米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなどの先進企業に限らず、近年、日本企業でも「ビジネスに、経済学を活用する」取り組みが進んでいます。経済学は、ビジネスにどのように役に立つのでしょうか。そして、各社は何のために、どのような形で経済学を取り入れているのでしょうか。すでに経済学をビジネスに取り入れ、成果を上げている企業への取材を基に経済学の活用法を収録した新刊『 あの会社はなぜ、経済学を使うのか? 先進企業5社の事例でわかる「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法 』(日経BP)の著者・今井誠氏が、起業家でエンジェル投資家の成田修造氏をゲストに迎え、経済学がビジネスにもたらし得る可能性を考えます。後編は、「インターネットの次の時代に活躍する方法」について。

<前編「 経済学を経営に生かせ “出遅れ日本企業”こそ「ChatGPT相談」で挽回を 」から読む>

これからの時代、何に「張って」いったらいいか

今井誠(以下、今井):成田さんは、起業家であり、エンジェル投資家でいらっしゃいますよね。常に時代の先を見ているイメージがあるのですが、これからの時代、特に若い人たちは何に「張って」いくといいと考えていますか。

成田修造氏(以下、成田):いくつかある中から1つ挙げると、インターネットが飽和状態になっている中で、今度は、これまでインターネットとは無縁だった旧来の大きな産業にインターネットが載っていく──あるべき活用がようやく本格化するだろう、ということです。

 振り返ってみると、日本はインターネットという大きな波に乗り遅れてしまいました。だから今、ネットショッピングは「Amazon」を使い、検索エンジンは「Google」を使い、SNSは「Facebook」や「Instagram」「TikTok」を使うという具合に、外国企業のサービスばかり使っている。今や生活になくてはならないインフラともいえるインターネットにおいて、日本企業のプレゼンスは皆無に近いわけです。

今井:本来、イノベーションの土壌があるはずの日本が犯した痛恨のミスでしたね。

成田修造(なりた・しゅうぞう)氏 起業家・エンジェル投資家/1989年東京都生まれ。14歳のときに父親が突如、家族を捨てて失踪し、まもなく母親が脳出血で倒れて半身不随になり破産。東大受験するも2点足りず不合格となり、奨学金を得て慶應義塾大学経済学部に入学。在学中からアスタミューゼ株式会社に参画し、オープンイノベーション支援サービス「astamuse」の事業企画を手がけたほか、大手人材紹介会社との提携事業の立ち上げなどに携わる。その後、アート作品の解説まとめサイトなどを手がける株式会社アトコレを起業し、代表取締役社長に就任。2012年に株式会社クラウドワークスに参画し、大学4年生にして執行役員になり、創業わずか3年で株式上場を果たす。上場後は取締役副社長兼COO(最高執行責任者)として全事業を統括し、22年には取締役執行役員兼CINO(最高イノベーション責任者)として新規事業開発や投資に携わる。22年12月クラウドワークスを退社し、複数の社外取締役などに就きつつ、起業など新たな道を切り開くことを決意。著書には、『14歳のときに教えてほしかった 起業家という冒険』(ダイヤモンド社)、『逆張り思考 戦わずに圧倒的に勝つ人生戦略』(KADOKAWA)がある。
成田修造(なりた・しゅうぞう)氏 起業家・エンジェル投資家/1989年東京都生まれ。14歳のときに父親が突如、家族を捨てて失踪し、まもなく母親が脳出血で倒れて半身不随になり破産。東大受験するも2点足りず不合格となり、奨学金を得て慶應義塾大学経済学部に入学。在学中からアスタミューゼ株式会社に参画し、オープンイノベーション支援サービス「astamuse」の事業企画を手がけたほか、大手人材紹介会社との提携事業の立ち上げなどに携わる。その後、アート作品の解説まとめサイトなどを手がける株式会社アトコレを起業し、代表取締役社長に就任。2012年に株式会社クラウドワークスに参画し、大学4年生にして執行役員になり、創業わずか3年で株式上場を果たす。上場後は取締役副社長兼COO(最高執行責任者)として全事業を統括し、22年には取締役執行役員兼CINO(最高イノベーション責任者)として新規事業開発や投資に携わる。22年12月クラウドワークスを退社し、複数の社外取締役などに就きつつ、起業など新たな道を切り開くことを決意。著書には、『14歳のときに教えてほしかった 起業家という冒険』(ダイヤモンド社)、『逆張り思考 戦わずに圧倒的に勝つ人生戦略』(KADOKAWA)がある。
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成田:ただ、すでにインターネットそのものは社会に浸透しきっていて、まったく目新しいものではなくなっています。新しいサービスも、2020年くらいから、ほぼリリースされなくなってきているのが実感です。
 新しいサービスがどんどん出ていた時期には1日に1つは新しいアプリをダウンロードして使い勝手を試していましたが、今ではほぼダウンロードしないですよね。恐らく、半年に1つ、ダウンロードするかしないかという感じだと思います。

今井:確かに、新しいサービスだからとダウンロードすることはめっきり減りましたね。これだけインターネットが成熟してきているとなると、次に来るのは何か。そこで考えられるのが、旧来の大きな産業にインターネットが載ることなんですね。

成田:そうです。その典型は自動車産業でしょう。ガソリン車が電気自動車に変わり、自動運転になり、という流れの中で、車という製品が「モノ」から、インターネットを介した「サービス」っぽいものへと変わっていく。「シェアリング」も、その流れの中にあります。

 こういう変化が不動産でも起こるかもしれないし、医療でも起こるかもしれないし、小売りでも起こるかもしれない。そう考えると、大きな既存産業にインターネット、ないしはインターネットから派生した何かをインストールしていくという事業が、次の20〜30年のビッグトレンドになっていくと思うんです。
 「これから、何かをしていく若い人」たちは、そういうところに行ったらいいのではないでしょうか。僕だったらそうします。

今井:インターネットが普及しきったことが、むしろ新たなチャンスにつながるというわけですね。

「インターネットの次」に乗り遅れないための着眼点

今井:インターネット産業の黎明(れいめい)期や発展期には乗り遅れてしまった日本が、今度こそしっかりチャンスをつかんでいくには、どうしたらいいでしょう?

成田:既存産業の中にいる人たちだけではなくて、その外側にいる人たちの視点を取り込むことだと思います。それこそ、 前編 でも触れたような経済学の専門家とか、AIやソフトウエアの専門家などから見ると、既存産業の構造はどう映るのか。

今井:既存産業のドメイン知識がある人たちと、ドメイン知識はないけれども違う分野の専門知識を持っている人たちが組み合わさるということですね。

成田:そもそもインターネットは、経済学やAIの専門知識を使いやすい分野です。インターネットサービスをつくるのは数百万円からでも可能ですし、データの取得コストは低く、かつ情報の流通量はすさまじい。
 一方、車一台を開発しようと思ったら最低でもウン千万円、ウン億円単位のコストがかかることを考えれば、インターネットは経済学やAIの知識を導入すれば、低コストで始められ、かつ成果を出しやすかったわけです。

 そこで活用された知見を持って、既存の産業を眺めてみることがすごく大事だと思います。「どうして今、こうなっちゃってるんだろう」とか「これをこうしたら、今まで自分が使ってきた知見を生かせるのに」ということが、新しい事業やサービス、新しい産業を生み出すアイデアの源泉になるでしょう。

今井:いったん違うところで一定の成功を経てきた人が、既存産業を俯瞰(ふかん)的に見るっていうことですね。

成田:アメリカでは「連続起業家」と呼ばれる人たちがそれを担っているんですよね。
 イーロン・マスクは、その典型例です。「PayPal」というインターネット上の金融システムをつくった人が自動車をつくり始めたり、ロケットをつくり始めたりする。たぶん彼からすると、もともとの自動車産業やロケット産業は違和感だらけだったでしょうね。

今井:「なんでこんなやり方をしてるんだ?」と。

成田:そうです。彼は違和感を片っ端から潰して、新しいことをやってしまう能力があるところがすごいんですけど、その視点自体は誰でも持てるものだと思います。僕自身もそうあらねばならないと思っているんですが。
 ある専門知識を持って既存産業を眺め、変容のテコ入れをしていくという流れが加速していけば、日本の産業は、もっと前向きに変わっていくでしょうね。

「日本には本来イノベーションの土壌がある」と語る今井氏
「日本には本来イノベーションの土壌がある」と語る今井氏
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今井:今回、『あの会社はなぜ、経済学を使うのか?』で取材したサイバーエージェントの方が強く言っていたのは「経済学者は俯瞰的に見ている」ということでした。既存のことをやってきた人とは別の人が既存のことを俯瞰的に見た、その視点を取り入れることが重要ですね。すると、いろんな違和感が明らかになって、それが課題解決の推進力になる。

成田:それに加えて、今、既存産業にいる人たちも、ちょっと「こちら側」に足を踏み入れてみてほしいです。ここまで発達してきた経済学やAIやソフトウエアの世界に一歩踏み込んで、最初は「無理にでもシナジーをつくってみる」ということができたら、いろんな新しい発見があって、今までとはまったく違う地平が見えてくると思います。

好奇心の有無が企業の業績を左右する

今井:少し話は変わりますが、学知(学問知識)のビジネス活用をしている企業が少しずつ増えている中で、優秀な人ほど、自分が勤める先として、そういう経験を積める会社を求める傾向にあるようです。実際、日本でも博士号や修士号を持つ学生を積極的に採用しようとする動きも少しずつ出てきていますよね。
 ただ、そうなるとマネジメント層の知識が乏しいばっかりに、せっかくスペックの高い若手に入ってもらっても使いこなせないというのが、今後、企業の課題になっていくと思います。

成田:それはかなり起こり得ることですね。

今井:マネジメント層が知識をつけていくため、そして専門知識を持った若者が活躍していくためには、企業はどう対応したらいいと思われますか?

成田:経営者が勉強するしかないと思います。経営者が勉強すれば、社員たちも勉強しなくてはいけないので、全体的に知識レベルが底上げされて、アカデミックにも明るい企業カルチャーが形成されるでしょう。

 今は消滅しつつあるようですが、かつて注目を集めた米グーグルの「20%ルール」は、例えば週5日あったら4日は業務をこなして、残りの1日は好きなことをやっていいよっていうことですよね。これは要するに、その20%の自由時間を使って経済学の論文を読んでほしいとか、新しいテーマを探してほしいっていう企業側のメッセージだったと思うんです。「業務中の自由時間に新しいことを探す」というカルチャーが米グーグルには根付いていた。
 こんなふうに、結果的には自社の利益になるよう、社員に自由に学ばせるようなカルチャーにしていかないと、なかなか新しい流れにはキャッチアップできないでしょう。

今井:そうですね。

成田:AIなど、近年、特に盛り上がっているテクノロジーは新しい情報が多すぎて、僕だって追いつけないくらいです。大げさでなく、昨日の常識が今日には変わっているというくらいの速さで変化しているので、マネジメント層が新しいものに対する好奇心を持ち続けることが、ますます重要になっていくと思います。

 まず好奇心さえあれば、新しいことを知っている若い人たちの話を聞くことができますよね。それを楽しめるだけの企業カルチャーや個人のマインドを持てるかどうかで、今後、大きな差が生まれる。それが結果的に企業の業績にも影響していくという感じではないでしょうか。
 裏を返せば、若い人たちは、どれだけマネジメント層が新しいことに対してオープンで貪欲に吸収しようとしているかを見て、その会社に入るかどうかを決めればいい。そうしたら、マネジメント層が新しいことへの好奇心に乏しい企業は採用力がなくなり、人材不足により自然淘汰されて、新しいことに前向きな企業だけが残っていく。それくらいやっていかないと、日本経済の先行きは明るくならないと思います。

今井:この、ハイスピードな変化の中では、それくらいドラスチックにやらないといけないでしょうね。

成田:世の中の変化に対応していく。あるいは自分たちが変化を生み出していく。いずれにしても、「今、どんな変化が世の中で起きているのか」ということに対して、好奇心を持って取り組むことが必要だと思います。

新たなポジションやキャリアにつながる「出島」発想

今井:最後に、今、企業で働いているビジネスパーソンは、どう振る舞ったらいいと思いますか? 経営層でもマネジメント層でもない、だけど経済学を活用したいという話もよく聞きます。

成田:大きな集団を1人や少人数で動かすのは難しいので、「小さな集団」を社内につくる。大きな組織の論理が作用しない、いってみれば「出島」をつくるイメージです。その中にシニアの人がいてもいいから、「これをやりたい」ということでまとまっている小さな集団でチャレンジできるといいですね。

 そういう社内起業みたいな活動を視野に入れることも、これからはキャリア形成の一つになるのではないかというのは、拙著『14歳のときに教えてほしかった 起業家という冒険』(ダイヤモンド社)にも書いたんですけど、小さな集団としてチャレンジすることが自身の成長の大きなきっかけになると思うんです。そこを拡大していくことで、新たなポジションを築けたり、あるいは別のキャリアを描きたくなったときに有効に働いたりもするでしょう。

今井:社内に「出島」をつくる。おもしろい発想ですね。

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成田:日本の少子高齢化はやっぱり看過できませんよ。例えば現在、インドの平均年齢は28.2歳、日本の平均年齢は48.4歳(※)。この約20年の違いが、社会全体の「新しいものに対する好奇心」や「変化への対応力」に、どれだけの差を生むだろうかという話です。だから、僕らはがんばらなくちゃいけません。老いにあらがって(笑)。

今井:「老い」といっても、40代後半の私と、30代半ばの成田さんとではだいぶ違いますけど(笑)。
 確かに、仕事と関係ないところで同世代の人たちと話していると、「この人たちは、もうまったく新しいことに興味がないんだな」と思うことがあります。その人たちが変わるのは恐らく難しい。でも、そうじゃない一部の人たちが好奇心を持って変化に対応していくだけでも、だいぶ変わっていきそうですね。

成田:何より若い人たちにチャンスを与えたいですね。

今井:おっしゃる通りです。これからは、もっともっと若い人たちがチャンスを得られるようにしていきたい。今のマネジメント層に、たとえ一部でも「若手はどんどん学知を身につけたらいいよね」「ビジネスと学知をうまく掛け合わせると、できることも変わっていくよね」という発想があるだけでも、若者のチャンスは広がります。

 いろんな人がフラットな立場で専門知を持ち寄り、それが新しいものを生み出すという構図に、少しずつでも変えていく。そういう大きな転換点が、今まさに訪れていると思います。

(構成=福島結実子、写真=尾関祐治、撮影場所=LINKs)

「データサイエンスやAIを導入したのに、期待通りの成果につながっていない」「値上げしたい、新製品を発売したい。でも、本当にうまくいく?」「広告の効果が薄い。もっと効果的な方法は?」「業務に無駄が多い。効率化して生産性を上げたいが……」こうしたビジネスの課題や不安には、経済学がよく効きます。入門者から専門家まで、ヒントが見つかる一冊です。

今井誠著/日経BP/1870円(税込み)