日経BOOKプラスは主要企業を対象にアンケートを実施し、経営者自身が感銘を受けた「座右の書」について聞いた。経営者はどのような書籍から学び、どのような視点を養ったのか。ビジネス書から歴史小説、科学・技術書、哲学書まで、多岐にわたるジャンルからの回答が寄せられた。今回は「カリスマ経営者の哲学を学ぶ本」を、主なコメントとともに紹介する。( アンケートの調査概要と回答者一覧はこちら ) 写真:buritora、Alfons/stock.adobe.com

現役の企業トップが「カリスマ経営者の哲学」を学ぶ理由は、それが単なる技術論や戦略論を超え、揺るぎない経営の指針となるからだ。彼らの哲学を学ぶことで、短期的な利益の追求を超え、社会に根差した信念や組織の長期的なビジョンを構築する知恵を得ることができ、不確実性な未来に対応するための羅針盤となる。
平和不動産・土本清幸社長「自分の現状を映し出してくれる鏡のような本、社長になった時も再読した」
『商売心得帖』松下幸之助著、PHP文庫
今回、「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏の著書から2冊を紹介する。1冊目は、平和不動産の土本清幸社長が選んだ『商売心得帖』。松下氏の「心得帖」シリーズには、他にも『経営心得帖』『社員心得帖』『人生心得帖』がある。
『商売心得帖』は1973年に発刊された、松下氏の代表的な著作だ。土本社長は、「経営の神様による商売の基本と本質がつづられています。今でも時々読み直していて、社長に就任した時にも再読しました。読むたびに響く箇所が違い、自分の現状を映し出してくれる鏡のような本です」という。
沢井製薬・木村元彦社長「仕事で壁にぶつかった際に読み返し、自身のモチベーションを回復させた」
『道をひらく』松下幸之助著、PHP研究所
沢井製薬の木村元彦社長が、「30代の頃、仕事の進め方に悩んだ際に初めて手にしました。それ以来、今でも会社の本棚に置いて、いつでも読み返せるようにしています」という本が『道をひらく』。松下幸之助氏が、自身の仕事観や人生観を記した短編随想集だ。
「見開きぺージに1つのエピソードが書かれています。内容も非常に端的で的を射ており、なるほどと思う内容ばかり。仕事で壁にぶつかった際に読み返して、自身のモチベーションを回復させたり、部下に伝えたいことをこの本の内容を借りて伝えたりもしています」(木村社長)と、自身の振り返りだけでなく、部下の育成にもこの本を活用しているという。
クリーク・アンド・リバー社・黒崎淳社長「稲盛さんの言葉に深く共感し、仕事に遊びに全力で取り組んできた」
『生き方』稲盛和夫著、サンマーク出版
京セラ(京都セラミック)やKDDI(DDI:第二電電企画、後の第二電電)の創業、さらには日本航空(JAL)の再生を手掛け、「経営のカリスマ」と称される稲盛和夫氏。その人生論をまとめた著書が『生き方』だ。
クリーク・アンド・リバー社の黒崎淳社長は、「人生の中で最も大きな比重を占める仕事において充実感を得られないかぎり、他の何かで喜びを得たとしても、結局物足りなさしか残らないはず、という稲盛氏の言葉に深く共感しました」として、「仕事にも遊びにも全力で取り組んできました。本書は経営者や起業家の視点から、人生や仕事の意味、そして成功のための方程式に気付きを与えてくれる一冊だと思います」と評価する。
沢井製薬の木村社長も同書を選んだ1人。「経営のトップとしての心構えや、トップに必要な徳をどのように身に付けるかを学びました。ビジネス界での成功者の書籍を読みあさった時期に、一番感銘を受けたのが稲盛氏の書籍です。まだ、同氏の『京セラフィロソフィ』(サンマーク出版)が出版されていない頃に読んで、ビジネスパーソン以前に人間としての“生き方”を教えられた気がします」と、本書から深い影響を受けたことを振り返る。
東京ガス・笹山晋一社長「渋沢栄一の『道徳経済合一』という考えは、弊社の経営に脈々と根付いている」
『現代語訳 論語と算盤』渋沢栄一著、守屋淳訳、ちくま新書
「日本資本主義の父」と称される実業家・渋沢栄一氏の『現代語訳 論語と算盤』(守屋淳訳)を挙げたのは東京ガスの笹山晋一社長だ。「論語」とは道徳を指し、「算盤(そろばん)」とは利益を追求する経済活動を意味する。『論語と算盤』には、渋沢氏が掲げた「利潤と道徳の調和」という経営哲学の本質が凝縮されている。
笹山社長は「東京ガスは渋沢栄一が創立して以来、今年で140年を迎えます。公益性と経済性を両立させる『道徳経済合一』という渋沢の考え方は、弊社の経営に脈々と根付いています」という。「現在、『安定供給と脱炭素化の両立』を目指す第3の創業に挑んでいます。第2の創業期であったLNG導入においては、地域環境改善(公害問題)と経済成長の両立に貢献してきました。公益性と経済性を両立することに挑む姿勢は、創業者渋沢の精神を受け継いだもの」として、「これからも渋沢栄一のフロンティア精神や柔軟な発想を経営に生かし、未来へつながる道を切り開いていきます」と強調する。
ソニー生命保険・髙橋薫社長「今読んでも全く古さを感じないどころか、新鮮な輝きさえ感じてしまう」
『学歴無用論』盛田昭夫著、フィールドアーカイヴ
ソニー創業者の1人である盛田昭夫氏の著書『学歴無用論』を選んだのは、ソニー生命保険の髙橋薫社長だ。本書は、盛田氏が初めて執筆した経営書で、日本企業に根強く残る年功序列や学歴主義を批判し、学歴にとらわれることなく個々の才能を最大限発揮する実力主義の重要性を訴え、経営者に意識改革を促している。
髙橋社長は「1966年に刊行された本ですが、ビジネスの本質、日米の文化の違い、働き方や通商問題といった内容は、今読んでも全く古さを感じないどころか、むしろ新鮮な輝きさえ感じてしまいます」と驚きを示す。
さらに「今、トランプ政権による関税が話題となっていますが、本書の冒頭で『高い関税率と、為替管理という、二重の綿入れで、外気をさえぎりぬくぬくと育った企業が(中略)、対抗できるはずがない』と日本企業への危機感が述べられていることに時代の変遷を感じます」として、当時と日米の立場が大きく変化していることも興味深いという。
レンゴー・川本洋祐社長「著名経営者の卓越した経営手法に触れられる。英語力の維持・向上のため原文で読む」
『ウィニング 勝利の経営』ジャック・ウェルチ、スージー・ウェルチ著、日本経済新聞出版
レンゴーの川本洋祐社長が選んだ一冊は、「20世紀最高の経営者」とも称されるジャック・ウェルチ氏による経営書『ウィニング 勝利の経営』だ。同書では、改革によってゼネラル・エレクトリック(GE)を世界的な高収益企業へ飛躍をさせたウェルチ氏が、ビジネスで成功するためのノウハウを具体的に明かしている。その魅力を「著名経営者による卓越した経営手法に触れることができる」(川本社長)と語る。
また、川本社長は「英語力の維持、向上という目的も兼ねています」として、原書の
『Winning』(Harper Business、リンクはハードカバー版)
を愛読しているという。
平和不動産・土本清幸社長「自分の経営の指南書として読んでいる。企業提携に踏み切るきっかけになった一冊」
『大倉喜八郎 かく語りき』東京経済大学史料委員会編、日本経済評論社
平和不動産・土本社長が選んだもう1冊は、『大倉喜八郎 かく語りき』(東京経済大学史料委員会編)だ。「戦前の大倉財閥の創業者である大倉喜八郎氏の講演などをまとめた一冊です。困難に直面した時ほど『退一歩』ではなく『進一層』の精神で進んできたからこそ事業を進展させられたことを強調していて、私自身の経営の指南書として読んでいます」(土本社長)という。
大倉氏は、大成建設の創業者としても知られる。土本社長は、「弊社が大成建設との提携を進めるに当たり、同社の経営理念などを調べていくうちにこの本にたどり着きました。大倉喜八郎が弊社にゆかりのある渋沢栄一と交友があったことが分かり、縁を感じました。提携を踏み切るきっかけにもなった一冊です」とも説明する。
文・構成/南浦淳之(日経BOOKプラス編集)






