日経BOOKプラスは主要企業を対象にアンケートを実施し、経営者自身が感銘を受けた「座右の書」について聞いた。経営者はどのような書籍から学び、どのような視点を養ったのか。ビジネス書から歴史小説、科学・技術書、哲学書まで、多岐にわたるジャンルからの回答が寄せられた。今回は「リーダー論やリーダーシップを学ぶ本」を、主なコメントとともに紹介する。( アンケートの調査概要と回答者一覧はこちら ) 写真:buritora、Alfons/stock.adobe.com

経営者が選ぶ「リーダー論のバイブル」

 企業を率いる立場にあると、日々多くの意思決定や問題解決に直面する。組織のトップとしての重圧や孤独を感じる中で、「リーダーとはどうあるべきか」と自問しながら、自身を振り返り、方向性を修正するための指針となるのがリーダー論の書籍だ。部下の育成や組織づくりにも有益で、イノベーションの推進や企業変革を生み出すリーダーシップを高めるうえでも重要な役割を果たす。

三菱UFJニコス・角田典彦社長「行き詰まったり迷ったりする際に参考になる良書」

『人を動かす』D・カーネギー著、創元社

『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)
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 三菱UFJニコスの角田典彦社長が選んだのが、D・カーネギーの『人を動かす』。同書は1930年代に初版が発行された、人間関係の原則を説き起こした不朽の書だ。
 角田社長は、本書についてこう指摘する。「『人を動かす』という題名から、人心を掌握し操作するためのビジネス本と間違われやすいです。しかし、実際の中身は、原題である『How to Win Friends and Influence People』(友達の作り方、他人に影響を与える方法)の通りで、読後は人間関係を良好にするためのノウハウ本ということが分かります。相手を尊重し相手の立場で考えることが信頼関係を築く方法である、ということがたくさんの具体事例とともに明示されています」。
 本書がビジネス以外にも役立つことを角田社長は強調する。「なかなか本書の通りに実行するのは難しいですが、何かに行き詰まったり迷ったりする際には、とても参考になる良書です。ビジネスに限らず、人生は必ず人とつながるものですから」。

沢井製薬・木村元彦社長「自分が変わり自己成長につながった貴重な一冊」

『完訳 7つの習慣』スティーブン・R・コヴィー著、キングベアー出版

『完訳 7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著、フランクリン・コヴィー・ジャパン訳、キングベアー出版)
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 『7つの習慣』は、米国のリーダーシップの研究者であるスティーブン・R・コヴィー博士の著書。沢井製薬の木村元彦社長は、本書を選んだ理由を「仕事をうまく進めるうえでの数多くのヒントをこの本から得ました。本書で書かれているやり方を実践することで、仕事の進め方が改善され、成果にもつながっていることを実感しています。自分が正確に伝えたいことが的確にきれいな文章になっており、その点も非常に助かっています」という。
 さらに、「部長になった時に、仕事の進め方に悩み落ち込んだ時期があり、その時期に読みあさったビジネス書の中の一冊。この書籍に書かれている内容を実践することで、自分が変わることができ、自己成長につながった貴重な本」(木村社長)と振り返る。

古河電気工業・森平英也社長「アドラーの心理学に基づいて『リーダーとは?』の答えを提示」

『叱らない、ほめない、命じない。 あたらしいリーダー論』岸見一郎著、日経BP

『叱らない、ほめない、命じない。 あたらしいリーダー論』(岸見一郎著、小野田鶴構成・編集、日経BP)
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 古河電気工業の森平英也社長が挙げた本が、『叱らない、ほめない、命じない。 あたらしいリーダー論』(岸見一郎著)。「リーダーと部下は対等というアドラー心理学の考え方に基づいて、本書は『リーダーとは?』というお題に一つの答えを提示しています。貢献感があると幸せを感じる、とも述べています」という。
 森平社長は、「『リーダーになりたくない、自信がないと思う人こそ良いリーダーになれる』という主張に、私は大いなる安堵を覚えました」と本書に共感した点について強調する。また、「アドラー心理学に出合ったのは、岸見一郎・古賀史健著の『嫌われる勇気』を読んだ時でした。その著者の一人が書かれた本書を読んで共感がさらに高まり、私の考え方や行動のベースになっています」とも述べている。

NTTドコモ・ベンチャーズ・笹原優子社長「問いの投げ方次第で、新しい回答を得られ、組織を活性化できる」

『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』安斎勇樹、塩瀬隆之著、学芸出版社

『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(安斎勇樹、塩瀬隆之著、学芸出版社)
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 リーダーとして組織を活性化するためのヒントが得られるという理由で、NTTドコモ・ベンチャーズの笹原優子社長が選んだのが『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(安斎勇樹、塩瀬隆之著)だ。 
 笹原社長は、「企業の中で仕事をしていると、時として疑問を持つことよりも、言われたことをなんとか実行するということに重きを置かれる場合があります。そうしているうちに、認識や関係性が固定化されていき、変革を起こせなくなっていきます」といった問題意識に対して、「新規事業や事業改革などイノベーションを起こす組織のリーダーは、『問いの投げ方』次第で、面白い、新しい回答を得られたり、組織を活性化できたりするだろうとワクワクしながら読みました。議論の場をマネージする人たちよりは、幹部、トップにぜひ読んでもらいたい」という。

日本M&Aセンターホールディングス・三宅卓社長「成功するリーダーが陥りがちなことから、自分を見直せる」

『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著、日経ビジネス人文庫

『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著、斎藤聖美訳、日経ビジネス人文庫)
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 「成功しているリーダーが陥りがちなことについて、人間の深層心理から解き明かして解説されており、自分を見直すきっかけとなる」として、日本M&Aセンターホールディングスの三宅卓社長が選んだのが、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著)だ。著者のマーシャル・ゴールドスミス氏は数多くの著名経営者をクライアントに持つ、伝説的なエグゼクティブ・コーチ。同書では、コーチング体験から得た、部下を育てて、さらに自分の能力を発揮していく方法を解説している。
 三宅卓社長は、「私自身、IPO(新規株式公開)で会社が勢いに乗っていた頃、自分に違和感を持つようになり読んだ本です。IPO後は忙しくなり、仕事は充実していたものの、『現場感』がなくなってしまいました。この本をきっかけにコーチングを受けたことで、さまざまな変革を自分自身だけでなく社員や会社にもたらすことができました」と振り返る。

コメ兵ホールディングス・石原卓児社長「IQよりEQ(こころの知能指数)が重要と教えてくれた」

『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン著、講談社+α文庫

『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン著、土屋京子訳、講談社+α文庫)
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 心理学者ダニエル・ゴールマン氏による『EQ こころの知能指数』を選んだのは、コメ兵ホールディングスの石原卓児社長。「IQ(学力指数)よりEQ(こころの知能指数)が重要と教えてくれました。学力試験で測定される認知能力は広範な知性のごく一部しか反映されない。自身の感情や他人との関係性をうまく処理する能力も知性の一部。しかもこれは、人生を最終的に大きく左右する知性。学校の成績はその人が社会に出てから成功するかどうかの予言にはならない。まして幸せな人生を送れるか、世の中の役に立つ人間になれるかどうかを決定する要素ではない」という。
 EQの概念を理解し身につけることは、経営者や管理職にとって、自身の成長だけでなくチームマネジメントの面でも重要だとされており、石原卓児社長も「EQとは自分自身を動機づけ、挫折してもしぶとく頑張る能力。衝動をコントロールし、快楽を我慢できる能力。自分の気分をうまく整え、感情の乱れに思考力を阻害されない能力。他人に共感でき、希望を維持できる能力。EQはIQと同等あるいはそれ以上の影響力を持っている」と捉えている。

文・構成/南浦淳之(日経BOOKプラス編集)


「社長たちの座右書」記事一覧(※随時更新、予定を含む)
第1回 経営者が選ぶ「リーダー論のバイブル」 今回はここ
第2回 企業を変革したリーダーの決断と行動に学ぶ
第3回 トップを支える「カリスマ経営者の哲学」
第4回 時代の変化に打ち勝つ「経営戦略」の名著
第5回 経済、社会、技術など「経営マクロ環境を学ぶ本」
第6回 トップが選ぶ「自分を磨く学びの書」(近日公開)
第7回 リーダーに響く「歴史小説」、知恵と戦略の宝庫
第8回 トップの心を揺さぶる「生きる意味を問う本」
第9回 先人の知恵に学ぶ「思想・哲学書」

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