数字にだまされない本 』(日経ビジネス人文庫)の著者・深沢真太郎さんと『 構造化思考トレーニング コンサルタントが必ず身につける定番スキル 』(日経BP)の著者・中島将貴さんの対談。第3回は、解を出すことと同じくらい重要な「解を伝えるための方法」について考えていきます。

第1回 「 深沢真太郎×中島将貴 最適解を出すために必要なこと
第2回 「 深沢真太郎×中島将貴 最適解を出せる人、出せない人の違い

最適解と伝え方はセットで考えるべき

深沢真太郎さん(以下、深沢) 第1回では「ビジネスパーソンにとっての最適解」、第2回は「最適解を出せる人、出せない人」についてお話ししてきました。その中で「数学的な素養は必須」という話もあり、私はもちろん数字で解決するのが大好きなんですけれども、でもその一方で数字だけでは人の心は動かない気もしていて。数字に強くなりました、構造化思考も鍛えました、でも、それだけでは問題解決はできない。何か相手に響く「エモい数字」が必要だと感じます。

中島将貴さん(以下、中島) そうですね。特に自分たちコンサルタントはいくら良い提案をしたとしても、最後の最後はクライアントに動いてもらわないといけません。相手が「よし、やってみよう」と思ってくれる言葉なり、伝え方が重要です。

深沢 「伝え方」はコンサルタントだけではなく、どんなビジネスパーソンにとっても必要ですよね。いくら自分で納得し、腹落ちできる解を見つけたとしても、最終的にはそれを上司やクライアントに説明しなくてはいけない。最適解と伝え方はセットで考えるべきですね。そうすると、エモい数字は伝え方に関わってくると思いますか。

「最適解と伝え方はセットで考えるべきですね」と話す深沢さん
「最適解と伝え方はセットで考えるべきですね」と話す深沢さん
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中島 そう思います。独り善がりではなく、相手に伝えきることが肝心です。

正論を言うと、失敗する

深沢 そうすると中島さんがクライアントの問題解決をする場合、最終的なゴールが「相手に納得してもらうパターン」と、分析や把握をすることで「自分自身が納得できればそれでゴールとなるパターン」では、仕事のスタートは違うのでしょうか。それとも途中までは同じですか。

中島 「そもそも」のスタートは同じでも、プロセスが変わってきます。相手にどれだけ腹落ちしてもらうかが大事なので、「途中から相手も検討の場に巻き込んだほうがいいのでは」というケースもあります。単に解を出すだけでは意味がない、というところまで考えるようにしています。

深沢 なるほど。なるべく相手を巻き込んで、一緒にやったほうがいいと。実際に相手を巻き込んでみて、「こう伝えると動いてくれる」「こう伝えると動いてくれない」といった例はありますか。

 実は私はよくあるんです。ビジネス数学教育家として、どれだけ良いセミナーや研修をしようが、受講者が行動して変わってくれないと意味がないんですね。でも、まず正論を言ったときは失敗します。

中島 正論というと?

深沢 例えば、「今は数字に強いビジネスパーソンが結果を出す時代です。なぜ君たちがこの研修に呼ばれたかというと、そこができていないからですよね。それに対して、わざわざ会社が費用と時間をかけて、この研修を用意してくれています。その意味は分かりますね。だから今日1日しっかり学んで、実務に結び付けて、成果で会社に返すべきです」なんて言おうものなら、一瞬にしてやる気が萎えます。

中島 確かに(笑)。

深沢 だから、まず「感情」に訴えます。「みなさん、仕事をしているとき楽しいですか。あるいはどんなとき悔しいですか。その楽しい時間がどうやったら増えるか、悔しい時間はどうやったら減るか、考えてみませんか。実はそのアプローチとして、数字が役に立つかもしれません。だから、ちょっと今日1日、私に付き合ってもらえませんか」という話をした後に、初めて正論を言います。

中島 「エモい話」を入り口にするんですね。

深沢 そうすると人は聞いてくれます。そして研修後に、もう一度「感情」の話をします。「仕事をしていて、どういうときが楽しいですか。悔しいですか。その悔しい時間を減らすために、今日学んだことを生かしてみませんか」と。そうすると、「じゃあ、やってみるか」と動いてくれます。理論・正論を感情でサンドイッチすることが重要です。

 ただでさえ数字は「ザ・正論」なんですよ。最初から正論で攻めると聞いてもらえない。コテコテの理論・正論を感情でラッピングすると聞いてもらえる、というのが、私が現場で学んだことです。

中島 いやあ、私も改めて感情を大事にしないといけないな、と思いました。コンサルタントが出した解に対して、クライアントが「それが実現したらうれしい」「すごいじゃん」と思ってもらえたら、すごい原動力になります。解と感情をひも付けて、アクションにつなげてもらうのが鍵ですね。

「解と感情をひも付けて、アクションにつなげてもらうのが鍵」と語る中島さん
「解と感情をひも付けて、アクションにつなげてもらうのが鍵」と語る中島さん
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刺さるのは恐怖か欲求に訴える言葉

深沢 もう1つ、現場で学んだのは、相手の感情に訴える場合、「欲求か恐怖に接触する言葉」は刺さりやすいんです。

 例えば、相手は何が起こったら嫌なのか。給料が下がるのがイヤ、降格がイヤ、損失が出るのが死ぬほどイヤなど、何に恐怖を感じているのか。反対に、「成果を出したい」「リーダーになりたい」など、どのような欲求を感じているのか。そこにひも付けた解を示せるようにしています。

中島 確かに刺さりますね。それでなるべく相手が喜ぶ方向にひも付けてあげられると、よりアクションを起こしやすくなりますね。

日経BOOKプラス編集部  第2回 で「いきなり結論に飛びつくな」というお話もありましたが、結論に飛びついてもいけない、でも最後に残った結論が誰も飛びつきたくない、見たくもないものであってもいけない、と。

中島 「まあ、それは確かに正しいかもしれないけど」「うん、正しいよね。賢いよね」となってしまいますよね。やっぱり正論の少し外側の話、心の琴線に触れるような話もしないといけません。最適解を出すのがゴールではない、最適解は伝えてこそ、ですね。

「最適解を出すのがゴールではない。最適解は伝えてこそ」と話す中島さん(右)と深沢さん
「最適解を出すのがゴールではない。最適解は伝えてこそ」と話す中島さん(右)と深沢さん
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深沢 意外とサイエンティフィックに物事を考えられる人は、伝え方で損をしている人が多いかもしれません。反対に数字が苦手な人は、「数字」と聞いた途端に心のシャッターが下りてしまう。

 今、企業は従業員たちの数字に対する心のシャッターが開いていることを前提にして、「DXだ」「財務諸表ぐらいは読めないと」などと言っていますが、そもそも心のシャッターが開いていない人もいるということを考えたほうがいいですね。最適解を出すこと、出したからには伝えること、それにはエモい数字が必要だといえると思います。

取材・文/三浦香代子 写真/洞澤佐智子

日経ビジネス人文庫
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