自動車業界は「新車販売台数の成長スピード緩慢化×収益圧迫」「カーボンニュートラル化」「デジタル化」などの環境変化に直面している。こうしたなか、どういった取り組みが求められるのか。大手コンサルティング会社A.T. カーニーのシニアパートナー、芳川天音氏が解説する。書籍『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』から抜粋・再構成してお届けする。
低成長、CN対応のための戦略
「新車販売台数の成長スピード緩慢化×収益圧迫」「カーボンニュートラル(CN)化」「デジタル化」などの変化に直面するなか、日系自動車メーカーはどういった取り組みが求められるのでしょうか。
大きく、以下の4つの示唆を示します。
(1)量的な低成長時代のシェア確保に向けたモードチェンジ
まず、量的には、欧・米・中の主要な競合OEM(相手先ブランドによる生産)がシェア獲得に有利な大きな自国マーケットを持ち、スケールを確保してコスト競争力を高めやすい一方で、相対的に日本勢は自国市場が小さく、もともとスケールメリットを出しにくい環境にあります。
こうした状況のなかで、日本勢は東南アジアや米国などを第2のホームマーケットとして育成してきましたが、経済が不安定化した中国のOEMが、自国内ではなく海外に、本格的に成長を求めて大規模な投資を伴って進出し始めており、実際にタイなどでは日本勢がシェアを一部失い始めています。
市場規模がこれまでのようなペースで拡大しないとみられる環境においては、限られたパイをどう獲得するべきか、競争ステージが変化してきたと言えます。改めて、低成長な市場のなかで、シェア拡大余地を見いだしてターゲットエリアを再配置したり、アライアンスを積極活用してシェアを拡大したりすることがますます求められていきます。
(2)CN対応の地域×時間軸でのリスクヘッジ
CNへの対応については、日本勢は、1990年代にハイブリッド車、2010年前後に量産BEV(バッテリー電気自動車)を世界に先駆けて投入してきました。しかしながら、足元での政策主導のBEV推進の流れには乗り切っておらず、CNについて「日本勢は出遅れている」という意見もあります。ただし、これは、BEV一辺倒に急シフトするわけではない未来が見えるなか、日本勢は「普及ペースの見方が現実的だった」とも言えるでしょう。
実際、この現実的な判断は2024年に奏功し、緩慢なBEV普及で海外勢が車種投入や投資計画を大きく見直し混乱するなか、日系OEMはハイブリッド技術で追い風を受けています。
しかし、長期的には、CN化に向かって国・地域別に異なるペースで多様なパワートレイン構成に向かっています。ハイブリッド技術だけで勝ちきれる保証はなく、各市場で出遅れないような車種投入と競合対策が必要です。この点、実態として、日系OEM各社が複雑な未来像に対して自力で手当てをしきるのは難しいと考えられ、ブランドとの整合性を図りつつ、OEM同士のアライアンスなども活用したリスクヘッジが不可欠となってきます。
こうしたなかでは、BEV化が進むにつれたサプライチェーンの変化にも対応する必要があります。ハイブリッドカーで日本が先行していた段階では、特にBEVのコスト・性能を左右する電池において日本勢が技術・コスト面でリードしていましたが、その後、大規模な開発投資によって韓国・中国勢が急速に競争力を高めてきました。実際、中国BEV大手のBYD(比亜迪)は、各国での補助金の恩恵はあるものの継続的に営業黒字を獲得できており、どのように競争力のあるサプライチェーンを築けるかも競争上重要になっています。
販売プロセスの見直し
(3)新たな収益獲得方法の模索
また、新車販売以外の新たな収益獲得も重要です。これまではOEMが数百億円のモデル開発費用やマス広告費用を負担し、販売はディーラーに任せるという分業体制をしいており、現時点でもなお製造への依存度が引き続き高い状況が持続しています。しかし、BEVなどではバッテリーを中心としたパワートレインの価格が圧倒的に高く、新車事業だけで持続的な利益を稼ぐのが難しくなっています。このため、自動車の保有期間を通じて収益化の網を張り、効率性の向上も含めて最大化する必要があります。
この実現には、自動車販売にOEMが関与することによる販売プロセスの合理化が有効です。地域ごとのOEMと販売会社の関係にもよりますが、欧州などではそうした売り方が実装され始めています。こうしたオムニチャネルを、既存の地域本社・販社との関係性のなかでどうグローバルに配置するかが、日系OEMに対して問われています。また、ライフタイム全体で顧客とOEMがデジタルにつながれる環境のもと、BEV電力を分散電源として電力売買を媒介するサービスなども誕生しています。
このほか、新車販売の成長が緩慢化するなかで、車両の高価格化を避けるため中古車が選ばれるとみられ、中古車事業もOEMにとって重要と考えられます。
こうしたなかで、チャネルパートナーとしてディーラー網を引き続き活用するか、デジタルで顧客とつながるなかで新たなチャネル網を構築するかも問われています。日系OEMにとって8割が海外での販売となる状況で、その複雑性(言語・文化・使用環境)も踏まえてマネージするのは容易ではなく、難しい舵(かじ)取りが求められています。
一方、販売会社側がこの流れで単純にビジネスを失うわけではなさそうです。確かに、通常の新車購入では、OEM側の役割が増えて販売会社のマージンが減り、リソースを最適化する必要があります。
ただし、BEVは専用設備での修理・交換対応が求められるため、地域独立の整備工場ではなく、販売会社への入庫が増える可能性があります。日本では、もともと地域独立の整備工場が高齢化もあって事業継続が難しく、販売会社や独立系整備ネットワークに機能を集約する未来も想定されます。
日本勢の課題
(4)デジタル化を踏まえたモノづくりの実現
デジタル化に適した組織作りも必須です。不断のアップデートが可能な開発組織に加えて、ハードの設計でもOTA(オーバー・ジ・エア。無線を介した自動車のソフト更新)を通した将来のアップデートを受け入れられるレベルでのオーバースペックが必要です。
特に、常に機能をアップデートし続けるといっても、自動車は人命に直結するため単純な見切り発車は許されません。安全性に関わる機能と快適性などの機能を分け、後者でややアジャイル的にリリースして機能向上を図るなど、従来型の開発プロセスとの両立を実現するアップデートの再定義が求められています。
また、自社の開発領域を再定義する必要もあります。テスラなどが内製化率を高めて柔軟・迅速な開発体制を敷くなか、OEMとして、従来の関係性通りサプライヤーにもソフト開発を大きく依存するか、判断が求められます。
さらに、内製・外部調達の範囲の再編には、外部調達するソフトの品質/価値評価のノウハウを組織能力として構築することも重要となります。こうした変化のなか、故障しないハードウエアを作ることで価値を発揮してきた日系OEM各社はどこまで新たな思想にアジャストすべきか・できるかという点が業界のカルチャーとして問われています。
加えて、人材確保も課題となっています。欧米勢や新興勢はテックプレーヤーとの競争を伴いながらもグローバル全体でハイレベルな人材獲得を強めています。対する日本勢は、言語の問題もあり、日本の人材を中心に採用してきた経緯があり、自動車への深い理解とソフトウエア開発知見の両方を持つ質の高い優良人材獲得の限界をどう超えていくかが課題となっています。
写真/鈴木愛子
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19の業界別のアジェンダについて、各分野を専門とするコンサルタントが解説。幅広い産業で起こっている最新のトレンドをキャッチアップし、様々な業界に通底している経営のメガトレンドを構想する。
A.T. カーニー著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)



