クラウド会計や家計簿アプリなどを展開するマネーフォワードは、創業13年で売上高400億円、社員数2900人にまで達している。同社の急成長を支えるのは全社に根づく「読書文化」だ。同社の「本」活用の秘訣を伝える書籍『会社は「本」で強くなる マネーフォワード 全社で取り組む「読書経営」』(宮本恵理子/日本経済新聞出版)から、創業者である辻庸介グループCEOの読書遍歴を紹介する。第3回は、組織が急拡大するスピードにマネジメントが追いつかず、組織が崩壊する危機に陥った際に手に取った本について。(文中敬称略)
組織づくりのための読書時代
辻が語るとおり、2016年以降、マネーフォワードは「組織の問題」に揺れていた。
成長に伴い、開発すべきプロダクトや改修のタスクは増える一方で、常にエンジニアが不足している状態。しかも、求められるスキルのレベルは高くなる。インターネットサービスを提供する企業にとって、システムの安定は事業の土台であり、些細(ささい)なほころびを放置することが命取りになる。
「1日でも早く優秀な人を」と急ぐあまり、即戦力となるスキル最優先で採用を進めた結果、社内の空気を乱す言動を繰り返す“組織クラッシャー”を招き入れてしまった。現場を混乱させてしまった後悔を、後に辻は語っている。
急拡大するスピードにマネジメントが追いつかず、組織が崩壊の危機に面した状況を受け、エンジニアチームのマネジメント体制を強化した。同時に、「マネーフォワードで働く仲間に求める価値観や行動指針を言語化しよう」と、2016年11月には、ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーを一新するなど、組織文化の立て直しを強化している。
この頃の辻の危機感は、そのまま本の選択に反映されていたようだ。
「カルチャーを組織に定着させるための第一歩が、『自分が何者であるのか』を深く考えることなのだと知った」という『 WHO YOU ARE(フーユーアー) 君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる 』(ベン・ホロウィッツ/浅枝大志、関美和訳/日経BP)など、組織の求心力となるカルチャーの醸成を学べる本に手を伸ばした。
組織拡大に合わせて人材育成が急務となったのも、この時期だ。
辻は、自身だけでなく社内のメンバーが、スキルとマインドの両面での成長を促進する思考と行動のヒントになる本を求めていった。「成長の本質」や人が育つ原理原則をシンプルに解説した『 成長マインドセット 心のブレーキの外し方 』(吉田行宏/クロスメディア・パブリッシング)は、この時期から研修にもよく取り入れるようになったという。
リーダーシップやチームマネジメントに生きる自己啓発本の金字塔、『 人を動かす 』(D・カーネギー/山口博訳/創元社。リンクは改訂新装版)や『 7つの習慣 』(スティーブン・R・コヴィー/フランクリン・コヴィー・ジャパン訳/キングベアー出版。リンクは完訳版)も何度となくめくった。
『会社は「本」で強くなる』著者×マネーフォワード グループCHOが明かす人材育成、組織づくりの秘訣
■リアルとオンラインの同時開催
・リアルの場所:東京・日本橋兜町「Book Lounge Kable」(東京都中央区日本橋兜町7-1 KABUTO ONE 3階)
・オンライン:参加申込者にURLをお送りします
■参加料金:無料
■定員:リアル開催 50名様
オンライン開催 人数制限なし
■申し込み方法: お申し込みはこちら
上場した頃の経営判断に役立った本
辻の課題意識が「組織」に向けられた2010年代後半は「組織づくりのための読書時代」と呼べるだろう。
2017年9月には、東京証券取引所マザーズ市場に上場。「株主」という無数の目にさらされながら、市場に対してよりシビアに成果が求められるようになった。
この頃に辻が求めた本の中でも「経営判断に大いに役立った」と挙げるのが、『 両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く 』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン/入山章栄監訳/渡部典子訳/東洋経済新報社。リンクは増補改訂版)だ。辻が特に注目したのは、企業がイノベーションを起こし続けるために必要な2つの軸、「知の深化」と「知の探索」というキーワードだった。
すなわち、一つの事業を深掘りする「深化」と同時に、広い視野で新たな事業の可能性を開発する「探索」のアプローチをとることが、企業の長期発展を支える――。持続成長のカギとなる「探索」の一環として、辻は「新規事業」を位置づけ、事業領域の幅を一気に広げていった。
M&A(合併・買収)を通じた非連続成長戦略の実行が加速したのもこの時期だ。その道で百戦錬磨の経験を重ねた先人が記した本、例えば『 JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書 』(新貝康司/日経BP)などが大いに役に立ったという。
上場前後特有の大量離職も経験した。ユーザーだけを見ていればよかった創業期とは異なり、社員や取引先、株主など、ステークホルダーが多様化し、複雑化する中で会社を成長へと向かわせないといけない。
辻は「企業が社会的な評価・信用を得て維持するには、経営者自身の自己研鑽(けんさん)が欠かせない」という確信を深め、それまで以上に本から学ぶ努力を重ねた。
『 マッキンゼー CEOエクセレンス 一流経営者の要件 』(キャロリン・デュワー、スコット・ケラー、ヴィクラム・マルホトラ/尼丁千津子訳/早川書房)も、この頃にめくった本だ。「投資家に対して説明する株主総会や取締役会で、CEO(最高経営責任者)という立場としてどう振る舞い、何を伝えるべきかを理解できた」。

写真/鈴木愛子
宮本恵理子著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)


