「飛ぶゴルフクラブ」と「飛ぶゴルフボール」の選択は本当に最適なのだろうか? 私たちが働く社会にも「交互作用」という見えない力が存在することを知っておいてほしい。書籍『嫌な仕事のうまい断り方』(日経BP)の著者で戦略コンサルタントの山本大平さんに4回にわたって聞いた。今回は最終回。
第1回「
山本大平 『嫌なら断る』嫌な仕事のうまい断り方
」
第2回「
山本大平 『断る』ときこそ言葉に頼ってはいけない
」
第3回「
山本大平 『1万人に1人』より『1000人に1人』を目指そう
」
「マイナス」との出会いが未来につながる
ここまで「嫌な仕事」の種類について、お話ししてきました。「そもそも断っていい仕事」以外は、食わず嫌いせずにチャレンジしてほしいというのが私の持論ですが、今回はそんな「嫌な仕事」や「苦手な人との仕事」を引き受けることによるプラスの効果について考えたいと思います。
まず、次の図を見て、予想してみてください。
ここに2種類のゴルフクラブAとA’が、そして2種類のゴルフボールBとB’があります。ゴルフクラブAはA’より優れた性能を持つと市場で評価されていて、同様にゴルフボールBもB’より優れた性能を持つと市場で評価されています。
では、問題です。この上記の関係から、飛距離を大きくするためには、どのゴルフボールと、どのゴルフクラブを組み合わせるのがいいでしょうか?
簡単ですよね。
「AとBの組み合わせ」と答える方が多いのではないでしょうか。
しかし、答えは違います。正確には「試してみないと分からない」です。
自然界には必ず交互作用というものが存在するからです。AとBの個々の能力値だけではなく、「相性」という交互作用を変数として考える必要があります。そのため、もし、A’とB’の相性が抜群に良ければ、答えが「A’とB’の組み合わせ」になることもあるのです。
簡略化すると、「A」と「B」と「A×B」の3つを足し合わせたものが飛距離を構成する変数と捉えると分かりやすいと思います。「飛ばないと思われていた同士の組み合わせ」が相性次第で大きくなることだってあるのです。
この相性(交互作用)の話は、ビジネス現場での組織編成にも通ずる話です。
最近では、スター人材ばかりを中途採用で集めたがる企業も少なくないですが、私は長らく経営コンサルティングの仕事をしていて、いま社内にいる人材の最適な配置とコンビネーション次第で、成果の最大化は十分に図れると感じています。
「この人とは合わないな」と思った人と取り組んだ仕事が、意外にも大きな成果を生んでいた、ということも経験上、あり得ます。
なので、「嫌」と感じたときこそ、仕事に対しても、人に対しても「とりま、やってみる(とりあえず、まあやってみる)」のが、自分のためにもなると最近では考えるようになりました。
視点を変えますが、今度はこの図のゴルフクラブとゴルフボールをご自身の仕事に置き換えてみてください。特に「嫌な仕事」や「面倒くさい仕事」、そして「苦手な仕事」を想像してみてください。
これらの仕事から逃げ回り経験しなかった場合には、これらの仕事に関するあなたの経験値はゼロになります。交互作用は掛け算なので、そこから交互作用という名の奇跡は決して起こりません。
一方で、嫌々にでも身に付けたスキルが1つ増えると、そのスキルを使って、今度は別のスキルと組み合わせることができるようになります。そして、その選択肢が絶妙な交互作用となって、将来のどこかのタイミングで、あなたの未来を大きく変えてくれることになるかもしれません。
スティーブ・ジョブズも「connecting the dots」と言っていましたが、今やっている仕事が将来どのようにつながるかは誰も分かりません。
最近は、仕事でも組織づくりでも、タイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)、コスパ(コストパフォーマンス=費用対効果)を重視して無難なA×Bばかりが優先されているようですが、そんな時代だからこそ、A’、B’のような「嫌な仕事」「面倒くさい仕事」といった「マイナスとの出会い」をむげに断らないほうがいいと、私は思うのです。
なぜなら、そんな嫌な仕事が未来の交互作用となって、あなたを次なるステージへと導いてくれるかもしれないからです。
「仕事を断れるキャラ」に設定しておく
さて、これまで「嫌な仕事は、実は引き受けたほうがいいかも」といった話をしてきました。とはいえ、「嫌な仕事の断り方」の真意も話しておきたいと思います。
まず、嫌な仕事を断ったからといって、「次から仕事が来なくなるのでは?」と心配する必要はありません。ただ、そのためには、自分を「断れるキャラ」に設定しておく必要があります。
例えば、嫌な仕事を無理して引き受けたとします。でも、やっぱり、嫌だった。それで「もう無理。次こそは断るぞ!」と、次のときは意を決して断った。すると、相手からすると、「この前は引き受けてくれたのに、何だよ……」と期待の落差が大きくなってしまいます。
なので、日頃から「素の自分」を出しておいてください。もう少し詳しく言うと、自分を良く見せちゃダメで、等身大、あるいは自然体でいてください、ということです。「実家でジャージを着てコタツに入っているぐらいのレベル」で全然かまいません。そして周囲には素の自分を認識してもらって、その上で、人と関わるようにしてみてください。
そうすれば、あなたが勝手に思う「嫌な仕事」そのものを振られる確率はうんと下がります。仕事を振る側の心理を言うと、成果を出してほしいがゆえに誰に向いているかを考えて、その仕事を誰かに振るわけですから。
つまり、あなたが素を演じることで、仕事を断る機会すら事前に減らすことができます。これが「嫌な仕事のうまい断り方」の真骨頂です。
そして嫌な仕事の正体は、多くの場合、「何かしらのミスマッチ」なのです。なので、嫌な仕事を断りたかったら、いえ、嫌な仕事に遭遇する機会を減らしたかったら「ミスマッチ」を自らの振る舞いによってなくしていくのです。
「嫌われたくない」「よく思われたい」がゆえにあなたが偽りの自分を職場で演じてしまうから、「ミスマッチ」が起きてしまいます。一方で「初めまして」のタイミングから素の自分で人と接すれば、その段階で「この人はそういう人」と認識されます。
そして、反対に、素のあなたに合った仕事や人が勝手に寄ってきます。多くの人はそんな人を「運の良い人」と思うようです。ただし、日々の自身のスキルアップは怠らないでくださいね。そうしないと、その運は、どこか別の人のもとへ行くようですから。
「8:8:8の法則」を心がける
そうやって自然体な時間を職場で過ごせるようになると、あなたの仕事の効率も成果も自然と上がってきます。そうすると徐々に時間的な余裕も生まれます。そこで満足せずに、その浮いた時間をさらに有効活用すること、「8:8:8の法則」を活用してほしいと思います。
まず、最初の8時間は睡眠時間。「そんなに寝てもいいのか」と思う人がいるかもしれませんが、睡眠は仕事の基本です。脳のパフォーマンスを上げるだけでも、真ん中の8時間である「職場の仕事」を時間内に終わらせることができます。名だたる経営者は睡眠時間や寝具を大事にしていますし、今や寝ていない自慢は時代遅れです。
そして、後ろの8時間が「自分の時間」になります。ここでスマホや動画を見てダラダラするはもったいない。ぜひ2つの行動を心がけてみてください。
まず1つは、自分の職場や同じ業界にいる人とは離れて、異業種の方々と接する時間を作ること。あなたの業界から遠ければ遠いほどいいでしょう。そこで出会う新しい価値観や知識は、職場の8時間では決して得られないあなたの資産になります。
そしてその資産が増えれば増えるほど、真ん中の職場での8時間で、その資産が武器として活用できます。その結果、3つの「8」が有機的にからみ出して、あなたのキャリアに好循環な流れが起きます。
とはいえ、仕事の8時間で疲れている人もいるでしょう。そんなときはリラックスしたり、自分の脳を整えたりするために時間を使ってください。要は何事もバランスです。
時間の使い方のバランス、嫌な仕事を受け入れるバランス、自分がより自然体でいられるバランス、これらの組み合わせ(交互作用)も、あなた自身が長らく「嫌な仕事」に付き合って生きていく秘訣です。
「この仕事に意味があるのか」と思う前に
今の若い世代は情報収集にたけていますから、X(旧Twitter)でいろんな人をフォローし、YouTubeで動画を見て……と、手軽に情報を仕入れていると思います。
ぜひ、ここで、第2回でお伝えした「情報の質はリアルが一番優れている」を思い出してください。私は人脈という言葉はあまり好きではないのですが、人とのつながりが多ければ多いほど、交互作用を生み出しやすくなります。
例えば、職探しをする場合です。ネットで調べるだけで「なんだか大変そう」「給料が安いな」と選択肢に入れていなかったけれど、直接話を聞いてみたら、実は希少性の高いスキルが身に付く可能性に気づくかもしれません。
残念ながら、実際に大変な仕事だったとしても、最低限「出会い」だけは残ります。僕もトヨタ時代にお互いに性格の合わない同僚がいたのですが、なぜかトヨタを辞めてからのほうが何でも気軽に相談し合える間柄になりました。
そうやって出会いと「嫌な仕事」の取捨選択を繰り返しているうちに、「これは面倒くさそうだけど、引き受けておいたほうがいいな」という選球眼も養われてきます。実は自分がボールソーンだと思っていた範囲まで、時代の流れ的にはストライクゾーンになっていた、ということも起こり得ます。
自分の中で「没頭できる仕事」が出てきたら、それが「自分に向いている仕事」です。私もトヨタ時代に無茶振りされた(していただいた)データサイエンスの仕事が、今では戦略コンサルタントとしての自身の差別化要因になっています。
嫌な仕事を目の前にすると、つい「この仕事に意味があるのかな?」と考えがちですが、「将来にどんな交互作用をもたらすか未知数だ」と捉えられれば、意味のあるものに昇華できます。
そして、これからの時代は終身雇用の時代から「転職前提の時代」に変わります。「何ができるのか」を問われたときに、使えるスキルは多いほうがいい。そして、新しい職場でなじめる能力もスキルの1つに加算されます。
普段から新種の価値観に出会う行動をしていなければ、そのスキルも得られません。交互作用の種を「スキル軸」と「カルチャー軸」で1つずつ育てるつもりで、むげに仕事や人を断らないようにしてみるのがこれからの時代にフィットした1つの生き方なのかもしれません。
取材・文/三浦香代子 取材・構成/栗野俊太郎(日経BOOKSユニット) 写真/鈴木愛子
その仕事、やる意味あるのかな? 嫌なものは嫌。断っていいんです。つらい職場を脱出するテクニックから自分主体の人生を生きるためのキャリア構築まで、戦略コンサルタントが導きます。
山本大平著/日経BP/1650円(税込み)




