AI(人工知能)は今、バブル状態にある。そのバブルは深層学習を基礎とした生成AIの登場によって急速に膨張した。しかしバブルであるがゆえに、いつかそれは必ず崩壊し、そしてその瞬間は間もなく訪れる。本コラムでは書籍『AIバブルの不都合な真実』(クロサカタツヤ著、日経BP)から抜粋し、AIをめぐる現在の状況を筆者が「バブルである」と断言する理由について、根拠となる事実や数字を交えて解説する。第3回はクリエイターとの摩擦について考察を。

AIがバブルであると断言する理由3:クリエイターとの摩擦

 現在の生成AIバブルを特徴付けるのが、一発芸のような無駄なAI利用が次々と流行しては廃れる現象である。

 典型例が2025年春に一部でブームとなった「ジブリ風自画像AI」だ。オープンAIの画像生成モデルが公開された際、同社CEO(最高経営責任者)のサム・アルトマン氏が自分のX(旧Twitter)のアイコンを“スタジオジブリ風”イラストに変えたことを発端に、スタートアップ界隈から一般ユーザーまで我先にと自分の写真をアニメ風に加工してSNSに投稿する熱狂が起きた(図表)。歴史的写真やミーム、著名人の肖像まで次々と「ジブリ化」され、「誰もがジブリの世界に入り込んだような」様相を呈した。

図表 オープンAIのサム・アルトマンCEOのXアカウント(2025年8月キャプチャー)
図表 オープンAIのサム・アルトマンCEOのXアカウント(2025年8月キャプチャー)
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 こうした即席ノスタルジーを楽しむ動きはSNS上で一気に拡散し、わずか数日で数千万ビュー規模の閲覧数を記録する投稿も現れたという。しかしその盛り上がりも一過性にすぎず、瞬く間に人々の関心は他へ移っていった。類似のブームは過去にも繰り返されており、写真をイラスト化するアプリや、一時的な流行語を題材に画像を量産するサービスが乱立しては消えていく様子は、まさに「瞬間風速だけ」の焼き畑的な消費である。

 一方で問題なのは、これら一発芸ブームがプロフェッショナルな創作者の活動基盤を侵食し、しかもその解決策が見いだせていない点である。これが、現在のAIがバブルだと断言する第3の理由だ。

 ジブリ風AI画像ブームに対しても、「手描きアニメーターが積み上げてきた時間と労力をワンクリックでまねるのは倫理的に問題だ」「著作権侵害ではないか」といった批判が巻き起こった。実際、スタジオジブリ風の画像生成はスタジオ側の許諾を得ておらず、「デジタル万引きだ」と指摘する声すら上がり、オープンAIもプロンプトの制限を余儀なくされた。

 こうした無断模倣AIが氾濫する状況下で、作家・イラストレーターなどプロの創作物が埋もれ、正当な評価や対価を得られにくくなる構造が生じている。例えば大手イラスト投稿サイトpixivでは、2022年ごろから画像生成AIによる投稿が急増し、キャラクター名で検索するとAI自動生成の作品ばかりが大量表示される事態に陥った。本来ユーザーと創作者を結ぶはずのプラットフォームでオリジナル作品が埋没し、「pixiv本来の目的が失われてしまうほど危機的」だと運営側も認めるほどだった。これは創作物の流通チャネルそのものがAI生成物に浸食され、プロとファンをつなぐ土壌が劣化していることを意味する。

 プロの創作市場への影響は深刻だ。pixivでは生成AI問題への対応として、特定クリエイターの画風を執拗に模倣する行為の禁止や、AI作品を見たくないユーザー向けのフィルタリング機能の実装などを余儀なくされた。それでも不安を抑えきれない一部の人気イラストレーターは、抗議の意思表示としてpixiv上の自作品を非公開にするといった行動に出ている。プロ作家が作品発表の場を去ってしまえば、市場全体の質と活力が低下しかねない。実際、pixivも2023年5月に再度の声明を出し、AI生成物大量投稿への対策強化や違反行為の取り締まり強化を表明したが、根本的な解決策は見いだせていないのが現状である。もちろんこれは運営側の問題ではない。

 生成AIは当初、「クリエイターの強力なアシスタント」として期待された。確かに画像生成AIはラフスケッチの自動化、文章生成AIはアイデア出しの補助など、プロの制作工程を一部効率化する可能性を持っている。しかし現実には、生成AIが本格的にプロの制作現場に溶け込んだ事例はまだ限定的であり、むしろ「プロを支援するAI」より「プロを省いて素人でもそれらしい作品を生み出すAI」の使われ方が主流になっている。

 これは収益構造にも表れている。生成AI搭載の商用サービスは、クリエイター向け高機能ツールというより一般ユーザー向けの簡易アプリやSNS連携機能として展開される例が多い。背景には、プロ仕様のツール市場はニッチで開発コストに見合うリターンが乏しい一方、素人相手の大量展開ならデータも集めやすく粗悪でも数を撃てば収益が立つという見込みがあると筆者は考えている。

 実際、生成AI画像の画質向上や著作権処理などプロユースで求められる課題は技術的ハードルが高く、開発企業にとって厳しい審査眼を持つプロ相手に商売するより、広範な素人ユーザー相手の課金モデルの方が手軽であろう。その結果、「プロのスキルを拡張するAI」より「スキルなしでもそれらしく見せるAI」ばかりが乱立し、創作分野の質的な底上げには寄与していない。

 この傾向は創作物の評価と流通にも悪影響を及ぼす。誰でも生成AIでコンテンツを量産できるため、市場には玉石混交どころか粗悪な模倣品が洪水のように押し寄せている。消費者からすれば何がオリジナルで誰の作品か判別しにくくなり、作品の価値判断基準が揺らいでいる。例えばストックフォト業界では、AI合成画像が増えたことで利用者が画質や権利面の不安を抱き、プラットフォームによってはAI画像の投稿禁止に踏み切る動きも出た。

 作品の信頼性が低下すれば対価も支払われなくなり、市場全体が痩せ細っていく。前述のpixivにおいても「安易なAI出力で水増しされた作品群vs従来からの高品質な創作物」が混在し、ユーザーが離脱するリスクが指摘された。運営側はフィルタリング機能の強化など対策を講じているが、クリエイター側との折り合いは難しく、プラットフォームとして健全なエコシステムを維持できるか不透明だ。

 コンテンツホルダー(著作権者)が安心して創作物を提供・流通できない状況では、プラットフォーム自体の存在意義も揺らぎかねない。そして健全な創造ができなければ、市場としての持続可能性が失われるばかりでなく、最終的にはAI自身も良質な教師データを失い、自らの品質を低下させていくことになる。いわば「焼き畑」と「たこ足」が同時に進行しているような状況である。

AIを利用した“瞬間風速だけの一発芸ブーム”が横行、焼き畑的な消費が創作者の活動基盤を脅かし、健全な市場育成を妨げている(写真:toa555/stock.adobe.com)
AIを利用した“瞬間風速だけの一発芸ブーム”が横行、焼き畑的な消費が創作者の活動基盤を脅かし、健全な市場育成を妨げている(写真:toa555/stock.adobe.com)

(書籍『AIバブルの不都合な真実』を基に再構成)

日経クロステック 2025年10月7日付の記事を転載]

2025年現在、世界は明らかにAIバブルのただ中にある。投資の過熱、不透明な評価、過剰な期待、未成熟な制度、そして現場の混乱……どれをとっても、2000年前後のドットコム・バブルやスマートフォンバブルと酷似している。泡がはじけ、地面が見えるからこそ、本当に根付く技術が選ばれ、その技術を「正しく使える者」が生き残る。本書はAI技術の真贋を見極め、正しく使うための視座を提供する。

クロサカタツヤ著/日経BP/2530円(税込み)