「AI(人工知能)で業務を効率化だ!」「メタバースで新サービスを立ち上げよう!」「コンサルに依頼したのに生産ラインがぐちゃぐちゃだ!」――いまだに、こんなことは起きていませんか? 組織や個人にとって有用な技術を理解し、そして活用するために、知っておきたい知識をまとめました。第6回のテーマは「データセンター」。
実は昭和の頃からありました
データセンター、意外と昔から使っていたと思うんです。たとえば1977年に通商産業省(現在の経済産業省)が「電子計算機システム安全対策基準」を発表しました。これは名前こそ「電子計算機システム」ですが、事実上それを設置・運用する設備としての「データセンター」の安全対策基準です。
コンピュータが重要な社会インフラとして育っていった時代、電源も空調も盗難対策も未熟だった時期に手探りで打ち出していった最適解は、「やっぱりちゃんと管理するなら、一箇所に集めたほうがいいぞ」でした。
1970年代後半といえば分散システムへの期待がうなぎのぼりだった季節です。電算室に鎮座ましますメインフレームよりも、身近な場所に置かれるミニコンピュータやサーバコンピュータのほうが使い勝手がいいのは自明でした。
でも、安定運用するために、電源、空調、ネットワーク、機器類の冗長化や、物理的・論理的な盗難対策、災害への備え、保守体制の整備などを考えると、管理対象をまとめたくなるのは道理です。だからまとめたし、「電子計算機システム安全対策基準」も公示されたわけです。名称こそ計算機センター、コンピュータセンターでしたが、実態はまぎれもなく今につながるデータセンターでした。
この頃の計算機センターの目的は、まず何よりもコンピュータの安定運用でした。結構高価なサーバマシンを買ってきても、それを無造作に平台に置き、特にサージ(過電流)や瞬断(一時的な停電)などの対策もせず運用している組織もぼろぼろありました。個人研究やPoC(概念実証)に使っている分には自分が泣いたり頭を抱えたりするだけですみましたが、それを使って実業務が回り始めるとそうもいかなくなります。
コンピュータにとって最適な環境は、人間にとっては結構厳しい(寒くて乾燥していて何だかいやだ)ので、人間とサーバマシンを共存させることはなかなか難しく、オフィスとサーバルームはだんだん隔離されていきます。
自前で用意するか、よそに預けるか
サーバルームが「ルーム」で済んでいたうちはみなさん社内に抱えていましたが、サーバの台数が増して「センター」が必要になってくると、センターを建てられる会社と、「いやいやいや、コンピュータごときのために建屋を用意するのは無理だぜ」って会社に二分されました。これは今に至るも同じです。自社でデータセンターを構える会社と、どこかの企業が用意してくれたデータセンターを利用する会社です。
数で考えれば後者のほうが圧倒的に多かったので、さまざまなデータセンター態様のサービスが登場しました。取りあえず名前が出てくるのはコロケーション、ハウジング、ホスティングでしょう。国によって言葉の使い方の違いが見られますが、少なくとも日本においてはコロケーションとハウジングはほぼ同じ意味で使われています。
| コロケーション (ハウジング) | ホスティング | |
|---|---|---|
| サーバ等機器の所有者・管理者 | 利用者自身 | 事業者 |
| 提供される範囲 | 設置場所、電源、ネットワーク回線、物理セキュリティ | 機器本体、OSなどソフトウェア、保守運用サービス |
| 自由度・拡張性 | 高い | 低い |
| 運用負担 | 大きい | 小さい |
| 利用イメージ | データセンター内に自社の機器を預ける | レンタルサーバとして利用 |
コロケーションはサーバの預かりサービスです。「データセンター」は耐火・耐震・免震の建屋を用意します。提供するサービスの種類や会社の方向性にもよりますが、一般的にはどこにデータセンターがあるのかを明らかにせず、まるでデータセンターでないかのような建屋にして盗難などにも備えます。停電などでもサービスが中断しないよう無停電電源装置や非常用発電機を擁し、それらによって365日24時間態勢で空調や電源、什器(じゅうき)、通信回線が管理されます。
ただし、このように管理してくれる対象が「ブツ」のみであることには注意が必要です。サーバを買ってくるのも利用者ですし、OS(基本ソフト)やアプリケーションをインストールして設定するのも、それらを運用するのも利用者です。自分(自社)の裁量の余地が大きい(好きなコンピュータやアプリを選べる)と言えますが、情報機器、情報サービスの利用拡大にともなって、特にコンピュータが好きだったり、詳しくなかったりといった利用者もデータセンターを使うようになってくると、面倒に感じる事例も増えていきました。
ホスティングからクラウドへ
そこで登場したのがホスティングサービスです。
このサービス形態では、サーバマシンを購入・設定・運用するのはデータセンターを運営する事業者です。OSの設定もやってくれますし、場合によってはアプリの提供までしてくれるでしょう。特にこれらに細かいこだわりのない利用者であれば、運用が楽になったと感じるはずです。一方で、OSやアプリの種類、設定は定型化されたメニューから選ぶ形になりますから、自分だけのオーダーメイドなサーバ環境を構築してもらうことは難しくなります。21世紀初頭まではこれらのプレイヤーが「データセンター」の顔でした。
2000年代中盤に入って一気にブレイクしたのが、「クラウドコンピューティング」です。私を含むインターネット老人会のメンバーなどですと、「ホスティングのでかい版だろ」くらいのさめた目で眺めている人もいましたが、やはり革新的ではあったと思います。
クラウドコンピューティングの際立った特徴はでかさにありました。インフラビジネスですから、でかければでかいほど規模の経済が働くのは道理です。ホスティングだって自社1社での体制に比べれば十分でかいのですが、クラウドは桁が違います。特に主要な超大規模事業者はハイパースケーラーと呼ばれます。言葉を換えれば、こぢんまりしたクラウドにあまり競争力はありません。
そのでかさゆえに、地域や国境を越えてデータセンターを配置して、地政学的リスクを回避する運用をしたり、電気代や冷却コストが最も低廉化する資源配置なども行えたりするわけです。端末形態やOS、アクセス回線が異なるガジェットからの、場所や状況を問わないアクセスや多属性・多人数による共同作業など、クラウドは「お金がかからない」以外の価値も生み出しました。
これだけでかいと、柔軟なスケーラビリティも発揮可能です。大規模事業者からすると、常にどこかにはコンピュータ資源の余剰がありますから、CPU(中央演算処理装置)やメモリ、ストレージが急に足りなくなってもすぐに借り増したり、資源がいらなくなればスケールダウンしたりすることも可能です。実際には物理的なサーバが割り当てられたり、引っぺがされたりしていますが、仮想化技術の進展により利用者からは1台のコンピュータの性能が増したり、減ったりしたように見せることも可能になりました。管理も楽になったわけです。
自社でコンピュータを抱え込んだり(オンプレミス)、自社サーバをデータセンターに預かってもらったりする形(コロケーション)では、こうしたサービスは実現できないか、自社によほどのでかさがないと、とんでもなく経済効率が悪くなるので、規模の経済を生かした資源配置や柔軟性のあるシステム構築にクラウドは欠かせない要素になりました。
クラウドが変えた運用
もちろん、どのような付加価値が付いたにしろクラウドの中核部分はデータセンターですし、データセンターの本質はコンピュータの集積による効率的な運用です。しかし、クラウド規模のデータセンターになると、それまでのデータセンターとは設計思想に飛躍が生じています。
オフィスにあるようなタワー型サーバを置くことはなくなりました。広い設置場所が必要で、床面積あたりの利用効率や、冷却効率が悪くなるからです。オーディオでおなじみのラック(規格は違いますけど)に1U(1ユニット、1.75インチ:44.45mm)単位で設置していくラックマウントサーバや、ブレードと呼ばれる極薄のサーバモジュールをシャーシに詰めていくブレードサーバを使います。
大規模事業者には極めてたくさんのリソースがあり、それを管理しなければならないため、管理の考え方も変わりました。たとえば、冒頭で述べた「電子計算機システム安全対策基準」では予防保守の発想が随所に見られますが、信じられないほどのリソースを並行運用しているのであれば、下手に保守の手を入れず、壊れたものをパージ(切り離し)していった方が手間とお金がかからないかもしれません。それでもサービス水準を維持できるほどの物量があるわけです。
メンテナンスのために定期的に巡回したり、故障の知らせで駆けつけたりする必要がないのであれば、都心の一等地やそれに準じた地域にデータセンターを造る必要も希薄になります。地盤さえ安定していて地震や火事に強い立地、周辺環境であれば、人里離れた過疎地に設置してもいいでしょう。
データセンターに求められる諸元も変わりました。データセンターは大量の電気を食い、膨大な熱を発生し、それを冷やすためにまた電気と水を使います。世間がいけいけどんどんのときはそれが許容されますが、状況が落ち着いて上品な振る舞いが求められるようになると、その産業が黎明(れいめい)期だった頃の野放図さは否定されます。
この辺は飛行機の開発などに似ているかもしれません。20世紀の航空機開発競争は、もっと速く、もっと高く、といった形で無理と無茶を重ね、さまざまな成果を積み重ねていきました。最高速度はマッハ1、2、3…と伸び、民間でもイギリス・フランスのメーカーが開発したコンコルドや旧ソ連のTu-144のような超音速旅客機が誕生しました。
大人になったら自分もあれに乗れるのでは…と期待していたのですが、そのような未来は訪れませんでした。私が全座席がファーストクラス扱いのコンコルドの費用を賄えるような大人になれなかったのも一因ですが、主な要因は環境への配慮と省資源でした。ロールスロイスが製造したコンコルドのエンジンはアフターバーナー(排気ガスを再燃焼させて加速する仕組み。極端に燃費が悪い)を焚(た)き続けずに超音速巡航ができましたが、燃料を馬鹿食いするのは確実でした。騒音やソニックブームもありました。
現代社会はこれらを許容しません。少なくとも旅客機においてはここ数十年、夢の極超音速を追求するような動きは極小で、経済効率を追求した亜音速機しか市場に投入されていない状況です。
風で冷やすか、水で冷やすか
データセンターも似たような経路を歩んでいて、がりんがりんに性能を突き詰める実装から、高い経済効率を実現するための試みへのシフトが目立ちます。再生可能エネルギーで電力を賄おうとか、冷却も冷房設備のみに頼らない工夫をしようとか、そういう方向です。
具体例の一つは立地です。実はいま、データセンター絡みで一番活発な動きのある分野かもしれません。たとえば、マイクロソフトが2018~24年に試行した水中データセンターは大きな話題を呼びました。水中は陸上に比べたら非常に安定した温度状態を維持できると考えられます。
冷却を検討すると、必ず空冷(風で冷やす)か液冷(水など液体で冷やす)かといった話題が出てきます。陸上のデータセンターでも液浸冷却(液体にサーバを突っ込んで冷やす)を採用するものが増えてきました。一般論として冷却効率を考えれば液冷の方が有利ですが、液の供給や熱交換はどうするのか、システム全体が重くなるぞ、といったあたりが課題です。水中環境はこれらの多くの部分に解をもたらします。周囲に無尽蔵の冷却剤が存在するわけです。また、液浸冷却を採用しないとしても、そもそも水中では周囲の温度環境が陸上よりずっと穏やかで扱いやすいものになります。
問題は一度水中に沈めてしまったら(マイクロソフトの実験はこのタイプ。人間が入れるような作りにはなっていない)、メンテナンスなどが不能になることですが、そもそも「故障したら修理せず、パージ」の方針でいくならば、人がアクセスできるように建造する必要はない(低コストで建造可能)わけです。実際、実験終了時の故障率は低水準で安定していました。
目の届かない海面下に沈めることは心理的なハードルが高いですし、いったん事が起これば全体を放棄せざるを得ない覚悟も決めておく必要がありますが、将来的な展望は拓けていると言えます。
フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン
宇宙も注目されています。
Lonestar Data Holdingsは月面にデータセンターを設置する構想をぶち上げました。実際に2025年にロケットを月に送り込んでもいますが、この実験装置はうまく動かなかったようです。しかし、ガンダムでもおなじみのラグランジュポイント(重力などのバランスがよい場所)に、データセンターを浮かべるなどの野心的な計画を温めています。
Axiom Spaceはデータセンターに特化した企業ではなく、むしろ国際宇宙ステーションの後継機建造が主任務でしょうが、衛星軌道上に浮かべるデータセンターを構想しています。月やラグランジュポイントに比べるとずっと低コストで設置することができ、現有技術での通信も可能でしょう。衛星軌道と地表面を結ぶ通信技術の開発は活況を呈しています。Axiom Spaceのデータセンターがどの軌道をとるか定かではありませんが、低軌道(高度2000km以下)であれば6Gなどの汎用技術で通信が可能になるでしょう。
データセンターは土地を食い、環境を汚染し、騒音も大きいことが批判の対象になります。AI(情報資源をむさぼり尽くします。超巨大なデータセンターが必要です)の需要はいまだ極めて旺盛で、特にアジア太平洋地域はデータセンター市場が急拡大しています。国力に影が差している日本も例外ではありません。私たちにとっても大事かつ有望な産業ですが、先に掲げたような批判への対応も強く求められます。
もし宇宙へのデータセンターの設置が実現していくなら、設置可能な空間は海以上に広がりますし、騒音も問題にならなくなります。言うまでもなく、海以上に技術的なチャレンジは大きく、気軽に修理に行ける環境でもありません。「宇宙は寒いぞ」といっても、地表面で使っている対流冷却技術は適用できませんから、すぐに熱問題を有利に解決できるわけでもありません。しかし、無限のその空間は人類にとって巨大なフロンティアになるでしょう。
地表面を食い潰して以降、長い間人類の版図は拡大してきませんでした。むしろ、少子高齢化や人口減少により、コンパクトシティへの縮退が議論されている状況です。月や火星を目指すのも、かなり長いスパンの活動になるかもしれませんが、人類が生み出したデータは一足先に宇宙へと拡散していくかもしれません。
