いまや「生成AI」はビジネスパーソンにとって「教養」の一つといっても過言ではありません。企業も経営者も現場の社員も、生成AIがもたらす未来に大きな関心や危機感を抱き、組織や仕事にどう生かすのかについて日々模索しています。
「手前みそですが、部長が全力でお薦めする『AI・IT・技術系』の本の連載では、今回は、「生成AIのトレンド」「生成AIによる仕事の未来」を理解するのに役立つ11冊の日経の本を紹介します。なかには売れに売れている注目のヒット本も。教養を身に付けるために読んでおきたいラインアップです。日経BOOKSユニット第2編集部の安東一真部長と技術プロダクツユニットクロスメディア編集部の田村規雄部長が1冊ずつ全力で解説します。

日経BOOKSユニット第2編集部長 安東一真(以下、安東) 「手前みそですが、部長が全力でお薦めする『AI・IT・技術系』の本」という連載も、今回で3回目。これまでお届けした活用編、技術編に続いて、今回はトレンド編です。今、書店には、「生成AI」についての本がたくさん並んでいますよね。きょうは、ビジネスパーソンにとってもはや「教養」ともいえる「生成AIのトレンドや未来」がつかめる本を11冊厳選して紹介したいと思います。

技術プロダクツユニットクロスメディア編集部の田村規雄部長(右)と日経BOOKSユニット第2編集部の安東一真部長(左)が解説
技術プロダクツユニットクロスメディア編集部の田村規雄部長(右)と日経BOOKSユニット第2編集部の安東一真部長(左)が解説
画像のクリックで拡大表示

安東 この11冊を、「トレンドをおさえる」「別の角度から見る」「基本を知る」「実践に生かす」の4象限に分けてみました。いずれも技術的な専門知識がなくても読めるものばかり。気になる本から手に取ってもらいたいですね。

画像のクリックで拡大表示

技術プロダクツユニット クロスメディア編集部長 田村規雄(以下、田村) では早速、まずはお互いに「売れに売れている」イチオシの本から全力で紹介していきましょうか(笑)。

どの業種・職種が生成AIで変わるのかひと目で分かる

1. 『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』シバタナオキ著

安東 最初に紹介したいのは、『 アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図 』です。8月に発売してから早くも4刷、2万部に達し、売れに売れています!

『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』シバタナオキ著/画像クリックでAmazonページへ
『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』シバタナオキ著/画像クリックでAmazonページへ

 著者のシバタナオキさんは、アメリカのシリコンバレーで活躍する現役の投資家です。1000社超の生成AIスタートアップを精査し、数十社へ投資してきました。そうした経験から、アメリカで猛烈な勢いで進む生成AIのビジネス実装について紹介しています。

 冒頭、マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査データが紹介されているのですが、私は思わず見入ってしまいました。銀行や小売りなど21の業種、営業や顧客対応など9の職種をマトリクスにして、それぞれに対して生成AIがもたらす経済効果が示されています。どの業種、職種が、生成AIで大きく変わるかがひと目で分かります。自分の仕事に生成AIがどれくらい影響するのか、あるいは、社内のどの業務に適用するのが効果的なのか…といろいろ考えさせられました。

 ただ、経済効果(金額)だけ見ても、実感が湧きませんよね。そこで本書では、「顧客対応」「マーケティング」「営業」「人事」など6つの職種、「ヘルスケア」「フィンテック」という2つの業種にフォーカスして、具体的に解説していきます。欧米で大きな投資を受けている数々のベンチャーがどんなサービスを提供しているのかを見れば、「生成AIがどんなビジネス・仕事を変えるのか」が見えてきます。

興味がある部分から読みやすいチャプター、図解も豊富に掲載されている
興味がある部分から読みやすいチャプター、図解も豊富に掲載されている
画像のクリックで拡大表示

 「でも、しょせんは海外の話…」と思う人もいるかもしれませんが、本書は違うんです。日本で生成AIの導入を進めるトップランナー9人がゲスト解説者として日本の最前線の話をしてくれています。日本IBM副社長の森本典繁さん、ソフトバンクグループで生成AIを推進しているGen-AX CEOの砂金信一郎さん、著名なAIベンチャー シナモン共同創業者の堀田創さんなど、そうそうたるメンバーに解説いただきました。

 「モビリティ」の章では、名古屋大学の野辺継男先生が、米テスラがいかにAI技術を駆使してEV(電気自動車)を日々アップデートしてきているかを示し、日本のメーカーとの違いを解説しています。「うわ、これでは他企業は勝てないのでは。やばい…」とヒリヒリしながら読みました。

 生成AI自体やAIエージェントの技術トレンドもおさえています。生成AIのトレンドや未来を知るために特にお薦めしたい一冊です。

田村 なかなか熱い一冊ですね(笑)。AIエージェントといえば、生成AIのいわば進化系ともいえる、今、最も注目されている技術・サービスの一つですね。チャットを通じて質問や要望にこたえるだけの生成AIに対して、AIエージェントは与えられた目標やタスクについて、自ら情報を収集して作業を計画し、ツールの選択や外部とのやりとりをしながら、自律的に遂行してくれるものです。

 このAIエージェントに関する書籍では、こちらの部署が手掛けた本も負けてはいません。6月に発売して既に3刷8000部、電子も合わせて1万部近く売れているのが、この『 AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ 』です。

世間で話題のAIエージェントを効率よく理解できる

2. 『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』シグマクシス著

 AIエージェントの定義から始まって、それがビジネスに与える影響、実際の活用事例、技術基盤や導入・運用の仕方、未来予測まで、ビジネスとテクノロジーの両面から、AIエージェントの全体像を体系的に解説しています。

『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』シグマクシス著/画像クリックでAmazonページへ
『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』シグマクシス著/画像クリックでAmazonページへ

田村 前回の記事 「AIエージェントの作成やLLMの理解に役立つ 部長2人が全力でお薦めする10冊」 でも紹介しましたが、「1人100個のAIアプリ開発」を社員の目標に掲げて話題となったソフトバンクグループを筆頭に、トヨタやイオン、中外製薬、リコーなど、さまざまな業界で業務のAIエージェント化を推進する企業が増えています。

 これだけ「AIエージェント」が世間で話題になってくると、技術者だけでなく、経営層や一般のビジネスパーソンでも、「うちの会社も導入したら、業務改革につながるのでは?」と気になり始めているのではないかと思います。あるいは、「経営層からの指示で導入要員として巻き込まれてしまった」なんて人もいるかもしれません。そんな人にも、AIエージェントの全体を理解し、実践まで落とし込んでいける本書はお薦めです。

安東 次に紹介したいのは、 第2回の記事 でも触れた『 #100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった 』。こちらは9刷、3万部。私の部署で今年一番売れている本です。

とにかく面白い! 課題をサボってアプリに夢中になった大学生が…

3. 『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』大塚あみ著

『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』大塚あみ著/画像クリックでAmazonページへ
『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』大塚あみ著/画像クリックでAmazonページへ

 本書は、ある怠け者の大学生がChatGPTで100日連続アプリを作り続けたことを日記風にまとめたエッセーです。これがとにかく面白いんです。著者の大塚あみさんの個性が強くてすべてをまねできるかというとそうではありませんが、全体を読むと、「これからの初学者がどのようにしてプログラミングを学ぶのか」というトレンドが見えてきます。

 本人いわく、大塚さんは「手を抜くことに全力を尽くす」タイプ。授業でChatGPTを知って、最初に質問したのは「大学のレポート課題をサボる方法を教えて」。Pythonプログラミングの基礎実習を受けたとき、ふとChatGPTを使えば楽ができるかもと思い付いて、数当てゲームやオセロ風ゲームを作るのに夢中になってしまいます。気づくと後ろに先生が…。「ChatGPTでサボっていたのがばれたか」と焦ったら、先生のほうが面白がって、どんどんやれと言われます。

 そんなきっかけから毎日1本ゲームを作って、Xに投稿することを思い付きます。最初はChatGPTが作るプログラムの内容もよく分からないまま投稿していたのですが、だんだん上達していくんですよ。気づくと毎日10時間くらいプログラミング漬け。でも「興味を追いかけるときには、頑張っているという意識がない」のが、大塚さんのすごいところです。そんな日々の成長過程そのものが論文になり、国際学会で発表し、エンジニアとしての就職にもつながります。面白いでしょ?

 楽しく読みながらも、生成AIとどう付き合っていくべきなのか、考えさせられる一冊です。

田村 プログラミングは、生成AIで本当に大きく変わりましたね。日々の仕事でちょっとした自動化をするときも生成AIの助けは欠かせません。

技術系編集者が驚いた、生成AIを生かすシンプルな方法

4. 『生成AI「戦力化」の教科書』松本勇気著

安東 次に紹介したいのは、10月27日に発売したばかりの『 生成AI「戦力化」の教科書 』。生成AIは誰もが雇える「優秀な新入社員」であり、それを組織の戦力にするための方法を解説した本です。

『生成AI「戦力化」の教科書』松本勇気著/画像クリックでAmazonページへ
『生成AI「戦力化」の教科書』松本勇気著/画像クリックでAmazonページへ

 私は一応、技術書編集のプロとして、機械学習やディープラーニング、生成AIといった、AIの技術トレンドをここ6~7年はしっかり追いかけてきたつもりです。そんな中で読んだ本書には、「驚き」がありました。

 AIの世界では、「LLM(大規模言語モデル)」や「RAG(検索拡張生成)」といった言葉はもう当たり前になり、「エージェンティックRAG」「マルチエージェント」など新しい概念や技術が続々出てきます。その全体像をアップデートし続けるのは正直難しいところがあります。エンジニアの人でも、同じような課題を持つ人も多いのではないでしょうか。

 一方、この『生成AI「戦力化」の教科書』は、とても「シンプル」なんです。「そんなシンプルな方法で生成AIを組織に生かせるか」という驚きがありました。

 著者は、GunosyやDMM、そして現在のLayerXにてCTOを歴任してきた松本勇気さん。ソフトウエアエンジニアおよび経営者として、12年にわたってさまざまな領域でAIの活用に取り組んできたプロ中のプロです。本書では、最先端の技術も紹介されているのですが、平易な文章なので、その意味や価値が頭にすっと入ってきます。注目度が極めて高い「AIエージェント」も、「まだR&D 段階の技術であり、これから1~2 年かけて事例が出てくるのでは」とはっきり教えてくれます。

LLMの登場で「既存の業務を変えずに」デジタル化できる――それが、日本の勝機になることも解説されている
LLMの登場で「既存の業務を変えずに」デジタル化できる――それが、日本の勝機になることも解説されている
画像のクリックで拡大表示

 本書では、生成AIを「誰もが雇える優秀な新入社員」と捉えます。とても賢く、24時間、弱音を吐かずに働き続けますが、組織固有の知識や仕事のやり方は知りません。例えば、入ってきたばかりの新入社員に「うちの新商品のA社向けのプレゼン資料を作って」と言ってもうまくできないですよね。それは、生成AIも同じです。

 まず生成AIに組織の知識を伝えるための「ナレッジベース」を作ります。次に仕事の仕方のステップを「ワークフロー」としてまとめて、生成AIに教えていく。やることは大きくこの2つだけです。これで、新入社員だった生成AIを「戦力化」でき、組織固有の煩雑な書類作業などをこなしくれるようになります。稟議(りんぎ)書のレビュー、契約書のチェックといったものです。

 ITが苦手という人でも、この本を読めば、生成AIをどう組織に生かせばよいのか理解しやすいと思います。

田村 これだけ“AI推し”をしてきたところで恐縮なのですが…「AIを導入すればすべて解決」「AI万歳!」と喜んでばかりはいられない「不都合な真実」もあります。つまり、AIに対する期待は過剰であり、いわば幻想に過ぎない。その期待が裏切られたとき、「AIバブル崩壊」ともいえる状況が訪れるかもしれないのです。

 そんなAIのネガティブな側面を浮き彫りにする野心作が、クロサカタツヤ氏の『 AIバブルの不都合な真実 』です。こちらも発行直後に増刷され、注目を集めています。

AI時代を生き抜くための「見極め力」が身に付く

5. 『AIバブルの不都合な真実』クロサカタツヤ著

『AIバブルの不都合な真実』クロサカタツヤ著/画像クリックでAmazonページへ
『AIバブルの不都合な真実』クロサカタツヤ著/画像クリックでAmazonページへ

田村 クロサカ氏は、現状のAIブームがバブルだと断言できる理由として、期待された性能とのギャップ、過剰な資金流入、クリエイターとの摩擦の3つを挙げます。そして、資金フローの転換、成長の頭打ちとインフラ供給制約、政府による規制といった外的ショック、倫理的な視点からの反動などが要因となってバブル崩壊が起き得ると予測しています。かつて「ドットコム・バブル」が崩壊したように、AIバブルもいつかははじけるのではないか――。そんな警鐘を鳴らしているのです。

 とはいっても、クロサカ氏はAIのすべてを否定しているわけではありません。むしろ、そのような現実を見据えたうえで、いかにAIを使うのか、どう付き合えばよいのかを見通すべきだと主張しています。

AIのネガティブな要素を踏まえたうえで、どうすればいいのか、問題提起している
AIのネガティブな要素を踏まえたうえで、どうすればいいのか、問題提起している
画像のクリックで拡大表示

 そして、AIバブルが崩壊した後にも残る「強い技術」や「勝ち筋」を見つける力を、本書で習得してほしいと言います。本書は、AI時代を生き抜くために必要となる「見極め力」を身に付けられる一冊といえるでしょう。

安東 確かに、最近は「AIバブル」という言葉をニュースなどでも目にすることがあります。巨額な投資が行われているにもかかわらず、多くのAI企業がいまだ収益化できていない実情もありますね。賛否両論あるところですが、AIに対して幻想や妄想を描くのではなく、しっかりと地に足を付けた導入や活用が必要だということですね。

生成AIの勝ち筋はあるのか、何に備えるべきか

6. 『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』佐藤一郎著

田村 AIをどのようにビジネスに生かすべきなのか、とりわけ日本における「勝ち筋」を考察する未来予測本として、『 2030 次世代AI 日本の勝ち筋 』もお薦めしたい1冊です。

『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』佐藤一郎著/画像クリックでAmazonページへ
『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』佐藤一郎著/画像クリックでAmazonページへ

 著者は、AI分野のご意見番として各種メディアに出演する、国立情報学研究所(NII)の佐藤一郎教授。社会においてAIが本格的に活用されはじめた今、何を知り、何に備えるべきかを学術的視点とビジネス的視点の双方を交えて解説してくれます。11月21日に発売する(Amazonでは予約開始)ので、ぜひ参考にしてください。

安東 学術的視点で、今後のAI研究に対して疑念を呈する動きも活発です。2025年10月22日には、「超知能AI(スーパーインテリジェントAI)開発の禁止を求める書簡」がAIの名だたる専門家800人以上が署名する形で公開されました。「AIのゴッドファーザー」と呼ばれ2024年のノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏をはじめとして、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏など多様な分野の研究者や専門家が賛同しています。

 その署名者にも名を連ねたゲイリー・マーカス氏が執筆したのが、この『 AIテックを抑え込め! 健全で役立つAIを実現するために私たちがすべきこと 』です。

巨大テック企業の無責任さを実名で赤裸々に批評

7. 『AIテックを抑え込め! 健全で役立つAIを実現するために私たちがすべきこと』ゲイリー・マーカス著、山田美明訳、市川類解説

『AIテックを抑え込め! 健全で役立つAIを実現するために私たちがすべきこと』ゲイリー・マーカス著、山田美明訳、市川類解説/画像クリックでAmazonページへ
『AIテックを抑え込め! 健全で役立つAIを実現するために私たちがすべきこと』ゲイリー・マーカス著、山田美明訳、市川類解説/画像クリックでAmazonページへ

 著者でニューヨーク大学名誉教授のマーカス氏は、アメリカで2023年に開かれたAIのリスクに関する公聴会でOpenAIのサム・アルトマン氏と対峙(たいじ)したことでも知られています。

 本書では、政治的な偽情報をまき散らすといった生成AIが持つ12の脅威をまとめ、それに対峙するために要求すべきことを11の提言として提示しています。具体的には、既存の法律だけでは守れないプライバシー保護の仕組みを作る、独立した監視機関を設けるといった内容です。日本でも「AIガバナンス」に関する政策議論が続いていますが、そのあり方を考える上で重要な示唆になるでしょう。

 本書の題名にあるように、マーカス氏の疑念の根底にあるのは、巨大AIテック企業への不信感です。AIテック企業が利益ばかりを追求して、どのような印象操作や政府へのロビー活動をしているかが、企業や個人の実名を出しながら赤裸々に語られています。良い面が強調されがちな巨大テック企業の「悪者」としての振る舞いを知っておくことは、AIをよりよく活用するうえで価値があるでしょう。

田村 今後、AIが人間の想像が及ばないレベルまで進化したとき、社会がどうなるのか、どんなリスクがあるのかは、今から考えておく必要はありますね。そうしたハイレベルの議論も重要な一方で、個人や組織が生成AIを実際に活用していく上で、注意すべきことを解説する本も出ていますよね。

安東 はい、11月14日に発売する『 その仕事、AIには無理です。 』です。タイトルがなかなかいいでしょ(笑)?

人間なら自然にできるのに、生成AIにはできないこと

8. 『その仕事、AIには無理です。』髙木裕仁著

『その仕事、AIには無理です。』髙木裕仁著/画像クリックでAmazonページへ
『その仕事、AIには無理です。』髙木裕仁著/画像クリックでAmazonページへ

安東 生成AIって、過剰な期待をされがちなところがありますよね。煩雑な仕事も生成AIならすぐ解決できるだろうと導入してみたものの、思ったほど成果が上がらない…。でもそれは、そもそも生成AIが苦手なことをさせているからで、生成AIが「できないこと」を見極めておかないと失敗すると本書は教えてくれます。

 例えば、ビジネスメールの作成。問い合わせ対応や営業連絡など、繰り返し発生する定型的な業務においては、生成AIに下書きを任せることで、大幅な効率化ができます。一方で、人間なら当たり前にしている配慮、つまり「文脈や温度感を把握する」「言い回しを微調整する」「“あの話題”にはあえて触れない」といったことが、AIは苦手です。

 怒っているのか、単に忙しいだけなのか、あるいは好意的に受け止めているのか、人は相手の様子をうかがい、メールの書き方を微妙に変えることで円滑なコミュニケーションを図ります。現在の生成AIはそこまでの能力がありません。「生成AIを使ってコールセンターでの問い合わせ対応を自動化したら顧客を怒らせてしまった」なんてことになりかねません。

 導入が進むRAG(検索拡張生成)も、生成AIに与えるデータがぐちゃぐちゃだと役に立たない、過去の延長線上にある未来は予測できるけれど、想像していない未来を見据えた経営判断は人間の役割、など示唆に富む内容です。生成AI活用の勘所をおさえられる1冊になっています。

 ここまでトレンドをおさえる本、実践に生かす本などを紹介してきましたが、とにかくまず「RAGなどの専門用語も理解しながら、基本的な知識を押さえておきたい」という人向けに、入門書としてもおすすめできる本があります。

 現在の生成AIやAIエージェントの基本を知りたい方にお薦めしたいのが、『 生成AI 世界を変革するテクノロジー(日経文庫ビジュアル) 』と『 AIエージェント(日経文庫) 』です。どちらも文庫なので、手に取りやすいサイズ・価格なのもお薦めの理由です。

図解やグラフで理解が深まる入門書

9. 『生成AI 世界を変革するテクノロジー(日経文庫ビジュアル)』城塚音也 著

『生成AI 世界を変革するテクノロジー(日経文庫ビジュアル)』城塚音也 著/画像クリックでAmazonページへ
『生成AI 世界を変革するテクノロジー(日経文庫ビジュアル)』城塚音也 著/画像クリックでAmazonページへ

 『 生成AI 世界を変革するテクノロジー 』は、すべてのトピックを見開き2ページで解説しています。図解も豊富でさくさく読めるのが特長です。

 生成AI、LLM(大規模言語モデル)の仕組みから、市場に与えるインパクト、実際の活用方法、生成AIのリスクまで解説。実は「グラフRAG」「大規模推論モデル」など、かなりディープなトピックまで網羅しています。本書を読めば、生成AI関連のニュースもすっと頭に入ってくるようになるでしょう。

専門用語を使わないから初心者でも読みやすい

10. 『AIエージェント(日経文庫)』城田真琴著

『日経文庫 AIエージェント』城田真琴著/画像クリックでAmazonページへ
『日経文庫 AIエージェント』城田真琴著/画像クリックでAmazonページへ

 『 AIエージェント 』の内容は、書名の通り。AIとAIエージェントの基本から、ビジネスでの活用、社会的課題、キャリアへの影響、5~10年後の未来像を、専門用語を使わずにやさしく解説します。

 実は、著者の城田真琴さんには、私がまだ若い記者だった頃、取材で何度もお世話になりました。当時から、最先端のITビジネスのご意見番的な存在でした。本書の最終章では、「『AI株式会社』の誕生」「現実になった『AI店長』」といった刺激的な見出しが並んでいます。そんな未来にわたしたちはどう生きていけばよいのか。基本をおさえつつも、これからわたしたちが持っておくべき視点について考えさせられます。

AIエージェントによって、営業はどう変わるのか。このページでは、「デジタル執事」がいた場合の営業担当者の一日をシミュレーション
AIエージェントによって、営業はどう変わるのか。このページでは、「デジタル執事」がいた場合の営業担当者の一日をシミュレーション
画像のクリックで拡大表示

田村 今後、必要となる知識を身に付けたい人には、日経BPの専門誌編集長とラボ所長の約50人が、期待の技術を厳選して選出した『 日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術 』も参考になると思います。

おさえておきたい期待の技術が100テーマ!

11. 『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』日経BP編

『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』日経BP編/画像クリックでAmazonページへ
『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』日経BP編/画像クリックでAmazonページへ

 この『未来をつくる100の技術』は、日経BPが毎年出しているシリーズで、今後の世界を形づくる注目の技術を100個集めて解説した書籍です。「AI(人工知能)」「エレクトロニクス・モビリティー」「環境・エネルギー」「IT・通信」「建築・土木」「メディカル・バイオ・食農」「ライフスタイル・ワークスタイル」という7ジャンルから、100テーマ紹介しています。AIについては独立した章を設けて、15の最新技術を取り上げています。

生成AIだけの章立てがあり、最新の情報をまとめている
生成AIだけの章立てがあり、最新の情報をまとめている
画像のクリックで拡大表示

 そのほかの分野でもAIに関連する技術はめじろ押し。AI技術の正しい理解と適切な活用が、今後は重要なトピックとなることが分かります。

 本連載で紹介した書籍はいずれも、現代社会、そして今後の世界を生き抜くために必要な知識とスキルを与えてくれるものです。自分なりに関心のあるものから、お読みいただけるとうれしいです。

文/安東一真(日経BOOKSユニット第2編集部長)、田村規雄(技術プロダクツユニット クロスメディア編集部長) 構成・写真/長野洋子(日経BOOKプラス編集)