AI(人工知能)は今、バブル状態にある。そのバブルは深層学習を基礎とした生成AIの登場によって急速に膨張した。しかしバブルであるがゆえに、いつかそれは必ず崩壊し、そしてその瞬間は間もなく訪れる。本コラムでは書籍『AIバブルの不都合な真実』(クロサカタツヤ著、日経BP)から抜粋し、AIをめぐる現在の状況を筆者が「バブルである」と断言する理由について、根拠となる事実や数字を交えて解説する。第4回は投資家やビッグテックの動向から考察を。

バブル崩壊の兆候

 前述のようなバブル的熱狂に対し、すでに各方面から警鐘や調整の兆しが現れている。具体的には、投資を主導してきた大手企業が計画を見直し始めたこと、各国当局や専門家が「このままでは危険だ」と指摘し始めたこと、そして市場参加者の間でもAIブームを疑問視する声が出てきたことが挙げられる。

 こうした懸念は、大量の資金をAIインフラに投入してきた巨大テック企業が「躊躇(ちゅうちょ)」の兆候を見せ始めていることで、少しずつリアリティーを持ち始めている。

 例えばマイクロソフトは、オープンAIとの提携強化などに伴い大規模なAI対応データセンター建設を各地で進めてきたが、2024年末~2025年にかけてその計画を一部見直す動きを見せた。同社は2024年末、アメリカ中西部オハイオ州で進行中だった10億ドル規模のデータセンター建設プロジェクトを「需要動向を見極める」として一時停止・保留すると発表注7した。さらに他地域でも「計画のペースを戦略的に緩める」方針を示し、実際にウィスコンシン州での大規模施設拡張を延期するなどの措置を取っている。

 マイクロソフトは声明で「クラウドとAIサービス需要が近年我々の予想以上に急拡大したため前例のない規模のインフラ拡張に踏み切った。しかし学習を重ねる中で、計画を機動的に調整する必要が出てきた」と説明し、当面は既存計画の一部を「スローダウンまたは一時停止する」と述べている。

 この背景には、膨張を続けるAI需要に対し供給(インフラ整備)が先行しすぎた可能性や、オープンAI側が独自の計算資源確保に動きだしたことによる需給見直しがあると報じられる。いずれにせよ、「AIならいくら投資しても足りない」とばかりに突き進んでいたトップ企業が一息ついた事実は、市場全体にとって重要な転機である。実際このニュースは「大規模言語モデル需要が想定ほどではない可能性」を示すシグナルと受け止められた。

 そして重要なのは、AIスタートアップ企業は、総じて収益モデルを確立できていないということである。米ネットメディアのThe Informationによる注8と、米パープレキシティAI(Perplexity AI)の24年売上高は3400万ドルにとどまり、赤字続きで身売りの話も絶えない。オープンAIは年間売上こそ100億ドルに達したものの、半導体調達やクラウドの費用で赤字が続き、投資家からの追加出資に頼ったままである。グーグルの売り上げは、結局のところ現在も4分の3が広告関連収入注9である(図表)。

図表 米アルファベットの2025年4-6月期の売上高の内訳
図表 米アルファベットの2025年4-6月期の売上高の内訳
画像のクリックで拡大表示

 市場関係者の間でも、AIブームを「ババ抜き」や「チキンレース」になぞらえる声が上がっている。ババ抜き(古典的なトランプゲーム)は最後にジョーカーをつかまされた者が負けるゲームであり、バブルにおける「高値づかみで逃げ遅れた投資家」の比喩として使われる。一方のチキンレースは、崖に向かって車を走らせ、先にブレーキを踏んだ方が負けという度胸試しだ。

 生成AIはモデル開発やデータインフラの利用、さらに人材確保に巨額の資金が必要だ。先行投資を回収する道筋を描き切れておらず、体力勝負のチキンレースが続く。このように、当事者たち自身もブームの不健全さを半ば自覚し始めた状況は、バブルが最高潮に達しつつあるサインでもある。かつてのITバブル時にも「靴磨きまで株の話をしている」といった寓話(ぐうわ)があったが、現在のAIブームでも同様に、冷静な人々には熱狂の行き過ぎが見えてきている。

夢から覚める瞬間が迫っている

 歴史をひもとくと、多くのバブル崩壊は、最も熱狂した局面で訪れることが多い。そしてバブルの中にいる人は「まさか」と言い、わずかでもそこから外れた人は「やはり」と言う。我々はいま正にその境目にいる。

 2024年後半から、生成AIブームに対して冷静な視点から疑問を呈する声が急速に増え始めた。その一つは収益面からの指摘である。米著名VC(ベンチャーキャピタル)のセコイア・キャピタルは2023年に「肝心の収益はどこにあるのか?」という問いを業界に投げかけ、約1年後の2024年末になっても満足のいく答えが得られなかったことで「AIバブルは臨界点に達しつつある」と警鐘を鳴らした。

 米ゴールドマン・サックスの最新レポートでも「生成AIには過大な支出がなされているが、得られる利益はそれに見合っていないのではないか」と問題提起がなされ、同社株式調査責任者は「AI技術の運用コストは極めて高額であり、その費用を正当化するには本来AIが極めて複雑な問題を解決できねばならない。しかし、現状の生成AIはそこまでの能力を備えていない」と率直に認めている。すなわち、巨額の設備投資(GPUやクラウド計算資源への投資)に対し、それを埋め合わせる十分な収益が上がっておらず、この構造的な収支ギャップの解消策も不透明だという指摘である。

 実際、生成AIブームの渦中にあっても、一部のAI先進企業を除く多くの企業は、いまだ生成AIの製品やサービスから直接的な収益をほとんど得られていない。なにしろ企業向けソフトウェアに生成AI機能を追加しても、顧客のデジタル関連予算はすぐには増えない。利用者数の爆発的増加やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)提供による一部収入はあるものの、それは多額の計算資源コストとトレードオフであり、「収益なき熱狂」というバブルの典型的な兆候が顕在化しつつある。

 さらに重要なのは、技術的側面からも過剰な期待と現実との乖離(かいり)が露呈しつつあるということだ。LLM(大規模言語モデル)による生成AIは確かに高度な文章や画像を生み出すが、その裏ではハルシネーション(幻覚)の問題が残存し、誤った回答を自信満々に返す問題が根本的に解決されていない。

 生成AIが実務に堪え得るレベルで安定した成果を出せる分野は限定的であり、実際に企業の生産性向上につながったという明確なエビデンスも乏しい。米国ポモナ・カレッジ経済学部のギャリー・スミス教授は、「生成AIの価値は利用者数や利用料金ではなく、それがどれほど経済的利益を生み出し労働生産性を改善したかで測られるべきだが、その点で大きな貢献をした証拠は極めて少ない」と指摘注10している。

 技術の成熟度を示す米ガートナーの有名な指標「ハイプ・サイクル」においても、2024年には生成AIが過度な期待のピークを過ぎ「幻滅の谷」に差しかかったとされる。熱狂的な期待が一巡し、実利に厳しい評価が下され始めたということである。

 マクロ経済環境の変化も、ブームの持続性に影を落としている。コロナ禍が収束した2023年以降の世界的な金融引き締めで金利が上昇し、かつてのような「ゼロ金利マネー」に支えられた潤沢な投資資金を集めにくくなった。かつてはほぼ無利子で借りられたお金が、いまや利子を上回るリターンを要求し始めているのである。

 リスクマネーの減少は成長期待だけで高騰していた企業評価に揺り戻しをもたらし、2023年末から2024年にかけて一部の未上場AIスタートアップではダウンラウンド(評価額引き下げによる追加資金調達)に追い込まれる例も現れ始めている。バブルをあおり続けた資本市場自身が、手のひら返しを模索し始めているということである。

ビッグテックや投資家も「崩壊」を意識している

 一部のビッグテック企業自身も、生成AIに対する期待値の調整を図り始めている。例えば米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)やグーグルといったプラットフォーム企業は、「生成AIの導入には高コストが伴い、現時点では精度の問題もあり、直ちに大きな価値創出に結びつくとは限らない」と社内外に伝え始めた。いわばダメージコントロールへの着手である。

 もっとも彼らは同時に、自社クラウド事業にとってAIは依然有望な収益源であるため、慎重な物言いをしつつも根底ではAIブームを歓迎するという微妙な立場を取っている。自らマッチポンプを演じるわけにはいかないため、成り行きに身を任せるしかないという、警戒すべき状況に入っているように見える。自らを守るために「君子は豹変(ひょうへん)す」という可能性があることを、意識すべきだろう。

 このように供給側ですら熱狂をうのみにせず現実的な視点を示し始めたことは、市場全体のモメンタムが変化する潮目であることを表している。こうした状況証拠が積み重なった結果、生成AIブームが典型的なハイプ・サイクルの「幻滅期」へ移行しつつあるとの見方が広がり始めている。また、前述のセコイアやゴールドマン・サックスによる提言に加え、エド・ヤルデニ氏、ジム・コベロ氏、ケン・グリフィン氏など錚々(そうそう)たる市場関係者も「AIバブル崩壊の可能性」に言及し始めた。

 現在の生成AIブームも、規制や資金環境の変化で徐々に空気が抜けつつあるとはいえ、完全にはじけるまでにはなお時間がかかるかもしれない。その間に投資家や企業が軟着陸の道筋を付け、実需に見合ったかたちで産業を成熟させられるか、それとも誰かが「引き金を引く」かたちで急激な崩壊を迎えるのか―。まさにいま、夢から現実へと覚める臨界点が迫っているのである。

 バブルがいつはじけるかを正確に予測することは困難だ。金融市場においてバブルは往々にして一定期間は自己増殖的に膨張を続ける傾向があり、ゴールドマン・サックスのレポート「生成AI:支出は多過ぎ、便益は少な過ぎ?(原題 GEN AI:TOO MUCH SPEND,TOO LITTLE BENEFIT?、2024年6月発行)」注11でも、「たとえAIが約束を果たさなくとも、バブルはすぐにははじけず投資家にリターンをもたらし得る」と指摘している。

 しかしこれは楽観論にすぎない。なぜなら前述の通り、すでにAIは現実に着地しない理想の世界をさまよい始めているからだ。そしてそのバブルは長く続くほど破裂した際のダメージも大きいと考えれば、楽観論の台頭は現実から目を背けているという意味において、危険な兆候でもある。

 断っておくが、AIバブルの軟着陸が可能ならそうあってほしいと、筆者は願っている。しかし、金融、技術、政策、社会という、今日のAIを構成する4つの要素で不確実性が高まっている以上、現実を直視しなければならない。

AIブームは、実需に見合うかたちで産業を成熟させられるのか、あるいは急激な崩壊を迎えるのか。夢から現実へと覚める臨界点が迫っている(写真:Nikomiso/stock.adobe.com)
AIブームは、実需に見合うかたちで産業を成熟させられるのか、あるいは急激な崩壊を迎えるのか。夢から現実へと覚める臨界点が迫っている(写真:Nikomiso/stock.adobe.com)
注7 https://apnews.com/article/microsoft-ai-data-center-pause-ohio-4d987fe8446fc9e6cda31d919f938911
注8 https://www.theinformation.com/articles/google-challenger-perplexity-growth-comeshigh-cost
注9 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN238340T20C25A7000000/
注10 https://www.pomona.edu/news/2025/02/20-economics-professor-gary-smith-warnsabout-ai-bubble
注11 https://www.goldmansachs.com/insights/top-of-mind/gen-ai-too-much-spend-toolittle-benefit/

(書籍『AIバブルの不都合な真実』を基に再構成)

日経クロステック 2025年10月8日付の記事を転載]

2025年現在、世界は明らかにAIバブルのただ中にある。投資の過熱、不透明な評価、過剰な期待、未成熟な制度、そして現場の混乱……どれをとっても、2000年前後のドットコム・バブルやスマートフォンバブルと酷似している。泡がはじけ、地面が見えるからこそ、本当に根付く技術が選ばれ、その技術を「正しく使える者」が生き残る。本書はAI技術の真贋を見極め、正しく使うための視座を提供する。

クロサカタツヤ著/日経BP/2530円(税込み)