新刊『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』の著者、編集Yこと山中浩之氏が日経ビジネス電子版で始めた連載「数字で縛ればやる気が逃げる」。自著の取材を振り返りながら、あれこれ考えを深めていくコラムを日経BOOKプラスでも転載させてもらうことになりました。とても面白い記事なのでぜひ読んでいただきたいのですが、せっかく「本の情報」を発信する当サイトですので、元記事には収録されていないオリジナルコンテンツとして、記事の関連箇所を書籍から抜粋して掲載します。本書の主人公たる相模屋食料の鳥越淳司社長と編集Yのテンポの良いやり取り。そこで明らかになっていく「数字の罠」とその飛び越え方。記事と共に、本の魅力もしっかりお伝えできれば幸いです。第9回は転載元で2023年12月28日に公開された「年末の焼き豆腐」の現場リポートを。(日経BOOKプラス編集部)

年末だけ需要が爆発、焼き豆腐はメーカー泣かせ

 いよいよ年末。締めは家族ですき焼きで、という方も多いだろう。すき焼きといえばまずお肉、ネギ、シラタキ、そして、焼き豆腐。この焼き豆腐は実は豆腐メーカーにとって、悩み多き商品なのだという。

 なぜか。年末の1週間だけ需要が爆発するからだ。今年、2023年ならば25日~31日で、ちょうどこの記事の公開日あたりが焼き豆腐バブルの真っ盛りのはず。何にせよ売れればいいではないか、という気もするが、それにも程度がある。

 この連載で取り上げている相模屋食料(以下、相模屋)は日本の豆腐市場トップシェアのメーカーで、通常の焼き豆腐(以下、相模屋の表記に合わせ「焼とうふ」)の出荷量は1日約3万丁。1週間で21万丁だ。それでもすごい数に思える。しかし、年末の1週間はこれが180万丁に跳ね上がる(23年見込み)。

相模屋の「国産大豆焼とうふ」
相模屋の「国産大豆焼とうふ」

 1週間だけいつもの9倍の需要が発生する商品。ピークに合わせて設備投資をしたら、1年のうち358日は能力の9分の1しか発揮できない。これでは機械化は難しい。となると手作業で、ということになる。

 そもそもどうやってつくるのか。焼とうふは「堅い木綿豆腐」を焼いたものだ。煮込む料理で汁気と温度に耐えて形を保つために、木綿豆腐より堅くつくる。豆腐を堅くするには水気を切ればいいが、水と一緒にうま味が抜けていくと味気ない食感になるので、風味を閉じ込めながら水分を外に出す。詳しくは単行本『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』の186ページ「相模屋がマネできなかった『堅とうふ』」のあたりをご参照いただきたい。

 そうして出来上がった生地を一個一個にカットして、表面を手で持ったバーナーで炙(あぶ)って裏表両面を焼くと「焼とうふ」になるわけだ。

生地(手前)をカットして(中央)、バーナーで炙る(奥)
生地(手前)をカットして(中央)、バーナーで炙る(奥)

 バーナーで炙ること自体は単純作業だが、数をこなすにはマンパワーが必要で、写真のとおり立ち仕事になる。楽ではないし、いきなりど素人に任せるわけにもいかない。年末1週間だけ、この作業のために人をかき集めて教育するのは大変だ。昨今の人手不足でそのハードルはますます高くなっている。

数字で考えるとダメダメな商品

 しかも焼とうふは木綿豆腐よりは高いが、値段はそれほど変わらない。国産大豆でつくった場合、木綿が128円、焼とうふが148円というところ。年末だから高く売れるわけでもない。要するに「手間ばかり掛かって、そこまでやって需要に応えても残業や人を雇ってつくったらもうからない」商品なのだ。

 「数字で考えると全然ダメで、さっさと切るべきだ、という結論になります。実際、撤退していかれるメーカーさんもたくさんあります。で、そういうところに、“数字を追わない”我々の商機があるわけです(笑)」と、相模屋の鳥越淳司社長。

 どうするのか。その答えが相模屋が10年前から始めた「焼祭り」だ。

 「年末の25日から31日までというのは、営業も商談はほぼありません。事務所も年末の大掃除か年末のご挨拶の応対ぐらいしか仕事はない。じゃあどうせやることないんだから、この期間は営業と事務所、総務や経理、品質管理を担当する社員とか、つまり工場以外の全員で、焼とうふを焼いて焼いて焼きまくろう、『焼祭り』だ、というわけです」

 年末は、木綿豆腐や油揚げなどの中核商品も需要が跳ね上がるため、工場は多忙を極め、朝2時から稼働している。営業と事務所の焼とうふ応援部隊は9時前後から工場入り(早朝からのこともある)して、2交代で23時まで、焼いて焼いて焼きまくる。

 「最初に必ず決起集会をやるんです。今年も焼祭り、焼いて焼いて焼きまくるぞ(笑)、エイエイオー!、と」

業務と言うより、体育祭、文化祭の雰囲気。会社勤めではなかなか味わえない時間だろう
業務と言うより、体育祭、文化祭の雰囲気。会社勤めではなかなか味わえない時間だろう

 「またこの季節がやってきたぞ、というノリで、営業の執行役員たちが先頭に立って、お祭り気分で笑いながらやろうぜと」

 人員配置とスケジュール調整は鳥越社長自らが、喜々としてやっている。

 「労働基準法順守はもちろんですが、疲れすぎないように、でもテンションが上がるように組みます。本で触れて頂いたとおり例によって例の如く、手書きのホワイトボードとスマートフォンのメッセンジャーが、情報伝達の主軸になります」

相模屋の情報インフラは「ホワイトボードに手書きで要点を書き、iPhoneのiMessageでグループに配信する」というもの。企業再建のときも災害時もこれを使う(単行本90ページ「ホワイトボードに手書き+スマホで情報共有」もご参考に)
相模屋の情報インフラは「ホワイトボードに手書きで要点を書き、iPhoneのiMessageでグループに配信する」というもの。企業再建のときも災害時もこれを使う(単行本90ページ「ホワイトボードに手書き+スマホで情報共有」もご参考に)

お祭り気分をメッセンジャーで共有

 シリアスな場面でも活躍するこのシステムは、お祭り気分を盛り上げるためにも有効だ。人員配置のほかにも、「いいね」や、活躍している人の似顔絵(社長直筆)が添えられて「こうやってお祭りを楽しむんだ」というガイドの役割を果たしている。

 応援部隊の参加人数は40人強、工場の現場が350人前後なので、1割弱のマンパワー増加となる。しかも「毎年焼いていますので、おとうふはつくれませんが焼きの腕とスピードは確かなものです。工場の人が焼くより、応援に来ている営業の人のほうが確実に速いです(笑)」。24日までは工場の担当者が焼いているが、長年の経験を経て精鋭ぞろいとなった応援部隊が入ると、生産スピードが激上がりするのだそうだ。

慣れた手つきで焼いているのはシステム担当の課長さん
慣れた手つきで焼いているのはシステム担当の課長さん

 ちなみに、「数値目標」もお祭りの盛り上げ要素として採り入れられている。

 「やる気を出すために使うのは、時間あたり生産数ですかね。1時間4000丁いったー! やったー! おーっ! みんなよくやった! みたいな感じで盛り上がっています。でも、全体数量やロス率などはほぼ気にしてないです(笑)。あとは時間効率が上がると終了時間が早くなるので『今日は21時終了予定だけど、頑張って20時には終わって帰るぞー!』という感じで気合を入れ合います」

 このほかにも、ホワイトボードとメッセンジャーで様々な出来事が共有されて、みんなでやっているお祭り、という気分をかき立てる。

 「グループ会社も含めた工場がすべて参加しているので、毎日、全工場の焼とうふを並べて、みんなで試食比較して、『今日はこっちの工場のがうまかった』『それ、俺が焼いたやつ』とか言いながら、『せーの』で、本日一番の焼とうふを指さしたり」

 昼食や作業の途中での差し入れも盛り上げ要素だ。ランチは日替わりで用意し、デザートは担当社員が自社商品をベースに調理して休憩時間に振る舞う。

画像のクリックで拡大表示
こういう画像もメッセンジャーで共有される
こういう画像もメッセンジャーで共有される
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 数字に追われるやらされ仕事だ、と思えばつらいだけだが、全員で非日常にぶち当たろう、という角度が付けば、前向きな楽しみに変えられる。なんだか、トム・ソーヤ-のペンキ塗りのエピソードのようでもある。

生産量を確定しなければ実現できない

 「私どものグループに入ったばかりの会社の工場の人は、『ああ、年末だ、また焼とうふだ』と憂鬱そうにしています。また我々だけが寝ずにやらされるのか、みたいな。いや、そうじゃなくて、うちは営業や事務所の人が応援で、お祭りみたいにやるんだよ、と言うと『えっ、24時間やらなくていいんですか』と(笑)」

 急増する需要へのよくある対応としては、現場の稼働時間を延長して残業でやっつけるやり方があるが、これは精神的にキツい。経営にとっても、残業代を支払うためいくら売れてももうからない。相模屋は応援の人数を手当てした上で、生産する期間を長めに取り、1日あたりの時間が短くなるようにシフトを組んでいる。

 ただ、これをやるためには、最初の段階で焼とうふの生産量を確定しておく必要がある。直前に大量の発注を受けてしまえば、精緻なシフトも水の泡になるからだ。

 「なので、通常は焼とうふって赤字を垂れ流すしかない商品なんです。ものすごい残業をさせて年末の受注をこなすメーカーがほとんどですから。しかも、ピーク期にさえ通常発注(出荷当日の夕方受注して夜に納品)で(注文が)上がってきますので、それに対応しなきゃいけない」

 経営的にも大問題だが、それだけではない。

 「そんな状態で、『おいしいものをつくろう』なんて、誰も思えないですよね。単なる作業、ノルマをこなすという精神状態になってしまいます。おとうふじゃなくて『白い塊』、というか焼とうふだから『焼いた茶色い塊』をひたすら量産することになる。楽しくもなんともないですよね。しかももうからない」

 だから焼とうふはやりたくない、というのが豆腐業界の常識だが、「それを一番の収益商材にしよう」と、鳥越社長は考えた。

墨俣一夜城のように

 「まず、焼とうふはやっかいだけど、年末の一瞬の瞬発力はある。なので秀吉(当時は木下藤吉郎)の墨俣城じゃないですけれども、年末、みんなで一夜で城を建てて、終わったら全員で乾杯して、その城をつぶして自分の現場に戻る、という、儀式というかイベントのような形にできるんじゃないか……とまでは考えなかったですね(笑)。まあ、せめて面白く、気分良くやれたらいいな、と思っていました」

 「でも、やる気の効果は数字を超えますね。季節の行事と思えば『またこの時期になっちゃったね、いっちょ、焼くか』と盛り上がってやる、ばか騒ぎができるような楽しみにしようと。そうなるとですね、まず、生産効率がどんどん勝手に上がっていきます。面白がってやるから工程が改善され、のみ込みが速くなり、おいしさを競い合う気持ちも生まれてくる」

 それには周到な人員配置と数量分担、そして、その前提として生産量の確定が必要なのは前に述べたとおり。ここに「焼祭り」がビジネスとして“も”成立する核心がある。

 「年末の焼とうふについてはスーパーさんから、確定発注をいただくようにしているんですね。『私どもでは絶対、欠品をしません。なので、これこれの日までに注文の数字をください』と」

 スーパーが何より恐れるのは、季節のハレの商材である焼とうふが売り場に欠品してしまうこと。それを回避することを確約して、事前の発注を取る。

 もう1つのポイントは、高単価の国産大豆の焼とうふへのシフトだ。

8割の人が5割高い国産大豆製を選ぶ

 「輸入大豆の焼き豆腐は100円で、国産大豆の焼き豆腐は150円なんですね。年末のすき焼き用にいいお肉を買って、おいしく食べて年を越したいという方が、焼き豆腐だけは安いものを買いたい、とお思いになるでしょうか。いらっしゃるかもしれませんけど、大多数は、『いつものよりちょっといいもの、おいしいものを食べたいよね』と言われると思います」

 当初、スーパーの側からは「そうはいってもやはり安いものを」という声が強かったという。「国産大豆でも高かったら売れない」と。しかし、説得して置いてもらうと、これが売れる。それを10年間続けてきて、今や8割が国産大豆、2割が輸入大豆という比率になっている。

 180万丁掛ける8割が単価5割アップで、応援部隊で全部やるので過度な労務負荷も余計な追加コストもかからない。スーパーにとっても欠品リスクを避けられ、高いほうが売れるなら文句はない。「そしてここが一番大事ですが、味もいい。今やこの時期の焼とうふは、我々の最大の収益商材になっています」。

 年末になると売り切れたスーパーから発注が来ることもあるし、安売りメーカーと競合させてきたところもあるという。「うちは事前に発注をくださったお客様を優先しますので、すみません、と断ったところ、どちらも次の年から事前発注リストに加わっていただけました」。

 数字で考えればやる価値がないようでも「やる気」を出してもらえれば状況が変わる。そして、「やる気」を出してもらうために、鳥越社長は生産量、納期、価格、という「数字」を改善する手を打った。

数字だけで考えると見えてこない市場がある

 数字とやる気は経営の両輪だ。数字だけで縛ればやる気は逃げる。だが、数字を使ってやる気を起こすこともできる。結果の管理ではなく「どうすれば現場のやる気と収益を両立できるか」を考え、打つ手を決めるためのツールとして、数字を使うわけだ。

 「数字だけで考えて『もうからない、しんどい、やりたくない』と人が思うところには、実は何らかのミスマッチや思い込み、誤解がある。そういうところは必ずやってみよう、というのがうちのやり方ですので。誰もがばかにしていたり、業界としてこれに手を出すのはタブーだというようなところですね。焼とうふなんか最たるものなんですけど、もう1つの最たるものは揚げ出し豆腐なんです」

 数は出るが製造に手間が掛かり、コストはかかるのに赤字でやらざるを得ない価格で、しかも油物。「油とバーナーを使うものはどこもやりたくないんです。けれども、やりたくない、誰もやらないなら勝機がある。そこでニッチでもナンバーワンになってしまえば、これほど強みのある商材はない、と」

生産技術担当の執行役員もノリノリで焼いている
生産技術担当の執行役員もノリノリで焼いている

 鳥越社長の話はまだまだ続く、が、今回はここまで。物足りない方は、おいしいすき焼きをつつきながら、是非、『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』をお楽しみください。皆様、よいお年を。

【日経BOOKプラス限定公開】
本記事に関連する箇所を書籍『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』から抜粋してお届けします(186~192ページ)。当該部分は第5章の後半。本記事の1ページ目で「焼とうふについて詳しくは参照を」とご指定のところです。

鳥越社長曰く──「数字が正義」が招くのは、製品の特色よりもコストとキャパ、設備投資して均一の商品を大量供給、価格で競争して、当然。それでレッドオーシャン化して、負のスパイラルへ ようこそ、となる。そして、そんな負のスパイラルに押しつぶされた宝物の技術が、日本各地にまだまだ隠れている──そんなお話の流れを受けて……

相模屋がマネできなかった「堅とうふ」

鳥越:たとえば23年2月にグループ会社になった口の出(千葉)。国産大豆だけを使って、昔ながらの手づくり製法のおとうふで支持されてきたメーカーですが、やはり経営難になって、相模屋に救済を求めてきたんです。

 ここの技術はすごいんですよ。中でも看板商品の「堅とうふ」。まるでお刺し身です。さっきちらっと触れたのは実はこれです。

── 刺し身? 豆腐ですよね?

鳥越:包丁で切ってわさびじょうゆで食べていただくと、おとうふなのにお刺し身みたいに食べられるんです。コクと甘みがすごいんですよ。

 6年前ぐらいですけれども、「日の出の堅とうふみたいなのはできないか」というオーダーが、あるスーパーさんからあったんです。「あんなの簡単ですよ」と試してみたんですけど、食べ比べると味がまったく違う。堅さは負けないんですけど(笑)。

── 相模屋じゃかなわんと。こと豆腐でそういうのは珍しいんじゃないですか?

鳥越:そうなんです。うちがつくったやつは国産の相当いい大豆を使っているはずなのに、もう何か、あれ? あれ? という。堅いだけなんですね。食感も日の出のほうがふわっとしていておいしい。どうしてかなと思ったら、グループ会社になってわかったんですけれど、製法が全然違いました。

 おとうふには「寄せ」という工程があります。豆乳に「にがり」を入れて凝固させるんです。ちゃんと混ぜるのが大事で、うちもそうですが、たいていは、「ワンツー」と呼ばれる、上下対流方式でやっています。作業が2ステップなのでワンツーという。

 ところが、日の出は「櫂(かい)」という、大きなしゃもじかオールのような道具を使って、桶の中で豆乳とにがりを攪拌(かくはん)していたんですね、20分間かけて。ワンツーならものの5秒で瞬時に寄せられるんですが。

── 効率の差は圧倒的だけど、さっきの話(166ページ=付加価値は素材じゃなく、つくり方にある)ですね。

鳥越:そうです。瞬時に寄せるほうが望ましい世界もあるし、じっくりゆっくりやっていかないと届かない世界もあるわけです。にがりが豆乳と反応して、ぎゅっと凝固していく過程を時間をかけて進めることで、微妙な加減ができる。

 そして、ここが大事なんですが、その櫂で20分かけた寄せによって、とうふの内側にうまみを含んだ水分が保たれている、そんなイメージです。

── あれ、でも、堅豆腐ってことはその、堅いんですよね。水分が残っていたら、柔らかくなるんじゃないですか。

鳥越:絞って表面は堅くなっても、中にあるうまみ分が保たれているから、ただ「堅い」のではなくて、「ぎゅっと甘味とコクが詰まっている」というジューシーな印象になるんだと思います。

 さて、おとうふには絹と木綿がありまして、絹(絹ごし豆腐)は水分を絞らないでそのまま製品になる。プリンみたいなものですね。水分が多いのできめ細かく滑らかです。一方、木綿は寄せていったん固まったのを崩して、型箱に入れて、重しをかけて水分を絞りながらもう一度固める。崩してから固めるのですき間が空いて、煮物の味がしみやすいわけですね。このもう一度固める工程が 「絞り」です。

── つまり堅豆腐は木綿豆腐のバリエーションなんですね。

鳥越:そうです。普通の木綿よりさらに絞って堅くする。さっきも言いましたけど、相模屋も含めて普通の豆腐メーカーは、「堅いおとうふなんて簡単ですよ。うんっと絞ればいいんだから」と思っているわけです。

── 水分をなくせばいいんだろうと。

鳥越:ですけれども、ぎゅっと絞ったときに水といっしょに、うまみと甘みがいっしょに出ちゃうんですね。堅いおとうふは誰でもつくれる、ただし無味乾燥でよければ、ということなんです。

── じゃ、日の出さんはどうやっていたんですか?

鳥越:自然脱水で、とうふ自らの重みで水分が出て行くのを30分待っていた。

業績の悪化で工程を短縮してしまう

── 寄せの過程でうまみが保たれて、絞りの過程でもうまみを含んだ水分を出し過ぎないようにする。すごい。こういうのってある意味、鳥越さんの理想の豆腐じゃないですか?

 でもそんな個性的な商品をつくる会社がなぜ救済を求めるような 事態に陥るんでしょう。

鳥越:さっきの繰り返しになりますけど、そういう一番大事なところを、効率優先で省いてしまったからです。

── 省いちゃったんですか。

鳥越:そう。業績が悪化して、手づくりや原料へのこだわりは捨てられないけれど、効率も求めなきゃダメだ、と。それ自体はいいんですが、ムダなところを削るのではなく、商品の競争力のコアを削ってしまった。せっかく20分で寄せていたのを5分に短縮し、絞りもがんがん重しを乗せて、10分ぐらいでできるようにしたと。それ、効率化じゃなくて、商品価値の削減だよという感じになって、お客さまが離れてしまったんです。うちのグループになってからは、全部、一番おいしかった頃のやり方に戻してもらってます。

── 相模屋がまったくかなわなかった頃の。

鳥越:そうそう。「あなたたちのおとうふはこんなもんじゃなかったはずですよ、うちよりうまかったじゃないですか。あの日に戻ってください」と。

── スポ根のライバル対決みたいだ、それはお互い燃えますね(笑)。

鳥越:これを言ったら、「相模屋に買収されると、機械化させられて、量産品をつくらされる」というイメージがあったみたいで、驚かれました。そんなことは一度もやっていないんですけど。日の出のこの技術が復活して、業績も急激に改善しているんですが、それだけじゃなくてですね、これは冬場の主力商品、焼きとうふにも応用できるわけです。焼きとうふもしっかり絞ってつくるものなので、基本的にあまり味がないことが多い。

── だけどこの堅とうふでつくれば。

鳥越:そう、これを焼きとうふにすることで甘みとうまみのある焼きとうふができる。しかも焼き方も変えて、全面焼きにして……って、おとうふに興味ない方にはどうでもいいですよね、この話(笑)。

── いえいえ(笑)。確かに焼き豆腐って、そんなに「うまい!」と思ったことはないですが。

いまいち目立たなかった焼き豆腐を革新できるかも

鳥越:私たちのPR不足だったなと思うんですけど、焼きとうふって、おとうふにすき焼きでしたらすき焼きの味が染みて、それで食べていただくというような形ですよね。

── そうですね、豆腐というよりは。すき焼きの味を食べている。

鳥越:そうです。木綿豆腐は味が染みやすいのでそれでいいんだ、と思っていました。つまり、豆腐屋なのにおとうふの味を自分たちであきらめていた。でも、今年からはこの技術が使えるじゃないかと。うまみを閉じ込めた堅とうふで焼きとうふをつくれば、おとうふ自体もおいしく召し上がっていただけるかもしれないですよね。何なら主役だっていいじゃないか、と。

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2023年12月28日付の記事を転載、一部情報を追加]

「前年比」「利益率」などの数値目標がない会社が「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。2012年に「ザクとうふ」で話題を呼んだ相模屋食料だ。率いるのは当時雪印乳業の「営業マン」だった鳥越淳司社長。普通の会社員が会社を燃える集団に変えていった20年間を、本人の言葉で語ります。

山中浩之(著)、日経BP、1870円(税込み)

●本書の内容をさらに詳しく知りたい!という皆さん、日経BOOKプラスにて「はじめに」と「もくじ」も公開しております。