日経BPの専門誌の編集長およびラボの所長約50人が今後注目すべき技術を100件選定、専門記者が解説する『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』が発刊。本コラムでは「日経トレンディ」の澤原昇編集長が「もっと知りたい」と注目する技術について、記事を執筆した専門記者に話を聞きます。第1回は「AIエージェント」について。
タスクを自律的に遂行するAI
澤原昇(以下、澤原):ChatGPTなどの生成AIを多くの人が日常的に使うようになってきた中、界隈では「次はAIエージェント」という声をよく聞きます。新刊『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』でも、いの一番のトピックとして紹介されていて、専門外のビジネスパーソンもその概要を知っておきたいところ。生成AIの進化形として注目を集めるAIエージェントとは何か。まずその特徴を教えてください。
渥美友里(以下、渥美):『100の技術』では「様々なタスクを自律的に遂行するAI」と定義しました。ポイントは「自律的」であることです。

ChatGPTなどの生成AIは、ユーザーが質問をすると、それにAIが答えるという対話で処理が完結します。例えば「東京から大阪に出張する手段を教えて」と質問すると、「新幹線、飛行機、バスがあります」といった答えが返ってくる。さらに詳しい質問をすると答えが返ってきて……を繰り返しながらユーザーが必要な情報を探していく。
AIエージェントは一歩進んで、様々なサービスと接続しながら、ユーザーがやりたいことを代行してくれます。例えば、出張を支援するAIエージェントに大阪出張の相談をすると、対話の中で予算や移動時間、日程などを確認しつつ、裏でウェブ検索などを使って最適な交通手段や宿泊先を検出。さらに予約サイトに接続して予約まで完了する。社内システムと連動させれば、出張の申請や精算まで完了させてくれるという具合です。


澤原:AIがいろいろ気を利かせて、やらなければいけないあれこれをまるっとサポートしてくれる。便利ですね。今すぐ弊社も導入してほしい(笑)。
渥美:AI業界でもビジネスチャンスを見込んで、AIエージェントの便利さを打ち出したサービスが続々と発表されています。営業活動の自動化、財務や設計の業務サポートなどなど、ビジネスの様々な分野で「今こそAIエージェントの導入を」とのアピールが盛んです。
澤原:日経トレンディの編集部にも様々なリリースが届いていて、「こんなこともAIがやってくれるようになるのか!」と驚かされる一方、「AIを使ってはいるけれど、エージェントサービスと言えないのでは?」というちょっと怪しげなものもあったり(苦笑)。厳密な定義の定まらない中、新しいサービスが急速に普及していくときの“あるある”ですが、2025年は玉石混交の印象でした。
渥美:AIの専門家の間では「AIが人間のように物事を判断して処理を実行する」というAIエージェントの概念自体はかなり以前からあったのですが、近年の生成AIの急激な発達で、実用化の波が一気に押し寄せている状況です。

業務プロセス全体を引き受ける
澤原:会社の仕組みも大きく変わりそうですね。
渥美:生成AIを導入するだけでも、例えば議事録の作成や要約などが効率化できますが、これは業務プロセスの一部、その業務の担当者の負担が軽減するイメージです。AIエージェントでは複数の業務、さらに業務プロセス全体を効率化することが可能になります。
澤原:先ほどの出張支援の例でも、社内外の様々なシステムをAIが使いこなして、関連する作業を完了していましたね。
渥美:これまでは部署ごと、業務ごとに担当者がいて、いろいろな情報をやり取りしながら、関連する業務プロセスが完了するというのが当たり前だったところに、AIエージェントを導入すると、プロセス全体をAIが引き受けることになります。
澤原:旧来の部署も人員も不要になる……。
渥美:導入する企業としては人件費の削減などコスト面にメリットを見いだすところも多いはずですが、従来のプロセスをそのままAIに置き換えるだけでは不十分。導入を機に業務全体のプロセスを見直し、最適化することが重要になります。
澤原:そこは人間の出番?
渥美:もちろん従来業務の無駄な部分が分かるスタッフの知見などは有用ですが、ここでもAIエージェントが役に立ちます。
例えば、顧客情報管理ソフト大手の米セールスフォースが2025年春に日本で提供を開始した「Agentforce 2dx」では、エージェントの開発そのものを支援する機能が搭載されています。エージェント化したい業務内容を入力すると、目的を定義する「トピック」、トピックの達成に必要な処理内容「アクション」、そしてエージェントへの指示文の候補が示されます。開発者はAIが提示したトピックやアクションを選択するだけで、新たなエージェントを作成できます。

AI同士で業務の相談や改善も
澤原:業務がどんどんAIエージェントに置き換えられていくその先では、AI同士で相談して業務プロセスが改善されたり、新しい仕組みが作られたり、ということも?

渥美:議論すべき案件を列挙するAIの提案を受けて法的な問題点をチェックするAIや、営業面の効果を検討するAIなどが精査して、議論を取りまとめるAIが“最適解”を導く――。そんな仕組みを作ることも可能でしょう。
経営者や現場リーダーの考えをAIに覚えさせて“人格化”し、社員の質問に答える「AI社長」や「AI部長」を活用している企業もあります。組織の知見をAI化し、活用する。その形は様々ですが、「タスクを自律的に遂行する」AIエージェントは、業務の一部をサポートするという範囲にとどまらない活躍の可能性を秘めていると思います。
澤原:例えば少数精鋭で急成長していたベンチャーが、業務を拡大する過程でたくさんのスタッフを抱えるようになると、情報の共有に時間がかかったり、目の届かないところでトラブルが増えたりして、即断即決、臨機応変といった武器を生かしづらくなったりします。これ、AIエージェントの活用で解決しそうじゃないですか?
渥美:突出したアイデアを武器に起業して、身軽なまま事業を拡大する“ひとりベンチャー”。AIエージェントを味方にすれば現実味がありますね。
AIの進化といかに向き合うか
澤原:どんどん普及が進みそうなAIエージェントですが、課題を挙げるとすれば?
渥美:AIエージェントの進化の速さに、採用する企業や関連するサービスが追いつけないことでしょうか。例えば、採用企業の基幹システムが古いままだったり、部署ごとに別のシステムを採用していたりという状況では、AIエージェントの力をフル活用できません。セキュリティーの側面から考えると、AIエージェントの力を発揮させるために必要な重要情報をどう管理するのか。AIエージェントがデータやシステムへアクセスできる権限を適切に設定するといった取り組みなども必要になります。

澤原:「導入したものの使いこなせていない企業が多い」といったリポートもある現状から、いろいろな課題を克服したその先では、企業内で培われたAIエージェントの便利な仕組みは、やがて一般ユーザー向けのサービスにも広がってくるはず。出張支援システムが発展した旅行コンシェルジュサービス、きっと素晴らしいサポートをしてくれることでしょう。
他方でAIエージェントは、自分の業務をあれこれ助けてくれる“同僚”と考えると心強いですが、自分が今やっている業務、あるいはこれからやりたいと思っている仕事を不要にしてしまう存在にもなり得るわけですよね。
渥美:AIエージェントと共存する社会は、私たちの仕事や生活のあり方に様々な変化をもたらすはず。私が大好きな記者という仕事だって、AIに置き換わってしまうかもしれません。そんな中で大切なのは、「AIのことはよく分からない」と遠ざけるのでなく、「どうせAIに取って代わられてしまう」と諦めるのでもなく、自分には何ができるのかを改めて考えること。これまでの“当たり前”を上書きすることを怖がらず、これからを考えることではないでしょうか。

(人物写真:尾関祐治 構成:坂巻正伸=日経BOOKプラス編集部)
日経BP編、日経BP、2750円(税込み)
【関連記事】


