世の中には、「努力」し続けられる人と、そうでない人がいます。努力できる人は、目標に向かって着実に歩みを進め、大きなことを成し遂げることができます。一方、努力が苦手で何事も中途半端になってしまう人も少なくありません。努力できる人とできない人の差は、いったいどこにあるのでしょうか。この連載では、人間の行動と心理について長年研究し、行動経済学・ナッジを基に企業へのコンサルティングを行っている経済学者・山根承子さんが、「努力ができる人とできない人はなぜいるのか?」「努力をしておくといいのは本当か?」「正しい努力とは何か?」「どうすれば努力できるのか?」という観点から、「努力」を科学で解明します。4回目のテーマは、「運に頼る人」について。運と努力の関係性を見ていきます。
努力の反対側?「運まかせ」
この連載ではこれまで、努力というものを「将来と現在のトレードオフ」という観点から考えてきた。「将来」の報酬を得るために「今」支払えるコストの大きさ。それが努力の大きさであり、努力できるかどうかは、将来の報酬の見え方や、現在のコストの感じ方といった「個人差」に依存しているということだ。
このような時間にまつわる個人差のほかにも、「努力」に影響していそうな価値観や個人特性はある。例えば、自分の力でどのくらい結果を左右できると思っているかによって、努力の程度は変わってきそうである。「結局は運で決まる」と思っている人は、あまり努力しようとはしないだろう。逆に「全ては自分次第だ」という考えの人は、努力を惜しまないだろう。今回は「運」について考えることで、「努力」を反対側から見ていきたいと思う。
「物事は自分の力で決まるか、運で決まるか」、心理学ではこれを「統制の所在(LOC:Locus of Control)」と呼ぶ。そして、自分の能力や技能によって物事の原因をコントロールできるという考え方を「内的統制(Internal Control)」、逆に原因が運や他者などの要因で決まるという考え方を「外的統制(External Control)」という。
あなたはどちらが強いだろうか? 内的統制と外的統制のどちらが強いかを測定するI-E尺度(Internal-External Scale)で測ってみよう(1)。
物事は自分の力で決まる? 運で決まる? あなたの心理を読み解くテスト
以下にさまざまな文が並んでいます。それを読んで、あなたがそれらの意見についてどのように思うか、一番合っていると思う番号(1~4)を選んでください。
4: そう思う
3: ややそう思う
2: ややそう思わない
1: そう思わない
(1)* あなたは、何でも、成り行きにまかせるのが一番だと思いますか。
(2) あなたは、努力すれば、立派な人間になれると思いますか。
(3) あなたは、一生懸命話せば、誰にでも、分かってもらえると思いますか。
(4) あなたは、自分の人生を、自分自身で決定していると思いますか。
(5)* あなたの人生は、運命によって決められていると思いますか。
(6)* あなたが、幸福になるか不幸になるかは、偶然によって決まると思いますか。
(7)* あなたは、自分の身に起こることは、自分の置かれている環境によって決定されていると思いますか。
(8)* あなたは、どんなに努力しても、友人の本当の気持ちを理解することはできないと思いますか。
(9)* あなたの人生は、ギャンブルのようなものだと思いますか。
(10) あなたが将来、何になるかについて考えることは、役に立つと思いますか。
(11) あなたは、努力すれば、どんなことでも自分の力でできると思いますか。
(12) あなたは、たいていの場合、自分自身で決断したほうが、良い結果を生むと思いますか。
(13) あなたが幸福になるか不幸になるかは、あなたの努力次第だと思いますか。
(14) あなたは、自分の一生を思い通りに生きることができると思いますか。
(15)* あなたの将来は、運やチャンスによって決まると思いますか。
(16)* あなたは、自分の身に起こることを、自分の力ではどうすることもできないと思いますか。
(17) あなたは、努力すれば、誰とでも友人になれると思いますか。
(18)* あなたが努力するかどうかと、あなたが成功するかどうかとは、あまり関係がないと思いますか。
全て回答できたら、以下のように計算してみてほしい。
【*印の付いている質問】
そう思う=1点、ややそう思う=2点、ややそう思わない=3点、そう思わない=4点
【印の付いていない質問】
そう思う=4点、ややそう思う=3点、ややそう思わない=2点、そう思わない=1点
点数が高いほどあなたは内的統制、つまり「自分の力が結果に関係する」と見なしていることになる。
なお、この「統制の所在」は自己効力感と似た概念だが、学術的には異なるものとして扱われている。
運か努力か、「結果を出す人」が大事にしているのはどっち?
LOCについては数多くの研究が行われており、LOCが決定要因となっている事象も多く示されている。
例えば面白いのは、低所得であっても、内的統制の強い人はあまり不幸を感じていないという研究だ(2)。内的統制が強いと、「所得が低い」という状況も自分の力で変えられると信じているため、そこまで不幸だと感じないのだといわれている。「自分が努力しさえすれば所得は上げられる」と信じているともいえる。
一方、「全ては運で決まる」と思っている外的統制の強い人は実際にあまり努力をしないことが、リハビリの研究で明らかになっている。
病気や治療に関するLOCを測定するための、Multidimensional Health Locus of Controlという尺度があり、医療関係の研究ではこれがよく用いられている。質問項目の一部を紹介すると、
「病気になったときどのくらいで治るかは、自分自身の行動で決まる」
「私が何をしようと、病気になるときはなるものだ」
「私は自分の健康を自分でコントロールできる」
「私の家族は、私が病気になったり、健康を維持したりすることに大いに関係がある」
「私の健康は、主に幸運の問題である」
「私の健康に影響を与える主なものは、私自身が行うことである」
「自分の体調に気をつければ、病気になることはない」
「健康に関しては、医師に言われたことをやるしかない」
というようなもので、これらの質問に「強く反対する」の1点から「強く賛成する」の6点までの6段階で回答する。
これを用いて、脳卒中の患者のリハビリ効果とLOCの関連を調査した研究がある(3)。結果は、リハビリ開始時の内的統制が強い人(つまり「自分の力でどうにかできる」と思っている人)ほど、リハビリ後の自立度(介助なしで行える身の回りの行動の数)が向上しており、統計的に有意な正の相関(r=0.72)があったというものだった。
この研究では同時に、高齢者は若年者よりも内的統制が弱いことも示されている。年を取ると「自分が頑張ってもなるようにしかならない」という気持ちになっていくということだろうか? 心に留めておきたいことである。
また同様に、慢性腰痛に対するリハビリの効果を調査した研究(4)でも、内的統制の強い人は、治療1カ月後に症状が有意に改善していた。
「運を大事にする人」が結果を出す方法
もっと身近な例として、内的統制の人のほうがダイエットを頑張ることを明らかにした研究もある(5)。この研究では、過去に体重の10%以上減量した人を対象にしており、そのまま減量を維持している人と、体重が戻ってしまった人に分類し、それぞれの統制の所在を調査した。
その結果、内的統制の人は減量を維持している傾向が強かった。内的統制の人と外的統制の人で、食事の量や内容の差は見られなかったが、内的統制の人のほうがよく運動していることも分かった。
この研究で面白いのは、内的統制の人は「自分で努力して減量した」人が多かったが、外的統制の人は「医療や健康のプロフェッショナルの力を借りて減量した」人が多かったことだ。統制の所在によって、「努力するための工夫」が異なっていることを示唆している。
ある人の統制の所在が分かれば、その人が努力するタイプかどうかを知ることができるかもしれない。
もしそれで「努力しないタイプ」、つまり外的統制だと分かっても、落胆することはない。外的統制であるならば、自分一人でやろうとはしないことだ。家族や友人、専門家など周囲の積極的なサポートを適切に利用すれば、努力を継続することができるだろう。
そしてもし可能であるならば、内的統制になるような意識改革をしよう。つまり努力したいと思っている物事に対しては「運ではなく、自分の力で結果を変えることができるのだ」と信じることである。
(1) Rotter, J. B. 1966 "Generalized expectancies for internal versus external control of reinforcement" Psychological Monographs. vol. 80 (1).
(2) Lachman, M. E., and Weaver, S. L. 1998 "The sense of control as a moderator of social class differences in health and well-being" Journal of Personality and Social Psychology. vol. 74 (3), pp. 763-773.
(3) Rapolien, J., Endzelyt, E. JaseviIien, I., and Savickas, R. 2018 "Stroke Patients Motivation Influence on the Effectiveness of Occupational Therapy" Rehabilitation Research and Practice. Volume 2018.
(4) Keedy, N. H., Keffala, V. J., Altmaier, E.M., and Chen, J. J. 2014 "Health locus of control and self-efficacy predict back pain rehabilitation outcomes" The Iowa Orthopaedic Journal. vol. 34, pp. 158-165.
(5) Anastasiou, C. A., Fappa, E., Karfopoulou, E., Gkza, A., and Yannakoulia, M. 2015 "Weight loss maintenance in relation to locus of control: The MedWeight study" Behaviour Research and Therapy. vol. 71, pp. 40-44.
- 「努力」の反対は「運まかせ」!? 努力が苦手な人ほど運を重視しがちである。
- 「なるようにしかならない」「やっぱり運は無視できない」という人が結果を出すためには、周囲からのサポートが大事。
- 「人生は自分の力で変えられる」と信じることで、努力は続けやすくなる。