世代を超えて話題となった『昭和人間のトリセツ』著者でコラムニストの石原壮一郎さんと、『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』著者の大口克人日経マネー編集委員。昭和世代の分水嶺、70年大阪万博を小学校低学年で迎えた2人が、万博への思いや昭和世代と令和の若者たちの消費や投資について語り合いました。
第1回
「石原壮一郎×大口克人 バブル世代は投資のトラウマ世代」
第2回
「石原壮一郎×大口克人 昭和人間が体験した『無駄遣い』の喜び」
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日経マネー編集委員・大口克人(以下、大口) 石原さんがすごくうらやましいのは、前回1970(昭和45)年の大阪万博を現地でご覧になっていたことです。私が小学校に入る1年前だったのですが、子どもながらにすごい憧れでした。でも、新潟の田舎に住んでいたので結構距離があって、村の人は誰一人行っていなかったと思います。今でいうムック本が唯一の頼りで、「人間洗濯機」はどんなものだろうとか、あれこれ妄想していました。
コラムニスト・石原壮一郎(以下、石原) 私は当時小学3年生で、8月の暑い時期に当時70歳の祖母と行きました。ものすごい人出で、アメリカ館やソ連館など人気のあるパビリオンは大行列。並ぶのはやめようと、比較的すいていたクボタ館に行った覚えがあります。太陽の塔は見たかな。
大口 今回の大阪・関西万博はどうされます?
石原 ぜんぜんそそられないですね。あの大屋根リング、池袋西口公園にも似たようなものがありますよね。ま、だいぶ小さいですけど。
大口 太陽の塔に比べるとインパクトがないように思います。太陽の塔には4つの顔があります。中心部の顔が現在で、ウルトラマンみたいな上部の顔が未来、背面の黒い顔は過去の戦争の時代を表しているそうです。さらにもう1つ、内部見学で入れるようになった地下に土器のような古代の顔があるんです。実はそれを知ったのは最近なのですが、それを聞いた時は鳥肌が立ちました。太陽の塔には憧れていましたが、そこまで深い意味を持つ作品だとは思っていなかった。その太陽の塔から50年以上たって開催される万博の象徴があの大屋根リングかと思うと、少しばかり寂しい気がします。
石原 万博に行ったところで、明るく楽しい未来を感じさせてくれるような、わくわくする予感がしません。
大口 世の中の雰囲気が違いますよね。前回は高度経済成長期の真っただ中で、昨日より今日、今日より明日のほうが良くなるといった具合に日本の経済が成長していく過程のどこかにあるという実感がありました。未来という言葉にすごくわくわくしましたし、初めて触れるものがたくさんありました。動く歩道が導入されたのは大阪万博が初めてですし、カップヌードルが発売されたのもあの頃でした。
石原 ケンタッキーフライドチキンも大阪万博で実験店を出したのが最初でした。あの頃は「見たことがない新しいもの」が、人生を豊かにしてくれる、幸せをもたらしてくれるという幻想がありましたね。
大口 そういう初めて触れるものがあの頃は山のようにあったのに、今は何もない気がします。加えてインターネットやSNSで情報が均質化して、小学生でもこれから先にワクワクするものがあまりないと分かってしまっているんですね。
石原 でも、どうなんでしょう。何かはあってほしいですよね。
大口 そこなんですよ。未来には絶対何かあるはずだって、我々の世代から言い続けていったほうがいいんじゃないでしょうか。
石原 かと言って、不老不死がわくわくするかと言えばちょっと違う。今の若い世代はNISA(少額投資非課税制度)で儲けるのがわくわくするという話になっているわけですよね。
大口 だからこそNISAで儲けたお金は、少しは自分の見識を広めるために使ってほしいと思います。株も投信も長く持っている方がいいと言われますが、儲かったらどこかで利益を確定しないと。
石原 死ぬまでNISAに入れておいても意味がないですからね。
大口 お金を使って生活が楽になる場面では使った方がいいと思いますし、自分に投資した結果、将来の手取りが増えるかもしれません。
石原 そういうのは、若い人から言わせると「おじさんたちの発想」なんでしょうね。でも、「使えば使うほど入ってくるに違いない」という信念が我々の中にはありましたよね。
大口 ありました。お金を使って友達と旅行するとか、経験を増やしたほうが絶対に楽しいし、そういう生き生きしている人のところに仕事は来ます。「老後が心配だから1円も使わない」という人には仕事はこないですよ。
石原 大口さんの本にも書いてありましたが、飲み会の支払いをごまかそうとするような人とはお近づきになりたくないですよね。ポイントを貯めるのを目的に、自分のクレジットカードで払います、とかね。
大口 なんか、ちょっと味気ないですよね。
石原 貯まったポイントは交通系ICカードにチャージにする。それも寂しいです。クレジットカードのポイントは、要らないものに使ってナンボだと思うんですよ。
大口 素晴らしい!
石原 最近はポイント交換のラインナップが縮小されてきているのが残念です。普段だったら自分では絶対買わないものと交換してこそ、知らない間に貯まったことの喜びが感じられると思うんですね。
高級レストランでのデート、支払いへのこだわり
大口 決済の話が出たので、最近気になったことを1つお話しします。高級レストランで食事をした際、彼氏がスマホ決済アプリで支払って、音が鳴ったのに幻滅したというエピソードが話題になっています。我々の世代もなんとなく、その気持ちは分かるんです。我々が若い頃に面ファスナーのベリベリ財布ってはやったじゃないですか。デートの時にあれを彼氏が持っていると恥ずかしいと。
石原 ありましたね、ベリベリ財布。
大口 先のケースだと、今の若い人は「おごってもらってそんなことを言うのはおかしい」と言うんです。でも、私はその女性の気持ちも分かる。要は、シチュエーションだと思うんですよ。高級レストランで2人、もしかして初めてのデートだったかもしれません。その場面ではどんなカードでもいいから、クレジットカードで支払いをすべきだったんじゃないかというのが昭和人間の感覚です。
石原 彼氏にはかっこつけてほしい、と。食事したのがファミレスだったらなんの問題もないわけですよね。
大口 もちろんです。仲良くなった後とか、仲間と行くときだったらスマホ決済で音が出ようと全然問題ない。
石原 気になる女性に高級レストランでちょっといいところを見せようというときに、スマホ決済アプリはない。
大口 それこそ、我々の時代のベリベリ財布に近い感じがします。
石原 ベリベリ財布も、当時、相当批判されましたよね。財布の話だと、本当のお金持ちは財布を持たず、お札をマネークリップで挟んでいると聞きました。
大口 そんな話もありましたね。金持ちになるには財布は二つ折りか長財布かという議論もあったでしょう? 私は長財布派です。長財布だとお札が折れないので、ちゃんとお札の向きをそろえて入れようという気になるんですよ。二つ折りの財布だと、適当に突っ込んでパンパンになっちゃう。
石原 最近の二つ折り財布はカード入れを中心とした仕様になっているから、あまり膨らまないですよ。長財布はパンツの後ろのポケットに入れると落としそうで気になるので、私は二つ折りばかり使っています。
大口 お札の向きはどうされていますか?
石原 そこで熱弁をふるうと細かい人と思われそうですが、向きはそろえて、五千円札は一番手前に入れて、千円札をその上に乗せます。
大口 私も一緒です。ちなみにお札の人の顔の向きはどっち側にしていますか? 頭が上向き、つまり自分たちと正位置にしていますか?
石原 そうですね。
大口 それを逆に向けるといいという説もあります。お札が逃げ出しにくいからお金が貯まるというジンクスらしいです。あくまで迷信ですが。私は一万円札、五千円札、千円札と全部逆向きに(笑)、顔をそろえて入れています。
石原 おかげでお金が逃げずに済んだと感じたことはありますか?
大口 一度もありません(笑)。とはいえ、石原さんとこういう話で盛り上がれるのは、我々が昭和人間だからだと思います。今の若い世代には「支払いは全部スマホでできるから」と財布を持たない人も多いですからね。ただ、スマホではできない支払いもあるんですけどね。
おカネの話ができる時代がようやくやってきた
石原 先日、実家に帰省した時にその場面に遭遇しました。名古屋と伊勢志摩方面を結ぶJRで、名古屋を出た後、途中から交通系ICカードが使えなくなるんですよ。車内清算も現金だけ。それを知らずに乗車した若者がいて、車内で精算しようとしたわけですが、車掌さんに「できません」と言われて途方に暮れてました。
彼は「財布を持たずに旅に出ている俺、かっこいい」と思っていたのかもしれませんが、たぶん周囲の大人は「1000円、2000円の現金払いができないような状態で知らない場所に出かけるなんてうかつ過ぎる」と冷ややかな視線を送っていた気がします。
大口 日本は災害大国で、いつ、どこで、何が起きるか分からない。その対策としても、常に手元にある程度の現金を持っている必要があると思います。停電になったら支払いできないのでは困りますよね。
石原 タッチ決済だろうと、コード決済だろうと、ネットがつながらなかったら大変なことになりますからね。
大口 スマホの電池が切れたら終わり、スマホを落としたら終わりです。
石原 かく言う私も、キャッシュレス決済が広まったおかげでうっかりして財布の中に一万円札しかなかったことが何度かあります。そういう時に限って現金しか使えない蕎麦屋さんに行く日だったりして、大変心苦しい思いをしました。これはいかんと思って、一万円札しかなくなったときは駅で交通系ICカードに1000円だけチャージして、千円札を用意する習慣を付けました。
大口 私もATMからお金を引き出す時は、必ず末尾を9000円にしています。2万円欲しい時は1万9000円にして、最後に一部両替のボタンを押すと、一度に19枚の千円札が入手できます。極めて昭和な話ですね。ちなみに、我々昭和人間は1000円の支払いに一万円札を出す時、「ちょっと大きくて申し訳ないんですが」と断りを入れますが、こういう文化はまだ残っているのでしょうか?
石原 残っていますね。コンビニなら言わなくてもいいような気がしますが、個人商店では言ったほうがいいと思います。「お金を払うんだから、そんなことを言う必要はないんじゃないの」という考え方もあるでしょう。でも、言って損をするわけではないし、言ったほうが相手も自分も気持ちいい。こういうお金に関する細かい気遣いは、現金が使われなくなるにつれ、どんどん失われていく気がして寂しいです。
大口 そうですね。令和の今になってやっと、こういうお金の話が堂々とできるようになったと感じています。お金に関する日本的な慣習が変わってきたというのでしょうか。以前は株式投資をしているだけで変人扱いされることもありましたからね。投資イコール悪と思い込んでいる人も少なくありませんでした。
石原 投資家はギャンブルに入れ込んでいる人と同様、ギャンブラー、ばくち打ちのイメージを持たれていましたね。
大口 積み立てをしていて、少しお金が増えてよかったねといった成功体験を職場で共有することもできませんでした。
石原 どれだけ貯金しているかとか、どこの銀行の預金の利息が高いといった話もしませんでしたね。
大口 そもそも、子どものいる前でお金の話をすべきじゃないといった風潮もありました。
石原 お父さんの給料がいくらだとかいうことも含めてね。
大口 ようやくここに来て、新NISAがいいらしい、iDeCo(個人型確定拠出年金)という制度もあるらしいといった話ができる雰囲気になってきたのかなと思います。
(4回目へ続く)
取材・文/森田聡子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/吉澤咲子

