日経BOOKプラスは主要企業を対象にアンケートを実施し、経営者自身が感銘を受けた「座右の書」について聞いた。経営者はどのような書籍から学び、どのような視点を養ったのか。ビジネス書から歴史小説、科学・技術書、哲学書まで、多岐にわたるジャンルからの回答が寄せられた。今回は「経営戦略の名著」を、主なコメントとともに紹介する。( アンケートの調査概要と回答者一覧はこちら ) 写真:buritora、Alfons/stock.adobe.com

 「経営戦略」の名著は、理論と実践を融合し、企業が変化の激しい市場を乗り越える力を養うための重要なヒントを示している。具体的な戦略策定のフレームワークや競争環境を見極める手法を提示し、実践的な視点を広げながら、事例やデータ分析を通じて現状を客観的に把握し、未来を展望する力を養うことができる。また、これらの知恵はライバル他社との差別化を可能とし、競争優位性を築くための強力な武器となる。経営者は、時代の進化を取り入れた戦略の洞察を吸収し、新たな挑戦への方向性を明確にするための指針を得ることができる。

ゼンリン・竹川道郎社長「成功体験にとらわれず、時代の変化に柔軟に対応することの重要性を教えてくれる」

『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』クレイトン・クリステンセン著、翔泳社

『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社)
『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳、翔泳社)/画像クリックでAmazonページへ

 「過去の成功体験にとらわれることなく、時代の変化に柔軟に対応することの重要性を教えてくれる一冊です」として、ゼンリンの竹川道郎社長が薦めるのが、『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(クレイトン・クリステンセン著)だ。本書は、業界のトップ企業が顧客の声に応え、新技術に積極的に投資しても、技術や市場構造の破壊的変化に直面した際には市場リーダーの座を失う現象を解き明かした経営戦略の古典的名著だ。
 竹川社長は、「現在、社会や産業の構造が急速に変化する中で、従来のやり方だけでは新たな価値を生み出すことが難しくなっています。この本を通じて、変化の本質を見極め、果敢に挑戦する姿勢の大切さを改めて実感しました」という。さらに、「30代にこの本を読んで自社と照らし合わせ、どの時代にも当てはまることだと実感しました。イノベーションを継続的に生み出すことの重要性を改めて認識するとともに、私自身のビジネスパーソンとしての礎となった一冊です」と振り返る。

CAC Holdings・西森良太社長「自社の戦略をストーリーとして語ることで、競争優位の本質を深く理解できた」

『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』楠木建著、東洋経済新報社

『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(楠木建著、東洋経済新報社)
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 「企業の競争戦略をストーリーとして構築するという、斬新かつ実践的な視点で解説された一冊です」と、CAC Holdingsの西森良太社長が高く評価するのが『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(楠木建著)だ。本書は、持続的な成功を収める企業に共通する特徴として、戦略が流れと動きを持つ「ストーリー」として構築されている点に注目し、多くの事例を基に「ストーリー」という視点から究極の競争優位を生み出す論理を体系的に示した名著である。
 西森社長は、「私自身、自社の戦略をストーリーとして語ってみることで、競争優位の本質をより深く理解することができました。同時に、こうした戦略的ストーリーを誰かに伝えたくなる衝動にも駆られました」という。さらに、「特に変化の激しいIT業界においては、このアプローチが組織の一体感や挑戦心を引き出すうえでも非常に有効だと実感しています。自らの戦略に自信を与えてくれる本です」とその重要性を力強く語っている。

クレディセゾン・水野克己社長「組織や会社が衰退するという『負の部分』を掘り下げた一冊」

『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』ジム・コリンズ著、日経BP

『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(ジム・コリンズ著、日経BP)
『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(ジム・コリンズ著、山岡洋一 訳、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 クレディセゾンの水野克己社長が選んだのが、『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(ジム・コリンズ著)。「『ビジョナリー・カンパニー』シリーズはすべて完読しました。『 時代を超える生存の原則 』『 2飛躍の法則 』(いずれもジム・コリンズ著、日経BP)は、偉大な企業がどのようにしてその地位に到達したかを明らかにしています。その続編として手に取った本書では、組織や会社が衰退していくといった負の部分を実例をもって掘り下げており、企業経営だけでなく組織やチームといった小さな単位でも応用できます」と語る。
 水野社長はさらに、「いかなる企業も陥りがちな『衰退』への道筋を、多数の企業の実例から法則として導き出しています。単純に変わり続けるだけでは衰退の法則から抜けられず、理想だけを描くのではなく、現状と自分の置かれている状況を冷静に直視し、分析することの重要性を認識しました。また、一発逆転を求めるのではなく、再生は一歩一歩の努力から生まれるなど、『Turn around(企業改革)』に臨む要諦を学びました」と本書から得た教訓を強調する。

マクセル・中村啓次社長「生きている会社は、生き物のように新陳代謝を繰り返しながら挑戦を繰り返す」

『生きている会社、死んでいる会社』遠藤功著、東洋経済新報社

『生きている会社、死んでいる会社』(遠藤功著、東洋経済新報社)
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 『生きている会社、死んでいる会社』(遠藤功著)を選んだ理由について、マクセルの中村啓次社長はこう語る。「著者の豊富な経験に基づき、実践的な会社や経営の在り方が示されており、たいへん参考になった本です。難しい経営理論や組織論ではなく、会社が常に成長していくために必要な経営者の姿勢や考え方、組織風土の在り方が具体的に示されています」。
 本書から得た教訓としては、「生きている会社というのは、ただ存在しているということではありません。生き物のように熱を帯び、新陳代謝を繰り返しながら、常に変化し続ける経営環境の変化の中で、挑戦を繰り返し、活力を伴って存在し続けるということです。人体において、全器官が意識によって制御・統制されているのではないように、会社も経営の思いや方針に沿って、各組織が自主的、自律的に機能できることが重要であると再認識できる一冊です」(中村社長)と強調する。
 この本との出合いについては、「社長就任時に、経営を支援していただいていた方から紹介されたのが、この本を読んだきっかけです。事業環境が厳しい中で、経営者として社長に就任した際に心の拠り所としていました。そのエッセンスを箇条書きにして整理し、今も定期的に読み返しています」(中村社長)と振り返る。

日本カーバイド工業・杉山孝久社長「39歳の時に出合った本。その後の事業戦略のベースとなっている」

『真の顧客志向を生む プロダクトアウト戦略』伊藤修著、ダイヤモンド社

『真の顧客志向を生む プロダクトアウト戦略』(伊藤修著、ダイヤモンド社)
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 『真の顧客志向を生む プロダクトアウト戦略』(伊藤修著)を挙げたのは、日本カーバイド工業の杉山孝久社長。本書は、従来の「顧客志向」や「マーケットイン」といったマーケティング手法の落とし穴を指摘し、行き過ぎた「顧客への迎合」や「お客様第一主義」に警鐘を鳴らしている。
 杉山社長は、「単にお客様ニーズに対応した製品を提供するのではなく、自社の強みのある技術を生かし、自社にしかできないソリューションを提案すること、すなわち『プロダクトアウト』の仕掛けを組み合わせることで、顧客との強固な『Win-Winの関係』が構築できる、という考えに強く感銘を受けました。これを実践していくことは容易ではありませんが、この戦略はその後の私の事業戦略のベースとなっています」と語る。
 さらに、「営業リーダーとして事業の収益回復に悩んでいた39歳の時に、この本に出合いました。お客様のニーズに必死に応えて厚い信頼を得ていたのに収益性が低いという状況から脱却したいという強い思いを抱えていました。現在でも時々、マーカーで色塗りした箇所を読み返しています」(杉山社長)と、本書が自身に大きな影響を与えたことを明かす。

マネーフォワード・辻庸介社長「新サービス開発における課題と克服法を解説。早く読んでいれば失敗を防げた」

『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著、日経BP)

『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック・リース著、井口耕二訳、伊藤穣一解説、日経BP)
『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック・リース著、井口耕二訳、伊藤穣一解説、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 「もっと早く読んでおけば、あの失敗を防げたのに…と強く思いました」。マネーフォワードの辻庸介社長が、苦境の中で手に取った一冊が、『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック・リース著)だ。本書は、新製品や新サービスを効率的かつ継続的に生み出すための開発手法「リーン・スタートアップ」について、著者のリース氏自身の起業体験を交えて分かりやすく体系的に解説している。
 辻社長はその時の状況をこう振り返る。「マネーフォワードが最初に提供したサービスが失敗し、会社存続が危ぶまれる状況の中で、『とにかく使ってもらえるプロダクトを作らなければいけない』という強い焦りを抱えていました。その時に本書を手に取ると、新サービス開発の壁とその克服法が具体的に書かれていました」と、苦境を乗り越えるヒントが本書から得られたという。

文・構成/南浦淳之(日経BOOKプラス編集)


「社長たちの座右書」記事一覧(※随時更新、予定を含む)
第1回 経営者が選ぶ「リーダー論のバイブル」
第2回 企業を変革したリーダーの決断と行動に学ぶ
第3回 トップを支える「カリスマ経営者の哲学」
第4回 時代の変化に打ち勝つ「経営戦略」の名著 今回はここ
第5回 経済、社会、技術など「経営マクロ環境を学ぶ本」
第6回 トップが選ぶ「自分を磨く学びの書」(近日公開)
第7回 リーダーに響く「歴史小説」、知恵と戦略の宝庫
第8回 トップの心を揺さぶる「生きる意味を問う本」
第9回 先人の知恵に学ぶ「思想・哲学書」

【好評連載中】 編集長インタビュー トップに聞く「読書の軌跡」