日経BPの専門誌の編集長およびラボの所長約50人が今後注目すべき技術を100件選定、専門記者が解説する『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』が発刊。本コラムでは「日経トレンディ」の澤原昇編集長が「もっと知りたい」と注目する技術について、記事を執筆した専門記者に話を聞きます。第2回は「光電融合」について。
電力消費が激減する“光の半導体”
澤原昇(以下、澤原):新刊『日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術』の中で、気になるトピックについて専門記者に聞く企画、第2回は「光電融合」です。日経クロステックでも関連記事がよく読まれているとのことで、専門外のビジネスパーソンも概要を知っておきたいところ。『100の技術』では項目のサブタイトルに「電力消費が激減する、光回路と電気回路の統合」とあります。
久保田龍之介(以下、久保田):光電融合は半導体に関連する技術として注目を集めています。銅線を使った電気によるデータ伝送の一部を、光ファイバーを使った光伝送に置き換えることで、使用電力を激減させる技術です。

澤原:データ伝送を銅線から光ファイバーに変える……。ずいぶん前になりますが、自宅のインターネット回線を光ファイバーに変えたのを思い出します。
久保田:銅線を光ファイバーに変えることで大容量のデータを短時間で送信できるようになり、消費電力も小さくなる。その意味ではこれも“光電融合”です。インターネットの爆発的な普及によってユーザーが急増、大容量のデータをやり取りする需要が高まり、それに応えるように光ファイバーを使った伝送の普及が進みました。

それがここに来て、AIブームの巨大な波が起きた。AIをスムーズに駆動させるにはこれまで以上に大容量の通信と大量の電力が必要になります。世界中の人がChatGPTなどの生成AIを手軽に使えるようになり、サービスを提供するためのデータセンターなどの負荷はすさまじい勢いで増えています。
澤原:このコラムで前回紹介した「AIエージェント」も“様々なタスクを自律的に遂行するAI”ですから、普及が進むと必要な電力はさらに大きくなりますね。
久保田:世界中が電力不足という現実に直面し、しかも今後の需要急増は避けられない。そんな苦境を打破する一手として注目されているのが“光の半導体”。家庭や企業の通信環境を改善してきた光ファイバーが半導体の中にまで入り込み、活躍を期待されているわけです。

ブロードコム、エヌビディア、TSMCがCPO量産へ
澤原:半導体のすぐ近くで光ファイバーを使うというアイデアは最近のものなんですか?
久保田:2000年代から開発の動きはあったのですが、量産化には至りませんでした。
澤原:技術的に難しかった?
久保田:主にコスト面と信頼性の問題です。光回路を“融合”するメリットは分かっていたものの、新たな製造設備などに多額の資金を投じれば、おのずと価格も高くなる。それでも大きな利益を見込めれば製品化の道が開けますが、当時の需要はそこまで高くなかった中で、従来の半導体の性能を高めることで対応してきたわけです。
澤原:それが空前のAIブームで状況が一変。
久保田:開発が加速しているのは「CPO(Co-Packaged Optics)」。光・電気配線の信号変換を担う光学エンジンとICをパッケージング基板にまとめて実装することで、消費電力の大幅削減を図ります。

先導するのは、米Broadcom(ブロードコム)と米NVIDIA(エヌビディア)。AI処理を狙ったプロセッサーを搭載したCPOの量産を見込んでいます。データセンター向けのプロセッサーで高いシェアを持つ両社が、電力効率を高めたい顧客の切実なニーズに応えるべく本腰を入れた格好です。そして両社が設計したCPOを基に実装や量産を手掛けるのが台湾積体電路製造(TSMC)。この3社が“光の半導体”普及の牽引(けんいん)役です。
日本勢は部素材開発に活路
久保田:製品化で先陣を切ったのはブロードコム。2024年3月、CPOを採用したイーサネットスイッチIC「Bailly」を米メタや米マイクロソフトなどへ出荷を開始、さらに2025年10月にはその次世代製品の出荷を発表しています。
そんな中、注目を集めたのが、2025年3月にエヌビディアが主催した開発者会議「GTC 2025」。ここで25年内に発売予定のネットワークスイッチ製品「Quantum-X」と26年に発売予定の「Spectrum-X」にCPOを導入すると発表したのです。
澤原:スピード感がスゴいですね。一気に“光の半導体”時代がやってくる中、日本の企業はどんな立ち位置なのでしょう。

久保田:日本にはCPO向けの部素材を手がける企業が多くあります。レーザー光源では住友電気工業や古河電気工業、半導体パッケージ基板では新光電気工業、基板用部材はAGCや大日本印刷(DNP)などが、今後も世界市場で存在感を発揮するはずです。しかし、部素材メーカーは最終製品を造る企業の要望に沿った製造が主になるわけで、標準化などでの主導権を握るのは難しい。
澤原:NTTはどうですか。次世代情報通信の構築を目指す「IOWN(アイオン)」構想を打ち出しています。
久保田:NTTグループは、CPOを広い範囲で手がける日本では数少ない最終製品メーカーの1社です。同社は自社製造したCPO製品をデータセンターに導入する考えを示しています。また、この10月にはIOWN向け光電融合デバイスの開発でブロードコムや新光電気工業との連携を発表しました。まだ確立途上のCPOの標準化にどこまで関われるか注目されます。

「3次元実装」で処理能力を倍増
澤原:日経クロステックの「光電融合」関連の記事や動画がバズっていると聞きました。やはり業界注目のトピックなのですね。
久保田:もちろん技術の最新動向を押さえておきたいITテクノロジー業界の皆さんが注目してくださっているわけですが、それにとどまらない勢いを感じています。いわゆる投資界隈から熱い視線が集まっている。
半導体の専門家に取材していると、例えば日本の装置メーカーや部材メーカーから「今後はどんなことをやればいいのか。どこと組めばいいのか」など相談が続々と寄せられているそうです。そうした動きの背景には、投資家からの「乗り遅れるな」というプレッシャーが感じられます。
澤原:日経トレンディでも投資関連の情報を取り上げますが、AI関連の動きは関心が高いです。
最後に、久保田さんが注目している半導体関連の技術を1つ教えてください。
久保田:いろいろありますが、例えば「3次元実装」。2つのチップを縦に重ねる技術です。
澤原:従来の半導体では基板上のチップは横に並んでいますよね。縦に重ねれば単位面積あたりの処理能力が倍になる……。
久保田:縦に重ねた2つのチップの位置を正確に合わせて、高精度につなぐ。技術的なハードルは高いですが、光電融合分野で量産化できれば小型化・高性能化につながります。半導体の部材に関しても、より好適な素材が開発できれば、勢力図を変える可能性を秘めている。光回線の融合によって処理能力が大幅に向上しても、増え続ける電力需要への対応は待ったなし。技術開発の動向から今後も目が離せません。

(人物写真:尾関祐治 構成:坂巻正伸=日経BOOKプラス編集部)
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