水素や洋上風力といった次世代エネルギー競争における次の10年を見据えて、日本企業はどのような戦略を備えておくべきか。新刊『BCGが読む経営の論点2025』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成して解説する。1回目の筆者は、ボストン コンサルティング グループ(BCG)エネルギーグループの平 慎次氏とシュノッツ・ダニエル・慎偉氏。
世界は「脱炭素インフラ大構築時代」に
いま、次世代エネルギー分野は、再生可能エネルギー(再エネ)や化石燃料の代替エネルギー源の可能性を考えるプランニング段階から、具体的にどの場所、どのインフラで取り組んでいくかという実行段階へと移りつつある。
世界では人口増加、経済発展に伴い、エネルギー需要も増えている。今後も急激にAI(人工知能)の利用が拡大すれば、データセンターがもっと多く必要だ。このため、人口が減少している日本でも、データセンターにおけるエネルギー需要は大幅に拡大することが見込まれている。
この需要に対応しつつ、CO2(二酸化炭素)排出量を抑えるためには、新しい方法が求められる。再エネは太陽光に加え陸上風力・洋上風力の導入が進んでおり、水素やアンモニアを燃料とするゼロエミッション火力発電、既存の火力発電から排出されたCO2を回収・地下貯留する試みなど、世界中でさまざまな技術開発が行われている。
このような流れを私たちは「脱炭素インフラ大構築時代」と呼ぶ。いま世界中で構築されているインフラはエネルギー関連に限らず、グリーン製鉄、EV(電気自動車)、蓄電池まで多種多様な領域に及ぶ。デジタル化の進展により、データセンターのほか半導体の製造工場なども重要なインフラといえる。企業のチャンスという観点では、それらの製造に関わる企業だけでなく、素材開発、建設、物流など周辺領域にまで広がっている。
「脱炭素インフラ大構築時代」の波に乗っていかに自社事業の成長戦略を描けるかが、日本企業の経営陣や企画部門の腕の見せどころだ。
日本は脱炭素に不利な条件だらけ
日本政府はGX(グリーントランスフォーメーション)として脱炭素と成長戦略を掛け合わせた方針を打ち出してきた。しかし、日本は国土が狭いうえ、地下資源は乏しく、太陽光や風力などの自然エネルギーを活用できる場所も限定的だ。CO2貯留に適した土地が少なく、地震による漏洩リスクもある。島国なので他国とは電力系統やパイプラインで結ばれておらず、国内のエネルギー流通経路も十分に整っているわけではない。脱炭素には不利な条件だらけといえる。
そのような厳しい状況のなかでも期待が持てるのは、水素やアンモニアなど次世代エネルギーの開発と、陸上に比べ風車の大型化が可能で発電効率も高い洋上風力の本格導入だ。水素・アンモニアはこれまで実証実験が進められてきたが、いざ実装という段階ではコストの高さが障壁となっている。水素やアンモニアを海外で生産し船で運搬する場合、需要の大きな沿岸部の工業集積地を中心に次世代エネルギーのインフラを構築する必要がある。
洋上風力も商用案件が立ち上がりつつあり、本格化という流れになってはいるものの、海外に比べると一つのプロジェクトの規模が小さく、思い切ってサプライチェーン全体を立ち上げるような段階には達していない。今後、国や企業にとって最適なエネルギーミックスを考えるとともにこれらの分野に大きく投資し、次世代エネルギーを推進していく必要がある。
限界削減コストカーブで「見える化」
風力・太陽光による再エネや、水素・アンモニアなど多様な手段を組み合わせて最適な脱炭素のあり方を俯瞰(ふかん)しつつ、大胆な投資が必要な部分を戦略的に考えるときに役立つのが、「限界削減コストカーブ」である。これは、削減ポテンシャル(各対策で想定される削減効果)と削減コスト(CO2を1トン削減するのに必要なコスト)を分析し、削減コストが小さい順に並べたものだ。縦軸がコストを表し、横軸は各対策による削減ポテンシャルの累積を示す。
目標量の削減を実現するためにどの対策を用いればよいかと、そのためのコストを読み取れる。各項目の横幅が広ければ広いほど削減できる量が多いため、縦幅が狭い(コストが低い)場合でも横幅が狭い施策は全体の脱炭素化という観点で考えると効果が低いと考えられる。
ここでは2050年時点の日本の限界削減コストカーブを想定してみたい(図表)。すでに普及している太陽光やEVなど、電化により効率が大幅に上がる用途ではコストがマイナス(投資額以上の節約が可能であるなど、追加の経済的利益がある状態)となる。洋上風力は、現時点の想定では既存電源よりも若干のコスト増加が見込まれる。
水素・アンモニア関連の対策はグラフの右側に多くコストが高い。水素・アンモニアを使った化学工場の熱源の転換や、グリーン水素を活用した水素還元製鉄の製造は、CO2・1トン当たりの削減コストが1万円を超える場合もありうる。
限界削減コストカーブを用いた議論において興味深いのは、CO2削減コストが低い左側の施策から順番に導入すればいいとは限らないところだ。単純に経済性だけを考えれば、脱炭素の効果はあるにせよ、水素は却下もしくは後回しにされてしまう。しかし、再エネの発電量は天候によって変動が激しいので、安定供給の面では発電量を調整できる水素・アンモニア発電は不可欠だ。
たとえカーボンプライシングを導入しても右側のコストが高いものは開発が遅れがちになるので、スピードを上げるためにも、国を挙げて戦略的にR&D(研究開発)投資を行い、コストを下げていく必要がある。これは、日本として水素産業の競争力を高めること、グローバルの市場獲得を目指すことにもつながる。
ボストン コンサルティング グループ編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)



