ニュースの裏側を知れば、社会の動きが見えてくる。本連載は、日経記者が今押さえるべき45個のテーマを解説した新刊『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2026年版』から抜粋、再構成してお届けします。就活で、会議で、商談で、一歩先を行くための知識を紹介します。第3回のテーマは「コメ」。「令和のコメ騒動」の構造的な原因と今後の課題を、日経記者がズバッと解説します。

Q. 「令和のコメ騒動」の原因や今後の見通しは?
A. コメの不足や価格高騰のきっかけは2023年の猛暑でした。精米時にコメが割れやすく、供給が不足しました。安価な備蓄米の放出で価格は落ち着きましたが、今後も猛暑や農家の高齢化で予断を許しません。

崩れた需給バランス

 コメがスーパーなど小売店の店頭から消えたのは2024年夏でした。農林水産省は「新米が出れば解消する」「流通の目詰まりの問題」と弁明してきましたが、品薄は続き、価格上昇もなかなか止まりませんでした。24年後半以降は1年前の2倍以上の価格で推移する局面が多く、物価全体の高騰の要因にもなりました。

 市場の価格がようやく下落基調に転じたのは、25年5月に小泉進次郎氏が農相に就任してからでした。不作に備えて政府が持つ備蓄米を随意契約によって安値で放出し始めたことが効果を発揮したのです。

 コメは足りなかったのでしょうか。農水省によると主食用米の22年産の生産量は670万トン、23年産は661万トン、24年産は679万トンでした。需要実績は22年産が691万トン、23年産は想定より上振れして705万トン、24年産は711万トンに上りました。22年産は21万トン、23年産は44万トン、24年産は32万トンの供給不足が生じました。時系列のグラフでは、ヘビが口を開いたかのような形に見えます。

画像のクリックで拡大表示

 農家の感覚では生産量はさらに少なかったようです。農水省は1.7ミリのふるい目で主食用の収穫量を把握しますが、農家は1.85~1.9ミリのふるい目で銘柄米として出す玄米を選ぶのが一般的です。

 農家は高く売れる銘柄米の生産にこだわる一方で、外食や中食からの需要が多い比較的安い価格のコメの生産には消極的なままです。需給バランスは崩れやすい状況といえます。

 かつては農業協同組合(JA)が農家からコメを集荷してコメ卸に流すのが主流でした。JAグループの在庫状況などから需要をつかみやすかったといえます。今は農家が外食・中食や流通業者と直接取引するケースが増えており、実態の把握は難しさが増しています。

 農水省は「令和のコメ騒動」を受けて調査や統計を見直し始めています。精度を高めるため、人工衛星データの活用を進めます。標本調査への過度な依存を改め、大規模生産者の実際の収穫量のデータも反映する考えです。

 毎年のように続く猛暑の影響で、玄米から白米に精米する際に割れてしまった量も相当数あるとされています。農水省は精米の歩留まり(良品率)について、大手のコメ卸などを対象に食糧法に基づく初調査に乗り出しました。小泉農相は「データ・統計に対する信頼を回復しないことには中長期のコメ政策は立案できない」と話しています。

減り続ける農業従事者

 日本の食料自給率は23年度にカロリーベースで38%と低水準が続いています。政府は30年度までに45%に引き上げる目標を掲げていますが、達成は容易ではありません。特に生産基盤は厳しい現実に直面しています。

 最大の課題は人口減で、農業に従事する人材が減っていることです。農水省の調べでは、普段仕事として主に自営農業に従事している「基幹的農業従事者」の数は24年に111万4000人と、前年比で4%減少しました。00年(240万人)の半分以下に落ち込んでいます。

画像のクリックで拡大表示

 平均年齢は69.2歳と、00年(62.2歳)に比べて7歳の高齢化が進んでいます。65歳以上が占める比率は全体の約7割に達しています。75歳以上の割合は39%で、50歳未満は11%にとどまっているのが現状です。従事者の減少と高齢化は農地の荒廃につながります。

 若い世代を中心に新規就農者を増やし、労働力を確保することが欠かせません。女性や外国人の働き手を増やすために、働きやすい環境を整えていけるかが課題です。

 鍵を握るのは生産性の向上です。大規模な農地が増えると大型の機械を導入しやすくなり、作物をつくるための費用も下がります。デジタル技術の進展を背景に「スマート農業」を進め、自動収穫ロボット、ドローンを用いた農薬散布、自動走行する農業機械の活用拡大なども手助けになるでしょう。

 国内は人口減が続くだけに、販売先としては外国市場を開拓することが非常に重要になっていきます。24年に農林水産物・食品の輸出額は1兆5071億円と、前年に比べて3.6%増と過去最高を更新しました。政府は30年までに輸出額5兆円という目標を打ち出しています。

コメの増産に向け農家の労働力確保が課題に(写真はイメージ)(写真:kelly marken/stock.adobe.com)
コメの増産に向け農家の労働力確保が課題に(写真はイメージ)(写真:kelly marken/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示
その疑問、日経記者が答えます。

各分野に詳しい日経記者が、今押さえるべきニュースを45項目で解説。豊富な図表とビジュアルで、経済の気になる疑問に分かりやすく答えます。就活や会議、商談で使える新鮮な知識を収録。読めば周りと差がつく一冊です。

日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/1870円(税込)