SNSのあり方が大きく変容している――。ユーザーとして、マーケターとして、そう感じている読者も多いのではないだろうか。ホットリンクの増岡宏紀氏は、「SNSはアルゴリズムによるコンテンツの“おすすめ”が当たり前となり、レコメンドメディアへと変化した」と指摘する。マーケターはSNSマーケティングをどのように見直し、アップデートしていけばいいのか。増岡氏の新著『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』の内容を基に、解説してもらった。[日経クロストレンド 2025年12月25日付の記事を転載]
ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
「フォロワーを増やす」だけではもう限界
前回の記事では、「既存のコミュニティにお邪魔する」という、コミュニティマーケティングの新たなアプローチを解説していただきました。今回は、この本のもう一つのテーマ、SNSマーケティングについてお聞きします。まず、現在のSNSを取り巻く状況を、どのようにご覧になっていますか。
増岡宏紀氏(以下、増岡) ここ3年ほどで、SNSはアルゴリズムによるレコメンドが強化されました。TikTok(ティックトック)がそのはしりだと思いますが、情報がフォローではなくレコメンドによって届くようになり、媒体におけるフォロワーの重要性が低下しました。Instagram(インスタグラム)がこの動きを追いかけ、現在はXもそれに追随しています。
SNSが「ソーシャルネットワーキングサービス」の略であるように、かつては知り合い同士のつながりやフォロワーとの関係こそが、SNSの基本でした。ですが、現在のSNSはそうではありません。アルゴリズムによるレコメンドで情報が届く「レコメンドメディア」になっています。SNS自体の在り方が変わってしまったのです。
そうすると、SNSマーケティングにも影響が出てくるはずですが、どのようなことが起きていますか。
増岡 これまで王道だった「フォロワーを増やし、自分たちの公式アカウントから直接情報を届けていく」というやり方に限界が生じています。
私の体感では、2023年と現在を比べると(Xの)フォロワーへのリーチ率は3分の1程度に下がっています。フォロワーに対する表示率は10%もあればいいほうで、キャンペーンなどでフォロワーを集めている企業は1%を切ります。
Instagramも同様で、私の体感ではフォロワーに対する表示率は20%もあればいいほうです。つまり、フォロワー獲得に投資をしても、情報を届けたり、その先の態度変容につなげたり、といった結果を得にくくなっているのです。
そこで、自分たちの力だけでなく、UGC(ユーザー生成コンテンツ)というかたちでユーザーの力も借りながら、情報を届ける必要性が出てきています。ただ、UGCの内容や発話のタイミングは企業がコントロールできるものではありません。「UGCを出してください」とやみくもに呼びかけても、ユーザーが簡単に応じてくれるわけではないのです。だからこそ、すでに熱量を持って活動している既存のコミュニティに着目し、そこに「お邪魔する」重要性が高まっている、というのが私の考え方です。
では、どうすればコミュニティ内でUGCが生まれるのか。SNSを活用する場合はコミュニティを小さく分け、そこに属する人たちがクチコミをするきっかけや動機を丁寧につくっていく。そうすると、同じ興味を持っている人たちの間で、「そうだよね」といった共感が生まれ、UGCがどんどん広がっていくようになります。
バズではなくUGCを、SNS戦略のど真ん中に据えるべき理由
SNSの変化に合わせて、マーケティング戦略もアップデートしていく必要があることが分かりました。UGCを重視すべき理由や、それをどのように実際のマーケティングに反映させていくかについて、もう少し詳しく教えてください。
増岡 まずUGCは、売り上げに貢献しやすいことが明らかになっている指標です。ホットリンクの調査では、様々な商品カテゴリーで「UGCが増えるほど指名検索が増え、指名検索が増えるほど売り上げも伸びる」という相関関係が確認されています。フォロワー数やインプレッション数といった数字よりも、UGCの伸びを追いかけるほうが、確実かつ再現性が高く、事業の成長につながります。
ただし、UGCだけを見ていても、数字に変化が生じるまでには時間がかかります。数字が動く順番としては、まず投稿に対するエンゲージメントが変わります。
元々UGCがほとんどないところからスタートすると、最初は投稿を見てもらえるだけで、いいねやコメントといった反応が得られない状態が続くかもしれません。しかしそれを続けていくと、コメントが付くようになったり、エンゲージメントの形が変わっていったりして、その先に自発的にそのブランドのことを語ってくれる投稿が出てくるようになります。このような段階を経て、推奨行動へとつながっていくのです。
そうすると、やがてUGCを見て商品やサービスの情報を検索する人が増え、循環がうまく回り始めます。このような階段を、一つひとつ見ていくことが重要です。
今もなお、「SNSマーケティングと言えばバズらせること」と認識されており、UGCはサブ指標にとどめている企業もあります。しかし、バズはSNSマーケティングの打ち手のほんの一部です。その狭い部分がSNSマーケティングの肝だと思われているのは、非常にもったいない気がします。
確かにバズが売り上げに貢献するケースもありますが、一過性の効果で終わってしまうことが少なくありません。バズが起こった際のクチコミ数の盛り上がりと落ち込みは、等しい波形になります。盛り上がりが大きいほど、落ち方も大きく、クチコミが出続ける状態を持続するのが難しいのです。私たちはよくこれを「バズの入射角と反射角は等しい」と言い表しています。
SNSマーケティングが「バズ偏重」になっているのは、なぜなのでしょうか。
増岡 SNSマーケティングを支援する会社の多くが、「面白い投稿を作ります」「バズらせます」といった点をセールスポイントにされています。その影響があるかもしれませんね。
もちろん、注目される投稿を作ること自体は、企業の助けになるので決して悪いことではありません。問題は「バズらせる」というアプローチを柱に掲げたまま、戦略策定にまで関わっている点です。
しかし、そもそもレコメンドメディア化したSNSでは、企業の投稿は以前に比べて届きにくくなっています。フォロワーへのリーチ率が低下しているように、アルゴリズムの進化の方向性を考えると、企業の自社発信でバズを狙うことは今後ますます難しくなっていくでしょう。これは一時的な変化ではなく、以前のような状態に戻ることはありません。
一方で、個人の投稿であるUGCは、投稿者それぞれのコミュニティを起点に情報が広がっていきます。レコメンドメディア化が進んだSNSにおいても、UGCは「人から人へ」と分散的に拡散されるため、情報が届く構造にあります。だからこそ、企業が自らバズを狙うのではなく、UGCが自然に発生する環境を構築していくことが、これからのSNSマーケティングで欠かせない視点になっていきます。
「バズらせる」のはあくまで一つの手段に過ぎません。それが、あたかもマーケティング戦略そのもののように扱われている点については注意が必要です。
「ゼロクリック問題」もUGCと指名検索で乗り越えられる
SNSの変化という要因以外にも、UGCを戦略の主軸に据えるべき理由はあるのでしょうか。
増岡 生成AI(人工知能)の浸透による変化にも、UGCを意識したSNSマーケティングは強いと考えています。これまで、自社ブランドを育てるためにデジタル領域で行う施策といえば、SEO(検索エンジン最適化)やSEM(検索エンジンマーケティング)が重視されていました。すでに一定のニーズを有する人たちに、直接アプローチできるからです。サロンであれば、「おすすめ 地域 サロン」と検索したときに自社ブランドが表示されると、ページ来訪や利用につながる確率が上がる、といった期待がありました。
ところが、生成AIの普及とともに「ゼロクリック問題」が顕在化してきました。ブランドを指名しない一般検索だと、自社ブランドのページにたどり着いてもらえず、検索結果に表示されたAIによる回答を見て検索行動を終えてしまう現象です。
そのため、一般検索に比べて影響を受けにくい指名検索の重要性が相対的に高まっています。指名検索であれば、明確にそのブランドについて調べる意図を持っているので、ブランドサイトへの来訪が期待できるからです。
先ほどの「UGCが増えるほど指名検索が増え、指名検索が増えるほど売り上げも伸びる」という法則を踏まえると、やはりUGCがカギになる、ということでしょうか。
増岡 はい。そもそも指名検索がなぜ起こるかと言えば、顧客の脳の中に商品の情報が定着し、想起されるようになっているからです。つまり指名を増やすためには、想起をつくることが重要となります。想起をつくることとSNSは非常に相性がいいため、SNSで自社ブランドのUGCが発生している状態をつくり、新規の潜在顧客に向けたアテンションを獲得して、想起から指名検索へとつなげていくのです。
「中の人・コミュマネに任せきり」の体制からも転換を
続いて、前編でもお聞きしたSNSマーケティングやコミュニティマーケティングを、どのような体制で実行していくかを考えてみたいと思います。
これまでは、企業公式アカウントの「中の人」や、コミュニティマーケティングの「コミュニティマネジャー」が、センスや才能を生かして一人あるいは少数で頑張る、という体制が組まれることがありました。個性を生かした運用が可能になる一方で、担当者が実行に必要なリソースを得られない問題や、属人化の問題もあったように思います。増岡さんが提唱するコミュニティマーケティングやSNSマーケティングは、どのような体制で行うことを想定していますか。
増岡 ここまでに提案してきたやり方は、いずれも再現性を強く意識して練り上げてきたもので、属人化とは真逆の立ち位置にあると思います。
私たちが推奨しているのは、相性のいいコミュニティを見つけ、そこに入り込んでいくアプローチですが、入り込み方は無数にあります。担当者が独力で実行するというより、様々な打ち手の中から適切なものを選択し、その都度必要な部署と連携しながら進めていくイメージです。
例えば、広告を使って継続的に接触し、アテンション(注目)を獲得し続けていく方法であれば、公式アカウントの投稿を企画・制作するチームと、それを適切なターゲットに届ける広告運用チームが協力して進めていきます。
インフルエンサーを起用したり、そのコミュニティの人たちが好きなブランドがあれば、コラボグッズを作ったりといった、SNS上での活動を超えた打ち手も考えられます。大規模なプロモーションや、商品パッケージの変更など、モノが絡んでくる施策になると、当然関与する部署が増えていくので、より大掛かりな体制が必要になります。
SNSを組織的に運用していくイメージですね。
増岡 はい。加えて、上層部にも関わってもらうのが理想です。ホットリンクで支援する際も、打ち合わせや意思決定の場には、マーケティングの責任者や決裁者に必ず参加していただいています。特に自社のポジショニングを明確にするのはマーケティングの中核となる話なので、しっかりと関わっていただいた上で、打ち手の選択に移っています。
打ち手を考える前に、相手をもっと見よう
最後に、『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』をどのような人に読んでもらいたいか、また著者としてお薦めしたい読みどころについてお聞かせください。
増岡 本書のタイトルには「コミュニティマーケティング」という言葉を入れていますが、もう少し広く言うと、「SNS活用の仕方について、その根底を考え直してもらいたい」という思いを込めています。マーケティングの責任者を含め、SNS戦略に困っている方に広く読んでほしいです。今実行していることを一旦フラットにして、「こういうやり方もあるんだ」ということを、少しでも知っていただければと思っています。
また、この本も最終的には「How」、つまり各マーケターがどのように実行すればいいのかをゴールとして話を進めているのですが、一番伝えたかったのはSNSのHowに行く前の戦略、特に「Who」を決める部分が決定的に重要だということです。SNS活用となると、「What」や「How」のほうに話が寄り過ぎてしまい、相手を見ずに「どうバズらせようか」という議論になりがちです。そうした凝り固まった考えから脱却する一つの手掛かりとして、本書の「コミュニティ」という発想を使っていただけたらうれしいです。
SNSマーケティングの醍醐味は、瞬間的なプロモーションでバズることではなく、UGCが日々蓄積され、それが新たなUGCを生み出す好循環により、中長期で事業が成長し続けることです。毎日SNSマーケティングにリソースを割いているのに、それがギャンブル的なもの、瞬間的なものにとどまってしまうのは、大きな損失です。
SNSマーケティングが事業の持続的な成長に寄与するということを、もっと多くの方に知っていただきたいですし、私自身も日々の仕事を通して、それを証明していきたいと思います。
(写真/村田和聡)
増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)



