『昭和人間のトリセツ』著者でコラムニストの石原壮一郎さんと、『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』著者の大口克人日経マネー編集委員。1970年大阪万博の時に小学生だった60年代生まれの「前期昭和世代」2人が、昭和世代と令和の若者世代の消費行動や投資マインドについて熱く語り合いました。今回は定年を迎えたシニア世代のおカネとの向き合い方を中心に話が進みました。

第1回 「石原壮一郎×大口克人 バブル世代は投資のトラウマ世代」
第2回 「石原壮一郎×大口克人 昭和人間が体験した「無駄遣い」の喜び」
第3回 「石原壮一郎×大口克人 クレカのポイントは、要らないものに使ってナンボ」 から読む

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退職金や資産運用の話題が増える定年世代の飲み会

コラムニスト・石原壮一郎(以下、石原) 定年を迎えたくらいの仲間同士が集まると、退職金や運用などが話題に上ることが多くなりました。そうしたお金の話が堂々とできるようになったのはいいのですが、ちょっと寂しさも感じます。

日経マネー編集委員・大口克人(以下、大口) 我々の世代はこれから先、収入がどんどん増えていくわけではありませんからね。先日も飲み会に行った時にそろそろ役職から引退される方がいて、「来年どうするかは考えていないけれど、お金が減るのが怖いんだよね」と話しているのを聞いて、やっぱりそうなのかと思いました。

石原 大口さんのようなお仕事をしていると、友だちから相談を受けることも多いんじゃないんですか?

大口 多いですね。アドバイスとしては、できるだけ長く働いたほうがいいし、収入があるうちは積み立てを続けておいたほうがいい、新NISA(少額投資非課税制度)もあるんだし、みたいな話をしています。ただ、仕事を辞めて今あるお金しかない、それが減っていくのが怖いという人に対しては、なかなかいいソリューションがないんです。

石原 ここは一発、株で稼いでと言ったら、逆に大事なお金が減ってしまうかもしれませんしね。

大口 そうなると、ギャンブルみたいな話になってしまいますからね。

石原 先日、困ったときにどう切り抜けたらいいかをテーマにした連載で、新NISAに関する原稿を書いたんですよ。新NISAにまとまったお金を預けたら、半年後に報告書が届いてちょっと減っていた。それを見た奥さんに「今すぐやめて。解約して」と迫られたという内容です。

 結論としては、今やめたら損だから、なんとか奥さんを説得して続けようというものだったのですが、原稿の中に「投資もギャンブルも減るかもしれないという点では似たようなもの」というくだりがあったんですね。それに対してニュースサイトのコメント欄に「投資とギャンブルは違う」という反論が多数寄せられました。私としては「減るかもしれない」という点については投資もギャンブルも同じではないかと思うのですが、大口さんはどう思われますか?

大口 確かに我々は「投資とギャンブルは別物です」といった言い方をしています。一方で、言っている割には全然それが広まらないじゃないかというジレンマも感じていたんです。ですから、そういうコメントがたくさん付いたのは、我々にとってはいいニュースです。

石原 ただ、その人たちからは「自分はある程度投資について勉強しているから絶対に損はしない」という信念が感じられるんです。

大口 だとしたら、それは大間違いです。

石原 そうですよね。損をする可能性は常にあるんですから。

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ギャンブルと投機、投資の違い

大口 石原さんのご指摘通り、預けたお金が減るかもしれないという点では、投資もギャンブルも同じです。両者が明らかに違うのは、ギャンブルは結局ゼロサムゲームだということです。誰かが勝ったら誰かが負けることになりますからね。一方、投資はうまくいけば全員が勝つんです。企業は成長し、投資した人はリターンが得られる。そして新しい製品やサービスが開発されて国民の生活も豊かになる。実際に、そういうことがあり得るんです。特に投資期間が長くなればなるほど、プラスで終われる可能性が高くなります。もちろん、それでも失敗することもありますよ。ですから、自分は勉強しているから絶対勝てるというのは間違いですね。

石原 そうなんですか。私の書き方が悪かったと反省していたんです。

大口 いや、おっしゃりたいことは正しいと思います。よくある誤りは、投資と投機を一緒にするケースですね。

石原 なるほど。

大口 ギャンブルは、投資とも投機とも違います。サイコロを転がしたり、カードを配ったり。

石原 しかも自分とは関係ないもの同士が戦って、その結果に賭けている。

大口 お金を特定の金融商品に入れるという意味では投資と投機は近いのですが、実はこの2つも違うんですよ。

石原 投機のほうが危なっかしいわけですか?

大口 例えばバイナリーオプションという金融商品がありますが、これは例えば、1時間後にドル円相場が今より円安になっているか円高になっているかを今予想して、どちらかに張るというものです。

石原 ギャンブルに近いですね。

大口 為替を扱っているので金融商品ではありますが、FX(外国為替証拠金取引)に比べても相当ギャンブル寄りですよね。

石原 丁半博打とあまり変わらない印象です。

大口 そうですね。この手の商品は我々もすすめることはありませんし、それが良い投資だとは絶対言わないですね。バイナリーオプションのような金融商品は他にもたくさんありますけれど、まさに投機です。

石原 でも、そっちが楽しくてやめられない人がたくさんいますよね。

大口 いますね。そういう投機的な商品で損をした人が同じ商品で取り返そうとして深手を負った話はよく聞きます。その結果、犯罪に巻き込まれたり、自分が罪を犯したりする人もいます。

石原 子どもの頃にも、近所の人がそうした先物取引にはまって家や田畑をなくしたという話を聞きました。

大口 我々がよく言うのは、「分からないものに投資はするな」ということです。日本国民が全員投資をしなければいけないという法律があるわけではありませんし、嫌ならやらなくていいんです。お金がたっぷりある人なら、わざわざ投資する必要もないでしょうしね。

石原 確かにそうですね。そういう人は、別に増やさなくていいんだから。

大口 自分は投資したほうがいいと思うなら、新NISA(少額投資非課税制度)で毎月5000円や1万円を積み立てるといった長期投資を地道にやっていくのがいいでしょう。間違ってもSNSで知り合った「投資の先生」に何百万円も振り込んで必勝銘柄を教えてもらうようなまねはしないでください。いまだにそういう危険な広告を見かけるんですが、そんなのは投機以下なので。

石原 それは詐欺ですね。我々は高金利時代を経験しているので、リスクを取ってまで投資をしなくてもいいんじゃないかと思いがちです。

大口 「72の法則」という言葉があるんですが、72を金利で割ると、預けたお金が倍になる年数が分かります。郵便局の定額貯金は利回り(3年以上)が8%だった時代があります。金利が8%なら72÷8%=9年ですから、9年預けると倍になって戻ってきたんですね。しかもノーリスクで。最近は金利も上がってきていますが、とはいえ業界人の95%は以前のような高金利時代はまず来ないだろうと見ています。長期金利は行っても2.5%くらいではないかという見立てですね。

石原 8%の金利が付いた頃は物価も同じくらい上がっていましたよね? そうすると行って来いで実質的な手取りはあまり変わらないんじゃないかという気もします。

大口 おっしゃる通りです。金利上昇と物価上昇は切り離して考えられがちです。「あの頃は預けたお金が9年で倍になったからよかった」と言いますが、石原さんが指摘されたように物価も上がっていた。景気が過熱して物価が上がっていたから、それを抑えるために、世の中からお金の流通量を減らす目的で金利を上げていたんです。今だって、高インフレだから金利が上がってきているわけですからね。

生まれ変わってもまた同じように買う

石原 ところで、私もそうですが、我々バブル世代には「投資なんかする必要ない」とか「若いうちからコツコツお金を貯めるなんてバカらしい」と思って50~60代を迎えた人が多いように思いますが、そうやって生きてきたことへの反省はしなくてもいいんでしょうか?

大口 今、年金だけで暮らすのは大変だと感じている人がいるとしたら、昔のツケが回ってきたと反省すべきかもしれません。テレビを見るとよく年金暮らしの高齢者の街頭インタビューをしていて、インタビューされた高齢者が「こんなんじゃ暮らしていけないよ」と嘆いています。

 たぶんそれは、演出的にそうやったほうが受けるからです。実際には厚生年金をがっぽりもらっている人も、企業年金を受け取っている人もいるはずですが、そういう人は放送されないんじゃないかと思います。とはいえ、そもそも国は「公的年金だけで暮らしていけますよ」なんて一言も言っていません。

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石原 本来は国の意図を受け止めて、対策をしておかなければいけなかったんですね。

大口 早い、遅いはあると思いますが、どこかで。「このままじゃまずいんじゃないのか」って気が付くべきだったと思います。今の若い世代はそれを早くから教わっているので有利ですよ。今20歳の人だったら、これから60歳まで普通に働いたとしても40年あるわけで、積み立て投資をしていけば、まず負けないですよね。

石原 コツコツ投資しておくだけで。

大口 それに対して、我々の世代は学生時代に金融教育なんかこれっぽっちも受けていない。だから、お金は入れば使うものだと考えていた。ただ、実は皆、どこかの時点で気が付いているように思います。私自身も40歳くらいでふと気が付いて、そこから修正しました。皆さん、そうなんじゃないでしょうか。

石原 そうですね。私も40歳くらいに国民年金基金に加入しました。いろいろなコースがあったんですが、60歳から年金が受け取れるものにも少しだけ入っていて、今、2カ月ごとに数万円のお小遣いをもらっています。

大口 40歳で自覚して、老後のお金の準備を進めてきて良かったと。

石原 いちおうそういうことになりますね。かと言って、20~30代に後先考えずに使いまくってたことに対する後悔はありません。大口さんは Macintoshの怒濤(どとう)の買い替え を後悔していますか?

大口 いえ、生まれ変わって人生をやり直すとしても、同じように買っていると思います。

石原 あの、わくわく感ですよね。我々の世代だと、ムダに高い服もよく買っていました。

大口 DCブランドの流行という悪魔のようなものがありましたから。

石原 丸井でローンを組んで買っていましたよね。

大口 そうでした。ただ、もう少し早く投資を始めていればよかったと思うことはありますね。せめて30代で気付いていればな、と。

石原 なるほど。仮に早めに気付いて老後の資金を十分準備できたという人がいたとしても、我々の世代だと、それをどう使うか、あまり考えていないと思うんですよ。この先はある人はあるなりに、ない人はないなりに使っていくしかないと思いますが、どう使っていくのが幸せなんでしょうね?

大口 幸福の尺度は一人ひとり違うので、そこは難しいんですけれど、私が取材などで見てきた経験からすると、使い切れずに人生を終える人が多いのではないかと思います。その結果、残された子どもたちが相続でもめて、禍根を残すことも結構あるのだろうなと。相続絡みの取材もしていますが、仲良しだった兄弟が「争族」になるなど、ひどい話をたくさん聞きます。それだったら、2020年のヒット書籍のように「DIE WITH ZERO」、つまり、自分が死ぬ時にゼロになるくらいでいいんですよ。でも、それはあくまで理想で、きっとできないだろうなと思います。

石原 どうしてできないんでしょう?

大口 日本人の寿命が延びていますから、何歳まで生きるか分からない。となると、今持っているお金で足りるんだろうかという恐怖感があると思いますね。

石原 ある程度お金を持っていないと、子どもが大事にしてくれないというのもあるんじゃないですか?

大口 それもよく聞きますね。高齢になった親が唯一できるのは、お金を渡すこと。お金を渡さないと、孫も来てくれないと嘆いている人も多いようです。

石原 孫や子どもに大盤振る舞いするために若い頃から投資をしておくということでしょうか?

大口 そんな聖人君子がいるかという話ですが、石原さんとお話ししていて、実はそれが一番いい気もしてきました。若いうちに自覚してしっかりお金を貯める。そして自分のためにもそれなりに使うし、子どもや孫たちにもある程度お金を渡して財産ゼロで死にました、と。一番美しいのは、それだと思うんですね。

石原 確かに美しいですね。でも、子どもにしてみれば、「なんだ、なんにも残っていないじゃないか」となりませんか?

大口 それはね。

石原 美しくゼロで死ぬためには、子どもにも「親の遺産を当てにするな」という教育をしておく必要がありそうですね。

(5回目へ続く)

取材・文/森田聡子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/吉澤咲子