2026年の投資相場を読み解き、あなたのNISAやiDeCoのポートフォリオを考える参考書『資産運用の論点2026』(日本経済新聞出版)から、一部を抜粋してお届けします。今回は、2026年の日本・欧州・新興国の景気を展望します。

1回目 「債券自警団」がリスクに? 2026年世界経済の景気を展望
2回目 2026年の米国経済展望 雇用鈍化と消費堅調が示す二面性 から読む

2026年の世界経済(yoshitaka/ stock.adobe.com)
2026年の世界経済(yoshitaka/ stock.adobe.com)

欧州・中国・新興国の動向

 欧州はエネルギー危機の峠を越え、景気後退リスクは和らぎました。もっとも潜在成長率は依然として低く、大幅な成長加速は期待しづらい状況ですが、防衛産業を中心とした財政支出の拡大が下支え要因となります。欧州委員会の「Readiness2030」パッケージでは、EU加盟国の防衛産業能力の強化、単一防衛市場の深化、共同調達の促進などが含まれており、防衛支出をGDPの最大1・5%程度引き上げるシナリオでは、2028年までに実質GDPがベースラインより約0・5%上振れする可能性があるという試算もあります。
 中国は不動産市場の調整が続いていますが、財政出動や金融緩和により一定の下支えが行われています。政府は超長期・特別国債(約3兆元規模)の発行やインフラ投資の拡大を通じて、設備更新や消費喚起を後押しする方針です。人民銀行(PBOC)は預金準備率の引き下げや政策金利(LPR等)の調整で信用供給を維持しており、減速懸念を抱えつつも世界平均以上の成長を確保する構図です。
 新興国は資源価格の底堅さや人口増を背景に成長余地があり、米国の利下げ局面はドル建て債務の負担軽減を通じて追い風となっています。IMFの最新予想では、新興国経済は2025年に約4・2%、2026年に約4・0%成長すると見込まれており、こうした見通しは金融環境の改善と、いくつかの国での財政拡張政策の影響を含んでいます。
 その中で注目すべき成長ドライバーが、生成AI関連への巨額投資です。スタンフォード大学の報告によれば、2024年の生成AIへの民間投資は約339億ドルに達し(前年比+18・7%)、周辺のAIインフラ・人材・データセンター・クラウド・セキュリティへの投資も加速しています。短期的には景気の下支え、中長期的には生産性押し上げのルートを通じ、先進国・新興国双方の成長エンジンとなる潜在性が高い点は引き続き押さえておくべきです。

日本経済の位置づけ

 日本経済は、賃金上昇やインバウンド需要の回復を背景に堅調な景気を維持しています。

設備投資がけん引する日本の名目GDP(2019=100)
設備投資がけん引する日本の名目GDP(2019=100)
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 円安傾向は輸出産業の収益を押し上げる一方、輸入物価の上昇は家計負担を重くしています。しかしながら、企業の設備投資や構造改革の進展に加え、株主還元姿勢の強まりが市場の評価を高めています。足元で設備投資が特に堅調なのは、通信・情報分野のAI計算基盤構築やソフトウェア関連投資が押し上げているためです。たとえば日本政策投資銀行による「2025年度設備投資計画調査」では、大企業の設備投資は通信・情報分野を中心に前年比10%超の増加が見込まれ、AIやデータセンター関連投資が主導していると報告されています。また、ソフトウェア投資は近年拡大が続いており、日本総研のレポートでは設備投資全体の1割を超える規模に達したとされます。その中には生成AIや業務効率化を目的とするシステム開発・クラウド基盤への投資が含まれており、AI関連が日本の設備投資の成長ドライバーの一つとなっていることが明確です。また、その設備投資についても、キャッシュフローの範囲内と余力を感じさせる状況です。

いまだ設備投資はキャッシュフローの範囲内(≒設備投資余力あり)
いまだ設備投資はキャッシュフローの範囲内(≒設備投資余力あり)
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 加えて、米国経済が堅調さを大きく崩さずに推移していることで、日本銀行も利上げを含めた政策正常化に舵を切る余地を得ています。これは金融政策が長期にわたり極端に緩和的であった日本にとって大きな転換点であり、円金利市場の変動や投資環境にも影響を与えると見込まれます。
 ようやく日本経済は正常化に向かうのか。今後、個人消費が力強く回復するためには、賃上げの流れが持続するか、そして物価上昇が落ち着き、実質賃金がプラスに転じるかが重要なカギとなります。

「好調さ」と「持続性リスク」の同居

 総じて2026年の世界経済は、「堅調な拡大が続く一方で、頂上が近づいていることを意識させる局面」にあります。短期的には景気は良好ですが、米国の成長鈍化や米中摩擦、財政負担や資本流出リスクなど、中期的な課題も数多く残されています。
 したがって、政策当局や投資家は「景気が良いから安心」ではなく、「景気が良いうちに次の局面への備えを進める」姿勢が求められていると言えます。一方で、米国では、トランプ政権第2期以降に法人設立申請が急増しており、新規事業の立ち上げが加速しています。これは、短期的に景気鈍化の兆しが見られる一方で、米国経済の底力と企業活力を示す事例でもあります。こうしたダイナミズムは今後のイノベーションや雇用創出を通じて、米国市場の投資魅力を中長期的に支える要因となるでしょう。
 もっとも、運用にあたっては米国を中核としつつも、需給面や政策変化による偏りリスクを踏まえ、他の資産や地域にも目を向ける分散の姿勢が重要です。財政の非弾力化と分配のゆがみは、金融政策の効果と市場のボラティリティを高める〝見えない地形〞です。

投資の時事テーマを1冊でカバー

2026年の相場を読み解き、あなたのポートフォリオ戦略を考える。「既存の投資方針をプロの視点で見直すための参考書」として、プロの現場で培ってきたポートフォリオ構築の思考プロセスを、誰もが実践できるよう体系化。

塚本 憲弘著/日本経済新聞出版/2,200円(税込み)