30代女性は、フラットで自由な価値観を持つ人が多い。博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文氏がひもといた調査データからは、こんな今の時代を象徴する特徴が見えてきた。40代おじさんが見習うべきは、30代女性かもしれない。従来のアナウンサーの枠にとらわれずに多様な活動を行う弘中綾香さんに、縛られない生き方や愛される40代おじさんについて聞いた。[日経クロストレンド 2022年2月17日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]

弘中綾香さん
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 今回お話を伺ったのは、今をときめく愛されアナウンサー・テレビ朝日の弘中綾香さん。様々なジャンルの媒体で数多くの取材を受けていらっしゃいますが、「おじさんについて聞かれたことはないです」と笑いながら教えてくれました。

 注目度も人気度も高まる一方なのは、「奇跡の30歳」(「VOCE」)とされるたたずまいもさることながら、「アナウンサー界の革命児になりつつある」(「ar」)と評されるほどの活躍の幅の広さ、そしてその行動力や発信力の元となっている考え方に理由があるのではないかと思います。

 随所に見られる、私たちがそうしたくてもなかなかできていないポジティブ、フラットな物の見方・考え方。40代おじさんのロールモデルは今や、年上のおじさんではなく年下の女性なのかも。「尊敬する人は織田信長です」とか言っている場合じゃないのかも。

 早速どうぞ。

弘中綾香さん
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弘中 綾香
テレビ朝日アナウンサー。1991年生まれ。主な担当番組は「激レアさんを連れてきた。」「あざとくて何が悪いの?」「ノブナカなんなん?」など。公式インスタグラムは instagram.com/hironaka_ayaka/

30代女性は、“軽やか”に考える

前沢 裕文(以下、前沢) 弘中さんはインタビューや雑誌の連載で「多様性」「多様な価値観」についてよく触れていらっしゃいますよね。ご自身が「『こういう考え方もあっていいんじゃないの』っていう言葉を投げかけるスタンス」なんだという発言をされていたのがとても印象に残っています。

弘中 綾香(以下、弘中) そうですね。そういうスタンスですね。

 せっかくアナウンサーという職業に就いているので、自分がどう思っているか、自分がどう考えているかを自分の言葉で伝えたいし、それを誰かが知ったり見つけたりしてくれて、「わたしだけじゃないんだ」であったり「こういう考えを持っている人もいるんだ」であったり、そう思ってもらえたらいいなと思っているんですよね。

前沢 自分はこういうふうに物事を見ているということを周囲や世の中に素直に投げかけたり、こう思っているから一旦やってみようとフットワークよく動いているように見えます。

弘中 あー、確かにそうかもしれない。

 アナウンサーという職業って、結構四角四面なイメージで捉えられがちなのか、「アナウンサーらしからぬ」と言われることが多くて。それはわたしの中では「女子アナ」という職業に象徴的な捉えられ方なのかなと思うことがあります。

 必ずアシスタントみたいな立場じゃなきゃいけないし、聞かれたことに対しても中庸なことを言わなきゃいけない。それが基本とされているというか。だから、わたしが思っていることをちゃんとお伝えしたいなと思って、書くお仕事(「Hanako.tokyo」「ダ・ヴィンチ」の連載)を始めたというのはあります。

 (アナウンサーには)あまりモノを言う人がいるイメージがない。あります? なくないですか?

自分の言葉で伝えることを大切にしていると語る
自分の言葉で伝えることを大切にしていると語る
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前沢 ないですね。むしろよしとされないのかな。

弘中 例えば、場を落ち着かせたいときに女性アナウンサーに振るみたいなことだったり。そういうのはわたし的には面白くないな、やりたくないなと思うんですね。振られてもできないですし(笑)

前沢 そういった「こういう考え方があってもいいのでは?」「こういうことを言ってもいいのでは?」「こういう人がいてもいいのでは?」という自由でフラットな意識や行動って、生活総研のデータでは弘中さんと同世代から少し上の30代女性に多くてですね。

 30代女性に特徴的な意識・行動をいくつか抜き出しているので、ご覧いただきたいんですけど。(文末参考資料)

弘中 へー、面白い!

前沢 結婚、出産を経てライフステージが変わる方が多い世代ということも大きく影響しているかもしれませんが、例えば、「夫婦が別の姓を名乗ってもかまわないと思う」「夫も家事や育児を優先すべきだと思う」などなど、かなり多くの項目で平均よりはるかに多い人が「かまわないと思う」と答えています。

弘中 うーん、その方が自分たちが生きやすいから、そう答えているんじゃないかなと思いますね。そう考えてもらった方がわたしたちは生きやすいから。結婚のこととか、お子さんのこととか、これまでに当てはめて画一的に考えられちゃうと面倒臭いなって思っちゃうし(笑)

前沢 (笑)。一通りご覧いただいて、弘中さんの20代から30代にかけての価値観の変化と重ね合わせて、実感としてはどうですか?

弘中 こういう感じじゃないですかね。20代は、会社に入っていろいろな人と触れ合うようになって、自分の環境や世界が広がって。それはすごくいいことなんですけど、世界が広がった一方で人と自分を比べてしまう。

 同年代の女性でも、結婚や出産というライフステージの変化もそうだし、転職する子がいたり、「1年後に全然違うところにいるね、わたしたち」ということもあるから。比べちゃって「わたしこのままでいいのかな?」と思う年代かなと思います。

前沢 物事を決める軸が定まりきらない時期でしょうしね。

弘中 そうそうそう。何にでもなれるから逆に迷っちゃうし、結婚も出産も選べるかもしれないけど、「果たして今すべきなのかな?」「自分のキャリアを追った方がいいのかな?」とか、いろいろ考える時期だと思いますけどね。選択肢が多いし、周りにいる人も多様な分、迷う。

 30代になるにつれて落ち着いてくるっていうか……、人と比べなくなるってことですね。「わたしはこういう生活が合っているな」って、地に足が着く感じはありますよね。

 あと、「仕事だけじゃないな」っていうのは結構思うようになるかもしれないですね。

前沢 というと?

弘中 仕事ももちろん大事だけど、おばあちゃんになってもずっと仲いい友達関係を築いていくとか、趣味に走るとか、何か新しいことを始めるとか、一本柱じゃなくなる。だから、これだけを追わなくても別にいいなって思えるようになる。あまりしがみつかなくなるというか。

前沢 「あれもありだよな」「これもありだよな」と選択肢を増やせるようになると、幸せの幅が広がりそうですね。

弘中 そうそう。地に足は着いているんだけど、どこかだけに頼っているってことがないかもしれない。軽やか。

前沢 軽やかさでいうと、弘中さんはモデルもやり、雑誌の連載もやり、フォトブックも出されて。軽やかにジャンルを越境して、すでに若い方のロールモデルとなるようなご活躍ぶりです。

弘中 いやいやいや(笑)

前沢 会社の後輩であれば「ここまでやっていいんだ」と思うでしょうし。学生さんや社会人の若手も「弘中さんみたいになりたい」と考えていると思います。アナウンサーになりたいということでなく、弘中さんのような考え方、働き方をしたいという人がどんどん増えると思うんですよね。

弘中 わたしの幹となっているのは会社員ですけど、「会社員だけど、こういうこともやれるんだ」というふうに思ってもらえるのはすごくうれしいです。そういう働き方になってくると思うんですよね、みんながみんな。

前沢 Z世代に増えているスラッシャー(編集部注:複数の仕事や活動を同時に行っている人や考え方のことを指す)のような。

弘中 でも、共働きの方も多い今の30代、40代の女性って、会社員でありお母さんであり妻だから、もともと以前からスラッシャーなんですよね。

前沢 確かに……。会社員/母親/妻のスラッシャー。言われてみれば、そもそも昔からスラッシャーと呼べますね。大きな気づきをありがとうございます(笑)

弘中 よかったです(笑)

弘中アナが“かわいい”と感じるおじさん像は?

前沢 一方で、男性の場合は、家事・育児への関与度でいえば会社員/父親となれている人は少ないでしょうね。もちろん世代にもよりますけど、40代おじさんはなかなか……。これまでの感覚から脱しないケースが少なくないと感じていて。

 30代女性から見ると、自分たちと正反対の考え方をしていると思われているかもしれないですが、40代おじさんについて伺っていきますね。

 こちらが40代おじさんの特徴を網羅的にまとめたものなんですが。

▼関連記事 ■「43歳からおじさん」が調査で判明! 「7つの特徴」を大分析

弘中 面白い(笑)

前沢 散々な結果が並んでしまったのですが、周囲の特定の方ではなく、社会全体の40代おじさんってどういうイメージですか?

弘中 さっき、メークさん、スタイリストさんと3人で話していたんですけど、「40代おじさんってすごく分かれるよね」って。真価が問われているというか。

 頑固になりがちだなという問題意識を持っている方、考え方をアップデートしようと努力されている方がいる一方で、ネガティブだし「なんか付き合いづらいなあ!」みたいな方もいて、その差が大きい。自分の意識次第でどうにでもなることですけど、大きく分かれるなって思います。

40代おじさんとの共演も多い弘中さん
40代おじさんとの共演も多い弘中さん
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前沢 どういうところが「付き合いづらいなあ!」ってなります?

弘中 絡み方とか。

前沢 (笑)

弘中 わたしが仕事でお付き合いがある方は全くそんなことないですよ(笑)。ただ、おじさんのイメージとして「俺なんておじさんだしさ」とわざわざ前置きしてわたしたちに「おじさんじゃないですよ」と言ってほしいみたいなこともあったり。

前沢 「俺はおじさんだから」というのを印籠のように。「おじさんだからしょうがないでしょ?」って。

弘中 自分にも言い訳しているというか。おじさんだから頑張っているという方もたくさんいるのに、おじさんだからということを言い訳にしている方もいるから。そこはシビアに見られていると思います(笑)

前沢 確かに40代になると、社会人経験が1周どころではなく、2周3周して悪い意味で慣れが出てきてしまうかも……。

弘中 でーんとふんぞり返って、わたしたちの世代からすると、自分のできることしかしないように見えるときもある。だから、頑張っている方がいると、「ああ、いいな」って思います。

前沢 40代おじさんに愛すべき点があるとすれば、どんなところなんでしょう?(笑)

弘中 わたしの周りの方たちはすごく素直。素直というか、わたしたちの世代はこう思っている、こうしたいと言ったことを受け入れてくれる姿勢がありますね。

 「へー! そういうのがはやっているんだ」とか。例えば、周りのタレントさんに教えてもらった腸活をしているという話を聞いて、かわいいというか、ほほ笑ましいと思いました。頑張っている、努力しているのはかわいい。

前沢 「かわいい」ってなるんですね。実は、去年「◯◯なおじさんは好きだ」の◯◯を埋めてもらう調査をしたら、20代と30代の女性からは「かわいい」という答えがちらほら挙がりまして。

 以前はおじさんに対してかわいいと感じる感覚はなかったと思うんですけど、もしかしたら新しい理想のおじさん像になっていくのかもなあと。

弘中 一生懸命でほほ笑ましいみたいな感じなんですけどね。頑固で上から目線のおじさんがいる一方で、何かを一生懸命頑張ろうとしているとか、わたしたちに歩み寄ってくれようとしているおじさんは、わたしたち好意的に「なんかかわいい」って思うかもしれないですね。

頑張る姿が“かわいい”と感じられると弘中さん
頑張る姿が“かわいい”と感じられると弘中さん
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前沢 歩み寄るって簡単そうで意外とできないかもしれない。

弘中 うんうん。「俺の若い頃は~~」というのを押し付けちゃったり、「今の子は~~」なんて言いがちですけど、今活躍されている40代おじさんたちって、「俺たちは『今』についていかないといけないんだ!」みたいな感じですよ。固執しない。ちょっと息子の『Apex』(編集部注:米エレクトロニック・アーツが展開するバトルロイヤルゲーム、Apex Legends)をやってみようかなとか、心の間口もオープン。

 バスケの練習をしていて足をくじいちゃったみたいなことも、おじさんが頑張っていてかわいいし。「Netflix」で若い子に人気があるドラマを追っかけているのを見ると、すごくかわいいなって思う(笑)。そうですね……頑張っている姿がいいんでしょうね、わたしたちにとっては。

前沢 そうすれば理想のおじさんということに?

弘中 いや、ちょっとそれだけでは。かわいいなとは思いますけど(笑)


 2021年、生活総研では「20年後のふつう」を研究するにあたり、生活者1万人を対象に未来の生活に関する調査を実施しました。そのうちの1問がこちら。

未来は、今では思いもよらない状況に変わっていると思う
64.7%

(出典)
博報堂生活総合研究所 「生活者1万人への未来調査」
(2021年10月実施 全国 15~69歳 男女 1万人インターネット調査)

 世の中があっという間に変わってしまったコロナ禍という共通体験を経て、約65%の生活者が未来は思いもよらない状況に変わっているだろうと考えているのです。

 人付き合いや働き方はもちろん、生活のあらゆるふつうが変わっているかもしれません。そして、未来のふつうをつくっていくのは今の若い世代の価値観です。20年後もまだ昭和、平成の価値観にしがみついている激レアさんにならないよう、身近な30代女性の軽やかな意識と行動に学びたいと思います。

弘中綾香さん(左)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文(右)
弘中綾香さん(左)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文(右)
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(参考資料)30代女性に特徴的な意識・行動
*取材時に弘中さんに提示した資料から一部を抜粋
生活満足度が高い/将来イメージが明るい
生活満足度が高い/将来イメージが明るい
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時間のゆとりがない/ストレスを感じる人が多い
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(20代時と比べ)人づきあいを絞る
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物の見方・考え方がフラット、柔軟
物の見方・考え方がフラット、柔軟
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前向き、向上心が高い、真面目
前向き、向上心が高い、真面目
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(出典)
博報堂生活総合研究所 生活定点2020
(出典)
「生活定点」調査
首都圏・阪神圏 20~69歳 男女 2597人(2020年) 訪問留置法
1992年から偶数年5月に実施(2020年のみ6月~7月)

(写真/竹井俊晴)

日経クロストレンド 2022年2月17日付の記事を転載]

おじさんの変化を、おじさんが解き明かす

1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!

前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)