未経験の仕事を避けていないだろうか。未経験の仕事は、将来、自分自身の役に立つこともある。変化に対応し、異なる分野でスペシャリストとなる。そのための目標設定は、高くなくてよい。書籍『嫌な仕事のうまい断り方』(日経BP)の著者で戦略コンサルタントの山本大平さんに4回にわたって聞いた。今回は第3回。

第1回「 山本大平 『嫌なら断る』嫌な仕事のうまい断り方
第2回「 山本大平 『断る』ときこそ言葉に頼ってはいけない

食わず嫌いはチャンスを逃す

 第3回は「やったことがない」ために「嫌な仕事」となっているパターンについてお話ししたいと思います。

 特に社内でも新しい仕事──今なら、生成AI(人工知能)を使って何か新しい事業を企画する、といった内容だと、誰にも仕事の進め方を聞けないし、どこから手を着けていいのか分かりませんよね。そして、その根幹には「やったことがないから怖い」という恐れもあるのだと思います。

 でも、実は社内、あるいは人類で誰もやったことのないような仕事こそ、「10年後の自分を助ける仕事」になるかもしれません。おそらく「10年後にどんな仕事をしていますか?」と聞かれて、即答できる人は少ないでしょう。自分も社会もどう変わっているか、予測できないのではないでしょうか。そう考えると、「やったことがないから怖い」と新しい仕事を避けてしまうのはとてももったいないことです。

 実は、私自身もそうした経験があります。トヨタにいたとき、統計分析について学び、社内のデータサイエンスの大会に参加するように言われ、嫌々ながらも取り組んだのです。そのときに食らいついたおかげで、今ではAIや機械学習に精通した戦略コンサルタントとして活動しています。

 「バスケットボールの神様」と呼ばれるマイケル・ジョーダンも、学生時代には野球やアメフトをしていた時期があります。そうやっていろんな部位の筋肉や身体の使い方を鍛えていたからこそ、他のバスケットボールプレーヤーにはない活躍ができたのかもしれません。

「嫌な仕事が今の仕事に役立った」と話す山本さん
「嫌な仕事が今の仕事に役立った」と話す山本さん
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ケガがホームランを呼び込む

 高校時代、私は野球部に所属していましたが、腰椎分離症という病気になったことがあります。そのときは痛くて歩くのもままならない状態で、どこの病院に行っても「野球をやめろ」と言われる日々を過ごしていました。高校球児にとってその決断は絶望そのものです。

 しかし、ある日、大阪難波の病院でJリーグのスポーツドクターに診てもらったら、その医師は「腹筋と背筋を鍛えたら、ぜったい治るから安心せぇ」と言うのです。痛みの原因はハードな練習で分離(疲労骨折)した腰椎が脊髄の神経に触れているため。腹筋と背筋を鍛えれば、コルセットのように分離した腰椎を固定してくれるため、痛みがなくなるという説明でした。

 そこから、病院が管轄するスポーツジムに通い、医師の指示通り、腹筋と背筋を鍛える日々が始まりました。同時にそこはスポーツ科学をいち早く国内のプロスポーツに取り入れたジムだったので、腰以外の筋肉も科学的に鍛えてもらうことになりました。例えば、「野球選手の腕は、屈筋群ではなく伸筋群を重点的に鍛えるといい」と指導され、1キロほどの軽めのダンベルで腕の筋肉を鍛えました。その光景は「プロ」という言葉に反してすごく「地味」なんです。決して重たいベンチプレスを持たせてくれるようなジムではありませんでした(笑)。

 そして3カ月後、本当に腰椎分離症が治りました。また驚くことに、練習に復帰したら、紅白戦でホームランを打てるようになっていたんです。ジムに通うまでは私は非力な選手で、野球に必要な腕の伸筋が弱かったため、柵越えしたことは一度もありませんでした。チームメンバーも、「練習休んでジムに行ってただけやのに、なんでやねん!」と驚いてくれました。

 そうしたら、メンバーも「俺も腰が痛い」と言って、そのスポーツジムに通い出して(笑)。そこからうちの野球部は強くなり、高3のときには強豪ひしめく大阪府の甲子園予選で4回戦まで進むことができました。

 このときに思ったのは、「ケガをして良かったな」ということ。「ケガ」というスポーツ選手にとって一番避けたいことから逃げず、まじめにリハビリに取り組んだ結果、「ホームラン」というセレンディピティ(思いもよらない幸運)が舞い込んできました。

 だから、「嫌な仕事」を振られたとしても悲観的になる必要はありません。もしかしたら、「嫌な仕事」や「嫌なアクシデント」は「女神の前髪」でチャンスなのかもしれません。逆境時に「嫌だ、終わりだ」と嘆いてふさいでいると、そのせっかくの前髪に気づかないかもしれませんよ。変化点こそチャンスです。

使える魔法を増やす

 ここで「社内の新しい仕事」に話を戻すと、生成AIでも、データサイエンスでも怖がらずにやってみるといいと思います。社内でエクセルの達人は何人もいるかもしれませんが、まだChatGPTやStable Diffusionを使いこなせる人は少ないですよね。社内で新しい仕事ほどスペシャリストが少なく、自分が一番乗りになれる可能性があります。

「新しい仕事にチャレンジしてほしい」
「新しい仕事にチャレンジしてほしい」
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 そして、強調しておきたいのは、その分野で「1万人に1人」にならなくても、「1000人に1人」ぐらいになれれば十分だということです。今の時代は特定分野で道を究めるよりも、また違うジャンルで「1000人に1人」になれるよう軸足を移し、いつでもそのスキルを使えるようにしておいたほうが世の中の変化に対応できます。

 これは、RPG(ロールプレイングゲーム)で登場する「魔法使い」のように、自分が戦闘時に使える魔法を1つ、2つと増やしていくイメージですね。ビジネス界でも、例えば2つの分野で「1000人に1人」になれれば、「1000人に1人×1000人に1人」で「100万人に1人」になって重宝されます。

 ただ、その際に習得する魔法は選ぶべきです。例えば、「日本刀を作れる魔法(仕事)」を職場で要求されたのなら、その仕事は「そもそも断っていい」仕事です。なぜなら、ビジネスとしてはこれから市場価値が拡大する可能性が少ないからです。

 少し極端な例を挙げましたが、ダウントレンドな仕事よりアップトレンドな仕事を選んだほうがあなたは必要とされます。なので、今だと、生成AI系の仕事(魔法)やデータ利活用系の仕事(魔法)がお得ではないでしょうか。

 ぜひ、食わず嫌いせずに「新しい仕事」にチャレンジしてほしいと思います。

取材・文/三浦香代子 取材・構成/栗野俊太郎(日経BOOKSユニット) 写真/鈴木愛子

これからの時代、「いい人」だけでは詰む。

その仕事、やる意味あるのかな? 嫌なものは嫌。断っていいんです。つらい職場を脱出するテクニックから自分主体の人生を生きるためのキャリア構築まで、戦略コンサルタントが語ります。

山本大平著/日経BP/1650円(税込み)