルーティンを変えない人です。習慣を変えることができるなら、重要なことについてもマインドを変える助けになります。それは心を柔軟に保つ助けになります。
マインドを変えるということは、自分が間違っていることについて心を変えるためのスキルです。私たちはみんな、何かについて確実に間違っていますし、私も多くのことについて完全に間違っていますが、何が間違っているのかは分かりません。ですから、より良い人間になるためには、間違っていることについてマインドを変える必要があります。柔軟である必要があるんです。自分自身を問いただし、変わることをいとわないようにしなければなりません。マインドを変えることはスキルであり、練習して上達することができます。多くの人は年を取るにつれてこのスキルが向上しなくなるのです。
だから他のことと同じように目標を持って取り組むことです。例えば、健康を維持するために食生活を改善したり、有酸素運動をしたりするのと同じように、マインドを変えることを目指して取り組めば、より良い人間になれると思います。
松島 それで思い出したのが、もう7、8年前ですが、あなたは「嫌いな食べ物がもしかしたらおいしく感じるようになっているかもしれないので、数年おきにチェックする」と言っていたのが印象に残っています。まだそれも続けているんですか?
ケリー ええ、続けています(笑)。他にも、例えば毎年1つ、新しいスキルを身に付けることを目標にしています。今年のチャレンジは、スマートフォンの親指入力を習得することです。自分にはとても難しいのですが、子どもたちは楽々とやっています。
構成/宮崎志乃(日経BOOKSユニット) サムネイル画像(著者写真)/Christopher Michel
■このインタビューの別パートを『WIRED』日本版に掲載しています。 稀代のビジョナリーが未来に伝えたい言葉~ケヴィン・ケリー『生きるための最高の知恵』インタビューテクノロジーと人間の関係について、ポジティブな未来を示し続けてきた希代の思想家、ケヴィン・ケリー。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズらの活躍をいち早く言い当て、「ビジョナリー(予見者)」とも称される彼が、子どもたちに伝えたいと願った「幸せな人生をかなえるための知恵」とは?
ケヴィン・ケリー著/池村千秋訳/服部桂解説/日経BP/1870円(税込み)


