インフラ老朽化問題を解決するためには、拠点への選択と集中が必要だ。しかし、そのために住民の合意を得るのは簡単ではない。今回は合意形成を進めるための工夫を紹介する。長年、インフラ老朽化問題に取り組んでいる根本祐二・東洋大学名誉教授の著書『インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成。

民間施設でも合意形成が必要な場合も

 拠点への選択と集中は合理的だと思うが、現実的にどんどん進む状況にはない。そのための1つの方法が拠点の案を示すことである。合理的なたたき台が示されることによって、抽象的な賛否ではなく具体的な議論が可能になることを期待している。ここでは合意形成の一般論と工夫を紹介したい。

 まず、どのようなときに合意形成が必要かを考える。

 食料品や電気製品などの一般の商品(経済学で言う私的財)を販売するのに合意形成は必要ない。その値段で買いたいと思えば買えばいいし、買いたくない人は買う必要はない。住民全体の合意形成は必要ない。これは非常にシンプルである。筆者は、民間の人が合意形成の必要性を理解できないと話すのを聞いたことがある。民間の市場では住民の合意形成は必要ないから当然と言える。

 しかし、公共サービスでは違う。なぜ合意形成が必要とされるのか。その理由を解明しよう。地方行政の分野の合意形成としては、従来は忌避施設の建設が注目されていた。ごみ処理施設、火葬場など地域社会にとって必要ではあるが、自分の家の近くには立地してほしくないとして反対される施設である。

 なぜ合意形成が必要なのかは、理論的には、その施設の立地によって施設の近隣の人が不利益を被る外部不経済の問題だと整理できる。ごみ処理施設の立地による悪臭への懸念、搬入車両の騒音や交通渋滞の発生への懸念である。そうした不利益を被る人がいるなら、政府(地方公共団体)が介入して不利益が生じないようにする必要がある。合意形成はそのために必要だ。

 外部不経済の懸念があれば、民間施設に対しても反対がある。数年前に社会福祉法人が計画した障害者グループホームの建設が、入所者による犯罪の懸念があるという住民の反対によって撤回された事例がある。

 注目されるのは、歓迎施設の廃止である。歓迎施設は忌避施設の反対語であり、自分の近隣にあってほしい施設であり、その施設がなくなるということに対しては反対が生じる。この場合も官民の別は問われない。過疎地域において生活を支えるスーパーの閉店やガソリンスタンドの廃業がなされれば、自分の生活に大きな影響が及ぶ、だから反対や存続要望を表明するということだ。この例も少なくない。

図表1 合意形成が必要な分野と事例
図表1 合意形成が必要な分野と事例
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 本来自由主義経済において自らの主体的な判断と行動が保証されているはずの民間施設であっても住民が反対する場合があることが、合意形成の本質を物語っている。歓迎施設の廃止が施設の設置主体にとって合理的な判断であったとしても、反対者は、自分が不利益を被ることに反対している。筆者は、これも合理的と考えている。

 もちろん、反対された民間主体が、閉鎖せずに事業を継続した場合は、赤字が拡大して本体事業自体も危うくなるので結局は廃止するという判断も合理的である。実際に、最終的にはそうならざるをえない。しかし、少なくとも住民が反対を表明することは不合理ではない。

 つまり、反対は合理的になされているのである。合理的な反対であれば、合理的に説得できるのではないだろうかと筆者は考えている。

合意形成の3原則

 ここで、合理的に説得するための合意形成の3原則を提示したい。

(1)全体計画の提示
 第1は、全体計画の提示である。全体というのは、空間と時間の両方を全体として示すことだ。例えば、ある地域に10の学校があり、これを将来的には半分に統廃合する計画を持っているとする。何年(頃)にどの学校とどの学校を統廃合するという計画の全貌を明らかにする必要がある。また、統合後の学校のあり方、廃校舎の跡地活用などもできるだけ多くの情報を提供する。

 一部分だけ、例えば10のうちある特定の学校だけを取り上げて統廃合の是非を問うたりしてはならない。全体計画がわからなければ、その問題は対象となる学校の関係者だけしか関心を持たず、大多数の住民には関係のないことになる。「少数の反対と大多数の無関心」は平均すると「反対」となる。筆者自身も住民としてそうした状況に置かれたら「他はどうするんだ」と問いかけ、明確な回答がない限り反対と言わざるをえなくなるだろう。

 全体計画を提示することで、すべての住民が当事者になり、冷静な議論が可能になる。話を聞いてもらえれば、多くの住民は理解を示すはずだ。

(2)基準の合理性
 第2は、基準の合理性である。統廃合の対象となる児童生徒数の基準などを客観的に示すことだ。この点では、学校が法令によって極めて客観的な目安を有していることはとても心強い。もちろん、地域にとって基準とする視点は異なりうるものだが、その地域にとっての基準は1つであるべきで、しかも合理的に説明できるものでなければならない。合理性を欠いていると確実に反対される。反対が合理的に行われる以上、基準の合理性は不可欠である。

(3)適用の公平性
 第3は、適用の公平性である。合理的基準があったとしても、基準に沿った運用がなされていない場合は、合意は形成できなくなる。例えば、小規模な学校を統廃合しようとしたが、反対が強かった学校は例外的に残すことにした場合が該当する。合理的基準に沿ってすべてを対応するならば合意は形成しやすいが、公平性を欠くと合意する理由がなくなる。誰もが例外扱いを要求するようになると、原則は崩壊する。

 以上の通り、合意形成の原則とは、説明の上手下手や説得のスキルとは関係がない。説明の場に立つ前に成否は決まっているのである。

合意形成の原則は説明の上手下手や説得のスキルとは関係がない(写真はイメージ)(写真:THANANIT/stock.adobe.com)
合意形成の原則は説明の上手下手や説得のスキルとは関係がない(写真はイメージ)(写真:THANANIT/stock.adobe.com)
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道路、橋、上下水道、市役所、学校などインフラの老朽化が全国で深刻化しており、事故が多発している。なぜこのような事態になったのか、これから何が起きるのか。そして、どのような対策を打てばいいのか。解決の決め手となる「省インフラ」の具体策を解説する。

根本祐二著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)