しつこい肩こり、繰り返される腰痛……。そんな全身の不調の原因が、実は「首」にあるかもしれません。長時間のデスクワークやスマートフォンの使いすぎで首に負担がかかり、それが肩こりや頭痛、腰痛、疲労感などの症状を引き起こしているのです。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが、「首の骨=頸椎(けいつい)」をケアすることで不調を一掃するメソッドを解説した『 すごい頸椎 首・肩・腰を一気によくする 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。今回は、咳やくしゃみなどの「軽い動作」でもぎっくり腰が起きるメカニズムについてです。

軽い動作でぎっくり腰になる不思議

 前回(参照:精神的なプレッシャーが肩こりを誘発 その場でできる対処法とは)、ストレスによって引き起こされる首や肩のこりを解消するための「動的ストレッチ」について解説しました。

 頭を突き出してスマートフォン(スマホ)やパソコンの画面を凝視していると、頸椎(首の骨)の自然なカーブが失われ、まっすぐな状態になってしまいます。これを「スマホ首」や「ストレートネック」などといいます。

 前々回(参照:ストレートネックを治そうとしても「骨盤の位置」が悪いとうまくいかない)お話ししたように、スマホ首やストレートネックになっている人は、座っているときの姿勢が悪く、腰にも大きな負担がかかっている場合が多いといえます。

 スマホ首やストレートネックを放置して、悪い姿勢のまま座り続ける生活を送っていると、腰の状態が悪化して慢性的な腰痛に悩まされることがあります。そしてあるとき、腰に激しい痛みが走る「ぎっくり腰(急性腰椎症)」になってしまうのです。

 ぎっくり腰は、朝起き上がろうとしたときや、重いものを持ち上げたときのほか、咳やくしゃみをした瞬間などの「軽い動作」でも突然起こります。これはなぜでしょうか? 不思議に思う人もいるかもしれません。

 軽い動作でもぎっくり腰になるメカニズムについて解説するために、まず人間の体に備わっている「フィードフォワード制御(予測的筋制御)」についてお話をしましょう。

体を動かす前にインナーマッスルが作動する

 フィードフォワード制御とは、体が静止した状態から立ったり歩いたりする状態へ移行する際に、腹部の深層にある腹横筋などの「インナーマッスル」が先に動き出し、準備を始めるというものです。

 腹横筋は、腰の骨である腰椎(ようつい)や内臓を、コルセットのように支える働きがあります。一方、実際に体を動かすのは、もっと表層に近い「アウターマッスル」です。腹部であれば、腹直筋や腹斜筋などがそれにあたります。

 脳から体を動かす指令が出たとき、まず動き出すのはインナーマッスルで、その後にアウターマッスルが動くというわけです。すごいですよね。初めてフィードフォワード制御について知ったとき、私は人体の神秘に驚きました。

 もう少し具体的に説明しましょう。人間が椅子から立とうとする場合を考えます。座っている状態から立ち上がろうとするとき、体が一瞬、不安定な状態になりますよね。それに備えるため、立ち上がる動作が始まる0.03~0.05秒前に、インナーマッスルの腹横筋などがギュッと収縮し、腰椎の周りを安定させるのです。その後、アウターマッスルが動き出し、腰椎が安定した状態で立ち上がることができます。

動作の前に腹横筋などがギュッと収縮して腰椎の周りを安定させる(『すごい頸椎』より。イラスト=内山 弘隆)
動作の前に腹横筋などがギュッと収縮して腰椎の周りを安定させる(『すごい頸椎』より。イラスト=内山 弘隆)

 ところが、慢性腰痛の人はこのフィードフォワード制御が正常に作動しません。立ち上がる際にも腹横筋の反応が遅れるため、腰椎が不安定な状態のまま立ち上がってしまうのです。

 日常には、立ち上がるだけでなく、物を持ち上げる、歩くために一歩目を踏み出すなど、さまざまな動き出しがあります。フィードフォワード制御が機能しないと、こうした動作のたびに腰が「無防備」な状態になり、腰椎にはストレスが加わります。

 日々の生活のなかで、こうした状況が何百回、何千回と繰り返されることで、腰椎やその周りに負荷がかかり、腰にダメージが蓄積していきます。たとえ1回あたりはそれほど大きくなかったとしても、1日に何度も繰り返されることで、次第に腰への負担が高まっていきます。

 そして、ふとした瞬間に、腰に激しい痛みが走るぎっくり腰になる。つまり、腰がすでにダメージが蓄積された状態にあるため、軽い動作でも最後の引き金となるわけです。

 また、精神的に緊張しているときも、筋肉の過緊張によってアウターマッスルが先に動いてしまうことがあり、ぎっくり腰になりやすいことがあります。

(写真=dimlight/stock.adobe.com)
(写真=dimlight/stock.adobe.com)

 ぎっくり腰は多くの場合、一時の強い痛みが通りすぎたら、横になり安静にしているよりも、無理のない範囲で体を動かすほうが早く回復するといわれています。体を動かさないと血行不良になり、筋肉が硬くなり、かえって治りづらくなります。ですから、痛みが和らいだら腰の周りを少しずつ動かしていくことが大切なのです。

[日経ビジネス電子版 2026年10月1日付の記事を転載]

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中野ジェームズ修一(著)/日経BP/1870円(税込み)