人生設計や投資を考える時、判断の成否を分けるカギとなるのは「経済の先行きを読む力」。その「先読み力」を強化する方法の一端を、日経新聞論説フェローでWBS解説キャスターを務める原田亮介氏がわかりやすく体系的に解説した『経済の仕組み 学び直しの教科書』から抜粋・再編集して紹介する。第3回は経済統計の王様といわれるGDPの基礎知識。
四半期で付加価値がどれだけ増えたか
経済統計の王様は「国内総生産(GDP)」です。四半期ごとに発表され、期間中の経済活動で付加価値がどれだけ増えたかを「実質経済成長率」という物差しで見せてくれます。
いくつかの言葉に戸惑う方がいるかもしれません。まず「実質」です。経済活動をそのまま反映したのが名目GDPで、物価上昇分を除いたのが実質GDPです。通常、成長率という時は実質GDPをいいます。物価が上昇して水ぶくれした分は付加価値の増加とはいえないからです。
もう1つ、「瞬間風速」という言葉をよく聞くと思います。たとえば、4―6月のGDP成長率を評価する時に、1年前のGDPと比べる前年比と、1―3月のGDPと比べる前期比があり、数字が異なります。当然、前期比のほうが景気の足元の状況が把握しやすくなります(うるう年の日数の変動など、四半期ごとに季節要因を取り除く季節調整が行われています)。
この前期比の成長率が4回続くものとして1年の成長率(年率)に換算したのが瞬間風速です。たとえば、前期比0.8%増だったとすると、年率は1.008×1.008×1.008×1.008=1.0323で、3.23%成長になります。日本の最近の実質成長率はコロナ禍の反動があった2021年などを除くと1%前後にとどまっています。
経済の規模を示す時には名目GDPが使われますが、日本のGDPは2010年に中国に抜かれ、2023年にはドイツにも抜かれ、世界4位に陥落しました。世界のGDPに占める日本のシェアは1995年のピーク時には17.5%まで高まりましたが、2022年は4.2%にとどまります。円安による目減りも大きいので一喜一憂する必要はないのですが、国民1人当たりGDPでみても、2022年に経済協力開発機構(OECD)加盟国で21位まで順位を落としています。
1次統計を活用、速報の国際比較が容易に
2023年度の日本の名目GDPは596兆5000億円です。需要項目別にみると、個人消費が323兆円、設備投資が102兆円、政府消費が123兆円、公共投資が30兆円、民間住宅投資が22兆円などとなっています。5割以上を占める個人消費が成長率を左右する最大の要因であることがわかります。では、GDP統計はどのように作成されているのでしょうか。
GDP統計は四半期に1度公表するため、QE(QUARTERLY ESTIMATES)と呼ばれます。GDPそのものは日本国内の経済活動全体を把握するために膨大なデータを加工して作られています。
速報ですべてのデータをそろえることは困難です。QEの推計方法は内閣府が「国民経済計算推計手法解説書(四半期別 GDP 速報(QE)編)」を公表しています。大事なのは、個人消費なら毎月の家計調査や家計消費状況調査、設備投資なら四半期ごとの法人企業統計調査(法人季報)、輸出入なら月次の貿易統計などの1次統計を活用している点です。つまり、GDPの主要な構成項目の動きは、それぞれの1次統計から予想できるということです。
GDP統計が便利なのは、先進国は同じ基準(SNA=国民経済計算)を採用しており、国際比較が容易なこと、速報性も共通していることが挙げられます。米国のQEで出てくる実質成長率や個人消費、住宅投資などの状況は日本のそれと比べることができます。
しかし、中国の場合は、四半期ごとにGDPを発表していますが、瞬間風速の年率成長率は公表していません。前年比のGDP成長率しか出しておらず、エコノミストはそれを年率換算する必要があります。もともと計画経済でスタートした中国は生産側の統計を重視してGDP統計を作成してきた経緯や、広大な国土で需要側の1次統計が取りにくいという事情もあって、SNA基準への完全移行が遅れています(これはインドなどにも共通しています)。中国経済の停滞がはっきりする中で、最近のGDP統計で5%成長といわれる数字と、低迷する実体経済のずれを指摘する声も増えていることにも留意が必要です。
原田亮介著、日本経済新聞出版、1870円(税込み)


