2026年の投資相場を読み解き、あなたのNISAやiDeCoのポートフォリオを考える参考書『資産運用の論点2026』(日本経済新聞出版)から、一部を抜粋してお届けします。今回は、2026年の米国市場を展望します。

1回目 「債券自警団」がリスクに? 2026年世界経済の景気を展望
2回目 2026年の米国経済展望 雇用鈍化と消費堅調が示す二面性
3回目 2026年の日本・欧州・新興国の経済を展望する から読む

(SF Lifestyle /stock.adobe.com)
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期待から確認へ

 財政・金利・分配という3つのレンズを通すことで、2026年相場の〝期待から確認へ〞という転換点がより立体的に見えてきます。これまでの株式市場は、堅調な企業業績に加え、金融緩和やAIなど将来成長への期待がPERを押し上げることで上昇してきました。株価は本来、業績(利益成長)とバリュエーション(評価倍率)の掛け算で決まりますが、ここ数年はとりわけ「期待」の要素が強く作用してきたのです。その結果、CAPE(10年平均利益に基づくPER)など長期的な指標で見ても、株価はすでに割高圏に達していることが確認されます。

米国株CAPE(10年平均利益に基づくPER)の推移
米国株CAPE(10年平均利益に基づくPER)の推移
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 こうした背景を踏まえると、2026年の金融市場は「期待相場」から「実力相場」へと転換していく年になると見込まれます。コロナ禍以降の相場上昇は、金融緩和や財政出動といった政策的支えに大きく依存してきました。しかし今後は、投資家は企業収益や成長の持続性といったファンダメンタルズをより重視するようになり、「企業の実力を見極める相場」への移行が一層鮮明になると考えられます。
 各国の金融政策の方向性はまばらです。米国は利下げ局面、欧州は利下げを終えて様子見、日本は利上げと三者三様の動きとなっています。一方で、株式市場やリスク資産は堅調です。背景には、依然として世界にあふれるマネーがリスク資産を下支えしていることがあります。さらに、生成AIが将来の経済成長をけん引するとの期待は強く、企業の投資も継続しています。ただし、こうしたテーマの中にはすでに割高圏にある銘柄も散見され、期待先行から実態評価へと移行する局面に差し掛かっています。
 分配是正を求める世論は拡張財政を後押しする一方、国債増発→需給逼迫→金利変動性の上昇という矛盾を内包します。加えて、好況下でも利下げ期待が先行する局面では、割引率低下が資産価格の追い風となり、金融環境の再緩和→リスク資産高→期待の先行というバブル形成ループに陥るリスクも無視できません。短期的には株高を支えつつも、中期的な調整コストを高めます。
 経済のテーマとしては、AI需要の拡大は半導体市況に直結しており、メモリやGPUといった特定分野の価格動向が市場全体を揺さぶる局面も想定されます。巨額投資の加速は短期的に成長を押し上げますが、供給能力の増強が進む中で、将来的には設備過剰や市況調整のリスクも織り込む必要があります。
 米国は長年、貿易赤字の拡大と引き換えに、海外投資家による米国資産への恒常的な資金流入を取り込み、米国債・米株の需給を支えてきました(経常赤字と資本収支黒字の鏡像関係)。いま進む貿易赤字の解消・縮小を志向する政策は、この資金循環のトレンドを反転させ、ドル需要と対米資金流入を細らせる方向に働き得ます。 さらに、国債の供給増・投資家層の分散志向・財政の構造的赤字が重なると、長期金利のボラティリティが上がり、債券→株式への波及を通じて市場全体の感応度が高まりやすくなります。債券自警団の存在は、金融相場から業績相場への移行過程で無視できない外生ショックになり得ます。
 米国株高が続く一方で、米国家計のバランスシートでは金融資産に占める株式・投信の比率がすでに過去最高圏にあります。家計フローの観点では、追加の株式積み増し余力は相対的に限定的であり、過去のように恒常的な買い越しがバリュエーションを押し上げる効果は弱まっています。米資産一極の流れを支えてきた需給要因はこれ以上強まるとは言い難く、米国一辺倒の潮目が変わり得る点を意識する必要があります。

米国家計:金融資産に占める各資産の割合
米国家計:金融資産に占める各資産の割合
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米資産一極構造の潮目:ドル高・米国株優位の一服

 長く続いたドル高・米国株の相対優位には変化の兆しが見え始めています。金利の局面転換や関税・産業政策の再設計、資金循環の見直しが重なり、地域分散の有効性が再評価されつつあります。米中心の一極構造から、ローテーションが進む可能性に備える局面です。
 世界経済そのものは前節で述べたように依然として堅調であり、ピークを見据えながら成長を続けています。これまでは米国市場が中心となって株価をけん引してきましたが、その一極集中のトレンドに変化が生じるならば、相対的に出遅れてきた世界株を組み入れる妙味は一段と高まるでしょう。
 また、為替市場ではドル一極構造の揺らぎも注目されます。中国人民元やインド・ASEAN通貨の存在感が増し、各国の外貨準備も米国債一辺倒からゴールドや他通貨へ分散が進んでいます。こうした「通貨の多極化」は、資本の流れや資産価格に新たな変動要因となる可能性があります。

米国株「バブル」再燃の可能性

 もっとも、ここ数年にわたる株価上昇の過程では、投資資金の一部が一方向に偏り、株式市場に過熱感が広がっていることも否めません。とりわけ米国市場では、限られた大型テック株に資金が集中し、バブルの兆しを示す動きも見られます。こうした過熱は短期的な調整を招く可能性がありますが、同時に調整後にはより健全な価格形成が進み、長期的な投資機会が広がる局面ともなり得ます。歴史的にも、バブル後の是正過程でこそ新たな成長分野が浮上してきた例は少なくありません。
 2026年もまた、そうした「一時的な不安定さの裏に潜む好機」にも目を向けることが重要になります。
 こうした過熱感の延長線上で、2026年に米国株が本格的な「バブル局面」に入る可能性も想定しておく必要があります。CAPEは確かに割高圏にありますが、過去最高水準(ITバブル期の44倍前後)と比べれば依然として下回っており、歴史的にはまだ「絶対的な頂点」には達していません。しかも、市場が必ずしも過去最高水準で頭打ちとなる保証はなく、投資家心理や金融環境次第では、その水準を超えて一段と拡張していく可能性も否定できません。金融緩和が再開し割引率低下が株価の追い風となれば、CAPEがさらに押し上げられ、過去の常識を超える新たな局面が出現するシナリオも現実味を帯びてきます。
 同時に、指数の集中度も高まり、S&P500では上位10銘柄だけで時価総額の約4割を占めるまでになっています。AI関連の収益期待を背景に資金が一極集中する構図は、上昇局面では市場全体を押し上げる一方で、反転局面では同時性の高い調整を引き起こすリスクがあります。さらに、AIインフラへの巨額投資が世界的に加速しておりますが、こうした前提は需要の持続を前提にした投資であるため、想定より収益化が遅れる場合には、過剰投資や投資回収難が一気に表面化し、バブル崩壊の引き金となり得ます。
 また、株式益利回り(E/P)と10年金利との差、いわゆる株式リスクプレミアム(ERP)が縮小しており、株式の相対的な妙味は低下しています。これは「高バリュエーションを正当化する余地」が限られていることを示唆し、もし投資家が成長ストーリーの持続に疑念を抱いた場合には、株価調整のインパクトが増幅される可能性があります。
 このように、2026年相場は「期待から実力へ」という本章の基調が正しさを保ちつつも、別シナリオとして「バブル的過熱」が加速する展開も排除できません。投資家はCAPEや予想PERなどのバリュエーション指標、指数集中度、AI関連投資の需給バランス、株式リスクプレミアムの水準といった定点観測を行いながら、万一のバブル局面に備えたリスク管理を怠らないことが求められます。長期投資家にとっては、こうしたリスクシナリオを頭に置くことで、資産配分の見直しやヘッジ戦略を適切に組み込むことが可能になるでしょう。こうした価格水準や需給のリスクに加え、2026年は米国の中間選挙年という政治イベントも市場変動の契機となり得ます。

中間選挙年のアノマリー

 2026年は米国の中間選挙年でもあり、例年のパターンを見てみましょう。歴史的に見ると、中間選挙年の前半は政策不透明感や政局の思惑から株式市場のパフォーマンスが相対的に低調となる傾向があります。
 しかし、選挙が終わると政治リスクが後退し、財政刺激や規制緩和への期待が高まりやすく、年後半から翌年にかけて株価が回復基調に転じやすいのも特徴です。

大統領選挙サイクルでみる米国株のパフォーマンス
大統領選挙サイクルでみる米国株のパフォーマンス
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 2026年も同様のシナリオが意識される可能性があり、投資家にとっては「不安定な前半」と「回復余地のある後半」という時間軸の違いを踏まえたポジショニングが重要になるでしょう。選挙サイクルと格差是正要求が財政拡張による短期の押し上げをもたらす一方、その副作用として中期的な景気過熱とバリュエーション拡張のリスクが蓄積しかねません。投資家は、政策の方向性×金利・需給の感応度×バリュエーションの三点を定点観測し、シナリオごとに資産配分とヘッジ方針を事前に用意しておくことが肝要です。

投資の時事テーマを1冊でカバー

2026年の相場を読み解き、あなたのポートフォリオ戦略を考える。「既存の投資方針をプロの視点で見直すための参考書」として、プロの現場で培ってきたポートフォリオ構築の思考プロセスを、誰もが実践できるよう体系化。

塚本 憲弘著/日本経済新聞出版/2,200円(税込み)