ブログやSNSでの発信に加え、初の著書 『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』(幻冬舎) を出版したけんすう(古川健介)さんは、毎週15冊ほど本を買うという。シリーズ最終回は、けんすうさんの本の読み方や選び方について聞きました。(聞き手は、日経BP書籍編集者の中川ヒロミ)

<1回目『けんすう「やりたいこと」を見つけるのをやめよう』>
<2回目『けんすう 「高い自己肯定感」なんていらない』>
<3回目『けんすう 当たる?当たらない? 未来予測本の楽しい読み方』>

「未来予測には『誰にでも参加できる自由と平等性』があります」
「未来予測には『誰にでも参加できる自由と平等性』があります」
画像のクリックで拡大表示

電子書籍をキーワード検索して拾い読み

 未来予測本を読む楽しみについて、 『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳、日本経済新聞出版) を例にお話ししました。個人が自分の人生について考えるときも、不確定な未来について自由に発想する楽しさを忘れたくないものだと思います。

 「私は頑張って勉強して東大に入って、卒業後は経産省に入ったんです」と過去の実績をアピールされると、入り込む隙がないとげとげしさを感じますが、「10年後、総理大臣になります」と未来について打ち上げる宣言に対しては、「私だってなるかもしれないよ」と言える自由があるじゃないですか。未来予測には「誰にでも参加できる自由と平等性」があるところがいいなと思います。

「『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳、日本経済新聞出版)は電子書籍で購入。キーワードで検索しながら読みました」
「『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳、日本経済新聞出版)は電子書籍で購入。キーワードで検索しながら読みました」
画像のクリックで拡大表示

 本はたくさん読むほうで、漫画も含めると週15冊くらいは買っていますね。動画やゲームに費やす時間は削って、その分を読書に充てています。知っている人が薦めていたり、偶然目に入ったりして少しでも気になった本は反射的に買います。全部は読まなくても一部だけでも自分に響けば、十分に元が取れると思っているので。

 電子書籍で買って、気になるキーワードで検索して拾い読みをすることも多いです。例えば先ほど紹介した『2050年の世界』も、「日本」というキーワードで検索して、日本について書かれている予測にざっと目を通す読み方をしました。

「全部は読まなくても一部だけでも自分に響けば、十分に元が取れると思っています」
「全部は読まなくても一部だけでも自分に響けば、十分に元が取れると思っています」
画像のクリックで拡大表示

最近読んでよかった4冊

 他に最近読んでよかったのは、 『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(ヴィタリック・ブテリン著、高橋聡訳、日経BP) 。19歳という若さで暗号資産「イーサリアム」を創案し、金融の未来図を変えた天才の構想はやっぱり圧巻でした。たった1人の若者が書いたわずか9ページの論文が80兆円規模の価値を生むプロダクトにつながったなんて、人類初のことだし、単純に「すげぇ天才だな」と尊敬します。

 あと、超マニアックな本ですが、 『<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(フィリップ・アリエス著、杉山光信・杉山恵美子訳、みすず書房) も面白かったです。

 子どもを「小さな大人」ではなく、「子ども」という未発達の存在として認知されたのが近代のことであったという論説で、僕にとっては衝撃的でした。今は当たり前と思っていることが、ある時期まではそうではなかったという史実の一片を知りました。けれどこの本は万人受けするかというと、ちょっと違うかもしれません。

 もう少し読みやすい本を挙げるなら、任天堂で企画開発をしていた玉樹真一郎さんが書いた 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』((玉樹真一郎著、ダイヤモンド社) もおすすめです。ゲームをやったことがない人でも「スーパーマリオブラザーズ」で遊べるのはなぜなのか。マリオを右方向にひたすら動かしていくだけで、ゲームが進んでいくというシンプルさによって、それが可能になったということなど、プロダクト設計における大事な視点が分かりやすく書かれていて、結構影響を受けた本です。

 全然違う角度ではありますが、人を動かす手法をデザインの視点で解説している 『独裁者のデザイン』(松田行正著、河出文庫) も興味深い内容でした。プロパガンダを駆使して世界地図を変えようとした独裁者たちが、どんな手法を使ったのか。ポスターのデザインなどから読み解く本です。

左から 『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(ヴィタリック・ブテリン著、高橋聡訳、日経BP)、 『<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(フィリップ・アリエス著、杉山光信・杉山恵美子訳、みすず書房)、 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』(玉樹真一郎著、ダイヤモンド社) 、『独裁者のデザイン』(松田行正著、河出文庫)
左から 『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(ヴィタリック・ブテリン著、高橋聡訳、日経BP)、 『<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(フィリップ・アリエス著、杉山光信・杉山恵美子訳、みすず書房)、 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』(玉樹真一郎著、ダイヤモンド社) 、『独裁者のデザイン』(松田行正著、河出文庫)
画像のクリックで拡大表示
「ネットでは極端な表現やセンセーショナルな断言が注目されることが多いですが、僕はあまりそっちには行きたくないです」
「ネットでは極端な表現やセンセーショナルな断言が注目されることが多いですが、僕はあまりそっちには行きたくないです」
画像のクリックで拡大表示

自分が穏やかでいれば心優しい人が集まってくれる

 いろいろなジャンルの本を読む僕ですが、生々しいエピソードが満載の人物伝とか小説は苦手です。誰かがめっちゃ怒るシーンがあるテレビドラマとかも「怖っ」と思ってしまい、見られないんです。

 インターネットの世界も、極端な表現やセンセーショナルな断言が注目されることが多いですが、僕はあまりそっちには行きたくないんです。人間は刺激には慣れるもので、どんどん過激にエスカレートしてしまう。先鋭化した末に相手も自分も傷つけることがないように、僕はできるだけ強い表現は避けるように気を付けているつもりです。

 自分が穏やかでいようとすると、フォロワーの方も心優しい人が集まってくれるので、心地よく生きられます。SNSに 『物語思考』 の感想を寄せてくださることもあり、応援してもらえるのがありがたいです。この本が1人でも多くの人の肩の力を抜くきっかけになれたらうれしいです。

取材・文/宮本恵理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子