博報堂生活総合研究所の前沢裕文氏(44歳)が、同じ「40代おじさん」である田村淳さんを対談相手に迎えた記事の後編(前編はこちら)。40代おじさんに関する見解を話してくれた前編から、自身の幸福観、夢の成功体験の重ね方、遺書を書くことのすすめへと話は広がり……同性代男性への愛情あふれる助言や提案が相次いだ。[日経クロストレンド 2021年8月5日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]

田村淳さん(右)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文氏(左)
田村淳さん(右)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文氏(左)
画像のクリックで拡大表示

前沢裕文(以下、前沢) 近々「幸福」に関する生活者調査を予定していまして、その中で「これまでの人生を振り返って、あなたの人生に点数をつけるとしたら100点満点中何点ですか?」という質問と、「日本人全体を100人としたとき、あなたは何番目に幸せだと思いますか?」という質問をしておりまして。淳さんにもお伺いしたいのですけど、いかがですか?

田村淳(以下、田村) 僕、絶対トップ5に入っている自信がある。1位って言い切らないのは、「わあ、あの人かっこいいな」とか「わあ、あんなふうになりたい」と思う感覚があるので、トップ1じゃない。

 だけど、トップ5に入っているってすごく自信を持てるのは、そこは他人との比較ではなくて、自分自身の満足度が高いからです。やりたいことをやれている人生で、家族がいて、娘が生まれて、だからどの瞬間もすげー幸せなんですよ。

 最近よく思うんですけど、一日のスピードが目まぐるしいんですね。年を取ったら時がたつのが早くなるっていうけど、自分なりに分析した結果、満たされていることが多いから。

 あっという間に、シュッシュッシュッシュッて終わっちゃうんですよ。子供といる時間が楽しいから、シュッて終わるし。仕事している時間も楽しいから、シュッて終わる。趣味でやっているギターの時間、シュッて終わる。英語の勉強している時間、シュッて終わる。昔よりもダラーっと生きていないので、スピード感がめちゃめちゃ速い。

 だから、トップ5……トップ3でもいいくらいだと思う。

田村淳氏
画像のクリックで拡大表示
田村 淳
1973年12月4日生まれ、山口県出身。1993年、ロンドンブーツ1号2号結成。コンビとして活躍する一方、個人でもバラエティー番組に加え、経済・情報番組など多ジャンルの番組に出演。300万人超のフォロワーがいるTwitter、YouTube「田村淳のアーシーch」の開設、オンラインコミュニティー「田村淳の大人の小学校」を立ち上げるなど、デジタルでの活動も積極的に展開。2019年4月に慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学。2021年3月修了。タレントの枠を超えて活躍の場を広げている

前沢 とすると、点数的には100点ですか?

田村 98点……かなあ。絶対に残すようにしているんですよ。

前沢 満足しきらないように?

田村 徳川家康が日光東照宮を完全につくらなかったという話が好きで。未完成の場所をたくさん残しているんですよ、わざと。100だと満足しちゃうからちょっと残すっていう、その話が好きで。だから自分に100点なんて絶対に与えないし、「まあ100点じゃないだろうなあ」と思いながら生きたい。

夢を20個書いたら1個にさせられた小学生時代

前沢 ギターや英語をされているというお話がありましたが、淳さんは興味を持ったらすぐパッと始めますよね。

田村 すぐやります。すぐやってすぐやめます。本当に夢中になれるかどうかって、頭の中だけでは考えられないから、僕はやるようにしていて。三日坊主がダメだってすごく擦り込まれている世代だとは思うんですけど、「三日坊主でいい」って母ちゃんが言ってくれたことが相当でかいですね。三日坊主でもいいからとにかくやりたいと思ったらやりなさいっていうその言葉が、母ちゃんが死んだ後に、「あ、実は自分の行動指針で一番強く背中を押す言葉はそれだな」って思うことがあるんですよ。だからとにかくやってみる。ヌンチャクもやったんですけど、もうやめかけてるんで(笑)。

前沢 実は、40代おじさんは夢中になれるものがないというデータがありまして。例えば、「1年を通して、楽しんでいる趣味がある」は51.1%で男性最下位タイです。

田村 うわー、半分……。

前沢 「大好きで熱中していることや、はまっている物事がある」というのも、22.4%で全体最下位なんですよね。

田村 そうなんだ……。

田村淳氏
画像のクリックで拡大表示

前沢 以前、この連載で精神科医の先生に取材をして(第9回:40代おじさんの意識を精神科医が分析 悲しい性をメッタ斬り!?)、40代おじさんが一番変える必要があることとして、熱中すること、はまることはつくった方がいいと。クリニックでも「好きなものややりたいことが見つからない」という相談を受けるとおっしゃっていまして。

田村 僕は、小学校のときに掲げた夢というか、やろうと思った目標、達成できなかったことを、大人になったらできるかなって思って。ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」は、8-4面まであるんですけど、3-2から全くクリアできてないのに、友達にはなんとなくクリアできているふうに演じていた自分が許せなくて、「いつか8-4までクリアしよう。あれをやらないと昔ウソついていた自分と向き合えない」と思ってやったんです。そうしたら、何日間かやってクリアしたときに、ものすごい達成感があったんですね。

 そこに実はヒントがあるような気がして。小さな頃に「これやりたかったな、でもやれてないな」とか、やったふうに装っていたことを、大人になってやると。それはギターもそうだし、ヌンチャクもそうですけど、今やりたいものが見つからない人は、過去の自分がやろうと思って諦めたことを、今やるといいかなと思いますね。

前沢 昔までさかのぼれば、いろいろ見つかりそうですね。

田村 だから、僕は夢を書くという小学校の文集で、夢を20個くらい書いたら、先生に「1個に絞りなさい」って言われて総理大臣にしちゃったんですけど、その20個の夢がなんだったかなあというのを今思い出そうとしてて。

田村淳氏
画像のクリックで拡大表示

 もしかしたら、プロ野球選手とかケーキ屋さんとか、あのとき書いた1個の夢は、大人になってかなわないままの夢になってしまっているかもしれないけど、実は子供の頃の夢は1個じゃなくて何個もあったはずだから、それを思い返すのはとてもいいような気がします。

 あるメーカーの社長さんと夢について話していたときに、「夢はたくさん持ったほうがいいし、願望が夢でいい」って言われて、すごく楽になったんですね。超簡単な夢でいいって言っていたんですよ。「明日カレーが食べたい。どこどこの、人気店のカレーが食べたい」。これを夢にしよう。実現するのが比較的たやすいじゃないですか。そうしたら、夢の成功体験が生まれるから。夢の成功体験をどんどん持つ練習をしたほうがいいって。まさにと思いました。

前沢 40代おじさんに限らず自分に自信のない人が増えているので、成功体験を積めるのはよさそうですね。簡単な夢が20個あれば、1個失敗しても、また他の夢にチャレンジできますし。

田村 僕、失敗ってあまり言わないようにしていて。自分にはこれ合わなかったんだと思うようにしているんですよ。合ってなかっただけだっていう。

 あ、でも、今思い出しましたけど、「田村淳の大人の小学校」というオンラインコミュニティーをやっているんですよ。40代の人も結構いるんですね。で、Zoom上で話していてみんなの得意なことを聞くんですけど、「何が得意ですか?」「人前で何か授業できるとしたら何ですか?」と聞くと、みんな「ない」って言うんです。だけど、よくよく聞いて掘っていくと、全く自信ないですと言っていた人が、仮設住宅を30年くらい建て続けているって言うから、僕が仮設住宅のことを聞くならあなたに聞きますよ、それはあなたのすごい強みなのに自分が気づいてないってもったいなくない?って。確かに、自信ない人多いなと、思い出しました。

前沢 自信がないのは、データ上は、日本人全体がそうですね。特に40代おじさんは、自信に関する調査を行ったところ30項目中9項目が最下位でした。例えば、「家族に対する態度や姿勢」の他あらゆることに自信がないという結果が出ています。めちゃめちゃ自己肯定感が低い。

田村 自己肯定感が強い人って、他者肯定もできる人だと思うんですね。僕がいろんな人の話を聞くことが好きなのは、多分自分が満たされているから、人の話聞いて「わあ、そんな感覚で生きたことない」とか「こんな料理よく生み出したね」とか、他者を面白がることができるんですけど。他者肯定することで、自分に回ってくるというのはあるかなあ。他者肯定までできるときに初めて心が満たされるような気がしますね。

田村淳氏
画像のクリックで拡大表示

40代おじさんへの遺書のすすめ

前沢 他者を肯定したり、そもそも他者について深く考えるには、淳さんが大学院で研究されていた「遺書」もきっかけにできるかもしれませんよね。

 遺書を書く体験をされたお母さんの「イライラして子供たちを怒っちゃうけど、子供を目の前に遺書を書いたら、今まで許せなかったことが許せるようになった」という発言が著書『母ちゃんのフラフープ』(ブックマン社/2021年5月発行)で紹介されていてとても印象的でした。

田村 「叱っているこの瞬間が幸せなんだ」って、遺書を書くことで価値を変えられるってすごいなって思いましたね。遺書って他人のことを考えて他人のために書くんだけど、結果自分にも返ってくるんで、この体験をした人は、遺書に対するネガティブなイメージがポジティブに変わるっていう面白いデータもあるんです。

前沢 それをしたら、40代おじさんの「家族に対する態度や姿勢」も変わってきそうです。

田村 そうなんですよ。40代おじさんにも遺書を書いてもらいたいなあ。トライしてほしい。自分の人生を振り返ることにもなるし、40年生きてきた経験があるっていうのは価値だし。

 それでたとえ自分でその40年に価値を見いだせなくても、あなたが生きてきた40年ってここに価値があるんだよっていうのを見つけてくれる人に出会えばいいし、少なくとも僕は見つけるのめちゃめちゃうまいんですよ。この人のここが面白いとか、この人のこれがすごいんだよって、自信を持って言えるんで。こういう、人のいいところ見つけるのがうまい人と関わった方がいいと思いますね。

 僕みたいなモデレーターできるような人って世の中にたくさんいるんで。勇気を持って一歩そこに踏み出すことは、今の環境に苦しんでいる人であれば特に大切なことだと思いますね。

田村淳氏
画像のクリックで拡大表示

 前後編にわたり、40代おじさんに関連して、言葉の使われ方からくるネガティブなイメージ、同世代の中での分断、かっこいい40代おじさん像、人生の点数と日本人の中での順位、夢や熱中すること、家族に対する態度や姿勢を変えるきっかけなど、本当に多角的に語っていただきました。

 今回の取材時には聞けませんでしたが、淳さんはよく「データをとる」ということをおっしゃっています。それは、定量的なデータを取得するという意味ではなく、体験したあらゆる経験すべてを自分だけのデータとして蓄積し、いつでも取り出して、また別のデータを組み合わせてアップデートするということを指しているのだと思います。

 この取材において、淳さんには前もって質問をご覧いただいていたわけではありません。その場の流れで質問をぶつけていったわけですが、何を尋ねても止めどなくコメントがあふれ出てくるのは、自分のこと、家族のこと、仲間のこと、仕事のこと、趣味のこと、社会のこと、日本のことなど、日々あらゆることに興味を向けてしこたまデータをため込んでいるからでしょう。

 次回の生活定点の調査は22年予定。出そろった定量データを淳さんの私的データと突き合わせるべく、またお話をうかがえたら。そして、その頃には「おじさん」という言葉が少しでもポジティブな使われ方になっている、40代おじさんも今よりいきいきしている、そんな未来になっていますように。

(写真/古立康三)

日経クロストレンド 2021年8月5日付の記事を転載]

おじさんの変化を、おじさんが解き明かす

1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!

前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)