ファンを囲い込み、熱狂的でロイヤルティーの高いコミュニティをつくる――。これまで理想とされてきたコミュニティマーケティングは、本当に事業の成長につながっているのか。SNSマーケティングを支援するホットリンクの増岡宏紀氏は、新著『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』で新たな選択肢を提示する。同氏が提唱するのは、コミュニティをゼロからつくるのではなく、既に存在し、活発に動いているコミュニティに「お邪魔する」という発想だ。具体的にどんなやり方なのか。UGCを増やしながら「中長期で事業が成長し続けること」を目指す、コミュニティマーケティングの新しいアプローチについて話を聞いた。[日経クロストレンド 2025年12月23日付の記事を転載]
ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
つくるよりもお邪魔する、ファンよりも推奨者
コミュニティ戦略やSNSマーケティング戦略の刷新を呼び掛ける新著を執筆されました。本書では、コミュニティをゼロからつくるのではなく、熱量を持って活動している既存のコミュニティにお邪魔する、つまり「巨人の肩に乗る」ことを推奨されています。まずはこの点について教えてください。
増岡宏紀氏(以下、増岡) 私たちが考えるコミュニティマーケティングは、「SNSに存在するオープンなコミュニティにお邪魔しながら、そこでUGC(ユーザー生成コンテンツ)を出してくれる推奨者を増やしていく」というものです。これまでコミュニティマーケティングという言葉で表されてきたのは、自社でゼロからコミュニティを構築し、ファンを囲い込んで売り上げを伸ばす、というやり方でした。しかし、このやり方が有効なのは、一部の商材に限られます。
いわば「ゼロから構築型」のコミュニティマーケティングに向いている商材には、強い愛着や熱狂を生みやすいことなど、いくつか条件があります。多くの商材はこれに当てはまりません。例えば日用消費財で、「このカップ麺だけを一生食べ続ける」「このトイレットペーパーへの愛が止まらない」といったファンを多数生み出し続けるのは、現実的ではありません。できたとしてもかなりコストがかかりますし、マーケティング施策として合理的とは言えないのではないでしょうか。
それよりも、既に存在するコミュニティに入り込んでいくほうが合理的である、ということでしょうか。
増岡 その通りです。本書では既存のコミュニティを「プライベートグラフ(家族・友人)」「ソーシャルグラフ(職場・地域)」「インタレストグラフ(趣味・推し活)」の3種類に分けながら把握していきます。
詳しくは書籍の第1章で解説していますが、コミュニティはプライベートなものであればあるほど、人に与える態度変容の力が強くなります。一方で、企業が半年や1年といった短期間で、強い影響力を持つコミュニティをゼロからつくるのは困難です。それならば、既にある深いコミュニティに上手に入り込み、自社ブランドの推奨者を増やしていくことを考えたほうが、合理的ではないかと考えています。
「推奨者」という言葉が出ました。推奨者は「ファン」とは違うのですか?
増岡 推奨者の中にファンがいる、という理解が適切だと思います。商材の特性に起因して、ファンが存在しないケースもあります。私の定義では、ファンというのは「それしか買わない」「他のブランドを使うのは浮気だ」というくらい、そのブランドを根強く支持している人たち。これに対して推奨者は、その一つだけしか選ばないということではなく、もっぱら「それがいいよ」とクチコミをしてくれる人、SNS上ではUGCを出してくれる人です。
先ほど話した日用消費財のように、ファンであっても100%そのブランドしか使わないという行動が成立しない場合もあります。だからこそ、推奨者を増やすことが大切という考え方をしています。
私はこれまで多くのお客さまをご支援してきましたが、その中で「囲い込んでファン化する方法」が、事業に関わる数字を継続的に改善できているのか、疑問を抱いていました。本書では、より再現性が高いやり方を、向き不向きをきちんと整理しながらお伝えするよう心掛けています。
飲料メーカーもデジタルサービスも、「お邪魔する」が事業成長に直結
では、「お邪魔する型」のコミュニティマーケティングがうまく機能した事例について、教えてください。
増岡 まず、ある飲料メーカーの例を紹介します。数字の動きには色々な要因が絡んでいることに留意する必要がありますが、「お邪魔する」やり方を開始して以降、ブランドの指名検索数が右肩上がりに伸び続けています。UGCを使って推奨を広げる動きが、数字に表れた形です。
具体的にはブランドと相性の良い、いくつかのコミュニティを特定し、そこに働きかけながら、周辺のコミュニティにも働きかけを拡張していく手法を取っています。公式アカウントの日々の投稿も、凝った企画投稿を一球入魂でやるのではなく、狙うコミュニティの人たちが反応する簡易的な投稿を複数実施するなど、商品の宣伝色を抑えた形で投稿します。それをコミュニティの人たちに当てていくと、すごく反応が出るのです。これがクチコミの継続的な増加につながっています。
一方、その飲料メーカーにとって「アウトドア好き」のコミュニティは、元々同社のブランドと少し距離がありました。そこで、あるアウトドアブランドとTシャツのコラボ商品を共同で制作し、話題にしてもらうきっかけをつくりました。Tシャツのようなコラボグッズの制作は、とても分かりやすい「お邪魔の仕方」です。限定感が出て喜んでもらえますし、グッズを通して自社のブランドも好きになってもらえます。何もSNSでの成果を出すために、全てをSNS内の打ち手でやることもないのです。
「ゼロから構築型」が機能しにくかった商材も、「お邪魔する型」で結果を出せるのですね。
増岡 はい。デジタルサービスのような無形商材でも、「お邪魔する型」のコミュニティマーケティングは成立します。
私たちが支援したとあるデジタルサービスは「推し活」コミュニティとの相性がいいことが分かったので、サービスの認知を広げる活動とともに、「あなたの推し活の○○を教えて」といったSNSキャンペーンを実施しました。推し活をする人たちの、自分たちの推しについて語りたいという気持ちに寄り添い、サービス名称のハッシュタグを付けながら推しに関して会話をしてもらうことで、コミュニティに入り込んでいったのです。
その他、コミュニティにお邪魔するとはどういうことかを理解する良い事例として、日経クロストレンドの連載で紹介したソーセージブランドの「ジョンソンヴィル」があります。ただし、コミュニティへのお邪魔の仕方は無数にあるため、事例をそのまま踏襲するのではなく、戦略に合わせて適切な打ち手を選択することが重要です。
新規獲得のやり方を変える必要がある
「ゼロから構築型」のマーケティングが重視されてきた背景として、新規顧客の獲得コストが上昇していることや、人口減少を見据えて既存顧客のリピート率を上げる必要性が叫ばれてきたことがありました。これに対して、「お邪魔する型」のコミュニティマーケティングは、新規顧客の獲得に重きを置いています。この裏にはどのような考えがあるのでしょうか。
増岡 推奨者のUGCを目にした別の人が継続的に流入し、中長期で事業成長に貢献できることが、コミュニティマーケティングやSNSマーケティングの醍醐味だと考えています。そのため、ファンサイトや招待制のミーティングといったクローズドな場ではなく、SNSというオープンな場で活動することを重視しています。
事業成長への貢献については、UGCと指名検索、指名検索と売り上げには相関関係があることがデータで明らかになっています。そのためUGCを増やすことを目指してコミュニティに働きかけようというのが、私の提唱するコミュニティマーケティングの全体像です。
もちろん、既存顧客のリピート率を伸ばすことも重要で、決して二項対立で考えるものではありません。ですが、リピート率を継続的に伸ばすことが現実的に可能なのか、そしてコミュニティをつくって囲い込むことが効果を生むのかどうかについては、よく考える必要があります。
マーケティングを取り巻く環境に目を向けると、昔と比べて新規獲得が難しくなったというのは正しい認識だ思います。可処分時間の奪い合いをするプレーヤーが多くなり過ぎているからです。SNSだけでも様々な種類がありますし、ゲームのようなコンテンツも可処分時間を奪うものです。
今やテレビCMを出せば認知が取れるという時代とは状況が違います。色々なタッチポイントで、知ってもらう努力をしないといけないのです。それができれば、新規獲得が特別難しい、ということにはならないでしょう。逆に、テレビCMだけで認知を取ろうとするやり方を続けていると、昔と比べて難しくなったという捉え方になると思います。
つまり、「新規が取れない」のではなく、「新規獲得のやり方を変える必要がある」ということですね。ただ、SNSの重要性は認識できていても、一つの企業が各種SNSに精通し、完璧に運用していくというのは難しいと思います。
増岡 そこでも、やはりUGCが重要になってきます。企業が自分たちで完璧にアカウントを運用するのは難しいからこそ、自分たちのブランドを推奨してくれる人を増やしていく。それができれば、その人はXで投稿するかもしれませんし、別の人はInstagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)など、それぞれの得意な媒体でUGCを出してくれます。
推奨者がいれば、それぞれの媒体に特別詳しくなくても、また新しい媒体が出てきても、大きな心配はいりません。媒体起点で考えてすべてを企業側がコントロールしようとするのではなく、コミュニティ起点で考えることが重要です。
どうやって「お邪魔する」のか?
ここからは実践に向けた話を伺います。まず、ブランドに合うコミュニティをどのようにして見つけるのでしょうか。
増岡 やみくもに探していくのは無謀です。コミュニティ選びは、マーケティングでいう「Who」の領域です。まず自社のブランドがどういうポジショニングをするのかを考える必要があります。
ポジショニングを決める際は、3C(市場・顧客、競合、自社)などのオーソドックスなフレームワークが役立ちます。これから戦っていこうとする市場において、自社が強者なのか弱者なのかによって、狙うべきコミュニティも変わってきます。
強者の場合は、物量も投下できるし体力もあるので、広く面を取るやり方でも戦えます。しかし、多くの企業は弱者でしょう。
弱者の場合は、差別化戦略や局地戦で一点集中していくのがおすすめです。競合が取れていない領域を一点突破して取っていくのであれば、かなり小さなコミュニティであっても、狙う対象として成り立ちます。
具体的なコミュニティの特定には、目視で概観を把握することに加え、XのGrok(グロック)やソーシャルリスニングツールが役立ちます。詳しい使い方は書籍の第5章で解説しています。
このように、自社のポジションを把握した上で戦い方を決め、そこから逆算してコミュニティを選んでいくのが始まりです。
コミュニティへのお邪魔の仕方には、どのような選択肢があるのでしょうか。
増岡 大きく分けると、広告やSNS運用のような定常的な施策と、IP(キャラクターなどの知的財産)コラボのような大きめの投資が必要になる施策があります。
広告を使ったコミュニケーションは、日々公式SNSを投稿している企業なら、その投稿を後押しするだけなので継続しやすく、コストや継続性の面で優れています。
IPコラボ、インフルエンサー活用、グッズ制作などの施策は、投資コストは大きいですが、瞬間的な反響も大きくなります。一方で、瞬間的に盛り上がっても、翌日にはコラボ自体は覚えていても企業のことは忘れてしまう、といったことも起こり得ます。従って、広告のように継続的に接点を取っていく施策も、合わせて実施することをお勧めしています。
コミュニティに入り込んでいく段階で、気を付けるべきことはありますか。
増岡 自社商品との相性が良く、すでにクチコミをしてくれているような親和性の高いコミュニティを見つけられたなら、非常にうまくいきます。その場合は継続的に情報を発信し、UGCを生むきっかけづくりをする、素直に「お邪魔する」という形で問題ありません。
一方で、親和性が低めのコミュニティを狙う場合は工夫が必要です。ただ情報発信をするだけではユーザーの目に留まらず、コミュニティに入り込むことはできません。コラボを実施したり、そのコミュニティで愛されているインフルエンサーを起用したりする必要があります。ここでも、瞬間的な盛り上がりではなく、UGCのベースラインを上げてくれるようなやり方を選択するのが重要です。
また、企業がユーザーのつくったコミュニティに入ろうとしている姿勢が見えると、当然ですが嫌がられます。その商品のファンがコミュニティにいるなら「反応してくれてうれしい!」と感じてもらえますが、大半のケースではそうではありません。
この距離感は言語化が難しいですが、うまく間合いを計らなければいけません。私は、「コミュニティの人たちが見るところに“存在するようにする”」ことを意識しています。情報としてただ存在するだけで、積極的に入り込むわけではありません。情報を受け取りたくない人は受け取らなくてもいい、というくらいの距離感を保つことが大事です。
(後編に続く)
(写真/村田和聡)
増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)



