同時多発的なリスク影響を受けて、一過性の対応ではなく構造的にサプライチェーンの柔軟性と耐性を向上させる必要性が増している。そうしたなか、レジリエント(強靱[きょうじん])なサプライチェーンの構築に向けた、必要な機能や体制・技術は何か。大手コンサルティング会社A.T. カーニーのプリンシパル、松代孝博氏が解説する。書籍『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』から抜粋・再構成してお届けする。
サプライチェーン全体を可視化する
経営のレジリエンシーへの注目が集まるなか、レジリエントなサプライチェーンを構築するためには、どのような機能や体制・技術が必要なのでしょうか。
絶えず変化する環境に迅速に対応し、サプライチェーンの構造とオペレーションを最適化することは容易ではありません。迅速な対応のためには、(1)サプライチェーンコントロールタワー、(2)社外とのコラボレーション機能、(3)デジタル技術の実装、の3つが必要です。
具備すべき内容(1):サプライチェーンコントロールタワー
まず、サプライチェーン全体を可視化し、リスクを評価・管理する「サプライチェーンコントロールタワー」の構築が重要です。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以前からもその必要性は指摘されていましたが、多くの企業では議論に留まり実際の導入は進んでいません。データ収集の難しさやシステマチックな意思決定フローの欠如が原因です。
しかし、近年DX(デジタルトランスフォーメーション)によりERP(統合基幹業務システム)刷新、データレイク整備、サプライチェーン管理システムの拡充が進んできています。これにより、物理的にコントロールタワーを設置する環境が整いつつあります。
- ・サプライチェーン評価……カントリーリスク、年間販売・生産量、拠点位置、輸送ルート、サプライヤーなどの静的な情報を基に、事前にサプライチェーンの持続性を把握する。加えて、在庫レベル、需要量、輸送ステータス、天候、最新の製品・原材料単価などの動的な情報をリアルタイムでモニタリングし、在庫過剰・ショート、コスト上昇などの供給リスクを評価する。
- ・データドリブンの意思決定……経営層・サプライチェーン担当者がリスク内容に応じて、短期・中長期の対策を講じる。例えば足元の在庫逼迫の場合、データに基づき製品アロケーション見直し(逼迫地域を優先し在庫を送り込む)、緊急増産、輸送キャパシティ確保の短期的な対応を決定する。他方、恒久的なリスク軽減の場合、調達ソースの拡大、ネットワーク最適化(倉庫・販社の拠点位置&経路の変更)、生産・物流キャパシティ見直しなどの中長期視点で判断する。
- ・対策の実行と監視……短期・中長期の対策により、原材料不足、製品在庫逼迫、輸送の目詰まりなどの問題が解消されたかをデータを基にモニタリングする。施策が有効に機能していない場合、柔軟にサプライチェーン構造・オペレーションを見直す。
不可欠な外部との連携
具備すべき内容(2):社外とのコラボレーション機能
次に、リスク回避や持続可能なサプライチェーンを構築するためには、原材料サプライヤーや物流業者などの外部との連携が不可欠です。例えば、GHGプロトコル(温暖化ガス排出量を算定・報告する国際的な基準)のScope3を実現するためには、多階層・多段階のサプライチェーン工程を可視化・把握し、包括的に協力することが必要です。
また、突発事象にも迅速に対応するためには、高度なS&OP(販売・操業計画)を実現することが求められます。企業は危機発生時に人海戦術で対応してきましたが、平時からの情報連携と異常を検知する体制構築が重要です。外部情報共有ができるプラットフォームも整備されつつあり、これを活用してコラボレーションを加速させるべきです。
- ・調達:調達先との需給情報共有による在庫最適化、環境素材のサプライヤー共同開発・設計、調達先におけるGHG排出量および削減取り組みの把握
- ・生産:生産委託会社とリアルタイムの生産キャパシティ共有、中長期的な生産見通し情報の共有、生産委託先におけるGHG排出量把握と協働改善
- ・物流:3PL/フォーワーダーとの輸送情報把握、環境負荷軽減に向けた協働改善(ルート見直し・積載率向上・荷姿変更)、競合他社との共同配送/共同保管によるコスト削減
- ・販売:流通・卸における在庫情報・セルアウト情報共有による販売・在庫最適化
適切なテクノロジーの選択・活用
具備すべき内容(3):デジタル技術の実装
最後に、デジタル技術の徹底的な実装と活用が求められます。自然言語処理技術や機械学習を活用することで、サプライチェーンの透明性や効率性が向上し、リスク管理や品質管理にも効果があります。例えば、需要予測にAI(人工知能)を活用することで予測精度が向上し、計画業務の負荷も軽減されます。デジタル技術は日進月歩で進化しており、適切なテクノロジーを選択・活用することが必要です。
- ・AI:AI活用による需要予測精度向上と在庫最適化、生産ラインの稼働最適化・品質管理、配送ルーティングや配車計画の最適化、サプライチェーンリスク分析と回避策の提案
- ・ロボティクス:ロボット活用による生産ライン省人化、倉庫内の受入・出荷作業効率化
- ・ブロックチェーン:原材料の供給源から製品納入先までのトレーサビリティ確保、サプライヤ・ベンダーとの契約・取引情報の記録
- ・センシング:センサーによる生産状況把握、品質監視、輸送ステータスのリアルタイムモニタリング
- ・デジタルツイン:調達~製造~輸送~販売のサプライチェーン再現/シナリオ作成/シミュレーション
近年ChatGPTに代表される自然言語処理分野で、グローバルで活発に大規模言語モデルの開発が行われています。文章生成・翻訳・質問応答などの言語処理タスクに適したAIは、サプライチェーンではユーザーフィードバック分析、サプライチェーンデータ解析、レポート生成への活用が期待されます(将来的にはより活用領域は広がる可能性あり)。
ただし重要なのは、デジタル化とクリエイティビティのバランスです。定型業務は自動化・機械化し、コスト効率を上昇させる一方、サプライチェーンデザインなどの非定型業務は創造性を発揮する必要があります。中長期の視点からTo-Beサプライチェーンを描き、その実現に向けたロードマップを策定し、全社的なモメンタムを形成することが求められるのです。
写真/鈴木愛子
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19の業界別のアジェンダについて、各分野を専門とするコンサルタントが解説。幅広い産業で起こっている最新のトレンドをキャッチアップし、様々な業界に通底している経営のメガトレンドを構想する。
A.T. カーニー著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)



