道路、橋、上下水道、市役所、学校などインフラの老朽化が全国で深刻化しており、事故が多発している。この問題を解決するためには、インフラが少なくなっても豊かさを実現できる「省インフラ」という理念が必要だ。省インフラによってどのような地域が実現するのか、イメージ図で解説する。長年、インフラ老朽化問題に取り組んでいる根本祐二・東洋大学名誉教授の著書『インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成。
省インフラがない世界――生活が破壊される
インフラ老朽化問題を解決するためには、省インフラの理念が必要だ。省インフラとは、「インフラの負担を最大限削減しつつ、インフラが提供している公共サービスを持続させる方法・技術・製品・サービス」の総称として名づけた用語である。(連載第5回 「インフラ老朽化対策の切り札は『省インフラ』への転換」 参照)
ここでは、現在の世界と省インフラの世界をイメージ図で比較することで共通の理解を得たいと思う。
図表1は、現在の人の住み方をイメージしている。地域内に人々がばらばらに住んでいる状態である。図表2は、インフラ整備目標である。現在の人の住み方に合わせてインフラを整備しようとしている状態だ。だが、あくまでも「整備しようとしている」であって、実際に「整備できている」わけではない。
人々の住まいやニーズに合わせてインフラを整備しようとしているが、財源が伴わないので、ところどころ抜けが生じる。これがインフラの事故につながる。
図表3は、近未来の状況である。住民ニーズに合わせてインフラを維持しようとしたが、その結果、大量に抜けが生じて、インフラが崩壊し、生活が破壊されて多くの人命も奪われている世界をイメージしている。連載第1回 「2040年の日本崩壊 インフラ老朽化の放置で起きる最悪のシナリオ」 で描いた姿である。すでに、現実はこの状況に入り始めていると言える。こうなることが予見できるのに放置してよいはずがない。省インフラへの転換が必要なのである。
省インフラが普及した世界――利便性の高い拠点が誕生
図表4は、多くの人がコンパクトに移転・集住した世界である。公共施設は集約化、共用化を中心に大幅に削減するとともに、土木インフラも従来型の方法は拠点にのみ集中させる。これによって、限られた予算をコンパクトな拠点に集中してしっかりと守るとともに、それ以外の地区への投資は極力抑制している。
しかし、拠点以外の地区に残る人々への公共サービスがなくなるわけではない。分散処理、デリバリー、バーチャル化での公共サービスの提供は保障されている。遠隔教育、訪問診療、合併処理浄化槽、専用水道などがそれを保証する技術である。今後は自動運転なども加わってくるだろう。
こうして、「インフラの負担を最大限削減しつつ、インフラが提供している公共サービスを持続させる」省インフラの世界が実現しているのである。
図表5は、公共投資を拠点に集中させた結果、民間投資が誘発された世界を示している。
図表3までの世界では、地域内の人々の行動がばらばらであるため、民間はどこに投資しても投資を回収できるだけの需要を得ることができない。本来は民間が投資できるような種類の施設(商業施設や医療・介護施設など)ですら、自治体が自分で建設したり高額の補助を行ったりする必要が生じてしまう。この世界では、インフラは減るどころか逆に増える。早晩、財政負担できない点に達して持続できなくなってしまう。
しかし、図表5の世界では、中央の拠点地区に公共施設が集約化され、子どもだけでなく高齢者を含めてすべての世代の人が定期的に訪れている。地域全体としての人口は減少していても、人々が集まる場所が限定されていれば、その場所に関する限り人口は増えていることになる。人口が増えているなら、民間にとっての市場も大きくなり投資をしやすくなるのである。
必要な機能を民間がどんどん投資してくれるなら財政負担は増えない。民間は民間の知恵で事業の存続を図る。見込み違いで撤退することもあるが、新たに知恵のある別事業者が参入できる競争環境があれば、長期的には持続できる。図表5は、公共サービスを行政だけでなく、民間企業や市民の知恵で確保するPPP(Public Private Partnership)の世界でもある。
図表6がこうして成立する拠点のイメージである。拠点には学校、社会教育施設、行政系施設(役場・支所、警察など)のほか、郵便局、銀行ATMなどを誘致することで、大人も子どもも定期的に訪れる空間となる。
人の動きが集中すれば、民間施設、例えば、クリニック(内科、外科、歯科など)、商業施設、ガソリンスタンド、コインランドリー、カフェ、宿泊施設なども立地できるようになる。こうして地域は再生するのである。図表3のように地域内に投資をばらまいていると人口減少の弊害が全体に及んでしまうだけになるが、拠点を選択し集中投資をすれば民間投資も含めて利便性の高い拠点ができるのである。
繰り返しになるが、拠点以外はインフラがなくなるのではない。しっかりと公共サービスは提供する。ただし、従来型の公共施設やネットワークインフラによる提供ではない。
学校は遠隔教育の併用、図書館は電子図書館や移動図書館、診療所は拠点に立地する民間クリニックの訪問診療や遠隔診療、下水道は合併処理浄化槽などである。拠点以外の地区の住民は、拠点近くへ移転・集住するか、「施設やネットワークを使わない方法」での公共サービスのいずれかの選択が可能になると言える。
『 インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」 』
根本祐二著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)








