人工知能(AI)をはじめ、技術が急速に発展する現在。「AIに職を奪われそう」「子どもが大きくなったら世界はどうなっているのだろう」などと、未来に不安を覚えることはありませんか。そんな不安を吹き飛ばす書籍『東大教授の超未来予測』(瀧口友里奈編著)から、半導体産業における日本のチャンスについて抜粋してご紹介します。語り手は東京大学特別教授の黒田忠広氏、東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏のお2人です。経済キャスターの瀧口友里奈氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授でティアフォー代表取締役CEO(最高経営責任者)の加藤真平氏が聞き手でお届けします。

日本が有利な理由

瀧口友里奈氏(経済キャスター。以下、瀧口) 今回は「人が半導体の設計をする時代は終わり」というテーマです。

黒田忠広氏(東京大学特別教授。以下、黒田) 最も重要なのは、ちょっと性能が悪くてもダサくても、いかに早く市場に持ってくるか。AIに設計させるところは全部AIに設計させたほうが速いんですよね。

 だから、これからはAIが2年ではなく2週間で半導体チップを自動で設計し終える。そうすると、それが世の中で使われて、AIをさらに進化させる。その進化したAIが今度はさらに良い設計をしてくれる。それでAIと半導体がお互いの進化を促す応酬が始まるんですね。これは「共進化」といって、お互いがお互いを進化させる。このサイクルがものすごく高速で回るようになったら、ものすごく多様な世界を生み出すような気がしています。

黒田忠広(くろだ・ただひろ)
東京大学 特別教授
東京大学卒業。東芝研究員、慶應義塾大学教授、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)MacKay Professorを歴任。現在、東京大学特別教授、熊本県立大学理事長、慶應義塾大学名誉教授。米国電気電子学会と電子情報通信学会のフェロー。半導体のオリンピックと称される国際会議ISSCCで60年間に最も多くの論文を発表した世界の研究者10人に選ばれる。著書の『 半導体超進化論 世界を制する技術の未来 』(日経プレミアシリーズ)は、英語、中国語(簡体字と繁体字)、韓国語に翻訳されている。
[研究分野]半導体集積回路

加藤真平氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授。以下、加藤) AIについてよく言われるのが、日本はちょっと出遅れたんじゃないかということです。半導体は遅れている部分はあるかもしれないけれど、誰かが設計してくれたチップを別の場所で製造する話もあって、世界に先んじて台湾積体電路製造(TSMC)を日本に招致しました。こうした動きが始まっているのは良いことなんですかね。

江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授。以下、江崎) 良いことというか、これは自然と起こっているというのが僕の観測です。地政学的にそうなっているんです。

瀧口 なぜでしょうか。

江崎 我が国ってすごく安全ですよね。データセンター業界の企業がこぞって日本に来るのは、日本だけが「データを絶対に政府が読みません」としているから。かつ、ちゃんとした良い場所にある。

 日本はIT関係の工場なり施設をつくるにはすごく良いポジションだというのが地政学的にだいたい分かっているところに為替相場が円安になった。

江崎浩(えさき・ひろし)
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
1987年、九州大学工学部電子工学科修士課程修了。1998年に東京大学大型計算機センター助教授、2001年、東京大学情報理工学系研究科助教授。2005年に東京大学情報理工学系研究科教授、WIDEプロジェクトボードメンバー(2011年より代表)。デジタル庁初代チーフアーキテクト。「左手に研究、右手に運用」を合言葉に、日本初のインターネット「WIDE Internet」を基盤として研究に従事。ほかにも、ビル設備機器の通信仕様をオープン化することで、設備のグリーン化と収益性向上の両立を目指した「東大グリーンICTプロジェクト」を創設。主な著書は『 サイバーファースト 増補改訂版 インターネット遺伝子が創るデジタルとリアルの逆転経済 』(インプレス)など。
[研究分野]情報通信工学

瀧口 日本は大チャンスということですね。

加藤 昔はよくシンガポールにスタートアップが本社を移して世界展開をしていたけれど、今は日本に設置すると良いことがたくさんある。これはもしかしたら他国に比べて日本が優位性を持てるかもしれないですね。

瀧口 TSMCの進出先は熊本ですが、黒田先生はまさに熊本県立大学の理事長でいらっしゃいますね。

黒田 TSMCは、産業のエコシステムが整っていて豊かなブラウンフィールドには出て行きますが、未開の土地であるグリーンフィールドには出て行きません。砂漠のように何もないところに大きな木を持っていっても根を下ろせません。そういう意味では、日本には熊本をはじめとして、ブラウンフィールドがいろいろあるということだと思いますね。

 先ほど共進化が重要だと言いましたが、もう1つ重要なのが「共生」です。半導体はもはや非常に複雑なシステム系になったので、エヌビディアといえども1つの会社だけでは成り立たないし、アメリカだって日本だって1つの国だけでは成り立たない。強い技術を持っている国や企業と連携していかないと生きていけない「共生」の時代に入った。その中で、海外に貢献できるものを持っているからこそ手を組めるわけです。

 それが何かというと日本は製造装置、材料が強い。今、TSMCやラピダス(Rapidus)に国が投資している理由は、そこで世界に貢献できるし、それを持つことによって世界と共生していけるからだと思います。

日本に足りないのは、早く失敗する勇気

江崎 もう1つ、今どきは、一部の仕事については、人がやらなくてもソフトウエアとハードウエアのロボットにどんどんやらせたほうがいいということに日本はやっと気づきましたよね。最初に気づいたのがタクシー業界です。建築業界も最近気づいて、半導体でもそれが起こり出しています。

 ハードウエアとソフトウエアのロボットとどう共存するかが、社会インフラの効率性を決める要素になってきています。バイオエンジニアリング産業では生産現場に人を入れないんですね。人は37度の熱源で、ばい菌を持ち込む最悪のエンティティ(実体)だから全部ロボットでやったほうがいい。そういうことが起こり出しています。

瀧口 なるほど。面白いですね。

黒田 製造や設計は「no human in the loop(人間が介入せずに回る状態)」であっても、それで社会にどういうサービスをつくるのか、どうやって社会で価値を生んでビジネスにしようかと考えるのはAIではちょっと無理です。そこは人がいい加減な判断とウェットなネットワークの中で、直感で突き進んでいくやり方をさらに推し進めるべきだと思いますね。

 そういう意味でいうと、ダイバーシティ(多様性)がこれから重要になります。「半導体業界には、なんで女性がいないのか」とよく議員さんから怒られるんですよ。確かに男性ばかりです。「企業の担当者が工学部に、リクルートに行くからいけないんじゃないか」と僕は言うわけですよ。工学部に行くと女性は10%しかいないんですよ。

江崎 でもね、アジアに行くと、工学部には女性がいっぱいいます。

瀧口 日本はまだまだ少ないですね。

黒田 日本企業の新卒技術系の女性比率はだいたい10%です。TSMCに行くと20%です。台湾は共働きしている人が多いので女性が多いんだろうと思ったら、広島にあるマイクロンメモリジャパンは40%なんですよ。

 同じ日本の労働市場でありながら、女性を40%採っているのは、採用する側の考え方の違いもかなりあるなと思いました。男女だけじゃなく、いろいろな意味でのダイバーシティがないとイノベーションが出にくいと思いますね。

江崎 さすが大学の理事長ですね(笑)。

瀧口 半導体業界というと、理系の方しか関係ないようなイメージがありますが、そうではないということですね。先ほどAIと半導体の共進化を高速で行うというお話がありましたが、それを高速化させるために今の日本には何が足りないのか。どうすればいいのでしょうか。

黒田 それはAI時代の生き方です。若い人を見ていると、そういう時代に生きているから動きが速い。僕たち年寄りは「いい加減なやり方だ」とか、「丁寧じゃない」とか、そっちに目をつけて小言を言いますが、若い人たちは見事に泳いでいると思いますね。

 僕は「アジャイル(機敏な)」という言葉をよく使うんですが、それは今の時代ものすごく重要だと思いますね。

瀧口 スタートアップにはアジャイルであることが求められますよね。

加藤 スタートアップは確かに動きが速いので、失敗する可能性もありますが。

黒田 失敗も早くしたほうがいいんです。そうすれば何度でも失敗できるし、徐々に経験値が生まれていきます。失敗しないように長いこと1つのスタートアップをずっと続けているのが日本なので、あれが一番まずいですね。

早く失敗すれば、それだけ挑戦できる回数も増える(写真:LIGHTFIELD STUDIOS/stock.adobe.com)
早く失敗すれば、それだけ挑戦できる回数も増える(写真:LIGHTFIELD STUDIOS/stock.adobe.com)

(第2回に続く)

AI・脳・半導体・量子コンピューター・地球温暖化など、第一線で活躍する東大のスター教授たちが縦横無尽に語る。未来が楽しみになる教養が身につく1冊。

瀧口友里奈編著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)