日経BOOKプラスは主要企業を対象にアンケートを実施し、経営者自身が感銘を受けた「座右の書」について聞いた。経営者はどのような書籍から学び、どのような視点を養ったのか。ビジネス書から歴史小説、科学・技術書、哲学書まで、多岐にわたるジャンルからの回答が寄せられた。今回は「企業変革に成功したリーダーの実体験に学ぶ本」を、主なコメントとともに紹介する。( アンケートの調査概要と回答者一覧はこちら ) 写真:buritora、Alfons/stock.adobe.com

成功したリーダーたちの実体験は、企業を変革し未来を切り開くために欠かせない貴重なヒントを提供してくれる。挑戦を恐れずに新たな事業を開拓した勇気、困難な状況下で複雑な問題を解決した実行力、失敗を糧に自社の製品やサービスを世界に通用するブランドへと成長させた粘り強さ。彼らがいかに組織全体の力を引き出し、共通のビジョンを共有させてきたか、その決断と行動は経営者にとって極めて示唆に富んでいる。
マネーフォワード・辻庸介社長「迷ったときに繰り返し開く、読むだけでなく考えるための本」
『経営者になるためのノート』柳井正著、PHP研究所
マネーフォワードの辻庸介社長が挙げた『経営者になるためのノート』は、ユニクロを運営するファーストリテイリング創業者の柳井正氏が、自社の経営幹部候補生のために書いた経営の要諦が詰まった一冊。辻社長は、「変革する力、もうける力、チームを作る力、理想を追求する力など、まさに経営者になるために必要な資質と視点が書かれている。『ノート』というタイトルの通り、書き込み式で構成されており、読むだけでなく考えるための本」だという。
「10年前の発売直後に、書店で見つけてレジに直行しました。売り上げ目標を明確にせよとあれば、そのページに目標金額を書くなど随所に書き込みをして、今では擦り切れて色もあせています」(辻社長)と本書のコンセプトを熱心に実践したエピソードを語る。
クレディセゾン・水野克己社長「企業経営に近道はなく、難しい意思決定について共感する部分が多々あった」
『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』平井一夫著、日経ビジネス人文庫
元ソニー社長・平井一夫氏の著作『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』を読んだきっかけについて、クレディセゾンの水野克己社長は、「私が社長に就任した年齢と同じ51歳で社長に就任した平井氏が、ソニーをどのように再成長に導いたのか、興味があり拝読しました」という。
水野社長は、「国内外での事業低迷や5000億円を超える巨額の赤字という厳しい状況下でソニーの社長に就任し、巨大な組織をまとめ上げ、多様な人材を生かして再生を遂げました。企業経営に近道はなく、現場と経営の距離の詰め方や事業撤退などの難しい意思決定について、共感する部分が多々ありました。私が社長に就任したときに、10~15冊ほど企業改革を成し遂げた経営者の著作を読んだ中で一番影響を受けました」と、その経営手腕と哲学に対して深く感銘を受けたとして、「特に社員個々人との対話を重視し、意思決定においても信頼できるチームとともに断行するということが、ソニーのような巨大企業においても可能と知り、勇気をもらえました」と振り返る。
千趣会・鈴木聡社長「経営に必要な要素がすべて詰まっている、現経営者と経営者を目指す人は絶対に読むべき」
『孫正義 300年王国への野望』杉本貴司著、日経ビジネス人文庫
「現経営者と経営者を目指す人は、絶対に読むべきです。経営に必要な要素がすべて詰まっています」と、千趣会の鈴木聡社長が強く薦めるのが、『孫正義 300年王国への野望』(杉本貴司著)だ。
鈴木社長が「テクニックや才能というよりは、人格や行動力という人間力の中で築かれた孫正義さんとその仲間たちの絆がリアルに描かれている実話です」と語るように、本書は孫氏と周囲の人々による挑戦の日々に焦点を当て、ソフトバンク創業の秘話やAI時代を視野に入れた巨額買収の舞台裏など、多くの知られざるエピソードをつづっている。また、膨大な夢を語り周囲を驚愕(きょうがく)させながら、類いまれな成功と失敗を積み重ねてきた孫氏の本質にも迫っている内容だ。
マネーフォワード・辻庸介社長「起業につながるきっかけとなった本。線を引きながら何度も読み返した」
『フェイスブック 若き天才の野望』デビッド・カークパトリック著、日経BP
マネーフォワードの辻庸介社長が選んだもう1冊が、『フェイスブック 若き天才の野望』(デビッド・カークパトリック著)。2011年に発売された本書は、大学生時代にSNS「Facebook(フェイスブック)」を立ち上げて起業したマーク・ザッカーバーグ氏の成功と苦悩、そして野望を描いたノンフィクションだ。
辻社長は、「自分よりも年下の若者が世界中のコミュニケーションの形を一変させるサービスを作り、さらに広めていこうとするオープン思想に激しく揺さぶられました。自分も何かを始めなければいけないと沸き立ち、起業しようという決断の背中を押してくれた一冊です」と言い切る。さらに、「線を引きながら何度も読み返しました。毎日持ち歩くのに表紙の重さが煩わしくなり、つい破り取ってしまいました」という思い出もあるという。
平和不動産・土本清幸社長「会社を大きく成長させる原動力になっている本。経営幹部候補者たちにも読ませた」
『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング』エディー・ジョーンズ著、講談社+α文庫
ラグビー日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏による『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング』を選んだのは、平和不動産の土本清幸社長だ。「近年の日本ラグビー発展の礎を築いたエディー氏の著書は、ビジネスの経営者にとっても大いに参考となり、啓発される内容です。今でも自分の会社を大きく成長させていく原動力になっています」という。
エディー氏は、日本人の特性を最大限に生かし、その短所さえも長所へと転換して、実力以上の力を発揮させるという指導法でチームを強化。2015年のラグビーワールドカップで、強豪の南アフリカ代表を破るという歴史的快挙を成し遂げた。本書には「マイナス思考を捨てれば、誰でも成功できる」「向上心のない努力は無意味」「“完璧”にとらわれるな」などビジネスにも通用するメッセージが数多く書かれている。
土本社長は、「社長就任時に経営幹部候補者たちにも読ませて、レポートを書いてもらいました。この本が、その後の会社成長にも役立っていると認識しています」と評価し、スポーツをテーマにした本でありながら、経営にも深い影響を与える一冊と位置付けている。
文・構成/南浦淳之(日経BOOKプラス編集)




