2025年4月13日に開幕を迎える「大阪・関西万博」。会場となる大阪・夢洲(ゆめしま)ではパビリオンなどの工事が山場を迎えている。どんなコンセプトで、どんな技術を生かしたパビリオンが出来上がるのか。一足先に、新刊『関西大改造2030 万博を機に変わる大阪・京都・兵庫』から紹介します。第3回は「河瀬直美氏プロデュース『Dialogue Theater』」編です。(記事は同書のベースとなった日経クロステック連載「2025年大阪・関西万博」より転載・一部変更)

 パビリオンの建設現場に入ると、古い木の柱や梁(はり)が目に付く。「黒ずんだ木材はどこからやって来たのか、なぜここにあるのか」。来場者の中には、そう思う人が大勢いるかもしれない。

古い木材が立ち並ぶパビリオンの建設現場(写真:日経クロステック)
古い木材が立ち並ぶパビリオンの建設現場(写真:日経クロステック)
画像のクリックで拡大表示

 映画作家の河瀬直美氏がテーマ事業プロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」は、建物に廃校となった木造校舎を利用する。合計3棟を大阪・関西万博の会場である大阪・夢洲(ゆめしま)に移築。2階建ての校舎を分割して積み上げるといった、大胆な再構成でパビリオンを形づくる。

建設中の「エントランス棟」。施工する部材の位置を間違えると再構築できなくなる(写真:生田 将人)
建設中の「エントランス棟」。施工する部材の位置を間違えると再構築できなくなる(写真:生田 将人)
画像のクリックで拡大表示
エントランス棟内のイメージ(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
エントランス棟内のイメージ(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示

 基本設計は建築設計事務所SUO(京都市)、実施設計や建設工事、撤去工事は村本建設・SUO・平岩構造計画・総合設備グループが手掛ける。同グループが実施設計などを15億7000万円で落札した。

 3棟の校舎を解体し、部材を万博会場に搬入。足りない部分や補強すべきところは直しながら合体させる。パビリオンを新築するよりも、はるかに大変な作業といえる。

パビリオンの模型。左の「エントランス棟」と奥の「対話シアター棟」、右の「森の集会所」の3棟構成になる(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
パビリオンの模型。左の「エントランス棟」と奥の「対話シアター棟」、右の「森の集会所」の3棟構成になる(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示

 3棟はいずれも昭和前半に建てられた校舎で、改修すれば施設として使える状態だった。移築するのは、奈良県十津川村の「旧折立(おりたち)中学校(北棟・南棟)」と京都府福知山市の「旧細見小学校中出(なかで)分校」。旧折立中学校(南棟)が「エントランス棟」、旧細見小学校中出分校が「対話シアター棟」、旧折立中学校(北棟)が「森の集会所」になる。

奈良県十津川村の旧折立中学校。2012年に閉校(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
奈良県十津川村の旧折立中学校。2012年に閉校(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示
学校の廊下(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
学校の廊下(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示
学校の天井部分(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
学校の天井部分(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示

 既に解体した校舎は部材を倉庫に一時保管し、随時会場に運んで組み立てを進めている。柱には学校に通った子供たちの落書きがそのまま残っている。

校舎を解体した部材を倉庫に一時保管(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
校舎を解体した部材を倉庫に一時保管(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示
解体した部材を確認・補強(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
解体した部材を確認・補強(写真:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示

学校に通った人たちの記憶が残る場所で「対話」

 エントランス棟と対話シアター棟は接続し、来場者は対話シアター棟内の劇場に移動する。現在は対話シアター棟に座席を配置するための斜めの床を施工しているところだ。

エントランス棟と対話シアター棟を結ぶ階段付近(写真:生田 将人)
エントランス棟と対話シアター棟を結ぶ階段付近(写真:生田 将人)
画像のクリックで拡大表示

 河瀬氏によるとこのパビリオンでは、「毎日異なるテーマを世界に問いかける。来場者全員がそれについて考え、みんなの前で対話する2人を全員で目撃する」という。一期一会の対話で、誰にも予想がつかない。対話者の1人は来場者からランダムに選び、もう1人は事前に募集する方針だ。

対話シアターの内部イメージ(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
対話シアターの内部イメージ(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示
対話シアター棟に座席を置く勾配床を施工中。床を下った先にスクリーンを設ける(写真:生田 将人)
対話シアター棟に座席を置く勾配床を施工中。床を下った先にスクリーンを設ける(写真:生田 将人)
画像のクリックで拡大表示

 森の集会所は独立した「離れ」になる。木造躯体(くたい)だけを移築し、柱・梁の間にガラスをはめ込んで外の植栽や万博会場の中央部にできる「静けさの森」を眺められる休憩所にする。河瀬氏のパビリオンは静けさの森に隣接する好立地に立つ。森の集会所では訪れた見知らぬ人同士のコミュニケーションが生まれることを期待する。

森の集会所ができる位置から建設中のエントランス棟(クレーンの奥側)と対話シアター棟(右)を見た様子。対話シアター棟はコンクリートの土台の上に校舎を移築して劇場にする(写真:生田 将人)
森の集会所ができる位置から建設中のエントランス棟(クレーンの奥側)と対話シアター棟(右)を見た様子。対話シアター棟はコンクリートの土台の上に校舎を移築して劇場にする(写真:生田 将人)
画像のクリックで拡大表示
森の集会所から見える、万博会場中央部の「静けさの森」の一部(写真:生田 将人)
森の集会所から見える、万博会場中央部の「静けさの森」の一部(写真:生田 将人)
画像のクリックで拡大表示

 3棟に囲まれた敷地中心部の庭には、大きなイチョウの木を植える。このイチョウも校舎のすぐ近くに立っていた立派な木だ。

3棟に囲まれた敷地中央の庭イメージ。校舎のすぐ近くに立っていた大きなイチョウの木も移植(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
3棟に囲まれた敷地中央の庭イメージ。校舎のすぐ近くに立っていた大きなイチョウの木も移植(出所:2024 Naomi Kawase/SUO、All Rights Reserved.)
画像のクリックで拡大表示

日経クロステック 2024年8月6日付の記事を転載・一部変更]

万博イヤーをターゲットに数々の再開発プロジェクトが進行中の大阪。大阪を訪れる人たちを呼び込もうとする京都や兵庫。技術系のネット媒体「日経クロステック」と建築雑誌「日経アーキテクチュア」は、様変わりする関西の姿を追い続けています。本書は大阪を中心に京都や兵庫まで網羅し、写真満載の現地リポートと建築メディアならではの専門的な視点で、100年に一度とも言われる「関西大改造」の真の姿をお伝えします。

川又英紀ほか(著)、日経クロステック、日経アーキテクチュア(編)、日経BP、3520円(税込み)