超低金利が長く続いてきた日本はどのような課題に直面しているのか。「経済学の書棚」第45回後編は、過去の経済・社会問題、これまでの日本銀行の金融政策に対する評価などを盛り込んだ『金利を考える』、世界の金利の歴史を追い、現在の位置付けと将来への展望を示す『金利の歴史』、金利の歴史を踏まえ、超低金利は今日我々が抱える多くの苦難を後押ししていると説く『金利 「時間の価格」の物語』を紹介する。

「経済学の書棚」第45回後編では、金利の決定要因を解明する経済理論や、世界における金利の歴史などに視野を広げ、超低金利が長く続いてきた日本の課題を照らし出す著作を取り上げる
「経済学の書棚」第45回後編では、金利の決定要因を解明する経済理論や、世界における金利の歴史などに視野を広げ、超低金利が長く続いてきた日本の課題を照らし出す著作を取り上げる
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金利はお金のレンタル料

 長く続いた超低金利からようやく「金利のある世界」へと転換してきた日本は、特殊な存在なのだろうか。後編では、金利の決定要因を解明する経済理論や、世界における金利の歴史などに視野を広げ、超低金利が長く続いてきた日本の課題を照らし出す著作を取り上げる。

 翁邦雄著『 金利を考える 』(ちくま新書/2024年10月刊)は、金利決定のメカニズムを分析する経済理論、サラ金問題やリーマン・ショック(世界金融危機)といった過去の経済・社会問題、これまでの日銀の金融政策に対する評価などを盛り込んだ「入門+応用編」といえる本。著者は日銀出身の経済学者で、日銀にいた時から論客としてよく知られた存在だった。

『金利を考える』(翁邦雄著/ちくま新書)。金利決定のメカニズムを分析する経済理論やリーマン・ショック(世界金融危機)といった過去の経済・社会問題などを盛り込んだ「入門+応用編」といえる本。画像クリックでAmazonページへ
『金利を考える』(翁邦雄著/ちくま新書)。金利決定のメカニズムを分析する経済理論やリーマン・ショック(世界金融危機)といった過去の経済・社会問題などを盛り込んだ「入門+応用編」といえる本。画像クリックでAmazonページへ

 第一章「金利を上げ下げする力はどこから来るのか」は入門編。以下は、概説の一部である。

 金利とは「お金のレンタル料」。レンタル料そのものは利息であり、その元金に対する比率が金利だ。金利の代わりに利子率という言葉もよく使われる。

 一国全体として見ると、金利を決めるもっとも基本的な要素は、インフレ(物価上昇)と「借りたお金を使って得られるもうけの大きさ」である。一国全体の金利のトレンドは、その経済全体における「もうけを産む力」ないし成長の可能性を反映するはずだ。

 ここから、中央銀行の役割を、(1)何のために金利を動かすのか(金利を動かす目的)、(2)なぜ、金利を動かすのか(金利を動かす効果)、(3)どうやって金利を動かすのか(金利を動かす方法)の順に解説する。

 中央銀行は短期金利を操作し、市場参加者の期待(予想)に働きかけて満期の長い金利にも影響を与えている。「長期金利=契約満期までの予想短期金利の平均値+ターム・プレミアム」の関係式が成り立つためだ。ターム・プレミアムには、なんらかの理由で長期債を満期前に売却することが困難だったり、売ることができても大きな値下がりを伴う可能性が高かったり、といったリスク(=流動性リスク)への対価などの要素も含まれ得る。

 この点から見ると、黒田東彦総裁の時代に導入した長期金利の直接的な操作(イールドカーブ・コントロール)は例外的な政策だったと位置付けている。

 第一章の補論「金利政策の理論的支柱としての現代マクロ経済学」は理論編だ。

 新しいマクロ経済学では、企業や家計など経済を構成する個々のプレイヤーの最適化行動を分析し、それが集計された姿としてマクロ経済を分析する。主要中央銀行も基本的に新しいマクロ経済学に沿った計量経済モデルを用いて経済を分析していると指摘する。

 第二章では、ミクロ経済学の観点から金利について考察し、金利は「特殊な価格」であるとの仮説を披露する。

政策金利とは別世界の消費者金融の金利

 第三章は消費者金融、第四章は住宅ローン金利がテーマだ。金利と国民の生活実感とのつながりを意識し、「政策金利とはほぼ無関係で、別世界の金利である」消費者金融の金利なども取り上げた。

 第五章は金利と外国為替相場との関係について掘り下げている。購買力平価説を発射台とする、外為相場の決定を巡る理論や仮説の変遷をたどる。

 「エピローグ」では、日銀の金融政策に対する要望を記している。

 金融政策において現在の金利水準以上に重要なのは、これから金利がどうなっていくかの展望を適切に提供することだ。

 日銀の姿勢に対し、政財界を含む世論の幅広い理解を得るには各界とのオープンな対話姿勢が必要だ。真摯な対話で、幅広い信頼と支持を得て、さまざまな逆風を乗り切り、日本経済を安定させていく金利経路を示し、実現していくことに期待したい、と締めくくっている。

 平山賢一著『 金利の歴史 』(中央経済社/2024年11月刊)は、古代から現在に至るまでの世界の金利の歴史・変遷を追う書である。読者が現在の金利の位置付けと将来の金利の見通しを描けるようにするのが狙いだ。

『金利の歴史』(平山賢一著/中央経済社)。古代から現在に至るまでの世界の金利の歴史・変遷を追う書。画像クリックでAmazonページへ
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 著者はアセットマネジメント会社でストラテジストやファンドマネジャーとして長く株式や債券などの投資戦略に携わってきた。

古代から存在した「金利」

 第1章は古代・中世史。人類は古代メソポタミア期から、物々交換するだけでなく、モノを一時的に融通し合ってきた。生産目的の貸し付けであり、穀物の種子の場合には収穫をもたらし、都合よく利子付きで返済できた。ハンムラビ法典には、農民たちが穀物などの原始貨幣を融資される場合、その金利水準は33~40%程度と記載されている。

 古代ギリシャやローマ時代でも利子付きでの貸し付けは行われていた。ただ、哲学者のアリストテレスが、貨幣が貨幣を生む利子を「自然に反している」と批判したように禁止を求める声も大きかった。

 欧州で中世にキリスト教会を中心とする共同体が形成されると、強大な権力を持った教会が商業を取り締まり、金貸業を禁止することで、より一層の経済的な優越性の確保に腐心した。

 これに続く第2章ではルネサンス期、第3章では大航海時代・帝国主義時代、第4章では米国が覇権を握った時代の金利の動向を追う。

 世界最低水準の金利を維持する国家がどの時代にも存在し、貿易や金融のセンターとなってきたというのが著者の歴史観である。「低金利」を基本的にはポジティブに捉えている。

「世界最低金利国」が貿易・金融センターに

 著者によると、16世紀前半にベルギー(アントワープ)が国際金融の主軸となり、16世紀後半にイタリア(ジェノヴァ)、17世紀にオランダ(アムステルダム)にその地位が移行する。

 その後、18世紀中葉と19世紀後半に英国、20世紀中葉に米国、20世紀後半から21世紀にかけては日本とスイスが最低金利国となった。

 最低金利国となった日本は、世界の貿易・金融センターとして繁栄しているわけではないが、17世紀のオランダとは共通点が多い。そのオランダで、18世紀の100年間にわたってゆっくりと資金が流出し、やがて長期金利が英国の長期金利を上回った経緯を振り返っている。日本では、1970~80年代のような高金利への移行は考えにくいが、他地域との金利差が短期間で縮小していく可能性は否定できない環境になりつつあると注意を喚起する。

 第5章は日本の金利史。明治時代、国債利回りを統制した戦時期、戦後復興、高度成長期、バブル期前後と順に検証していく。

 1977年を分岐点として統制色の強い戦時体制が転機を迎え、自由な市場による価格形成が行われるようになった。しかし、その後、日本が金融危機で苦しむ中、経済状況は停滞を続けたため、日銀は非伝統的金融緩和に政策変更するとともに、再び統制色の強いものに回帰したと評する。

 「おわりに」は全体の要約である。政府債務の増加は常に長期金利の上昇をもたらすわけではないとの命題を示し、国内総生産(GDP)に対する政府債務比率が上昇したものの、国債利回りが低位で安定していた19世紀初頭にかけての英国などの例を挙げている。しかし、貯蓄を積み重ねた世代が高齢化して取り崩す世代に移行し、海外投資が活発になっている日本は、慎重な対応が求められると再度、訴えている。

 また、近世以降に勝ち取ってきた徴利容認の流れは、資本主義社会の到来とともに主流化していったが、現代の資本主義がネガティブに捉えられ、異なる社会の仕組みが模索されるなら、金利に対する世の中のイメージも変化すると予想する。

 2010年代に主要国の国債利回りがマイナス圏に突入し、従来の下限の2%ラインを下回ったことは、新たな資本主義の模索の象徴だった可能性は否定できないと総括する。

 エドワード・チャンセラー氏は『 金利 「時間の価格」の物語 』(松本剛史訳/日本経済新聞出版/2024年4月刊)で、古代以来の世界の金利の歴史を踏まえ、超低金利は今私たちの抱えるたくさんの苦難を後押ししていると説く。

『金利 「時間の価格」の物語』(エドワード・チャンセラー著/松本剛史訳/日本経済新聞出版)。古代以来の世界の金利の歴史を踏まえ、超低金利は今私たちの抱えるたくさんの苦難を後押ししていると説く。画像クリックでAmazonページへ
『金利 「時間の価格」の物語』(エドワード・チャンセラー著/松本剛史訳/日本経済新聞出版)。古代以来の世界の金利の歴史を踏まえ、超低金利は今私たちの抱えるたくさんの苦難を後押ししていると説く。画像クリックでAmazonページへ

 著者は金融史研究者、金融ジャーナリストとして活躍している。投資銀行や投資会社での勤務が長い。

 金利の歴史を点検するスタイルは似ているが、平山氏とは大きく異なる世界観を下敷きに物語を展開する。

「利子は略奪だ」と説いたプルードン

 フランスの社会主義雑誌における国民議会の議員2人による論争(1849年)から序章は始まる。無政府主義者のピエール=ジョゼフ・プルードンは「高利は不公平な交換であり、利子とは高利による略奪だ」と唱えた。一方、自由貿易を標榜するフレデリック・バスティアは「利子とは盗みではなく、サービスの相互交換に対する公正な報酬である。利子の撤廃は富裕層を利するだけだ」と主張した。

 2008年9月のリーマン・ショック後、主要国はプルードンの革命的スキームを実行に移したというのが著者の見立てだ。

 これに続く第Ⅰ部「金利の歴史」では、古代(第1章)から、中世を経て欧州で資本主義が誕生するまで(第2章)、17世紀の英国における金利引き下げを巡る論争(第3章)、18世紀初めにフランスに紙幣を導入して金利を引き下げ、ミシシッピバブルの生成と崩壊をもたらしたスコットランド人、ジョン・ローの実験(第4章)と物語をつなぐ。第5章では、英国で起こった南海バブル(1720年)、銀行恐慌(1825年)などに触れ、第6章では、米国での1920年代の信用ブームに焦点を当てる。

 第Ⅱ部「低金利はさらに低い金利をもたらす」(第7~16章)では、超低金利がもたらした意図せざる結果を検証する。第7章では、1980年代の日本のバブル経済、2008年のリーマン・ショック前の世界的な信用バブルを再現する。

 第Ⅲ部「ビー玉ゲーム」(第17、18章)では、超低金利が新興国に与えた影響を見る。リーマン・ショック後、世界の基軸通貨である米ドルの金利をゼロにした結果、新興国へ資本が流れ込んだ。その後、米国が引き締めに転じると、コモディティー価格は値崩れを起こし、新興国市場は停滞状態に入った。

 中国では低金利が異常な信用ブームを煽(あお)り立てるとともに、史上最大の過剰投資と壮大な不動産バブルが起こった。

 中央銀行による超低金利政策は国家による経済統制であり、生産性向上の崩壊、手の届かない住宅、格差の拡大、市場競争の喪失、金融の脆弱性などを引き起こしているというメッセージが、同書全体に流れている。

超低金利が成長鈍化と格差拡大をもたらす

 著者は、中央による計画に対する長大な批判の書『隷従への道』(1944年)を著したフリードリヒ・ハイエクの影響を受けている。終章「隷従への新たな道」では、最近の資本主義の衰えは、経済成長の鈍化や格差の拡大、万能な巨大企業の出現などを見てもあきらかだと断じ、非伝統的な金融政策はポピュリズム台頭の一因となっているとの見解を表明している。

 日本で「金利のある世界」が復活してきたとはいえ、世界の歴史を振り返れば、その水準はいまだに「超低金利」である。日本は超金融緩和から脱出してどこに向かおうとしているのか。膨大な規模に膨らんだ公的債務の処理も含め、政府・日銀は超金融緩和の「出口」にうまくたどり着けるだろうか。

写真/スタジオキャスパー

遠大な歴史から金利の本質を問う

古代バビロニアから、中・近世ヨーロッパ、現代の日本、アメリカ、欧州、中国にいたるまで、金利の歴史絵巻を豊富なエピソードでカラフルに描き出す。5000年に及ぶ経済思想のバトルを踏まえ、現代の金融政策に警鐘を鳴らす。2023年ハイエク図書賞受賞作。

エドワード・チャンセラー著/松本剛史訳/日本経済新聞出版/4400円(税込み)