『 数字にだまされない本 』(日経ビジネス人文庫)の著者・深沢真太郎さんと『 構造化思考トレーニング コンサルタントが必ず身につける定番スキル 』(日経BP)の著者・中島将貴さんの対談の第2回。「解を出すこと」が得意な人と苦手な人、その違いを生み出す原因について探ります。
第1回 「
深沢真太郎×中島将貴 最適解を出すために必要なこと
」
「解を出そうとする姿勢」が問われる
深沢真太郎さん(以下、深沢) 第1回では「ビジネスパーソンにとっての最適解とは何か」を話し合いました。実際に最適解を出すのが「上手な人」「苦手な人」はいると思いますか。
中島将貴さん(以下、中島) サイエンティフィックな視点を持っていても社内調整や社内政治ありきになってしまい、まっさらな視点で見られない、それで解が出せないというケースがありますね。
深沢 ずっと社内にいると、フィルターがかかっていることに気づけないと。それでもコンサルタントがサポートすると、的確な判断ができ、解が出せるようになるのですか。
中島 偏りがあり、解が出せない背景には知識的なギャップがあることも多いので、そこは気をつけます。例えば、我々はロイヤルティープログラムに関する豊富な知識や導入事例がありますが、クライアントにはない場合もあります。クライアントが的確に判断できるよう、経験や知識のギャップに対応することも大事ですね。
深沢 なるほど。私も人材育成のサポートをしていると、解を「出せる人」「出せない人」を目の当たりにすることがあります。例えば、同じ問題を解いてもらっても、全然違うんです。何が違うのか考えてみると、実は解が出せる人は「そもそも正解がないと思っている人」なのです。だから、どんな問題に直面してもある種の「余裕」がある。どうせ正解なんてないのだから、いったんの答えは自分でつくればいい、実際にやってみて結果的にそれを正解にすればいいと思っているので、まずはこの解でやってみる、PDCAサイクルを回してうまくいかなければ次、と切り替えられる。
一方、解が出せなくて苦しむ人は、一生懸命に解を探してしまう。「この問題、難しいですね。何が正解ですかねぇ。うーん……」という感じです。これはまるで必死にキーワードをググっている、検索しているのと同じ状態と言えます。これでは、なかなか自ら答えを出すことが難しいのではないかと思います。
中島 確かに。唯一無二の解を示したいとは思いつつも、結局は新規事業や新規戦略などはやってみないと分からないところもあります。解を示しつつ、代替案の検討やファクト収集も進めていく、そうした「前向きに解を出そうとする姿勢」が最適解を出せる人の条件なのかもしれません。
かくいう私も、クライアントにご納得いただける解を出せるようになるには苦労しました。もうこの姿勢は仕事をしながら身に付けていくしかありません。コンサルタントの必須条件ですが、あらゆるビジネスパーソン、ビジネスリーダーにとっても必要な要素ですよね。不確実性が高くなっている社会において、ビジネスの現場で「今までと同じことをやっていればいい」という姿勢は通用しません。解を出せるスキルは重要です。
「いきなりスイカを割るな」
深沢 私が思うに、「解を出せる人」は「思考の中で仮定して議論できる人」でもあると思います。「解が出せない人」は「仮定できない人」。言い換えれば、100%間違いがないと確信できないと思考停止してしまうのです。
例えば私が研修をしていて、あるテーマについて考えている人に「どこでつまずいていますか?」「どこに難しさを感じますか?」と聞くと、「だって、これで正解なのかが分からないから」と言う人が多いんです。失敗したり、間違えたりするのが怖くて怖くて仕方がないのでしょう。このようなメンタリティーでは仮定するという行為は絶対にできません。
中島 上司と部下という関係が強いと難しいのかもしれません。上司が言っている正解が本当に正解かどうかは分からない、間違っていたら話し合おうという関係性がないと。でも、解を出せるようになるには、そうした関係性や恐怖心を克服していかないといけませんね。
深沢 本当ですね。今日からビジネスパーソンが恐怖心を克服するためにできることとしては、「1人でやらない」。例えば、新規事業の平均客単価がどれくらいか仮定する場合、1人で進めると怖いですよね。でも、チームなら「1000円ぐらいじゃないか」「じゃあメンバーそれぞれの想定値の平均を取りましょう」と仮定し、議論を進めていける。不確実性の高いことほど、1人でやらないのが大事だと思います。
中島 そうですね。そして解を出せる人は、相手にも「その仮定や前提は妥当だよね」と納得してもらえることが大きいと思います。例えば、自分としては「客単価500円」が妥当だと思ったとしても、報告する相手は過去にもっと高付加価値の商材を扱ったことがある、ちょっと価格の幅を持たせて仮定や前提を示さないと納得してもらえない……と、常に相手の頭の中も考えられる人ではないかと。
深沢 なるほど。仮定や前提も大事ですね。今のお話を聞いて思ったのですが、仮定や前提を示すには「これはこうなのか」という自分や他者への問いかけも必要ですよね。解を出せる人は「問い」も上手だと感じますか。
中島 問いはすごく大事です。自分の中で仮説や前提を考えるとき、どうしても頭にパッと思いついたものは曖昧だったり、綻びがあったりします。アメリカのビジネススクールに通っていたとき、教授に教わったのは「Don’t smash watermelon」という言葉。直訳すると「いきなりスイカを割るな」、つまり「いきなり結論に飛びつくな」ということです。
いきなり自分が考えた解に飛びつくと、検証しなければいけない論点にヌケがあることが往々にして発生する。重要な意思決定ほど諸条件を俯瞰(ふかん)し、検証して解を出すようにと教わりました。
深沢 「いきなりスイカを割るな」は面白いですね。私も『数字にだまされない本』で「分かりやすい法則に飛びつかないための思考法」を紹介しているので、我が意を得たりという気持ちです。
そうすると、コンサルタントである中島さんがよく使う「問い」はありますか。
中島 「そもそも、それでいいのか」は、よく使いますね。
深沢 私もスタートラインに戻るというか、始め方を疑うという意味では「そもそも」はよく使います。そもそも星人です(笑)。
中島 「そもそも」は大事ですね。コンサルティングはプロジェクト単位で動くことが多いのですが、「そもそもプロジェクトのゴールは誰がどういう状態になっていたら成功と言えるのか」を考えなくてはいけません。マーケットを分析しました、はいゴールです、ではなく、今の自分たちのタスクがどうゴールに結び付くのかを考えるときに必要な問いです。
例えば、新しい市場に参入しようとしている企業があるとします。そのマーケットで、その企業がどれだけのシェアが取れるかを考えるときに、「そもそもシェアが取れる、取れないとはどんな観点で決まっているのか」という問いが必要です。それは他の大企業が独占しているのか、それとも特徴的な機能を持った中小企業が勝てているのか、どんな軸でシェアが決まっているのかを考えなくてはいけません。
最適解を出せる人は「そもそも」で、意味のある問いに立ち返れる人、そこを突き詰めていける人だと思います。
取材・文/三浦香代子 写真/洞澤佐智子
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