会社のためではなく、自分のために働く、ということ 』の著者であるチェ・イナさんが来日し、東京・神保町の韓国の書籍を扱う「チェッコリ」で読書会を開催しました。大手企業で会社員として働き、現在は書店を営むチェ・イナさんの仕事の哲学とは。その前編。

あなたは「誰のため」に働くのか

 私は1984年に大学を卒業し、韓国でナンバーワンの広告代理店と言える第一企画(チェイルキフェク)に新卒のコピーライターとして入社しました。そこで29年間働き、50代で退職。現在は自分の書店を経営しながら、執筆活動を行っています。

 もともと、この本の韓国語版のタイトルは『自分が持っているものを世界が求めるようにしなさい』でした。日本語版は『会社のためではなく、自分のために、働くということ』。言葉は少し違いますが、核心を突いたとてもいいタイトルだと思います。

 そう、会社のために働くのでなければ、誰のために働くのか。それは自分自身のためですよね。私がこの本で一番伝えたかったことについて、今日はお話しします。

韓国の大手広告代理店の副社長を務め、50代で会社を辞め、現在は書店を営むチェ・イナさん。韓国で若者に人気だという彼女が語る仕事の哲学とは。
韓国の大手広告代理店の副社長を務め、50代で会社を辞め、現在は書店を営むチェ・イナさん。韓国で若者に人気だという彼女が語る仕事の哲学とは。
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 長く働くには仕事に対する「観点」と「態度」が重要です。そんなときに私が紹介したいのが、ドイツの哲学者・ハイデガーの言葉です。

 ハイデガーは人間を「被投性の連続」であると言いました。被投性とは「投げ込まれた」という意味で、人間はこの世に生を受けるとき、自らの意志で生まれてくるわけではありません。そして、常に自らが求めた場所で生きていけるわけではありません。

 このときに大事なのが「どう対応するか」という態度です。どういう観点で、どうやって一つひとつの課題を解決していくかによって人生が変わっていくのです。仕事も同様です。必ずしも、自分が望む場所で、望む仕事ができるわけではないのです。その中でどうやって課題を解決し、対応していくか。

 そして、もう一つお伝えすると、「観点」と「態度」と同じぐらい重要なのが「問い」です。私も仕事ではさまざまな問いを投げかけながら、自分で解決策を探してきました。書店を営む今もそうです。

 問いを立てるためには、「本」が役に立ちます。本は「問いのかたまり」です。著者が自らに問いを立て、何カ月も、ときには何年もかけて考え続けたことが書かれているのですから。「自分ならこの問いをどう考えるか」ということを意識して読むと、仕事にも活きてきますよ。

仕事=会社だと思うから、働くことが嫌になる

 私自身もこんな問いを投げかけてきました。

 私の仕事の意味は何か? 私はこの仕事を通してどんな価値を生み出しているのか? 私にはどんな才能があり、何が好きなのか? 組織で働くからといって、必ず指示された通りにしなければならないのか? これらの問いが仕事に臨む時の姿勢を作ってくれました。

 そして、昔も今も感じるのは、多くの人が仕事に対して少し受動的というか、消極的な態度で取り組んでいるということです。特に会社で働く人には「自分」と「仕事」の間に「会社」が存在します。多くの人にとって会社は居心地のいい場所ではないでしょう。傷つけられたり、腹が立ったりすることも多いと思います。

多くの働く人にとっては、仕事=会社と捉えがちで、会社が嫌いになると仕事も嫌いだと感じてしまう。しかし、仕事を自分ごととして捉えると向き合い方も変わってくる。
多くの働く人にとっては、仕事=会社と捉えがちで、会社が嫌いになると仕事も嫌いだと感じてしまう。しかし、仕事を自分ごととして捉えると向き合い方も変わってくる。
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 そうなると、いつの間にか会社と仕事を同一化、同一視してしまい、会社が嫌だから仕事も嫌になる。その結果、「どうして会社の仕事をそんなに一生懸命にするの?」「給料が出る分だけ、最低限やればいい。言われたことだけ、やればいいんじゃない?」という考えになってしまうのだと思います。

 しかし、本質的な問題は「会社」にはありません。「会社が問題だ」と考えていると、自分にとって働くとは何かを考えることなく、責任転嫁し続けることになります。忙しくて余裕がないかもしれませんが、「自分にとって仕事とは何か」を一度問うてみてください。

 ここでみなさんに質問します。「あなたは、会社の仕事をしてあげていると思いますか? やっていると思いますか?」。

 例えば、自分が経営者なりフリーランスで仕事をする場合や、会社員でも「この仕事は社運をかけてやっているのだから、頑張らなければならない」と覚悟している場合は、そこに注がれるエネルギーが自ずと変わってきます。自分で仕事を切り開こうとしている人は取り組む姿勢もエネルギーも変わってくるのです。

人生のうちで多くの時間を占める仕事。仕事を「してあげている」のか、「やっている」のかで、人生の豊かさも変わってくるのかもしれない。
人生のうちで多くの時間を占める仕事。仕事を「してあげている」のか、「やっている」のかで、人生の豊かさも変わってくるのかもしれない。
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 私たちが1日24時間のうち、睡眠を除いて一番時間を割いていることは何でしょうか。

 そう、仕事です。

 睡眠、通勤、その他の生活の時間を除くと、基本的に仕事をしている時間が一番長い。さらに今は「人生100年時代」と言われ、寿命だけではなく、働く時間も延びています。私は40歳を過ぎたころ、「働く時間も自分の人生の一部なんだ」と気づき、人生の転換が始まりました。

 人生には「お金」や「健康」など、大切な資源がいくつもありますが、実は一番大切なのは「時間」だと、私は思っています。過ぎた時間は、二度と戻らないからです。

 会社で働く人にとって、働く時間も人生の一部だと考えるなら、会社で過ごす時間をいかに充実したものにするか、真剣に考えてみてください。
 仕事をしてあげている、のではなく、仕事をする、という意識を持ってみると、少しずつ働く時に感じる嫌な気持ちや、受動的な態度が変わっていきますよ。

取材・文/三浦香代子 構成/日経BOOKプラス 木村やえ 写真/鈴木愛子

韓国の大手広告代理店を40代で辞め大学院で学び直した著者は、ある日もう一度働くことを通して社会に貢献すると決め、人々の悩みに寄り添った〈チェ・イナ本屋〉を始める。会社員、起業家、学生と多様なキャリアを歩む著者の言葉や選書が、仕事で悩む人々の評判を呼ぶようになる。「がんばりすぎず力を抜こう」という時代、それでも、仕事をがんばるあなたへ。なぜ、どのように働くのか。本質を問う仕事論。

チェ・イナ著、中川里沙訳、日経BP、1980円(税込み)